エレキテルの悩み
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「なんかうかない顔だね。何かあったの?」
王城から戻ってきて以来、エレキテルはずーんと沈んでいた。
「い、いや、なんでもないよ。ボクは疲れちゃったからまた明日」
屋敷に戻るなり、エレキテルは自分の部屋にこもる。
はぁーとため息をつくと、机から一冊の日記帳を取り出した。
その題名には『シャインロード攻略~めざせバットエンド回避』と書かれていた。
「はぁ。ボクは魔法学園に行きたくないから冒険者していたのに。ああ、結局あの物語通りになっちゃうのかぁ」
彼女は前世の記憶をたどる。実は、彼女は前世では日本と言う世界に生きていた。大学で電気工学を学んでいた彼女は、実験中の事故で死亡し、この世界に生まれ変わっていたのである。
彼女はこの世界が、前世でハマっていた乙女ゲーム『シャインロード』であることを知っている。
「よりによって、なんで悪役令嬢なんかに転生するかねぇ。ボクはただの機械マニアのオタクなのに、神様って何考えているんだろう」
彼女は自分の性格を良く知っている。悪役令嬢としてふるまう事も、逆に攻略対象を篭絡して逆転を目指すなんてこともできそうになかった。
悩んだ彼女が出した結論は、冒険者、あるいは技術者として名声を確立させ、貴族の令嬢としての恋愛だの婚約だのと関わらないことである。そのため、冒険者として活動し、ダンジョン内に散らばる魔道具を集めていたのだった。
実際それはうまくいき、変り者扱いされた彼女は現在誰とも婚約していない。したがって破棄を申し出てくる婚約者もいるはずがない。
「でも、まさかライト君とホリーちゃんと関わっちゃうとはねぇ。こんな事なら声かけるんじゃなかったかな」
たまたま声をかけた少年が、まさか『シャインロード』の勇者だとは思わなかった。ゲーム内での名前は「シャイン」と姓読みになっていたから油断していたのである。
「ま、いいか。幸い勇者ライト君と聖女ホリーちゃんとは仲良くなったし、『電気』というボクにしかできない技術も独占している。反逆イベントなんて起こらないはず」
彼女が知る限り、『シャインロード』には最悪の結末が存在する。それは悪役令嬢となった彼女がホリーを殺害し、怒り狂ったライトが『反逆の勇者』となってすべてを滅ぼすといったものである。
「うん。大丈夫大丈夫。そもそも、研究室にこもっていれば、悪役令嬢になるなんてことはないはずだしね」
エレキテルは自分に言い聞かせながら、眠りに落ちるのだった。
次の日、ライトはホリーにデートに誘われた。
「兄上、遊んで」
「ああ。陛下から大金もらったから、買い物にいこうか」
「きゅい!」
ホリーの肩に乗ったイズナも同意してくる。
「なら、ボクが案内してあげるよ」
エレキテルがそう申し出てくる。
こうして三人と一匹のデートが始まった。
町を歩くと、あちこちで鍛冶師が槌を叩く音がひびいてくる。
町には農作物で溢れ、道行く人々も幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「豊かな国だな。売っている物の種類も多いし」
町を歩いてみると、実に多種多様な品物が売られていた。最低限の日用品、それも既製品ばかりだったグローリー王国とは大違いである。
「この国はドワーフ族の本拠地だからね。職人が多くいて、お互いに切磋琢磨しているんだよ」
「なるほど」
剣一つ見ても、大小さまざまなサイズがあり、直剣・両刃剣・曲刀など種類も豊富だった。
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