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パンドラボックス アートリオン編 一部通し

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―利用規約―

・ツイキャス、ニコニコ、リスポンなどで上演する際は、作者に断わりの必要はございませんが、連絡やツイッタ―通知を出していただけますと、録画や上演枠に顔を出させて頂きます。


・上演する際はこの台本のタイトルとURL、作者(協力は不要)、配役表をコメント欄にのせていただきますようお願いいたします。また、mojibanなど補助ツールの使用は可能としますが、台本のURLの代わりにするのはやめてください。


・過度のアドリブ(世界観の改変)、性転換は一切しないようにお願いします。また、適度なアドリブや読みにくい個所の語尾改変は、世界観の変わらない程度ならOKといたします。


・無断転載はしないでください。もし、発見や連絡があった場合、作者が確認したのち法的処置を行いますのでよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ラーク・ウィッシャー:15歳。第一次グランハルト帝国戦争を戦い抜いたクラッチ・ウィッシャーの息子。職業は魔法剣士。剣の技術に秀でているが、魔法に関してはてんでダメ。下級魔法でも最弱の威力しか出せない。グランハルト帝国の皆が持っている力、「グラン」を持っているが、うまく自分の力を理解していない。熱い性格で常にポジティブな考えを持っている。


ミカエル:15歳(人間年齢)。ラークの夢の中に現れた天使。容姿はかなりの美女。彼女の歌う歌には癒しの効果があり、支援要因として主人公パーティーを支える。なにかわけがありそうだが……


クラッチ・ウィッシャー:35歳。第一次グランハルト帝国戦争を戦い抜いた英雄でラークの父親。騎士団での階位はグランハルト帝国騎士団統括騎士隊長。第一次グランハルト帝国戦争時の年齢は25歳。職業はラークの魔法剣士よりランクが上の魔法騎士。彼の功績により、敵国を蹴散らした。「表面は熱く、中身は冷静」をモットーにしているが、周りからはそう見えない言動が多い。帝国騎士統括騎士隊長の称号を持つグランハルト帝国の皆が持っている力、「グラン」を持っている。


ティア・ウィッシャー:35歳。第一次グランハルト帝国戦争を戦い抜いた英雄でラークの母親。騎士団での階位はグランハルト帝国騎士団統括衛生兵長。第一次グランハルト帝国戦争時の年齢は25歳。職業は聖母。支援戦闘に長けており、最大10人を一気に支援することもできる。支援魔法のすべての詠唱を覚えており、宣戦を離れた今でも、街の医療機関の院長として活躍している。グランハルト帝国の皆が持っている力、「グラン」を持っている。


ジョージ・ブライアン:性別おかま。40歳。クラッチとともに第一次グランハルト帝国戦争で戦った英雄。第一次グランハルト帝国戦争時の年齢は30歳。職業クラスはハンドガンがメインウェポンのガンナー。スナイパーライフルも巧みにこなすことから、グランハルト帝国戦争時は王城からクラッチたちの通信を頼りにガベルと戦った。現在では『なんでも屋じょーじ』を経営している。グランハルト帝国の皆が持っている力、「グラン」を持っている。


アンジェ・クレイトル:12歳の関西弁をしゃべる少女。初登場シーンは???表記。商業の街アートリオンの出身。職業クラスは魔術師だが、詠唱に関してはかなりのオリジナル。だが、自分の出したい魔法晶術が出せてしまうことから、アートリオンの中では変わり者と言われている。商業の街アートリオンでクレイトル市場を経営しているクレイトル一家の看板娘。グランハルト帝国の出身ではないため、『グラン』は使えないが、『覚醒』を備えている。だが、覚醒するためには条件があるらしく、その条件を満たしていないため、発動したことはない。


クルーラ・クレイトル:40歳。関西弁で話す。商業の街アートリオンにて、クレイトル市場を経営している。職業クラスは行商人。特殊職業クラスであり、彼の話に背くものは行動不能となる。基本的に温厚だが、気に食わないことが起こると、彼の持っている能力で自ら制裁を下す。アートリオン市場会の会長も務めている。


ミシェル・ベルサス:15歳。アンジェの幼馴染。職業クラスは???(アンノウン)。アンジェのことが好き。だが、彼女には気づいてもらえずにため息をつくことが多い。根はしっかりとした男の子だが、隠されていることが多すぎる。


業魔神ごうましんガベル:長年生き続けている業魔神ごうましん。その性格は残忍。第一次グランハルト帝国戦争のときに乱入してきたが、クラッチ、ティアを合わせた四人の英雄「グランハルトブレイバー」に封印されていた。しかし、この度、誰かが封印を解き、復活してしまった。


ギルベルト・アンダーソン:業魔ごうまガベルが率いる、暗黒四天王が一人。火の魔法の使用に長けている。口にピアスをつけており、性格はチャラくてウザい。敵を散々あおるのが趣味で、その性格上、味方までも煽ってしまうことがある。見た目年齢は20代前半。


帝国兵A:被り。クラッチ以外推奨


帝国兵B:被り。ティア以外推奨


魔物:街中に来た魔物。


少女:6歳。ジョージの店に買い物に来た少女。


チンピラ:ブイブイ言わせてください。



≪メイン≫

ラーク(不問):

ミカエル♀:

クラッチ♂:

ティア♀:

ジョージ♂:

アンジェ♀:

業魔神ガベル/ギルベルト♂:

クルーラ♂:

ミシェル(不問):


≪サブ≫

帝国兵A:

帝国兵B:

魔物:

少女;

チンピラ:



~本編~


ミカエルM「第一次グランハルト帝国戦争。広大な領地を持っていたグランハルト帝国に、隣国4か国が同盟を組んで攻めてきた戦いがありました。その戦争の名を第一次グランハルト帝国戦争と言います。同盟4か国にはそれぞれ特徴がありました。商業の街アートリオン、工業の街グラサージュ、芸能の街アクトリー、そして農業の街ファームリット。それぞれ強大な国が集まった連合軍の戦い方は、じわりじわりと帝国の資源や兵隊をすり減らす作戦を取ろうとしました。一方帝国は、10以上もの騎士団を用い、すさまじい陣形戦じんけいせんを展開しようとしていました。しかし、まもなく開戦というとき、いきなり空が黒く染まり、いかずちが両陣営の間に落ちました。」


