領地貴族
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「では、これで取引成立だな」
「ありがとうございます。このご恩は忘れません」
商業ギルドの長が頭さげる。彼の周りにいた大商人たちもそれに倣った。
広場でバザーが行われているのを知った彼らは、船長ドラッケンに大口取引を交渉した。彼は快くそれを受け、持ってきた物資を彼らに卸したのであった。
「あなた方が来てくれないと、王都は無法地帯になり、我々は破産するところでした」
ギルド長は素直に感謝している。
「我らを派遣したのは勇者様だ。感謝は勇者様に捧げるのだな」
「おっしゃる通りです。国王や宰相、騎士などというものは本質的に盗賊なのだと、我らは痛いほど思い知りました。我らはもはや彼らに従いません」
商人たちの言葉に怒りが混じる。閉鎖された王都内で、彼らは法による保護を得られず、騎士たちに好き放題虐げられていたのだった。
卸された物資の値段は普段の何倍もする高価なものだったが、商人たちは貯めていた金をすべて吐き出して購入する。売買契約という概念が成立するだけマシだったからである。
「我々は勇者様こそ救世主として、一生忠誠を誓います」
商人たちは頭を垂れる。
こうして、グローリー王国の王都の富は、ほとんどセイレーン号に集められてしまうのだった。
ドラッケンは次に、ある人物を呼び出す。
「私に御用とは、なんですかな」
穏やかに聞き返す初老の紳士の名はセバスチャン。元シャイン家の執事である。
「勇者様からそなたに手紙を預かっておる」
差し出された手紙を読むと、セバスチャンは笑みを浮かべた。
「ほう。ライト様とホリー様はセントバーナード王国に受け入れられましたか。これで心のつかえがとれました」
手紙には、セントバーナード王国で子爵になったので、セバスチャンに来て欲しいと書かれていた。
「そなたは勇者様に信頼されておる。どうだ?我らと同行して勇者様に再びお仕えせぬか?」
「ありがたいお言葉ですが、私は過去に属する者。これから豊かな未来に生きるお二人に、この老体は必要ないでしょう」
固辞するセバスチャンに、ドラッケンは首を振る。
「家臣としてはまだまだ甘いな。いや、これが平和の中で育った者の認識なのか。勇者様は常に危険にさらされておるのに、それが分からぬとは」
「異なことをおっしゃる。子爵位を与えられて、公爵家の婿入りも決まったも同然なのでしょう?」
首をかしげるセバスチャンに、ドラッケンはその訳を話し始めた。
「よいか?いかに子爵位や公爵家の婿の立場を得たといえ、領地を持たぬ法衣貴族の立場は弱い。王の意向一つで簡単に地位を追われてしまう。自分の支配する根拠地を得て、初めて貴族は強者たりえるのだ」
「た、確かに」
長年忠実に勤めていたシャイン家も、王の一言で国を追われてしまった実例を見ているセバスチャンは首肯した。
「セイント王は信用のおける名君であり、クーデル王子は勇者様の親友だ。しかし、どれほど居心地がよくとも、他人の掌に運命を握られていることには変わりない。勇者様、いやシャイン家には、自立できる領地貴族になってもらわねばならぬ」
「領地とおっしゃられても、難しいかと、さすがにセントバーナード王国内部に領地を与えることは、諸侯が反対するでしょう」
セバスチャンの懸念に、ドラッケンはニヤリと笑った。
「心配するな。当てはある」
地図を取り出して、一点を指さす。
「そうですか。そこなら新たな領地として認められるかもしれませんな」
「領地には領民が必要だ。言いたい事はわかるな?」
セバスチャンは頷いた。
「シャイン家を領地貴族にするため、微力を尽くしましょう」
こうして領民集めに奔走することになるのだった。
「聞いたか?勇者様が領民を集めているそうだ」
「あの船にのれば、忌まわしい王都から脱出できるぞ」
そんな声が王都中に広まる。
スラムの片隅では、ボロボロになった家の中で一人の少女が泣き暮らしていた。
「なんで……なんで今頃になって来るの?もっと早く助けに来てくれれば……弟は死なずに済んだのに……」
そんな事をつぶやく少女を、父親はたしなめた。
「勇者様をお恨みしてはいけない。彼を追い出したのは我々なのだ」
「でも!」
激情のまま勇者に逆恨みを向ける少女。そんな彼女に、父親は静かに告げた。
「ジャンヌ。お前はまだ若い。あの船に乗りなさい」
「いや!私たちを見捨てた勇者の所なんかに!」
ジャンヌか拒否するが、父に頬を打たれてしまった。
「ごほごほ……私は長くもたない。ここにいたらお前まで疫病に侵されてしまう」
「でも!」
駄々をこねるジャンヌを、父親は優しく抱きしめた。
「お前だけは幸せになっておくれ。いいか、私たちの過ちを繰り返してはならぬ。けっして勇者様をお恨みするのではないぞ」
「……はい」
ジャンヌはしぶしぶ頷くのだった。
しかし、父親の願いはかなわなかった。
「定員オーバーですと?」
「すまんな。予想以上に多くの人が集まったので、これ以上乗せられないのだ」
船長に頭を下げられ、父親とジャンヌは絶望する。
(許さない……私たちに希望を与えておいて見捨てるなんて。いつか勇者に復讐してやる)
ジャンヌの瞳には、暗い光が宿っていた。
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