第4話 一匹狼って言葉おかしくない?
「見て見てこれ!! じゃーん! 最強騎士ナツメちゃんです!!」
「っぷ・・・、ナツメそれ似合わないにも程があるわよ!! アハハハハ!!」
騎士がつける鉄兜を頭にかぶり、腰に手をあて堂々のポーズを披露するナツメ。
しかし、頭部分だけしかかぶっていないことと、異世界における鍛えられた男性用のものであったため尋常ではないちんちくりんな姿となってしまい、それを見せられたマフユは転げまわって爆笑しており、周りを通り過ぎる人々からは子供たちの遊びを見るようなほほえましい視線を送られている。
転生して早々、何もわからないまま地獄を味わった魔の森を抜け、案内してくれたエルフのマリーに連れられ、今4人は街の中を歩いていた。
果てしない城壁に囲まれてはいるが、古くなっても修理すらせず放置されているようで、それはかえってこの城下町の安全さとこの国の安定を物語っている。
中心に建てられている城から放射線状に広がるように建てられた城下町では、いたるところで様々な種族の人々が会話や商売に華を咲かせており、どこからか聞こえる不思議な楽器の音色や、競売のかけ声や子供たちの楽しそうな声、一定のリズムを奏でる馬車の車輪の音が、まるでこの街の笑い声のように絶えまなく響いていた。
「また採ってきたのだけど、少し買い取ってくれないかしら?」
「またあの花かい?あんたそればっかりだねぇ、まだ商会の在庫も減ってないだろうよ」
鎧やら剣やらを試着装備して、顔を見合わせて駆け出し冒険者のようにはしゃいでいるナツメとマフユの反対側で、マリーの買い物に付き合っているハルカは、店主とマリーの会話を聞きつつ、色とりどりの見たこともないフルーツや野菜が所せましと並べられた店頭のなか、一番先頭に並んでいる奇妙な果物に興味を惹かれていた。
「お嬢ちゃん、お目が高いねぇ!!そのドラゴンベリーはさっきギルドから降ろしてきた新鮮なヤツだ!買うなら一番いいの選んであげるよ!!」
「ドラゴンベリー・・・?」
おそらくはラズベリーのような匍匐性の植物の果実なのだろうが、ラスベリーよりはるかに赤く巨大な果物が、大きなカゴにぎっしりと入っていた。
「うん?お嬢ちゃん、ドラゴンベリーを知らないのか?もしかして転生者かい??」
「え?あぁ、はい、今日来たばかりで何もわからなくて・・・」
「なるほどそりゃこっから頑張らねぇといけねえってわけだ!ほら!景気付けに一房プレゼントしてやるよ!!」
「えぇ!いいんですか!?ありがとうございます!!」
異世界においてもかなり美人の部類に入るであろう4人の中でも、圧倒的に清楚な雰囲気を醸し出しているハルカに抱きついて感謝され、まんざらでもない様子の店主。
当然本人は無自覚であろうが、4人の中でこういうことはハルカの才能がずば抜けていた。
「あら、私が変わりにお代出しましょうか?」
「へへ、いいんだいいんだ!プレゼントだからな!」
「あと例の花は俺から商会に話通しとくからよ! この前と同じ値段でいいんだろ?」
「ありがとう、助かるわ、連絡くれたらハティを遣わせるから」
「えへへ、珍しい果物貰っちゃいました」
「それはドラゴンベリーといって、ドラゴンの鱗のような実の付き方で名づけられた果物ね」
未だにニヤニヤして上機嫌なまま、ハルカに手をふり続けている店主をあとに、4人はマリーの店へと向かった。
「はい到着、ここが私の店よ!!」
さきほどいたメインストリートから離れ、少し人通りの少ない路地に入った先に、「エルフのくすり」と手書きで書かれた古臭い看板を掲げた小さい店の前に到着した。
「ふわぁ~、ようやくついたの~?」
「チアキ、あなたどんだけ寝てたのよ・・・」
「3話分くらいかなぁ・・・」
猫のように伸びをしているチアキをソーンから降ろしつつ、マリーが店の前に4人を案内する。
「私はここで薬を売っているの!」
街にならんでいた大きな商店達に比べたら小さく感じるものの、2階建てで裏に薬草畑もあり、色とりどりの植物が植えられた植木鉢や、大樹をあしらった屋根など、ところどころにエルフらしさを感じるデザインが施されていた。