帝国兵A「な……なんだ!?」


帝国兵B「おい、見ろ!!」


ミカエルM「グランハルト帝国の兵隊たちは、天から降りてくる黒い羽根のついた業魔ごうまおびえていました。逃げ去るもの、腰を抜かすもの、泣き叫ぶもの。各々(おのおの)、恐怖の味を噛みしめながら、天空から降りて来る業魔ごうまを眺めていました。」


ガベル「…………」


帝国兵A「誰だお前は!」


ガベル「…………」


帝国兵B「誰だと言っている———」


ガベル「シャドウ・ファイヤー」


帝国兵A・帝国兵B「ぐぁぁぁ」


ガベル「あぁ……弱い、弱すぎる!!余が本気を出さずとも、ひねりつぶせるほど人の子は弱いのか。信じられぬ……」


ミカエルM「人間の弱さを知ったガベル。天を仰ぎながら一呼吸置くと、魔術で作られた炎が、ガベルの頬をかすめました。かれは炎が飛んでくる方向を見やると、二人の人物が戦闘態勢になって立っていました。その二人は怒りをあらわにして、ガベルに言いました。二人の名は、クラッチ・ウィッシャーとティア・ウィッシャー……のちに英雄と謳われる2人でした。」


クラッチ「貴様が……貴様がこの惨状を作り出した元凶か!!」


ガベル「元凶?違うな……余はすべてを統べる唯一神ゆいいつしん業魔神ごうましんガベル。貴様らゴミ共を潰しに来た」


ティア「唯一神?馬鹿言わないで。神様が、人間の命を奪うなんてありえないわ」


ガベル「勘違いするでない。余は好き勝手に命を奪ったわけではない。」


クラッチ「ではこの惨状はなんだ!なぜこのような事をした!!」


ガベル「……彼奴きゃつらは余に名を聞いた」


クラッチ「……は?」


ガベル「余の高貴な名を腐った口をもって聞き出した。それだけだ」


クラッチ「なん……だと」


ティア「それだけ……たったそれだけのためにかれらの命を奪ったというの?」


ガベル「何がおかしい?余は世界を統べる唯一神ゆいいつしんぞ?自らの名は自らで名乗りを上げるわ」


クラッチ「きさまぁ!!許さない、絶対に許さないぞ!!地獄の業火をまとい出でよ!!神殺しの魔剣、ウロボロス!!」


ティア「少しお灸をすえる必要がありそうね。私たちに神のご加護を……いにしえからの魔典、アポカリプス!」


ガベル「ほう……神に逆らうか……あぁ、愚かなりや愚かなりや……悠久ゆうきゅうの時を超えし剣よ!ここに集え、デュランダル!」


ティア「あれが……聖剣・デュランダル……」


クラッチ「だが、負けるわけにはいかない!うぉぉぉぉぉぉ!!」


ガベル「静寂の深淵、我が呼び声に応え、の者を滅せよ……ダーク・シャドー」


ティア「クラッチ!気を付けて!!高威力な範囲魔法よ!!」


クラッチ「効くかよ!せい!!」


ガベル「ッ!ほう?我の魔法を打ち消すことのできるだけの人間がいたか。」


クラッチ「くらえ!!吠えろ!爆炎・鬼滅斬きめつざん!!」


ガベル「ぐぬぅぅ……なめるな!人間風情が!!」


クラッチ「大きい攻撃が来る!ティア!!」


ティア「まかせて。の者に鋼の鎧を……ディフェンド!」


ガベル「しき魂の饗宴きょうえん!ダークネス・ウインド!」


クラッチ「ぐっ……ぐぁぁぁぁぁ!」


ティア「クラッチ!?」


クラッチ「俺は大丈夫だ!それより出来たんだろ?」


ティア「えぇ」


ガベル「フハハハハ!なにが出来たというんだ?細腕の女魔導士に何ができる」


ティア「……聖なる母神ぼしんよ、神をつかさどる聖域よ。」


ガベル「ぐ……なんだ、この頭の痛みは!?……割れる……割れてしまうぞ!?……か……体も重く……何をした!?女ぁ!!」


(ティアはガベルを無視して詠唱を続けてください)


ティア「悪の扉を開きしものに正義の鉄槌を。そして我ら人間には、神々による祝福を与えたまえ。その祝福をもって、我ら人間は、悪しき心に堕ちた神を封印する。……ピース・オブ・ハート!!」


ガベル「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ミカエルM「ティアの封印術は見事成功し、無事ガベルを祠に封印することができました。それから10年もの間、ずっと平和は続いていました。これから先もこの平和が続いていければ……と国民は思っていました。」



