裏切り
パーティはさらに進み、地下70階までたどり着く。しかし、そこでアーマーオークに遭遇してしまった。
「くそっ!こいつ剣が効かねえ!」
黒光りする金属の身体を持つオークに襲われ、ヨシュアが悲鳴をあげる。
「魔法も効かない!」
エレルとマーリンも、真っ青な顔をしていた。
「くそッ!ボクが相手だ!」
巨大なトンカチで殴りつけると、アーマーオークの動きが止まる。
エレキテルが必死に戦っている隙に、ヨシュアたちは下がった。
「みんな!どうして戦わないんだ。このままだとエレキテルが!」
「うるせえ!」
いきなりヨシュアはライトに切りつける。すさまじい激痛がして、ライトの右腕が落ちた。
「ぎゃぁああ!」
「これはもらっていくよ!」
エレルが「勇者の袋」を取り上げる。
「みんな!何してるの!」
アーマーオークと対峙していたエレキテルが振り向いて驚愕する。そんな彼女に、マーリンは冷たく告げた。
「新入りや不正規メンバーは、いざという時に囮となって正規メンバーを逃がす義務があります。『水壁ウォーターウォール)』」
水でできた壁をつくって、アーマーオークがいる部屋を封印する。その時すでに他のメンバーは部屋を出ていた。
「あばよ。ギルドにはお前たちは死んだって報告しておくぜ」
嘲笑いながらヨシュアたちは逃げていく。部屋には右腕を失って痛みに悶えるライトと、茫然としているエレキテルが残された。
「ライト君。大丈夫?」
絶望的な顔をしたエレキテルが駆け寄ってくる。
「大丈夫じゃない……」
「しっかり!『血止めのベルト』」
エレキテルがベルトを外して、右手に巻き付けるとライトの出血は止まった。
「たけど、このままじゃ……」
ライトは恐怖の視線をアーマーオークに向ける。金属の皮膚で覆われたオークは、鈍い動きで迫ってきていた。
「もうだめ!ごめん。ボクが仲間にさそったばかりに……」
泣き崩れるエレキテルを、ライトは抱きしめる。
「一つだけやってみたいことがあるんだ。奴の後ろに落とし穴があるだろう。あそこに逃げ込めば……」
「でも……」
「どうせこのままじゃ殺される」
それを聞いて、エレキテルも覚悟を決める。
「わかった」
「よし。行くぞ。『光化』
光の霧となった二人は、落とし穴に吸い込まれていった。
そのころ、グローリー王国の混乱はさらに激しくなっていた。
「グルルルル……」
夜になると毎日のように、ゴブリンが王都の城壁の周囲に集まって唸り声をあげる。それが集団になると、大音量の騒音になって王都をゆるがしていた。
「くそ!ゴブリンたちめ!どっかにいけ!」
兵士たちが城壁の上から矢を放ち、何匹か仕留めるが、新たなゴブリンがどんどんやってくる。
毎夜のようにそれが繰り返され、国民の我慢ば限界に達しようとしていた。
「いったい、王は何をしているんだ!」
「うるさくて眠れない。前はこんな事なかったのに!」
そんな声が上がるようになり、王も無視できなくなっていた。
「ロックウェルよ。なぜいきなりゴブリンたちが集まってくるようになったのじゃ」
目の下に隈を作った王が聞いてくる。
「はあ……私にはなんとも……」
「なんだと?貴様、調査すらしておらぬのか?」
厳しく責められ、宰相は慌てて冒険者ギルドに赴きハンターに聞き取り調査をした。
「ゴブリンが集まってくる理由だって?そりゃ、ここに人が何十万人もいるからだろうよ」
その引退した元ベテラン冒険者は、宰相の問いに吐き捨てるように答えた。
「そ。それは他の都市もそうだろう?なぜ我が国の王都だけこんなにゴブリンが集まって来るのだ」
「あんた、本当に宰相か?他の都市がどれだけ毎年費用をかけてゴブリン駆除しているのか、わかってないのか?」
呆れた目で見返され、宰相は言葉につまる。
「い、今までは王都にゴブリンなどの魔物は近寄らなかったんだ。だから冒険者を雇って魔物駆除する必要もなかった。なんで今頃になって……」
「知るかよ。だが、魔物を近寄らせなかった何かの加護が失われたんだろうな」
それを聞いて、宰相はシャイン家が言っていたことを思い出す。彼らが光のオーブをコントロールして魔物よけの聖光を放出していたので、魔物が近寄ってこなかったのだ。
(そんなことを言ったら、私の首が飛びかねない。なんとかして誤魔化すしか……。やむを得ぬ。たまたまゴブリンが大発生したということにして、冒険者を雇って駆除しよう)
そう思った宰相は、元冒険者に依頼する。
「なんとか、奴らを始末してくれ」
「仕方ねえな、他の都市から仲間の冒険者を呼ぶしかねえが、そのための金は払ってもらえるんだろうな」
「……わかった」
こうして、急遽冒険者が集められる。彼らに対する支払のせいで、シャイン家に払っていた給料の10倍の費用が掛かるようになり、国民に課せられる税金も跳ね上がってしまうのだった。
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