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ホリーの怒り

王都の宿屋


「兄上……まだ帰らないの?」

「きゅい……」


宿屋で待機していたホリーは、なかなか戻らないライトを心配する。同じように子狐のイズナもさみしそうな鳴き声をあげた。


「もう我慢できない。冒険者ギルドにいってみよう」


そう思ったホリーは、ギルドの窓口に突撃する。応対した受付嬢は、痛ましげな目でホリーを見つめた。


「それが、ライトさんには死亡届が出ておりまして」

「どういうこと?」


いきなり大声を張り上げたので、冒険者たちがびっくりして視線を向ける。

冒険者たちに見られながら、受付嬢は事情を説明した。


「ライトさんは照明師として、Sランク冒険者パーティ『魔滅の刃』に参加したのですが、運悪く地下70階でアーマーオークと戦い、命を落とされたのです。戻ってきたヨシュアさんたちからそう報告を受けてます」

「納得できない。そいつらはどこ?」


詰めよられて、受付嬢ミリアはギルドに併設させている酒場の一角を指さす。そこでは「魔滅の刃」が仲間たちに熱弁をふるっていた。


「それで、俺は全力を尽くしたんだ。だけど役立たずの照明師とメカマンが邪魔になって……」


ヨシュアがいまいましそうに吐き捨てる。


「あいつらさえいなければ、私の魔法で倒せていたのに」


エレルも悔しそうにつぶやいた。


「まあまあ、彼らは命を落としたのです。死んだ人の事を悪くいうのはよろしくありませんわ。彼らの冥福を祈りましょう」


マーリンはそういって、神に祈りをささげた。

話を聞いていた冒険者たちは、彼らに同調する。


「大変だったな。ど素人に足を引っ張られて」

「まあ、酒でも飲んで忘れろや」


彼らは常日頃から「魔滅の刃」に酒をおごられたりなどしていたので、すっかり手下と成り下がっていた。


「そうだな。まあ成果はあったしな」


そういって小さな袋を机の上に投げ出す。見ていた冒険者たちが首を傾げた。


「なんだこりゃ」

「ふふふ。ダンジョンで手に入れた宝さ。この袋の中には物をたくさん入れられるんだ。国宝クラスの一品だぞ」


そういって袋を見せびらかせて自慢する。

それを見ていたホリーは我慢できなくなって、おもわず掴みかかった。、


「泥棒!」


大声をあげて袋を取り返そうとする。見ていた冒険者たちは、幼い美少女が騒ぎ立てるので落ち着かせようとした。


「おい、この餓鬼?いきなり何しやがるんだ」

「その袋は、兄上のもの!こいつらは泥棒!」

「なんだと、どういうことなんだ?」


ホリーはその袋がシャイン家の家宝で、ライトが持っていたものだということを声高に話す。それを聞いた冒険者たちは信じられないという顔になった。


「そんな訳ねーだろうが」

「だいたい、照明師なんかがそんな貴重な宝をもっているわけないだろうが。餓鬼だからって適当なこと言っていると俺たちが黙っていないぜ」


冒険者たちに味方され、ヨシュアたちもいい気分になる。


「餓鬼だからって変な言いがかりはやめろ。これ俺たちが苦労してダンジョンで見つけたものなんだぜ」

「嘘!」


ホリーは一歩も引かない。騒がしくなったので、ギルドマスターと受付嬢ミリアが出てきた。


「何の騒ぎだ!」

「この餓鬼が俺たちに言いがかりをつけてきたんだ」

「ちがう。こいつらが兄上から袋を奪ったの!」


ヨシュアたちとホリーは真っ向から対立する。ギルドマスターは胡散臭そうな目でホリーを見つめると、冷たく言い放った。


「彼ら『魔滅の刃』は数々の功績を立てた冒険者だ。それに言いがかりをつけるとは、ちゃんとした証拠があるのかな」

「その袋がダンジョンで見つけた物じゃなくて、我が家の家宝だという証拠ならある」


ホリーは自信満々に言い放つ。


「この餓鬼。これ以上言いがかりつけるとただじゃ置かねえぞ」


脅しつけるヨシュアを放っておいて、ホリーは受付嬢ミリアに向き直った。


「兄上が照明師としてこいつらに雇われたのは、事実?」

「はい。ちゃんと記録に残っています」


ミリアはパーティ名簿を取り出して確認する。


「この袋は、その時に兄上が持ち込んだもの。今からそれを証明する。そこの男、この袋から中のものを取り出してみて」

「なんだ。簡単だぜ」


ヨシュアは余裕の表情で袋に手を突っ込むが、中をさぐっても何も手に触れられなかった。


「なんだこりゃ。何もはいってないのか?」


憤慨して袋を投げ捨てる。それを黙って拾い上げたホリーは、袋の中に手をいれた。


「この袋は、所有者でないと中の物を取り出せないの。今の所有者は兄上と私」


ホリーが手を引き抜くと、その手の中には金貨がいっぱいに握られていた。


「ば、馬鹿な!何かの手品よ」


エレルとマーリンがひったくって袋に手をいれるが、やはり何も掴めなかった。


「これでどちらが正しいか決まった。返して」

「……くっ」


ヨシュアは悔しそうに唇をかむ。見ていた冒険者たちが擁護しはじめた。。


「まあ、待てよ。その袋がライトとかいう奴のものだったのかもしれねえが、そいつは死んじまったんだろ?」

「死んだ仲間の装備品を仲間が持って帰るのは、犯罪でもなんでもねえよなぁ」


仲間たちの擁護を受けて、ヨシュアたちがニヤニヤと笑う。


「そうさ。ライトは魔物に殺されたんだ。俺たちのせいじゃねえ」」

「神に誓ってやましいことはありません」

「むしろ私たちに感謝してほしいよね。遺品を持ち帰ったんだから」


口々にそう言い訳するヨシュアたち。ホリーは誰にも味方してもらえず、悔し涙を流した。


「結論がでたようだな。『魔滅の刃』は今までギルドに貢献したくれた冒険者だ。彼らは死んだ仲間の持ち物を持ち帰っただけだ。無罪だ!」


ギルドマスターまでそう決定を下した。


「そんなわけで、その袋を俺たちのもの……」

「待ってください。確かに仲間の遺品を持ち帰ることは違法ではありません。ですが、遺族が申し出た場合は、すみやかに返還することになっています」


受付嬢ミリアが王国の法典を持ち出して、待ったを掛けた。


「その袋は、ホリーさんの物です。国王に訴え出れば、ヨシュアさんたちが逮捕されることになりますよ」


ビシッと言われて、ヨシュアたちはひるんだ。


「ちっ。どうせ中身が取り出せねえ袋なんていらねえ。くれてやらあ!」


ヨシュアは袋をホリーに投げつける。ギルドマスターも冷たい目でホリーを見つめた。


「気が済んだか。その袋を持って、さっさと出ていくがいい」

「待って。兄上はどうなったの!」


ホリーの叫びに、ヨシュアは嘲笑を返した。


「はっ。あいつはダンジョンの70階でモンスターの餌になっているだろうよ。役立たずの照明師にはお似合いの末路さ」


そういい捨てると、逃げるように出ていく。周りの冒険者たちもホリーを笑った。


「そういうわけだ、諦めな」

「馬鹿な新人が死んでしまうのは、よくあることさ。これが世の中の厳しさってやつだ」


馬鹿にされて、ホリーの顔が真っ赤になる。


「私は信じない。こうなったら助けにいく。冒険者登録をお願い」


受付嬢ミリアにそう頼み込んだ。

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