ー間ー



ラーク「……ん……んん……」


ティア「あら、起きたのね。おはよう。」


ラーク「……おはよう……母さん」


ティア「あら、お寝坊さんね。パパが待ってるわよ」


ラーク「パパ?え~と……あ、今日は訓練だ!!」


ティア「んふふ。早くいってきなさい」


ラーク「わかった!!」



―間―



ラーク「ごめん、遅くなりました!!」


クラッチ「おい、敬語を整えろ……」


ラーク「す……すみません、騎士隊長……」


クラッチ「あぁ。さて、今日の訓練だが……の前に話しておきたいことがある。」


ラーク「話したい事?」


クラッチ「まぁ、そこの切り株に座れ」


ラーク「え?修業は?」


クラッチ「後だ。大事なことだからな」


ラーク「う……うん、わかった」


クラッチ「ラーク……第一次グランハルト帝国戦争を知っているか?」


ラーク「あぁ、父さんと母さんが活躍した戦いだろ?」


クラッチ「あぁ……その戦いでいきなり現れた業魔ごうまがいるんだ」


ラーク「業魔ごうま?」


クラッチ「奴の名はガベル。かなりの強さだった。俺たちも体がボロボロだったが、母さんが最後の力を振り絞り、ガベルを祠に封じることができた。」


ラーク「うん。そこまでは父さんに聞いたよ。」


クラッチ「あぁ。だが、最近その祠の封印が解かれた可能性がある。」


ラーク「なんだって!?」


クラッチ「そう……だからラーク……」


ティア「あなた!!」


クラッチ「ん?どうした?ティア……集会はどうした?」


ティア「それどころじゃないのよ!東の空から魔族の軍勢が攻めてきているの!!」


クラッチ「なんだって!?それはすぐにいかなければ……」


ラーク「父さん、俺も行く!!」


クラッチ「だめだ!!」


ラーク「どうして!?」


クラッチ「わかっているのか!?今までの修行ではない!実戦だ!!ケガもすれば死ぬかもしれない。もしものことがあったらどうするんだ!」


ラーク「大丈夫だって!確かに魔法はまだ使えないよ?だけど、父さんの戦いを近くでみたいんだ!グランハルトの大英雄、クラッチ・ウィッシャーの戦いを!!」


クラッチ「ラーク……」


ティア「あなた!早く!」


クラッチ「わかった。ついてこい!ラーク!!」


ラーク「ありがとう!」



―間―



クラッチ「全軍に次ぐ!いま魔族がこのグランハルト帝国に攻めてきている。先の第一次グランハルト帝国戦争で我が帝国は、業魔ごうまガベルの封印に成功した。しかし、その封印が解かれ、業魔ごうまの軍勢がこの帝国に向かっている。いま我が帝国最大の危機が訪れようとしているのだ。よいか……全力を持って戦え!すべての力を振り絞れ!!国の存亡をかけた戦だ!全軍!身を引き締めろ!!」



―間―



ティア「クラッチ隊長」


クラッチ「ティア衛生兵長。どうした」


ティア「まさか、業魔ごうまガベルの仕業ですか?」


クラッチ「わからない……確かめないと何とも言えないな」


ティア「私たちも『グラン』を開放する時が来るのかしら」


クラッチ「ただの魔族なら大丈夫だろうが、ガベル相手なら開放するときも来るだろうな」


ティア「そうですね……わかりました。『グラン』を使うための準備してまいります」


クラッチ「……ティア」


ティア「?どうしたの?」


クラッチ「俺がどうなろうとも……お前は絶対に死ぬな」


ティア「クラッチ……それって」


クラッチ「(遮るように)時間だ!行くぞ」


ティア「クラッチ!!……いっちゃった……まさか死ぬ気じゃ……そんなことないわよね」



―間―



ラーク「父さん……母さん……」


ミカエルの声「選ばれし子よ」


ラーク「だれ!?」


ミカエルの声「私とともに神に打ち勝つ覚悟はある?」


ラーク「誰だ!!出てこい!!グランハルト帝国騎士団、ラーク・ウィッシャーが相手だ!!」


ミカエル「……」


ラークM「女?羽が生えて……」


ミカエル「それで?」


ラーク「は?」


ミカエル「あなたにその覚悟はあるの?開けてはいけないパンドラの箱を開ける覚悟は」


ラーク「なに……いってんだ?わけわかんねぇよ……」


(SE:爆発音)


ラーク「な……なんだ!?」


ミカエル「時は移ろう……あなたとともに……」


ラーク「まて!!くそ!……なんなんだあいつは!こうしちゃいられない!父さん!母さん!」



―間―



クラッチ「やはり、貴様の仕業か……ガベル!!」


ガベル「いかにも……貴様ら人間が斯様かように煩わしいことをしてくれたでなぁ」


ティア「煩わしいこと?私たちが一体何をしたっていうのよ!!」


ガベル「貴様ら人間は、どうでもいい時に神に祈りを捧げ、しんに必要な時には祈りを捧げなかった。それが煩わしいことのなにものでもないと思うが?」


クラッチ「そんなの人間だって毎日必要な時に神に祈りを捧げているんだ!俺らの民族以外にも多種多様の民族が業魔神ごうましんに祈りをささげているが、それぞれ周期や回数も違う……」


ガベル「それを言っているのだよ人間。人それぞれが違う考えだから、争いごとや何から何まで起こるのではないか?人の考え、行動などのすべてを時にて縛れば、より一層人がまとまり、より良い集団になる。……そうは思わんかね?そうだな。羽虫もあつまれば強大な力になるというやつだ」


クラッチ「羽虫……だと……?」


ガベル「羽虫だろう?細かいことでピーピー泣き叫ぶ、何か事が起こると群がって一人の相手を襲う。そういう行動をする人間風情が、なぜ羽虫に該当しない?余は羽虫でも良い名を与えたのではないかと自負しているのだぞ?」


クラッチ「貴様、黙って聞いていれば!!」


ティア「待ってクラッチ」


クラッチ「離せ!!ティア!!俺が守らなきゃ誰がやるってんだ!!」


ティア「だまって!向こうに戦意はないわ!!」


クラッチ「なに!?」


ガベル「そう……余に戦意はない……」


クラッチ「ならば貴様は何をしに来た!!それに、この惨状はなんだ!」


ガベル「余が話をしに来ただけだというのに、彼奴きゃつ等が攻撃を加えてきたのでな……」


クラッチ「だからといってこのようなことをしていいわけがないだろう!」


ガベル「それは人間界の常識だろう?人間界の世界で正当防衛という言葉があろう。これはそれに値すると思うのだが、違うかね?悪魔の世界では……あぁ、人間界でわかりやすいように言うとこうか?『やられたらやり返せ』と」


クラッチ「なん……だと……」


ティア「そんなことで……」


ガベル「そうだ……そんなことだ……それでは本題に入らせてもらおう」


クラッチ「……本題?」


ガベル「うむ。余は貴様らに……」


ミカエル「待ちなさい!」


ガベル「誰だ?……ほう……貴様は『出来損ないの天使』ではないか」


ミカエル「!?」


ラークM「出来損ない?なんのことだ?」


ミカエル「ここは退きなさいガベル……」


ガベル「ほう……『出来損ないの天使』が余に指図するか!!……フハハハハ!それもまた一興いっきょう!!まぁ、もとよりそのつもりさ……人間よ!貴様らの世界は崩壊を迎える!!」


クラッチ「なんだと!?」


ガベル「時は六月むつき後ご。楽しみにしておれ」


ラーク「ま……まて!!」


ガベル「……ほう……羽虫の中でも期待できる羽虫がいたか……貴様、名は何という?」


ラーク「……ラーク・ウィッシャー」


ガベル「憶えておくとしよう……その名をな……」


ミカエルM「不穏ふおんな空気を残して去っていった魔族に、歴戦の英雄であるクラッチやティアは震えていた。ラークは初めて出会った業魔ごうまガベルに驚きと恐怖を隠せずにいた。このガベルが国に来たことが、グランハルト帝国の悪夢の始まりであった。」



