第11話 異世界探偵達の初仕事
プロローグ後 ―――――
「ようこそ!異世界探偵事務所へ!!」
逃がさないように肩を押さえ、綺麗に掃除したソファに獲物を座らせるナツメ。
年齢は4人より少し上だろうか、黒い髪を目が隠れるほど伸ばした男は伏し目がちな目で辺りをキョロキョロしている。
「お体は大丈夫でしたか・・・?」
「こ、この程度、大丈夫だ・・・」
テーブルに飲み物を出しながらハルカが心配そうに尋ねると、男は少し会釈し、そわそわとした態度で置かれたカップに目を落とした。
「お兄さんがお客さん第1号だよ!! 嬉しいなぁー!!」
スキップをしながらテーブルを挟んだ男の正面にドサッと座り、満面の笑みでテーブルに両手で頬杖をつくナツメ。
その瞳は、期待するようにキラキラと輝きながら、初めてのお客さんをロックオンしている。
4人がマリーの提案で、探偵を始めてから今日で数日がたった。
マリーの店の2階を使わせてもらえることとなり、急いで大掃除をし、お金もないので家具などは置いてあったものをそのままを借りることにした。
「3日分のお金は渡すから、あとは自分たちで稼いでね♡」と事前に脅されていた4人は、町を駆け回り、手作りのビラを配ったり、冒険者ギルドに宣伝しに行ったり、気弱そうな冒険者を見つけると路地裏に連れ込み依頼をしろと脅してみたりしたものの、転生者の少女4人がやっている探偵、ましてや能力もスキルも使えないとなると、全く依頼は来なかった。
「そもそもこの世界って便利で平和すぎるんだよなー」
「魔法やスキルであらゆることが解決されてしまいますからね・・・」
既にマリーから貰ったお金は底をつき、昨日の夜から4人は何も口にしていない。
「あー!! お腹減ったー!!」
「うるさいわね! あなたが異世界料理にはしゃいで食べすぎたせいよ!」
朝から空腹のあまり大きな声で床で暴れるナツメを、不機嫌そうな顔で椅子に座ったまま横目で睨むマフユ。消費エネルギーを抑えるという大義名分のもと、机に頭を伏せてずっと動かないチアキと、少しでも空腹を紛らわせるためにずっとお茶を汲んでは配っているハルカ。
4人の間にあと半世紀は見られないかもしれない、珍しく沈黙の間が発生し、いよいよという空気が流れたその時、ドアを遠慮がちに叩く音が聞こえた。
「いやーほんと! 来てくれてありがとう!! お兄さんは救世主だよ!」
「は、初めてか・・・、そうか、はじめてか・・・。ふむ・・・」
「そう!! お兄さん名前は何ていうの?」
「名前、我のこの世で呼称できる呼び名というものは存在しないが、あえて人間の名で名乗っているものであれば、何を隠そうこの私が、スカイフォール・F・ムーンラ
「スカイさん! よろしくな!!」
いきなり饒舌になったスカイフォーなんとかさんは紹介を続けようとしたが、ナツメが笑いながら遮って話始めたため、スカイになった。
客相手に身を乗り出して遠慮なく肩をバンバンと叩いてくるナツメに、不安そうな表情を浮かべるスカイと名乗った男。
すると、コロコロという小さな音ともに、何かがスカイの足に当たる。
何かが転がってきたのだろうかと不思議に思ってスカイが机の横を覗き込むと、
生首だけになっている人体模型とバッチリ目が合った。
「 」
スカイが思わず絶句した瞬間、マフユがすごい勢いで走り寄ってきて
思いっきり廊下の奥に生首を蹴り飛ばした。
「・・・どうかしたかしら?」
「い、いやっ・・・、なんでもない、なんでもない・・・デス・・・」
そう言って自分を落ち着かせるように、震える手で出されたカップを口に運んだスカイであったが、あまりの苦さに1秒も立たずに目の前のナツメに吹き出してしまった。
「に、にがっ!!!」
「に、苦かったですか! すみません!」
「あんた何入れたのよ・・・」
申し訳なさそうに横に立って何度も頭をさげるハルカのわき腹をゴスゴスつつくマフユ。
「えぇっ、さっき私たちのせいで怪我をさせてしまったので、早く治るようにと、ポーションを隠し味で・・・」
全然隠れていなかった。
スカイの目の前では、スカイに出されたはずのポーションティーを勝手に口に運び、「まぁこれはこれでありじゃん?」といいつつ一気に飲み干しているナツメと、マフユに小突かれながら涙目で怒られているハルカ。
自分の隣で宣伝チラシを顔に乗せたままソファにもたれかかり寝息をたてているチアキ。
「・・・・・」
「ク、クックック・・・、ここは我が治まるべき場所ではないようだ・・・」
「では、闇の中に消えるとしようか・・・」
そういって机の上においたカバンを素早く回収し、玄関に駆けるスカイだったが
「おい、どこに行く?」
「逃がさないわよ」
とナツメとマフユにギリギリと肩を掴まれ、再度中央のソファに連行されてしまった。
「で、何を私たちに頼みたいわけ?」
「教えて教えて!!」
再びソファにスカイを座らせ、その両隣に座って逃げられないように囲い込むナツメとマフユ。
スカイは俯いてバッグを抱えたまま、オドオドしながら指先を遊ばせている。
緊張しているのかもしれないと思いスカイが口を開くまで黙って至近距離で顔を眺めている2人であったが、年頃の男性であればそのほうが余計緊張するであろうことをわかっていない。
「我はその、ま、まえにいたところのあの・・・」
「我・・・?」
「まえに、まえにいたαプロヴィデンス騎士団、からその・・・」
「あるふぁぷろび・・・?」
「勇者がその、その、そこのところから出ていく形で・・・」
「・・・」
「はっきり話せやあああああああああああ!!!!」
「全然わからないわ、あなたの話!!!!」
気の短い2人が聞き取りにむいているハズなどなく、案の定ものの一分で役目を放り投げてキレてしまった。
両隣からその見た目に似合わない怒号をあびたスカイは、びっくりして飛び上がり、前髪に隠れた右目を押さえながら俯いてしまった。
「こ、この私のオーラをかき消すほどの力・・・、こ、これは・・・・、い、いかん呪われし右目が・・・」
「だめですよー、2人ともー。ちゃんと聞かないと」
まともなお茶を淹れなおしたハルカが、スカイの前にお茶を置きながら、2人を注意する。
そのままスカイの斜め前に座ったハルカは、スカイに優しい声色で話しかける。
「勇者さんから突然追放されてしまったんですか?」
「つ、追放ではない・・・!闇の使者である我と勇者の住む世界線は、決して交わらぬからして・・・」
「そりゃこんなんじゃ追放もされるわ」
「マーフーユーちゃーんー?」
ハルカからギロリと睨みつけられた、マフユは、やれやれという顔でソファから退散する。
「じゃあ、何でそうなったのかも含めて、そのパーティの調査ってことでいいですかね?」
そういってやんわりと微笑みながら、優しく提案するハルカ。
「すぐに調査して連絡します。また何日か後にいらっしゃってください!」
もはやハルカにしか目を合わせなくなったスカイは、ハルカの提案にブンブンと首を縦に揺らしながら、何度も頷いた。
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