第14話 勇者のイメージが悪すぎる
「なんかこれ探偵っぽい!!初めて探偵っぽい!!」
「ナツメ声が大きいわ!!」
冒険者資格を数分のうちにはく奪された代償に、依頼人であるスカイを追放した勇者パーティの情報を得ることに成功した4人。
ダンジョンに行った帰りなのか、街路を談笑しながら歩く勇者パーティを素人丸出しの尾行で追いかけながら、4人は情報を得ようと試みていた。
「何か普通のパーティっぽいけどねー」
建物の影に隠れながら4人で覗き込んでいる図は、どこからどうみても怪しい者であったのであろう、通行人がヒソヒソ話しながら指を指してくるが、お金も地位も何も失うものがないない4人はそれを無視して尾行を続ける。
「でもなんか、勇者以外は女の子ばかりじゃないか?」
「世界を救う使命を放り出して女の子に囲まれてニヤニヤして」
「大切な仲間を捨ててそんなことするなんてサイテーです!」
周りに女性を侍らせながら悠々と町を歩いている勇者に、怒りの表情を向けるハルカ。
大胆な鎧に抜群のプロポーションを惜しげもなく晒している女戦士、小柄な体に可愛らしい仕草で抱き着く魔法使い、後ろから癒しを感じる笑顔を向けている僧侶。
そして、その中心で後ろ頭に手をやって、デレデレとしている勇者。
幾度となく繰り返されるイチャツキを見せ続けられ、4人は心からうんざりしていた。
「もう調査終わりでいいんじゃない?どうせ女に囲まれるために追放したんでしょ」
そういってマフユはいち早くその場から離れようとしたが
「あっ!」
ハルカが発した小声に再び勇者のほうに目を向けるマフユ。
「ご、ごめんなさい・・・」
勇者の目の前には、花瓶をもった少女が、地面に尻もちをついていた。
おそらく中に水がたくさん入っていたのであろう、あたりには水がこぼれており、勇者にぶつかった女の子も少しかかってしまったのか、髪の毛が濡れてしまっている。
「ゆ、勇者様、お洋服が・・・」
魔法使いが手で口を覆いながら小さく声を漏らす。
勇者の服はぶつかってきた少女よりはるかにひどい範囲で水をかぶっており、ほとんど水中に浸かったかのようにビショビショになっていた。
当然高級そうなマントや、腰に下げた宝石細工のついた剣なども水をかぶってしまっており、周りにいた女性3人も気まずそうな顔で勇者を見つめている。
「あ、あの・・・」
地面にいる少女が、そう声をかけようとした瞬間、勇者は無言で少女のほうに近づきながら、少女の頭に向かってすごい勢いで腕を伸ばした。
「あれー?まずいんじゃない?」
「ちょっと!あんな小さな子に暴力を!!」
そういって怒りの表情でチアキを飛び越え勢いよく飛び出すハルカだったが
「大丈夫かい!?」
勇者は女の子の頭に手を伸ばし、濡れた髪をマントの濡れていない部分で拭いてあげている。
「 」
ハルカは大通りの真ん中に勢いよく転がり、通行人から奇怪な目でみられてしまった。
「さすがに小さい子には手は出さないみたいだね」
「一応女性だからじゃないのかしら」
地面に顔をこすりつけてしまっているハルカに対して、自分たちは関係ない無関係の人間であると言わんばかりに避けながら勇者の追跡を続行する3人。
ぶつかってきた少女に別れを告げた勇者は、尾行を続けている4人の探偵に気付くことなく、そのままさきほどと同じように、パーティの女性たちに囲まれながら道を歩いている。
「絶対あの人は悪い勇者です!いまに尻尾を見せますから!」
「もう適当に理由でっちあげて帰ろうよー」
既に尾行に飽きてしまったのであろう、探偵稼業どころか仕事をすることに恐ろしく才能がないチアキを手で引っ張りつつ、精力的に尾行を続けるハルカ。
「まぁでもさっきあいつ優しかったしなー」
「依頼者の何とかってやつも何か変なやつだったし、妥当なんじゃない?」
仕事をこなそうと躍起になっているハルカに、ナツメとマフユが歩き疲れたという態度でしぶしぶ付いて言っている途中で、ハルカが声をあげる。
「あっ!!」
勇者が何やら取り巻きの女性3人と建物の前で言い争いをしている。
その建物は、町はずれのもの静かな場所に位置しているかなり豪華で大きな建物で、何らかの魔法を使っているのか、ネオン色に光る飾り付けが、辺りをやんわりと照らしている。
どうやら高級宿屋のようなものらしく入るかどうかで揉めているようだ。
勇者が3人の手をひっぱり、中に連れて行こうとしている。
「嫌がる女性3人を無理矢理連れ込もうとしています!!」
「宿屋ってそういう場所じゃないだろ・・・」
もはや勇者を目の敵にしているハルカに、呆れた表情でつっこみをいれるチアキ。
「とにかくやっぱり悪い人は許せません!」
「注意するついでにスカイさんを追放した理由も直接聞いてきます!」
「おいおい・・・」
消極的に止めようとするチアキと、はるか後方で魔法具商店を見ているもはや任務を放棄しているナツメとマフユを置いて、大きな足音を立てながら勇者たちのほうに歩いていくハルカ。
「ちょっとそこの・・・!」
ハルカが怒った顔で声をかけようとした瞬間、勇者に手を引っ張られていた魔法使いが大声で叫んだ。
「いやだ!! 私は勇者様と一緒がいい!!」
「えっ・・・」
腕をファイティングポーズで構えたまま硬直するハルカ。
「ずるい!私も勇者様と一緒に寝たいです!!」
「私が一緒に寝るんだ!!」
そういって取り巻きの3人は、目の前で固まっているハルカを完全に無視し、今度は3人で喧嘩を始めてしまった。
「だめだよ!若い女性たちがそんな簡単に男と一緒の部屋で寝るなんて!もっと自分を大事に扱わないと!!」
そういって3人の喧嘩を止め、なんとか宿屋に連れて行こうとする勇者。
「ぼくは中央の安い宿舎で寝るから、君たちはここで・・・」
「ん?」
「君は誰だい?僕達に何か用かい?」
「 」
ふいに話しかけられたハルカが、助けを求めるように後ろを振り向くと、3人は気まずそうな顔をしたまま、他人のように一斉に目をそらした。
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