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無法

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「よいか貴様ら!治安を乱すものはすべて、この勇者の後継者であるパーシバルが斬る」

    

血にまみれた勇者の剣を振りかざし、パーシバルは脅しつける。民衆は恐怖に圧倒され、騎士隊に逆らえなくなるのだった。


「ごほごほ……そうか。王都の治安は回復したか。よくやった。パーシバル警備隊長」

「もったいないお言葉でございます」


その報告を受けた王は、玉座で咳き込みながら彼の功績をねぎらう。


「余や卿らたちがこんなに苦労しておるのに、貴様は何をしておったのじゃ」


次に王はそばに控えていた騎士団長をギロリとにらみつけた。


「お、お言葉ですが、我々は冒険者と協力して外のゴブリンを駆除するのに忙しく……」


言い訳をする騎士団長に、王は冷たい目を向ける。


「ごほごほ……今は外のことより王都内の治安を保つべきじゃ。貴様は罷免する。パーシバル騎士よ。卿を新たな騎士団長に命じて、治安維持の全権を一任する」

「承りました」


政治面の権限を宰相、そして軍事面の権限をその息子に委ねるということは、少なくとも閉鎖された王都内で彼らに対抗できる権力はなくなるということである。


風邪と激務で判断力が低下していた国王は、そのことに気づかなかった。


「ごほごほ……余は疲れた、しばらく政務は宰相に任せる」


国王は復帰した宰相に全権を委任すると、退出していった。


「うまくいったのぅ。これで我らの思うがまま振舞える」

「ふふ、父上もお人が悪い」


親子は笑みを交わす。宰相が風邪を引いたというのは嘘である。狡猾な彼は、人にうつる風邪が宮廷内にひろがりはじめたと見るなり、仮病を使って出仕を拒んでいた。


そうすることで王に激務が集中するようにして、彼にすっかり政治に嫌気が差すように仕向けたのである。


「よいか?ワシは宮廷内の反対派を一掃する。お前は王都内で富を集めよ」

「どのような名分で?」


パーシバルの問いかけに宰相は少し考え、王都内に広がる疫病を使うことにした。


「現在、王都内に風邪が蔓延しておる。これは王国を混乱させようとする他国のスパイが広めたものじゃ。パーシバル騎士団長、すみやかに騎士たちを率いて捜査せよ」

「承りました」


パーシバルは悪魔のような笑みを浮かべて、退出していった。




「い、いきなり来られて捜査とは、我らに何の罪があったのでしょうか……ゴホゴホ」


王都一番の商人は、咳き込みながらも必死に抵抗する。いきなり騎士たちがやってきて、商会にある商品と金を徴収しようとしたのである。


「貴様には他国のスパイ容疑がかかっておる」


爬虫類めいた笑いを浮かべて、パーシバルが言い捨てる。


「す、スパイ?なにを証拠に」

「貴様は風邪を王都に持ち込んだな。それは明らかな破壊活動だ」

「そんな無茶苦茶な……ぎゃっ!」


抗議した商人は、パーシバルの一刀で切り捨てられてしまった。


「これで風邪の蔓延を防げた……ここにあるものはすべて証拠品だ!押収しろ!」

「はっ」


騎士たちによって運び出されていく財産たち。その行き先は、ロックウェル家の屋敷だった。

このようなことが繰り返されていくと、次第に騎士や兵士たちも自制が効かなくなる。


「お、おやめください。この子は病気なのです」


とある父親は、いきなり家に踏み込んできた兵士たちに必死に頭をさげていた。


「ふふ、風邪を引いたということは、スパイの一味か?」

「かまわねえ。殺せ!風邪を引いたやつは王国に害をなす非国民だ」


権力を持つものが自制心を失うと、それは無法へとつながる。子供はあっさりと斬り殺させてしまった。


「貴様!」


殴りかかってくる父親を押さえつけて、兵士たちは家の中を見渡す。


「財産をすべて運び出せ!」


こうして、王都はロックウェル一派の蛮行がはびこる無法地帯となってしまった。

虐げられた民たちは、光のオーブを見上げて涙する。


「勇者様……戻ってきてください」

「俺たちが愚かでした。今まであなたたちが国を守ってくれたのに……」


恩恵を当然のものと思いあがって、オーブの管理人を追い出したことを今更ながらに後悔する。

しかし、どれだけ祈っても光のオーブはそれに応えてはくれなかった。



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