―間―



ティア「六月むつきと言っていたわね?」


クラッチ「そうだな……」


ラーク「父さん、今のがガベル?」


クラッチ「あぁ……しかし、まさか、こんなに早く封印が解とかれるとは……」


ラーク「封印って、母さんがしたんだよね?」


ティア「ちょっと!私を疑ってるの?」


クラッチ「おちつけ!ティア!いいか、ラーク。ティアが使ったのは、封印術の最高峰『ピース・オブ・ハート』だ。しかも術式的に一つでも間違えたら、絶対に成立しない。」


ティア「そう……だけど、それを解とくってことは……」


ジョージ「あら?ラークとティアじゃなぁい!」


クラッチ「ん?この独特な喋り口調は……」


ティア「ジョージ!久しぶりね!!」


ジョージ「あら、ティア!ひっさしぶり~!!ほんとかわいいわねぇ!あぁ、その瑞々(みずみず)しい柔肌やわはだ……うらやましいわぁ……もう、スリスリしちゃう!!」


ティア「ちょ……ちょっと!触るのはやめなさい!」


クラッチ「こら、ジョージ!何しに来た?」


ジョージ「何しに来た?じゃないわよ……私の店の商品を仕入れに向かっていったら、禍々(まがまが)しい妖気がこのあたりで漂っているじゃない?もしかして、何かあったのかと思って来てみれば……」


クラッチ「(被せるように)ガベルがいたということだな?」


ジョージ「そうだけど……んもう、最後まで言わせなさいよ!馬鹿クラッチ!!」


ラーク「あのぅ……父さん?」


クラッチ「あぁ、こいつは……」


ジョージ「あらぁん、なぁに?このかわい子ちゃん!もしかして、お姉さんの魅力に惚ほれちゃった?」


ラーク「あ……あの、その……」


ラークM「どこが、お姉さんだよ!筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のゴリラ男じゃねぇか!?」


クラッチ「ラーク、前にあったことがあるだろう?ほら、港のほうでガラクタばかり売っている、『なんでも屋じょーじ』の店主ジョージだ」


ジョージ「ガラクタとは失礼しちゃうわね。私の道具は役に立つんだから。ということで、ジョージ・ブライアンよ!クラッチの部隊ではガンナーをしていたわ」


ラーク「ガンナー!?」


ラークM「みえねぇ!?ぜってぇファイターだろ!?どう考えてもファイターだろ!?」


ティア「ジョージは主に、サブマシンガン二丁持ちで戦うのだけれど、ハンドガンからスナイパーライフルまで、どの銃でも簡単に使いこなすのよ。」


ラーク「そ……そうなんだ……」


ジョージ「てことでよろしくね!坊や」


ラーク「よ……よろしく」


クラッチ「ところでラーク」


ラーク「はい!」


クラッチ「お前の近くにいる少女は誰だ?」


ラーク「え?」


ミカエル「……」


ラーク「うわぁ!?君いつからいたの!?」


ミカエル「さっきからいましたけど」


ラーク「さっきっていつ!?」


ミカエル「あなたたちが、ラークのお父様とお母様?」


ラーク「無視!?」


クラッチ「そうだ」


ティア「そう……」


ジョージ「(遮るように)そうよ」


ラーク「え!?」


ジョージ「私がラークのお母さんよ。」


ラーク「え、ちょ!?」


ミカエル「そうでしたか。あなたがお母様……」


ラーク「いや、違うから!!絶対違うから!!」


クラッチ「ジョージ……黙っていてくれないか」


ジョージ「なによ……つまらないわね」


ティア「わ……私がラークの母親です」


ミカエル「そう……まぁ、どちらでもいいですが……」


ラーク「よくないよ!!全然よくない!」


ミカエル「……私の名前は天使ミカエル」


クラッチ「な!?」


ティア「天使ミカエルですって!?」


ジョージ「……!?」


ラーク「てん……し?」


ミカエル「そう……正式な名前はアブドリアル・アシュティア」


ラーク「ん?どこにもミカエルなんてないじゃないか」


ミカエル「……ミカエルは先代である母、アルクトゥス・ヴァン・ミカエルからとったものです。」


ティア「その名前なら私も聞いたことがあるわ」


クラッチ「本当か?」


ティア「えぇ……私の魔法はミカエルを基にした詠唱が多いのよ」


ミカエル「そのはずです。支援魔法の詠唱はすべてそれを基にしていますから。……母、ミカエルは3000年前、私を生んだ時に業魔戦争でガベルに殺されました。」


ラーク「え!?てことは、君って3000歳!?」


ミカエル「そうよ」


ラーク「すんごいおばあちゃん……」


ミカエル「(遮るように)天使の鉄槌を……アイアン・ハンマー」


ラーク「ギィャア!」


ミカエル「……続けていいですか?」


ジョージ「……い……いいわよ」


ジョージM「この子……意外に怖いわね……」


ミカエル「母は業魔ごうまガベルとの戦いで命を落とす前、私に力をすべて託してくれました。ただ、私には足りない力があるのです」


ラーク「た……足りない力?」


ミカエル「えぇ……それは『人を信じる力』です」


ジョージ「だから、出来損ないの天使ってわけね」


ミカエル「はい。母は常に人間を信じていました。人は私たち天使や神を信じてくれるから、信仰をしてくれるのだと……しかし、ガベルと母の考えは逆でした」


クラッチ「確か、俺たちと対峙たいじしたときにそのようなことを言っていたな」


ミカエル「えぇ……そして、母とガベルの間にあった亀裂は、次第に広がり、しまいには、天界を巻き込んだ大きな戦争へと変わっていきました。この戦争を業魔戦争ごうませんそうと呼びます」


ジョージ「なるほどね……それで?あなたは何をしに来たの?」


ミカエル「私は探しています。『人を信じる力』とは何か。ただそれがわからない。」


ラーク「ふーん……あ、あのさ、俺に言った『開けてはいけないパンドラの箱』って何?」


ミカエル「…………」


ジョージ「言えないのね」


クラッチ「……ジョージ」


ジョージ「なによ?」


クラッチ「お前、そのような情報は入っていないのか?」


ジョージ「どの情報よ。パンドラの箱?それともガベルのこと?」


クラッチ「どちらもだ」


ジョージ「……まず、パンドラの箱のことに関してだけど。それらしい情報は私のほうには入ってないわ。ただし、それらしい文献が、商業の街アートリオンにはあると聞いたことはある」


