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婚約発表

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グローリー王国


飢えと寒さ、疫病で壊滅的な被害を被っていても、それとは無縁な場所がある。


王宮では、この期に及んでも権力闘争がなされていた。


「宰相様!私は忠誠を誓います」


ロックウェル派に入ろうとする貴族もいれば、それに反発する者たちもいる。


「あの悪臣を追い落として陛下を擁すれば、私が実権を握れる……」


そんな野望を持つ者たちもいる。


混迷極める貴族たちの間で、それに決着をつけるかもしれないあるうわさが広がっていた。


「セレニティ王女とパーシバル卿が結婚するらしい」


ロックウェル派によって故意に広められたこの噂は、王都の貴族たちの間に瞬く間に広がった。


「なら、事実上この国はロックウェル侯爵のものになってしまう」

「くそ……どうすべきか……」


散々普段は使わない頭を悩ませる貴族だった。


そんなある日、王都の城壁を守っていた貴族は空をみあげて叫び声をあげる。


「な、なんだあの船は!空を飛んでいる!」


激しい風と雪をものともせず、純白の帆のない船が空を飛んで王都に近づいてきている。


「警備隊長に知らせろ!」


たちまち兵士たちに報告され、パーシバルは勇者の剣と鎧をまとって城門前にやってきた。


「ふん。あれはもしかして伝説の飛行船か。新しい勇者である俺を迎えにきたのだな」


そんなことを嘯きながら、兵士たちに命令する。


「この船を、ここに降ろすように合図しろ」


兵士たちが必死に身振り手振りで合図するが、飛行船はその上をスルーして国王がいる塔の方に行ってしまった。


「くっ!この新しき勇者を無視するとは、おいかけろ!」


激怒して後を追うパーシバルだった。




「それで、この船は後宮に降りればいいのか?」

「ああ、近衛騎士団はまだ陛下に忠誠を誓っておる」


執事長ルパートは、王がいる後宮の中庭に降りるように指示する。


「ふん。グローリー王国もずいぶん下品になったな。初代勇者様がいらっしゃった頃は、後宮などという無駄なものはなかったのにな」

「……」


ドラッケンの揶揄を、ルパートは丁重に無視した。


セイレーン号は、後宮の中庭に降りる。着飾った近衛騎士団に迎えられた。


「な、何者だ?」


怯える彼らの前に、ルパートが降りてくる。


「至急、陛下に謁見したい」

「執事長様?は、はいっ!」


隊長は、慌てて後宮に入って行った。


その時、騒ぎが起こって騎士たちが乱入してくる。


「お下がりください、後宮は近衛騎士しか入れません」

「ふん。国家の大事にそんな規則など関係あるか。下れ!」


パーシバル直属の騎士たちと近衛騎士団の間に争いが起きそうになった時、やっと少し回復した王がやってきた。


「こ、これは陛下……」


慌てて跪くパーシバルを、国王は一括する。


「パーシバル騎士団長!団長自らが王宮の規律を乱してなんとするか!控えよ」

「は、ははっ」


不満そうになりながら、パーシバルは退出していく。

そんな彼の前に執事長ルパートは跪き、うやうやしく国書を差し出した。


「吉報でございます」


手紙を読んだ国王は、ほっとした表情を浮かべて、同じく自分の前に跪くドラッケンに声をかけた。


「セントバーナード王国の使者殿よ。よくぞ来られた。我が国は貴殿らを歓迎しよう」


こうして、セントバーナード王国の使節は歓迎されるのだった。




王は布告を発し、王都の貴族を大広間に集める。


「セレニティ王女とセントバーナード王国、第一王子クーデルの婚約をここに宣言する」

「なっ!」


思いもかけないことを告げられて、宰相ロックウェルは絶句した。


「陛下!なぜですか!私に何の相談もなしに」


そう訴えるロックウェルに、王は冷たい目を向けた。


「控えよ。そもそも宰相には外交面で口出す権利はない。明らかに職分を超えておる」

「ですが……」

「控えよ!」


王に叱責され、ロックウェルはしぶしぶ引き下がった。


「セントバーナード王国からは、結納品として薪と食糧を供出してもらった。これで王都は救われるじゃろう」


それをきいた貴族たちはほっとした表情を浮かべる。何はともあれ、王都は壊滅を免れたのだった。


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