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役立たずと呼ばれて

大陸北方の国、グローリー王国の光の塔

日が沈んだ夕方、とある親子が、会話しながら登っていた。


「……ということで、我らが先祖勇者マサヨシは邪悪な魔王を倒し、神からさずかった光のオーブを取り返した。以来400年、我がシャイン伯爵家はずっとオーブを管理しているんだぞ」


父親の話に、幼い子は目をキラキラして聞き入る。そうしているうちに、塔の頂上にある光のオーブの間にたどり着いた。


「このオーブは日中の太陽の光を取り込んで、夜になったら逆に放出している。だからこの王都の夜は明るいのだ」

「きれいですね」


少年のいうとおり、光のオーブは優しい明りを放っていて、それは王都を照らしていた。


「だが、その調整が難しい。夏は余分な光を放出しないと爆発してしまうし、冬は逆に我らの光魔法を込めないと出力不足になってしまう」


父親はそういいながら、光のオーブに手を触れる。光の魔力を吸って、オーブはより輝いた。


「よいか?私の使命をいずれはお前が引き継ぐのだ」

「はい。父上」


少年は素直にうなずくのだった。


数年後

シャイン家の嫡子、ライトの成人の儀が王城で行われようとしていた。


「……兄上。おめでとう」


そういって抱き着いてくる黒髪の美少女に、ライトは困惑した。


「おいおい。ホリー。もう小さい子じゃないんだから、離れなさい」

「……けち」


頬を膨らましながら、シャイン伯爵家長女ホリーは離れる。彼女はシャイン家の縁戚の娘で両親が病死したことを機に伯爵家に引き取られたのだが、まるで実の兄のようにライトを慕っていた。


その時、ドアが開いてシャイン家当主、サンダーが入ってくる。彼はライトを見て、頬を緩めた。


「もう15歳か……早いものだな。これからはお前にも我が家の役目を果たしてもらわねばならんな」

「はい。よろしくご指導お願いします」


ライトは頭を下げる。


「では、いくぞ」


こうして成人の儀が始まる。この時がシャイン伯爵家の絶頂期だった。


「ライトをシャイン伯爵家の世継ぎとして認める。これからも余に尽くすがいい」

「はっ」


王の前で跪くライト。そんな彼を見る貴族や騎士の目は、あまり好意的なものではなかった。


「勇者の血を引くというだけで、高給を取り続けて……」

「戦わない勇者になんの意味がある。奴らを養っているのは国家財政の無駄ではないか!」


領地をもたない法衣貴族のくせに栄華を極めるシャイン一族に対して反感を持っていた。

渋い顔をしている宰相に、一人の貴族がささやきかける。


「ご安心ください。この後のパーティで……」

「そうか。ならいい」


伯爵家の力を弱めるための陰謀が執り行われようとしていた。


成人パーティでは、この年に成人を迎える貴族の子弟とその親たちが集まっていた。

「乾杯」

国王の音頭により、貴族たちが盃を傾ける。やがて貴族たちは、それぞれの派閥ごとにまとまって話を始めた。

その中に、ぽつんと一人だけぼっちの家がいる。


「父上は他家との交流をなされないのですか?」


一つのテーブルに取り残されたライトは、父サンダーにそう尋ねた。


「我が家は光のオーブの管理業務以外、何の利権も握っておらぬのでな。それに、下手に派閥に属すると、政争に巻き込まれる可能性がある。我が家は政治とは無縁の技術官僚でよいのだ」


そういってワインを飲んだ時、急に胸をかきむしって苦しみだした。


「く、苦しい!」

「父上!」


慌てたライトが抱え起こすが、黒い斑紋が喉から広がっていく。


「お義父様!」


ホーリーが駆け寄って、光の浄化魔法をかけるが、黒いシミは消えなかった。

いきなりの異常事態に、パーティ会場は大騒ぎになる。


「医者をよべ!」


国王の怒号が響き渡る中、その様子をじっと見ている一派がいた。


「ワインに入れた『ダークキノコ」の成分は光の魔法を養分にして毒性を強める。光魔法では治癒できまい」

「これで奴は当分出仕できまい。その間に国王を説得して……」


シャイン伯爵家を陥れる陰謀は、着々と進行していた。


シャイン伯爵家

あれからライトとホリーは、ずっと父の看病をしていた。


「父上……しっかり」

「……元気になって」


医者に見せてもよくならない症状に、二人は悔し涙を流す。サンダーはそんな二人に笑いかけると、役目について尋ねた。


「光のオーブの管理はどうなっておる?」

「それが、宰相閣下のご命令で、オーブに近づけないのです。出仕するには及ばず、父上の治療に専念せよと」


それを聞いたサンダーは、力なくうなだれた。


「そうか。勇者がこの国を救って400年。ついに我が家も見限られる時が来たか」


そうつぶやくと、鈴を鳴らして執事を呼ぶ。


「セバスチャン、かねてからの手はず通りに、財産をすべて処分して現金で用意しておけ」

「はっ」


初老の執事は一礼すると、静かに部屋を出ていった。


「父上、どういうことですか?」

「私が死んだら、おそらく当家はお役御免となり、追放されるだろう」


その言葉に、ライトとホリーは驚愕した。


「そ、そんな!」

「平和に慣れ、それがいつまでも続くと信じる者たちはいくらでもおる。その者たちにとっては、平和を維持する為のコストは無駄にしか思えぬのだ」


サンダーは苦しい息を吐きながら、そう告げた。


「ライト。ホリー。私が死んでも復讐など考えてはならぬ。お前たちは我が家の遺産を有効に使い、他国で新たな居場所を確保せよ。勇者の血を絶やしてはならんぞ……」


そういうと、力尽きた様に目をつむった。


「父上!」


ライトは尊敬する父の死を悲しむ。同時に、これから波乱に満ちた人生の幕開けだった。


新作開始しました。


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