ラーク「なら……」


ジョージ「(遮るように)アートリオンにある4万冊の古文書こもんじょを、調べなければいけないのだけれど、それがあなたにできるかしら?」


ラーク「う……」


ジョージ「ガベルのことに関しては、一切の情報はないわ。ま、どちらにせよ、アートリオンに行かないといけないわね」


クラッチ「……頼めるか?」


ジョージ「もとよりそのつもりで言ったんでしょ?いくわよ」


ティア「ごめんなさいね……ゆっくりしたかったでしょ?」


ジョージ「大丈夫よ。そのかわり、帰ってきたらあなた特製のマーボーチキン、食べさせてよね」


ティア「えぇ」


ジョージ「それと……ミカエルちゃんだったかしら?あなたも一緒に来てちょうだい」


ミカエル「わかりました」


ラーク「おれも……」


ジョージ「だめよ」


ラーク「どうして!?」


ジョージ「クラッチから聞かなかったの?これは遊びじゃないの。世界の存亡そんぼうをかけた戦いなのよ。あなたにそれを戦い抜く覚悟はあるの?」


ラーク「覚悟……」


ジョージ「ある意味、これも『開けてはいけないパンドラの箱』なのかもしれないわね。戦争なんてしたら、あなたは元の生活に戻れなくなっちゃうわよ?それでもいいの?」


ラーク「…………」


クラッチ「お前が決めろ。お前の人生だ。その答えに反対はしない」


ラーク「…………」


ジョージ「もし、ミカエルちゃんの可愛いお尻を追いかけるために、この旅についていくと言うのなら、私はあなたの眉間みけんをぶち抜くわよ」


ティア「ちょっとジョージ!!」


クラッチ「やめろ、ティア」


ティア「だって……」


クラッチ「気持ちはわかるが、これはラークが決めることだ」


ラーク「……父さん……いや、騎士隊長……」


クラッチ「なんだ?」


ラーク「わたくし、グランハルト帝国騎士団、ラーク・ウィッシャー。この旅についていきたいと思います。」


クラッチ「……本気なのだな」


ラーク「はい」


クラッチ「……わかった。もとより決めていたことをお前に命ずる。……いいか、ティア?」


ティア「はい」


クラッチ「(大きく息を吸って)ラーク・ウィッシャー!!」


ラーク「!?はい!!」


クラッチ「グランハルト帝国騎士団統括騎士隊長、クラッチ・ウィッシャーが命じる!ラーク・ウィッシャー……お前をグランハルト帝国騎士団第十四番隊隊長としてこの帝国を導いてもらう!」