「へー、けっこう良い店じゃん」
「なかなか良いでしょう」
思いがけず4人がも関心した反応をしたため、マリーが得意げに両手を広げてアピールをしていると、店の中から猛烈な勢いで小さい子供が飛び出してきた。
「お師匠ー!!どこで遊んでたんですかー!!!」
飛び出したその子供は、そのままの勢いでマリーの胸に突っ込んできた。
ドヤ顔で両腕を広げていたマリーは、突っ込まれた衝撃をモロに受けてしまい、そのまま地面に仰向けに倒されてしまった。
「ごめんなさいハティ、今日はちょっとアクシデントがあったのよ・・・」
「どうせいつもの通りどこかで珍しい薬草でも探して歩いてたんでしょう!」
「ちゃんとまっすぐ戻ってきてください!!」
「森で人助けをしていたら・・・、ほら・・・」
「人助け・・・?」
怪訝そうな表情で4人のほうを振り返るハティと呼ばれた少女。
やや幼さが残る顔つきながら、キリリと金色に光る瞳と銀色のボーイッシュにまとめた髪。4人を警戒するようにピンと前方に伏せた獣耳に、腰のあたりではふわふわと尻尾が揺れていた。
「か、かわいい・・・!女の子・・・だよね?」
目を輝かせて興味を示すハルカが一歩前に出ると、威嚇するように牙をむき、中腰で警戒態勢を取るハティ。
「・・・まさか、また野良人間を拾って来たんじゃないでしょうね!」
「野良人間・・・?何よこの無礼な犬は」
「いったんしつけしとく?」
沸点の低い2人が明らかに自分たちより一回り小さいハティに向かってすぐさま大人げない反応を取ると、ハティも更に威嚇した表情でマフユとナツメを睨み返した。
「ふん、人間め、ボクは犬じゃない! 伝説のオオカミの牙、その体で・・・」
「やめなさい・・・!」
ハティが2人に言い返そうとにじり寄ったその瞬間、地獄の底から響くような声が聞こえたかと思うと、ハルカがものすごいスピードで間に割って入り、2人の顔を掴み上げた。
衝撃波が生まれるほどの勢いに、持っていたドラゴンベリーが大部分が弾けてしまい、その真紅の果汁を浴びたハルカは、まるで一町を壊滅させ人間の返り血を浴びたドラゴンそのもののように、バイオレンスな出で立ちで、凄まじいオーラを発している。
「小さい子をいじめるのは絶対に許さない・・・」
いつものように呆れた笑顔ではなく、上位のドラゴン種のような眼光と共に、説明しようもない謎の力で長髪も浮き上っている。
持ち上げられ、なすすべもなく空中で痙攣している2人を見て、ハティの野性の直感が瞬時に脳を駆け巡る。
(このメス、頂点捕食者だ。まずい、殺される。)
「おじゃましまーす」
「あ、いらっしゃいどうぞー」
「・・・!??」
まさかの全てをスルーし勝手に店内を物色しはじめたチアキと、何事も無かったかのように案内するマリーに、思わず2度見してしまうハティ。
ハルカに持ち上げられたままピクリとも動かなくなった2人と店内の2人を見比べ、どうしていいのかわからずおろおろしていると、2人を半殺しに追い込んだまま、首をギギギと捻じ曲げて振り返ったハルカが聖母のような笑顔でゆっくりと口を開いた。
「おなまえ、ハティちゃんっていうの?」
「ひゃっ、ひゃいっ!!」
ドラゴンベリーの赤い果汁を浴びた狂気的な笑顔を見せるバーサーカーハルカを見て震えあがってしまい、守られた側のハティが思わず背筋を伸ばし、なぜか敬語で返答した。
「ハティちゃんはなんさいになるのかな?」
「じ、10さいですっ!!」
ハティが答えた瞬間、2人を投げ捨て、ハティに抱きついて頭を撫で回すハルカ。
「10さい!! ちゃんと答えれて偉い!! このモフモフの耳と尻尾、はあああーーー!! ワンちゃんみたいで可愛いーーー!!!」
「あ、わ、わたしは、犬じゃな・・・」
ハティはしばらく引きつった顔でハルカに愛でられるがまま、地面に転がっている2人をうつろな瞳でぼんやり眺めていた。
初めて小説を書きます!
この小説が面白いと思っていただけた場合は
ブックマークと、↓の評価をしていただけると
作者が夢の高額納税者に近づくので、結果的にはあなたのおかげで多くの恵まれない子供たちの命が助かります。