1864年1月1日 太平洋上
1864年1月1日 太平洋上
「では、手を合わせて…。いただきます!」
“いただきます”という大合唱が響いた後、使節団のメンバー全員による食事が始まった。‘海水で炊いた粥’という、何ともへんてこりんな食べ物が出来上がったのだが、何日も米を口に入れていない、ここに集いし人間にとっては贅沢な御馳走である。
「くぅ~…うまい!!」
池田が唸った。普通に食べれば美味いわけもない粥なのだが、今の彼らにとっては格別な味がした。その場にいる誰もが、乞食のように貪り食っている。
「これも全て、そこにいる青木君の御蔭だ。本当にありがとう。」
池田が頭を下げた。青木は恐縮して何度も何度も頭を下げた。理髪師が旗本にお礼を言われる…こんなことは江戸の町では絶対にありえないことである。そういう非日常的なこと、身分に区切られない自由な世界がここには確実に存在している。フランスやイギリスという異国の地を目指し、一つの目標に向かって突き進んでいく彼らにはとても相応しい世界だった。
「さぁ、何もかも忘れて食べよう!田中君!!」
池田に“バシバシッ”と肩を叩かれた田中は、まだ寒さに身体を震わせている。毛布に包まり、両手で大事そうに粥の入った椀を包んでいる。
「ぜ~ったいに忘れないからねっ!!真冬の海に突き落とすなんて、どうかしてるぜ!!」
そう言いつつも、粥を食べることができて田中も嬉しそうだった。
彼らの航海は、まだ始まったばかりである。