ラーク「!?待ってください、騎士隊長!!第十四番隊なんてこの騎士団にはありません!」


クラッチ「あぁ、騎士隊長の権限で今つくった。とにかく、ラーク。お前と戦うパーティーを見つけてこい。それがグランハルト帝国騎士団第十四番隊だ。」


ラーク「え?それじゃぁ、数が少ないのでは?」


ティア「心配しなくてもいいわよ。私たちのパーティーもクラッチ、ジョージ、今はここにはいないけどアンディというファイターの4人だけなの」


クラッチ「あぁ。だから大丈夫だ。お前の一番戦いやすいパーティーを見つけて、業魔ごうまガベルを倒すんだ」


ラーク「……わかりました!」


ジョージ「話は済んだかしら?」


クラッチ「あぁ……ジョージはしばらく第十四番隊に所属してくれ」


ジョージ「教育係ね。わかったわ。あぁん、楽しみ!若い男の子とあんなことやこんなこと」


クラッチ「死んどくか?貴様……」


少女「イヤァァァァァァァ!!」


クラッチ「なんだ!?今の声は!」


ラーク「公園のほうだ……あれは?見たことない……」


ジョージ「(遮るように)見てる場合じゃないでしょ!!行くわよ!!」



―間―



少女「私は何もしていないのに……どうして……」


魔物「グゥルルルルル……」


少女「もう……やだ……イヤァァァァァァァ!!」


魔物「ギィルァァァァァァァァ!!」



SE:銃声



魔物「ギィヤン!?」


少女「ふぇ?な……なに?銃声が……」


ジョージ「GACHAガッチャ!お嬢ちゃん、大丈夫?」


少女「あ、ジョージオネェさん!大丈夫!」


ジョージ「いい子……すぐにここから離れなさい。また私のお店にお菓子を食べにおいで」


少女「うん、ありがとう」


ラーク「す……すげぇ……ハンドガンで魔物の眉間みけんに一撃……」


クラッチ「あいつのすごいところは、どの銃でもどこを狙っても百発百中のところだな」


ラーク「え?外さないの?」


ティア「そうね……と話したいところだけど」


ジョージ「話はあとよ!私の弾丸から逃げきれるかしら?全弾ぶち込む!クラッシュ・バレット!!」



SE:銃声



ラーク「どこに撃ってるの?」


クラッチ「いや……これでいい」


魔物「ギィヤァァァァァア!!」


ラーク「あ、動きが止まった」


ジョージ「とどめは任せたわよ!みんな!!」


クラッチ「あぁ!!灼熱しゃくねつ豪剣ごうけん!燃やしつくせ!!ハァァァァァァ!!爆炎乱舞ダンシング・エクスプロージョン!!」


魔物「ギィィルァァ!!」


ラーク「俺だって負けてられない!炎をまとう剣戟けんげき!炎陣・爆炎 剣舞ろんど!!」


魔物「ギィヤァァァァ!!」


ティア「……この饗宴きょうえんに呼ばれし精霊たちよ。地水火風ちすいかふう、結束しその力を我に示せ。パーティー・オブ・ネイチャー!」


魔物「グルァァァァァ!!」


クラッチ「ふん、雑魚が」


ティア「手応えないわね」


ジョージ「久しぶりでも体がよく動くわね」


ラーク「(息を荒げながら)す……すげぇ……」


ミカエル「回復しますね。神の癒しを……ヒール・ジ・アース」


ジョージ「あら……グランソウルまで回復してくれるのね」


ラーク「グラン……ソウル?」


ジョージ「え!?あなた、まさか知らないの?」


ラーク「う……うん」


ジョージ「(溜め息)グランソウルというのは私たちが今使ったような技をつかうために必要な力よ。ってそんなことぐらい教えておきなさいよ!クラッチ!ティア!!」


クラッチ「ハハハ!そういやぁ、教えてなかったな」


ティア「フフ……そうね」


ジョージ「まったく……それよりも、ミカエルちゃん、そしてラーク……行きましょうか」


ミカエル「はい」


ラーク「うん!」


クラッチ「気をつけろよ……ラーク」


ティア「何かあったら手紙で教えてね。」


ラーク「うん、わかった!!行ってきます!」



―間―



ジョージ「さぁ、私のお店についたわ。ゆっくりみていってちょうだい!」


ラーク「すげぇぇ!店も広いし、本当に何でもあるぞ!!」


ミカエル「銃に、剣に杖、魔典まてんや防具まで何でもありますね」


ラーク「おぉ!これって父さんが使っていた剣のモデルじゃん!!俺はこれに……」


ジョージ「待ちなさい。それはあなたには使えないわ」


ラーク「え?なんで?」


ジョージ「あなたの職業クラスじゃ扱えない剣なのよ。それにレプリカよりも、オリジナルのほうがいい時もあるの。だから、これを使いなさい」


ラーク「これは……軽い……」


ジョージ「斬れ味はそこそこ、魔法攻撃の威力は少し強めぐらいなの。この刀は使い方によっては最強の武器になるわ。」


ラーク「で……ても……」


ジョージ「それに、貴方の持っている刀を使っているとクラッチと同じ職業クラスにはなれないのよ。」


ラーク「え!?父さんと同じ職業クラスにはなれないって……」


ジョージ「改めて言うわね?あなたにはクラッチと同じ職業クラスに就くのは無理よ」


ラーク「!?」


ミカエル「どういうことです?」


ジョージ「クラッチは、魔法晶術を魔術師並みに使えるから、あの職業クラスになれたの。あなたみたいなポンコツ魔法じゃ、クラッチと同じ職業クラスにはなる条件が満たされないのよ。」


ラーク「ポンコツって……まだ魔法を見せていないじゃないか!」


ジョージ「そんなの魔法以外の動きでわかるわよ。あなたがさっき、街中での戦いで放った攻撃、どう見ても力業ちからわざよ。剣にまとっている炎が弱弱しい。そんなのじゃ魔法攻撃なんてできないでしょう?」


ラーク「ぐ……」


ジョージ「だから、足りない分の力を補填ほてんできるように、その剣の束の部分には、グランソウルを増幅させる、『グランハルト結晶』を埋め込んでいるわ。だからさっきより威力は強いはずよ」


ラーク「そうか……ちょっと試してみるか……はぁぁぁ……」


ジョージ「ちょっと!!店を燃やすつもり!?はぁぁ……あ、ミカエルのほうは準備が終わったのね」


ミカエル「はい。おかげさまで装備は揃いました」


ジョージ「うん、完璧よ。それじゃぁ、これも渡しておこうかしら」


ミカエル「これは?」


ジョージ「地図よ。この地図に行きたい場所を念じると、そこまでナビゲートしてくれるの」


ミカエル「……すごいですね」


ジョージ「そうよ~!……っと、さて、そろそろ行きましょうか」


ミカエル「はい」


ラーク「うん、わかった!」



―間―



ラーク「ここが、エクスティア街道……」


ジョージ「そうよ。この道が商業の街アートリオンへの最短経路よ」


ミカエル「地図にもちゃんと表示されていますね」


ラーク「どれくらい歩くの?」


ミカエル「え~と……ラーク」


ラーク「ん?」


ミカエル「顏が近いわ」


ラーク「ん……あ!ごめん!!」


ジョージ「まったく……」


???「あ?なにざけたことぬかしとんねん!!返さんかい!」


ラーク「ん?なんだ?」


ジョージ「少し騒がしいわね……」


ミカエル「行ってみましょうか?」


ジョージ「まぁ、時間的には余裕があるけれども……どうするの?ラーク隊長?」


ラーク「う……その呼ばれ方なれないなぁ……とにかく行こう!」


ジョージ「(ミカエルと同時で)了解ラジャーよ」


ミカエル「(ジョージと同時で)わかりました」



―間―



チンピラ「返せやと?あんな、嬢ちゃん。このきのこは俺らが見つけたもんやで?俺らのもんやろが!」


???「何ぬかしとんねん!ウチが先に獲ったもんやから、ウチの……」


チンピラ「じゃかぁしゃい!!調子のっとんちゃうぞ!クソガキ!!いてこますぞ、ゴラァ!!」


???「調子乗っとんのどっちやっちゅうねん!!ウチを誰やと思っとんねん!!」


チンピラ「知るか!ボケ!てめぇみてぇな小便くせぇクソガキなんざぁ!おい、お前ら!出てこいや!!」



ー間ー



???「ちょ!あんたらそれは卑怯ちゃうの!!女の子1人に大の大人が3人がかりって……」


チンピラ「うるせぇ!!ごちゃごちゃ抜かしよってからに!!お前ら!やっちまえ!」


???「……ッ!!そっちがその気なら!!」


チンピラ「てめぇみてぇなチビになにができ……ってこれは……魔法陣!?お……おい……待てよ……」


???「カッチコッチ!どっかぁぁん!」


チンピラ「おま……ちょっ……それは……」


???「ストーン・ボム!!」


チンピラ「ぐぁぁぁぁぁ!!!」



―間―



ラーク「なに……今の……」


ジョージ「詠唱えいしょう破棄はきってやつかしら。私も初めて見たわ」


ラーク「詠唱えいしょう破棄はき詠唱えいしょうって魔法を使う上で必要なんじゃ……」


ミカエル「正直な話、そこまで必要じゃないの。頭の中で使いたい術式を構成していれば、言葉なんてなんでもいい」


ラーク「へぇ……」


ミカエル「ただ、ラークが使うと失敗するからちゃんと詠唱えいしょうを覚えることをすすめるわ」


ラーク「なんでだよ!!」


ミカエル「詠唱えいしょう破棄はきって思いのほか頭を使うのよ?詠唱えいしょうするのは、術式を整えるための方法の一つ。術式一つ間違えるだけで、自殺魔法になることもあるのだから」


