エレキテル
ライトはホリーとイズナを宿に残し、冒険者ギルドに訪れていた。
「冒険者登録をお願いします」
「はい。ではこのカードに血を垂らしてください」
ミリアという名札がついている猫耳の受付嬢がカードを差し出してくるので、ライトは血を垂らした。
「お名前は、ライト・シャイン様。使えるのは光魔法ですか。うーん」
カードを照会機に差し込み、水晶玉に浮かんだデータを見てミリアは難しい顔をする。
「あの?何か問題が?」
「光魔法って、明りにしかならないんですよね。攻撃や防御にも使えないし、傷を癒すわけでもないし、せいぜいめくらまし程度でしょ?仲間が見つかるかどうか……」
「そ、そんな!伝説の勇者マサヨシは光魔法を使っていたというじゃありませんか」
ライトが反論すると、ミリアは苦笑を浮かべた。
「彼が使っていた攻撃系光魔法は、現在失伝しています。あまりにも強すぎるため、後世に害を及ぼすと判断したマサヨシ自身が誰にも伝えずに死んだからです」
「そ、それでうちの一族にも伝わってなかったのか……」
勇者の直系の子孫であるシャイン家も、光のオーブ管理業務を任されたり病気の治療をするだけで一切魔物と戦ったりはしなかった。どうやら攻撃魔法が勇者自身の手により封印されたせいらしい。
「一応、『照明師』としてパーティメンバー募集をかけますが、あまり期待なさらないでください」
それを聞いて、ライトはがっかりするのだった。
「『照明師』かぁ。うーん」
照明師とは、文字通り暗いダンジョンで明りを照らす職業のことである。基本的にたいまつやランプの代替としか扱われず、パーティ内の地位も低い。
「どうしょうかなぁ」
当てもなくギルド内を散策していると、一つのパーティがもめているのが目に入った。
「うっせえんだよエレキテル。新入りの分際で生意気ぬかすんじゃねえ。照明師なんて必要ねえって言ってるだろうが」
「そうよ。雇うだけ無駄よ」
「分配金が減ります」
戦士と魔術師、治療師の恰好をした男女が、一人の美少女を責め立てている。ライトと同じぐらいの年のその茶髪の美少女は、小さな体に不釣り合いな巨大なトンカチを振り回しながら力説した。
「僕たち『魔滅の刃』は、確かにSランク冒険者として地下50階まで潜ったよ。でも、これから先に進むには明りが必要になる。どう計算しても、ランプやたいまつだと無理なんだ。僕は補給担当のメカマンとして、照明師が必要だと思う」
エレキテルと呼ばれた少女はそう言い捨てると、受付に向かい話し掛けた。
「ねえ。だれか照明師を紹介してよ」
「それなら、ちょうど今登録された方がいますよ」
ミリアはライトを紹介すると、エレキテルは満面の笑みを浮かべて近寄ってきた。
「よろしく。僕はSランク冒険者のエレキテル・アースだよ。君についてきてほしいんだけど」
「え?俺は登録したばかりの新人なんだけど……」
ライトが渋ると、エレキテルは手を握って頼み込んきた。
「お願い。君は最後尾で戦わなくていいから」
「……わかったよ。それなら」
しぶしぶライトは頷く。その様子を、『魔滅の刃』の他のメンバーたちは顔をしかめてみていた。
ダンジョン攻略は、順調に進んでいた。
「はっ!」
剣士ヨシュアの剣に切り刻まれ、ケルベロスの一つ目の首が炎に包まれる。
「ガウッ!」
「ちっ!」
その隙に隣の首に噛みつかれた
「ウィンドカッター!」
魔術師エレルの杖が煌めき、風の刃が出てヨシュアに噛みついた首を切り落とす。
「とどめだ。グラビティショット!」
残った三本目の首は、エレキテルの放ったトンカチの一撃でつぶれた。
「くっ……いてえ」
「動かないで。傷を癒します。『ウォーターヒール』」
治療師マーリンの杖から水色の液体が放たれ、ヨシュアの傷口を覆っていく。
「みんな、すごいな。さすがSランク冒険者だ」
ライトは、初めて見る冒険者たちの強さに感心していた。
「ライト君。ありがとう、君のおかげで楽に戦えたよ」
そんな彼をエレキテルがねぎらってくる。
「そ、そんな。俺なんて後ろで明りをともしていただけで……」
「ううん。おかげで相手の攻撃がよく見えたよ。暗いところで戦ったら、どうしても戦いの幅が狭くなるからね。誇っていいよ」
エレキテルはバンバンと背中をたたいてくる。強い力だったので、ライトは思わずむせてしまった。
「ゲホッ」
「あ、ごめん。ボクはドワーフだから、力加減が難しいんだよ」
そういってペロっと舌を出す。
「ドワーフって普通は鍛冶とかしているんじゃ?なんで冒険者になったの?」
「あー、その辺はいろいろ事情があってね」
笑ってごまかす。そこに回復したヨシュアから怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい!そこの荷物持ち!しゃべってないで働け!ケルベロスの素材を回収するんだ」
「わかったよ。うるさいなぁ」
そういわれて、エレキテルはケルベルスの身体を解体にかかる。その間、他の三人はくつろいでいた。
「君たちは手伝わないの?」
「ああん?正式なメンバーでもねえやつが生意気いってんじゃねえぞ。雑用は新入りがするもんだ」
そういって鼻で笑うヨシュアに、他の二人も同調する。
「メカマンなんていらないんだよね。解体しかできないし。ま、照明係よりはマシだけど」
「まあまあ、荷物持ちとして働いてもらいましよう」
そんな陰口をたたいて笑い合っているエレルとマーリン。ライトはいたたまれなくなって、エレキテルに申し出た。
「手伝うよ」
「助かるよ。それじゃええと、牙を抜いて。あ、汚れるかもしれないから、手袋はめてからね」
エレキテルとライトは協力して必要な部位を切り取る。ほかの三人は馬鹿にした目で見つめていた。
「これで全部だね。よっこらしょっと」
ケルベルスの牙や爪、肉や毛皮を詰めたリュックをエレキテルが担ぐ。そのリュックは自分の身体よりはるかに大きかったが、小柄なエレキテルは平気な顔で背負っていた。
「お、重くないの?」
「あはは。ボクはドワーフだからね。力もちなんだ」
明るく笑って力こぶを作るが、どう見ても荷重オーバーだった。
「ち、ちょっと待ってよ。この袋に入れよう」
見かねたライトは、持ってきた『勇者の袋』にいれるように提案する。
「残念だけどそんな小さな袋じゃ……え?」
巨大なリュックが小さな袋に吸い込まれるのを見て、エレキテルは目を丸くした。
「そ。それってもしかして、『勇者の袋』?なんでそんなもの持ってるの?」
「我が家の家宝だから」
ライトは笑って答える。
「欲しい。ちょうだい」
「それは無理」
「残念。だけど君を仲間にしたのは大当たりだったよ。おかげで楽ができる」
エレキテルは気楽にバンバンと背中をたたいてくる。しかし、他の三人はギラギラした目でライトの袋を見つめていた。
「あれって、国宝クラスの宝物じゃ?」
「ああ、あいつにはもったいねえ」
「私たちが持っていた方が、有効に使えます」
彼らの目には、危険な光が宿っていた。
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