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二代目勇者誕生

(何か方法はあるはずだ。俺は勇者の子孫。光の攻撃魔法は絶大な力を誇り、どんな遠くの敵も倒したと聞く。その方法さえわかれば……)


ライトは手を前に突き出し、光の魔力を放つ。掌からでた光は、空を飛ぶドラグルの胸を貫いた。


「ははは。なんだそれは、痛くもかゆくもないぞ」


ドラグルは余裕ぶって、わざと受け止める。ライトはさらに光を強くしたが、何も起こらなかった。


(もっと強く……集中しろ!)


さらに光を放つが、かすり傷一つ与えられない。


「好きなだけあがくがいい。所詮、光魔法など無力よ」


余裕たっぷりに嘲笑うドラグルが憎いが、どんなに力を振り絞ってもこれ以上出力を上げられなかった。


(待てよ。これ以上出力を上げられないなら、範囲を絞ればいい)


ライトは掌から魔力を放出するのをやめて、人差し指を突き出して一点に集中させる。


「ま、待て。その指の形は……まさか!」


ドラグルがなぜか動揺しているが、ライトは構わず魔力を絞り込む。すると光の魔力はより細く、一本の線のようになった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」


突然、ドラグルの絶叫が響き渡り、光の魔力が照射された胸に大穴があく。次の瞬間、全身が燃え上がった。


「きゃっ!」


エレキテルを拘束していたコウモリの十字架が崩れる。彼女は床に投げ出された。


「大丈夫か?」

「ボクは……大丈夫。でも、あの技は?」

「わからない。光の魔力を一点に集中させたら、なぜか穴が開いて火がついたんだ。でも、助けられてよかった」


ライトは嬉しそうにエレキテルを抱きしめる。彼女は真っ赤になった。


「お、おのれぇ……今の時代、失われた『光線(レーザー)』の光魔法を復活させるものがいたとは……貴様の名はなんという」


胸に大きな穴が開いたドラグルが、全身を燃え上がらせながら声を上げる


「ライト・シャインだ」


「そうか……勇者の血を引きしものか。恐れるがいい。我ら魔族は魔王様復活の妨げになる者を許さぬ。貴様は我が仲間によって引き裂かれるだろう」


呪いの声をあげながら、ドラクルの身体は燃え尽きる。周りを取り巻いていたコウモリは、慌てて逃げていった。




「魔王の復活だって?」


ドラグルの最後の言葉に、ライトは恐怖に震える。


「どうだろう。魔王は滅ぼされた後、その魂はどこかのダンジョンに封印されていると言われているけどね。それより……離してくれないかな」


エレキテルが恥ずかしそうに言う。ライトはずっと彼女を抱きしめていたのに気づいた。


「ご、ごめん」

「あはは。謝ることないよ。でも、これで失われた光の攻撃魔法を身に着けたね。二代目勇者くん」

「二代目勇者?」


勇者扱いされて、ライトは微妙な顔になる。


「そうだよ。うれしくないの?」

「俺は別に戦いなんてしたいわけじゃないんだけどな。妹と二人、静かに暮らせればいいかなと思ってるんだけど」


それを聞いたエレキテルは、にやっと笑う。


「それはもう無理だね。君、たぶん魔族に目をつけられちゃったと思う。勇者の魔法を引き継ぐ者を放置しておくわけがないからね」

「最悪だ……」


頭を抱えて座り込むライトの背中を、エレキテルはバシバシ叩く。


「仕方ないな。先祖からの腐れ縁だ。君が強くなるまで、ボクが守ってあげるよ」


こうして、エレキテル・アースが仲間になるのだった。





そのころ、グローリー王国には本格的な冬が到来していた。


「もっと薪をくべろ!」

「は、はいっ」


王宮の大広間では、大量の薪が運び込まれて燃やされているが、なかなか温まらない。


「ええい。なぜ今年の冬はこんなにも寒いのだ!」


薄着をした国王が、玉座でブルブルと震えていた。


「恐れながら陛下、そのお召し物では寒くて当然かと」


厚着をした侍従長がそういさめるが、王にギロリと睨みつけられる。


「これは王の服じゃぞ。威厳を保つために、王はきらびやかな服をまとう必要があるのじゃ!」


そういって、飾り立てられてはいるが何の防寒性もない服を着替えようとはしなかった。

王宮に出仕している貴族たちも、大部分がヒラヒラの服を着て寒さを我慢している。


「もっと薪をもやせ!」


そのせいで、薪の消費量は際限なく増えていった。


「このままでいくと、一か月で薪が尽きてしまうぞ。ただでさえ冬は各都市間の交易が滞ってしまうのに……」


そう思った宰相は、国庫を開いて薪を買い占める。魔物狩りのせいで逼迫していた財政が、さらに悪化していった。


(くっ……昨年より明らかに寒くなっている。今まではこんな事はなかったのに)


決して冬に対する備えを怠っていたわけではない。昨年までは必要とされる薪の量も少なく、また冬でも厚着しなくても快適にすごせていたのである。


(もしや光のオーブの出力が落ちているのか?いや、たまたま今年が異常気象なだけだ)


宰相ロックウェルは頭に浮かんだ思いを無理やり打ち消すと、必要な手を打つ。


「とにかく、薪を集めよ」

「恐れながら、王都の薪の値段が高騰しております。これ以上買い占めると国庫が破綻してしまうます」


財務官僚が恐る恐る申し出ると、宰相は癇癪を起した。


「ええい。なら強制徴収じゃ。騎士たちに命令して民から薪をとりあげろ!」


宰相の命令により、騎士団長パーシバルは騎士たちを率いて王都を回った。


「薪を供出しろ!国王命令である!」


民間の家に土足で踏み込んで、あるだけの薪を取り上げる。


「おやめください、薪を取られたら私たちはどうやって寒さをしのげばいいか!」

「そんなの知った事か!」


そう取りすがる男を殴りつけ、騎士たちは薪を運び出していく。


「なんという無法をなされるのです!そんなことをされたら、私たちは破産してしまいます」

「ええい。邪魔するな。ここにある薪はすべて無料で国家に捧げよ!」


ある富裕な商人は、倉の中にある薪をすべて奪われて、絶望的な顔をしていた

すべての薪が王城に集められ、ようやく宰相たちは一息つく。


「これで冬を乗り切れそうじゃな」


暖かい暖炉の前で、王と宰相はワインを飲みながらくつろぐのだった。

しかし、薪を取られた民たちは、初めて経験する寒さに震えていた。


「寒い……今年の冬は今までにないくらい寒いのに、薪を取られてしまった」

「なぜだ!光のオーブは輝いているのに」


今までは光のオーブによって王都中に注がれていた赤外線のおかげで冬になっても暖かかったのだが、それを制御していたのはシャイン家がいなくなった結果、今まで経験したことのない冬を迎えようとしていた。


「ねえ。パパ、どうしてこんなに寒いの?」


寒い家の中で身を寄せ合って震えていた家族では、子供が親にそう問いかけていた。


「パパにもわからないよ……」


しかし、父親はその問に答えられなかった。


「そうだ。シャイン伯爵様に頼んで、光のオーブで暖めてもらえないかな?」


子供は無邪気にそういうが、父親は首を振った。


「シャイン家は、もういないんだよ」

「なぜ?なの?ボクたちを見捨てたの?」

「い、いや。彼らは詐欺師だったんだ。だから国から追い出されたんだよ。そう国王様がおっしゃったんだから、間違いないんだ」


しかし、そういう父親の声には力がなかった。


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