ラーク「…………」


???「なぁ、誰なん?自分ら?」


ラーク「ん?俺たちのことか?」


???「あんたら以外に誰がおんねん……堪忍したってぇなぁ」


ジョージ「私たちは旅の者よ。あなたこそ、その身なりを見る限り商人しょうにんね。商人しょうにんなら、自分の名前をきちっと名乗りなさい」


アンジェ「あぁ、せやな!うちの名前はアンジェや!よろしく!ゴリラのおっちゃん!」


ジョージ「ご……ゴリラ……それにおっちゃんって……私はオネェさんよ!まったく……ん?」


ラーク・ミカエル「(笑いをこらえている。ラークは微妙に吹き出している)」


ジョージ「こほん……それで?アンジェはここで何をしていたのかしら?」


アンジェ「んぁ?ウチか?ウチはな、この先の森にあるレアなきのこを手に入れに行っとったんやけど、あいつらが邪魔してきよってなぁ……おしおきしててん!……って、うぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ラーク「どうしたの!?」


アンジェ「はぁ……逃げられてしもうたぁ。ウチが大切にしとったきのこがぁ……」


ジョージ「それは災難だったわねアンジェ……あ、そうそう。私たちアートリオンに行きたいのだけど……」


アンジェ「あぁ……そんならこの道1本やん!ウチつれてったるで!」


ラーク「本当か!助かるぜ!」


アンジェ「ほなこっちやで!」



―間―



ミッシェル「アンジェ!!どこ行っとたん?」


アンジェ「ん?っとったやん?森にハルトだけ採りにいっとたんや!」


ミッシェル「は!?ってことはハルト渓谷けいこくにいっとったんか!?そんな危ないとこ、俺が行ったのに!」


アンジェ「アホか!あんた、その折れた腕で何ができんねん!」


ミッシェル「でも……あ、それよりハルトだけは?」


アンジェ「あかんかった……チンピラに奪われてもうた……」


ミッシェル「そうなんやぁ……それは残念やったなぁ……ハルトだけで作ったポーションを明日にはカルロスさんに渡さなあかんのに……」


ジョージ「なに?あなた、ハルトだけが欲しいの?」


アンジェ「せやねん……けどな?さっきのチンピラにパクられてしもうてなぁ……うちのハルトだけうなってしもうたんや……」


ジョージ「仕方ないわね……ほら……」


ミッシェル「これは……ハルトだけ!?しかもめっちゃ大きいやん!?」


ジョージ「覚えておきなさい。ハルトだけは、渓谷けいこくに生えると言われているけれども、条件さえそろえば、栽培もできるのよ。これは私お手製のハルトだけよ」


ミッシェル「そんな!いただけません!」


ジョージ「あなたも商人ならわかるでしょ?これは売買契約よ。」


ミッシェル「売買契約……」


ジョージ「そ。わかったら受け取りなさいな」


ミッシェル「は……はい!ありがとうございます!ほら、アンジェも」


アンジェ「あ……ありがとう……え~と……」


ジョージ「ジョージよ……こっちはラーク。そしてミカエルよ」


ミカエル「よろしく……」


ラーク「よろしくな!」


アンジェ「うん!よろしく頼むで!……せや、あのな……よかったらウチにけぇへん?」


ラーク「え?いいのか?」


アンジェ「えぇよ!ウチもハルトだけのお礼したいねん!」


ジョージ「わかったわ……それじゃぁ、お言葉に甘えましょうか……」


アンジェ「やった!こっちやで!」


ラーク「(小声で)ちょっとジョージ」


ジョージ「(小声で)なによ?」


ラーク「(小声で)ここに来た目的って何か忘れてない?」


ジョージ「(小声で)馬鹿言うんじゃないわよ……今調べに行っても情報がないでしょ?情報収集よ……」


ラーク「(小声で)あぁ……」


アンジェ「はよきぃなぁ!何しとんねん自分ら!!」


ジョージ「わかっているわよ!待っていて頂戴!さぁ、行くわよ!」


ラーク「う……うん……」



―間―



アンジェ「ただいまぁ!帰ったで~!!」


クルーラ「アンジェ!!帰ったで~やないわ!何しとったんや!」


アンジェ「言うたやん!森にハルトだけとりに行くって!」


クルーラ「にしても時間がかかりすぎやろ!どれだけ心配したと思ってんのや!」


ジョージ「まぁまぁ、それぐらいにしてあげてくださいな」


クルーラ「誰やねん人の家に土足で上がりこんで……ん?なんやゴリラやないかい!野生のゴリラが何でここにおるんや?」


ジョージ「(少しゴリラのモノマネをして)ゴリラじゃないわよ!!ってあなたたちも笑ってないの!」


ラーク「(笑いながら)だって!ゴリラって!!」


ミカエル「(笑いながら)ジョージのゴリラも似てておなかが痛いです」


ジョージ「っもう失礼しちゃうわね!……まったく……この街の人間なら私の名前を知らない人はいないはずだけど?ましてや、あなたなら……ね?」


クルーラ「いやぁ、もちろんやで!『なんでも屋じょーじ』のジョージ!久しぶりやなぁ!」


ジョージ「久しぶりね……クルーラ」


ミカエル「ジョージ……この方は?」


クルーラ「そういや、自己紹介がまだやったな!ワシの名前はクルーラ・クレイトル!このクレイトル市場しじょうを取りまとめとるもんや!」


ラーク「え!?この広い市場いちばを?」


クルーラ「せや!この広い市場いちばを一人で仕切っとる。職業クラスは行商人……ま、代わりもんの能力スキルやわ」


アンジェ「ウチはアンジェ・クルーラ!職業クラスは魔術師や!」


ミカエル「あの、アンジェさん……あなた、詠唱えいしょう破棄はきしていたみたいですが……」


アンジェ「あぁ、うちのことはアンジェでえぇで!ミカエルちゃん!んま、詠唱えいしょう破棄はきに関して言うんなら、ただめんどくさいから読んでへんだけや!術式はこの職業クラスをものにするためにすべて入っとるからな!」


