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ヒラガ公爵

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冒険者ギルドでは、ギルドマスターがやきもきしていた。


「おかしい……冒険者たちが帰ってこない……20人もあの小娘一人を倒すために派遣したんだから、もう戻ってきてもいい頃なのに」


冒険者の中でも時にホリーを憎んでいた者たちを、Sランク冒険者の『魔滅の刃』が指揮していたのだ。どんな不測の事態でも対応できるはずだった。


しかし、現実には誰一人として戻ってこず、大量に冒険者たちがいなくなったことでギルドの運営にも支障がでてきた。


そんな彼の元にある訪問者がやってきた。


「これはこれはゲンナイ・ヒラガ公爵様。どのような御用でしょうか」


ギルドマスターは、ずんぐりしたドワーフを丁重に迎える。


彼はセントバーナード王国の大貴族で、国内の武器や魔道具の生産を一手に握る商工ギルドの長でもあった。冒険者ギルドとしては絶対に敵に回せない人物である。


ヒラガ公爵はギロリとギルドマスターを睨みつけると、重々しく口を開いた。


「娘がなかなか戻ってこないので、連れ戻しに来たのだ」

「娘とおっしゃいますと……?」


「冒険者ギルドには申し渡しておるはず。最高の冒険者チームに参加させよとな。冒険者として活動するにあたり、ワシの旧姓を名乗らせておる。エレキテル・アースじゃ」

「ふぇっ?」


それを聞いて、ギルドマスターは真っ青になる。それは『魔滅の刃』に任せたとある新人冒険者の名前だった。


「どうした。娘は今どこにおる?まさか何かあったのではないだろうな」


公爵の言葉を聞いて、彼についてきた騎士たちが武器を鳴らす。ヒラガ公爵家はその保有する戦力でもセントバーナード国内最精鋭を誇り、彼に敵対したものは容赦なく滅ぼされていた。


「あ、あの……彼女は目覚ましい活躍をしたのですが、不測の事態が起こりまして……その」

「はっきり言うがいい!!」


公爵に怒鳴られて、ギルドマスターは縮み上がる。


「し、死亡届が出て……い、いや、実は行方不明になっています」

「なんだと!貴様たちは何をしておった」


公爵の怒りがギルド中に響き渡る。聞いていた冒険者たちも、身をすくめた。


「詳しく話すがいい」


観念したギルドマスターは、エレキテルが地下70階でアーマーオークと戦って行方不明になったと報告されたことを話す。


「その報告をした『魔滅の刃』とやらは、娘を見捨てておめおめと戻ってきたのか」

「ま、まったく不肖の者たちでございまして……Sランク冒険者の名折れでございます」


揉み手をして公爵の怒りに迎合しようとするが、すさまじい怒りがこもった目で見返させてしまった。


「そんな冒険者チームに娘を加入させた、冒険者ギルドにも責任がある」


公爵の怒りを受けて、騎士たちがギルドマスターに剣を突き付けた。


「ひっ!お、おゆるしを……」

「今は貴様ごときにかまっている暇はない。ドレレンツ!」

「はっ」


筋肉ムキムキのドワーフが、前に進み出る。


「娘の捜索に向かえ!」

「はっ。必ず救出してみせます」


ドワーフ騎士隊は、ダンジョンに入って行った。




地下10階


「あと地上までもうちょっとだね。頑張ろう」


エレキテルが仲間たちを励ます。


「なんか相当長い間ダンジョンにこもっていて、体が臭い気がする。風呂に入りたい」


ライトは自分の身体から立ち昇る異臭に顔をしかめる。


「兄上の匂いなら、私は気にしない」


ホリーはライトにぴったりと身を寄せていた。


「あはは。兄妹っていいなあ。羨ましいよ」

「そういえば、エレキテルの家族ってなんなんだ?やっぱり冒険者なのか?」


ふと思いついて、ライトが聞く。


「うーん。冒険者じゃないかな。まあ、似たような仕事はしているけど」

「どうして冒険者になったの?」


ホリーの質問に、エレキテルはためらいつつ答える。


「その、ボクの家は代々公務員というか、国から未開地の探検を任されたり、ダンジョンで発見された魔道具の研究を委託されているような家系なんだけど、ちょっとボクは家族と喧嘩しちゃって」


「喧嘩?」

「うん。魔道具には魔力がエネルギー源として使われているんだけど、それを雷の力で代用できないかなって提案したの。だってそうしたら、魔力が使えない一般人でも魔道具が使えるようになるでしょ?」


エレキテルは目をキラキラさせて、自分の夢を語る。


「それをお父様に言ったら、そんな魔道具はないって怒られちゃったの。それで喧嘩しちゃって、魔道具探しの旅に出たんだ」

「へえ、そうなんだ」


人にはいろいろ事情があるんだなとライトは思った。


「でも、成果はあったと思う。ホリーちゃんに出会えたし」


エレキテルは嬉しそうな顔をして、ホリーの手を握る。


「わ、私?」


人見知りするホリーは、ちょっと引いていた。


「うん。君が使う「ピリピリ」魔法こそが、雷のエネルギーだよ。君が協力してくれれば、きっと電の魔道具-電化製品をこの世界でも生み出せるよ」


エレキテルは絶対にがさないという風に、ホリーの手を握って離さなかった。


「やーん。兄上、どうすれば?」


エレキテルに纏わりつかれてホリーは困ってしまう。


「まあ、いいんじゃないかな。エレキテルには恩があるし、協力してあげてくれ」


「兄上がそういうなら、仕方ない」


ホリーはしぶしぶ協力を誓うのだった。


その時、前方から大勢の足音が聞こえてくる。


「また冒険者かも」

「ちょっと待って。この足音は……おーい!」


エレキテルが呼びかけると、やってきた騎士たちは喜びの表情を浮かべた。


「お嬢様。ご無事でしたか!よかった」

「ドレレンツ。久しぶりだね」


赤い髭をはやしたドワーフが出てきて、エレキテルの前に跪いた。


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