ミカエル「そうなのですね」


クルーラ「んなことより、なんでジョージたちがここに来たんや?この時期は、あんさんの店も忙しいやろ?」


ジョージ「実は……」



―間―



クルーラ「なるほどな……業魔ごうまガベルの出現ね……そのために騎士団長が自分の息子に、パーティー探しの旅をさせとるっちゅうわけかいな?」


ラーク「そうなんです」


アンジェ「……なぁ、おっちゃん!ウチ、その旅について行ったらあかんかいな?」


クルーラ「あかんことはないけど、店はどないすんねん。お前を見に来る客だっておるんやで?」


アンジェ「んなもん、ウチはあのおっさんらとベッドで寝とるわけやないんやし、おらんくても大丈夫やろ」


ミカエル「そういう問題なのですか?」


アンジェ「そんなもんや!ほな、準備しよか!」


クルーラ「あんさんら、よかったら、滞在期間の間、うちに泊まってってくれへんか?そのほうが宿代浮いてえぇやろ?」


ジョージ「助かるわ。でも宿代というわけじゃないけど、食費として300ルビー受け取ってくれるかしら?」


クルーラ「アホか!どれだけの宴会するつもりやねん。んなもん……」


ジョージ「これからあなたに聞く情報料よ」


クルーラ「……なんやて?」


ジョージ「パンドラボックスの情報が載ってある文献が、この街にあるはずなのよ」


クルーラ「……あぁ……それやったらアートリオン中央図書館の禁書のフロアやな」


ラーク「それは俺達でもはいれるんですか?」


クルーラ「あぁ、ワシの名前を使えば入れるから安心せぇや。『クルーラさんの弟子です!何かあればクルーラさんに言いつけますよ~』って言うてな」


ラーク「脅しじゃないですか!?」


クルーラ「せやで。あ、あと少年にええこと教えたろ。」


ラーク「ええこと?」


クルーラ「せや。あのなぁ、少年。世の中なぁ、そんなにきれいな話ばかりやないんや。特に商人あきんどの世界はなぁ」


ラーク「あきんど?」


ジョージ「この街の商人しょうにんを表す言葉よ」


アンジェ「どういうことです?」


アンジェ「ウチはしてへんけどな。物をうてもらうために体を売る商人あきんどもおるんよ。それも男女関係なしにや」


ジョージ「あら?男も売るの?珍しいわね」


クルーラ「むしろそっちのほうが多かったんや。20はたちにも満たん肌のきれいな男がおる店は、息子に貴族の女を抱かせて、商品を買わせとった。100ルビーっちゅう、金額の上限はあるんやけど、よう行われとった。その結果、そんな商売しとる人間の店がかなり繁盛しとったという事があったんや。悪しき風習やで……ほんま」


ミカエル「……悪しき風習ですね」


ラーク「ミカエル!」


クルーラ「いんや、嬢ちゃんの言う通りや。しき風習やでほんま……今はワシが規制しておさまったんやが、そう言う『人に知られたらあかん』歴史もあるんやで」


ミカエル「それと図書館にどういう関係が?」


クルーラ「禁書というのはそういう性描写の激しいもんもあるってことやし、吐き気をもよおすような気持ち悪いもんもある。この街やグランハルト帝国を含めた『五大国』の知られたくない歴史、まぁ、ドレイ制度や差別、殺戮さつりくの歴史も書いとる。あんさんらにそれらの歴史を受け入れる覚悟はあるか?」


ラーク・ミカエル・アンジェ「!?」


クルーラ「それらの歴史を受け入れる覚悟がなけりゃぁ、パンドラボックスなんて見つからんわ」


ジョージ「もちろん、私にはあるわよ。けど、幼き戦士たちには、少し刺激が強いかしら?」



―間―



ミカエル「……少し考えさせてください」


ラーク「俺も……」


アンジェ「……ウチもやわ。自分の国ならえぇけど、他の国のんは怖い……」


クルーラ「よっしゃ!えぇで!晩飯まで時間はかかる!その間ゆっくりかんがえんさい!」


ジョージM「さぁ、かれらはどのような決断をするのかしら。とりあえずは様子見かしらね……」



―間―



ラーク「はぁ……知る覚悟か……アートリオンの図書館で文献を調べたら、この国のみならず、グランハルト帝国の『知られてはいけない』歴史も知ることになる。その歴史を知ったとき……俺は……」



ー間ー



ラーク「さて……戻るか……え!?どうしよう!!ここどこだ!?……あっちもこっちも、見慣れない店ばかりだ……どうしよう……」


クルーラ「ん?あれは……ラークは~ん!!」


ラーク「!?ん?この声は……」


クルーラ「こっちや!ラークはん!」


ラーク「あ、クルーラさん!どうしたんですか?そんなにたくさんの荷物……」


クルーラ「あぁ……ジョージにどんだけ滞在するか聞いとったたさかいな。その分の食料買うてたんや。……なぁ、クルスト!これを店に持って、先に帰っといてくれへんか?……あぁ?しょうもないこと抜かしとんちゃうで?これぐらいお前さんの職業クラスならいけるやろ?わかったらさっさと運ばんかい!ほら!今日の晩飯、大盛りにしたるさけぇ!……はぁ……最近の若いもんはこれやからいかん……さて、ラークはん、すこし茶でもしばきましょか?」


ラーク「え?茶でもしばく?」


クルーラ「あぁ……初めて聞く言葉かいな」


ラーク「えぇ……恥ずかしながら……」


クルーラ「せやろなぁ。いままで外に出たことなかったやろ?」


ラーク「はい」


クルーラ「なら知らんで当然やな。せやなぁ……あんさんらのわかる言葉で言うと……喫茶店に茶でも飲みにいかへんか?ちゅうことやわ」


ラーク「あぁ……それなら……でも、どうして?」


クルーラ「あんさんの顔が、いかにも悩める若人わこうどの顔しとったからなぁ!悩める若人わこうどを救うんはワシら大人の役目や。あそこにびのきいた旨い飲み物もん出す喫茶店があるさかい、そこいこか!好きなん頼んでえぇで?あぁ、せや。パフェとかはやめたってや?せっかくのアートリオンで一番うまい飯が食われへんくなるからのぉ」


ラーク「わかりました」



―間―



ラーク「(ジュースを飲む)……おいしい」


クルーラ「せやろ?果汁の甘さが最高やろ?ここのスイカジュースはオススメなんや。あ、あとでミックスジュースも飲んだらえぇ!めっさうまいんや!」


ラーク「ありがとうございます。けど、こんなにいっぱい……」


クルーラ「気にせんでえぇって、そんなもん……言うたやろ?悩みのある若人わこうど救うんは、ワシら大人の仕事や」


ラーク「ありがとうございます」


クルーラ「……さて、騎士隊長はん。そろそろええか?大人の話し合いやで?あんさんの悩みにもおそらく直結するやろ」


ラーク「!!」


ラークM「なんだ!この体がこわばるほどの威圧感プレッシャーは……まさか、これが職業クラス行商人の力……」


クルーラ「すまんなぁ。あんさんみたいに警戒心が強いもんは、能力をちぃっと使わなはなされへんさかいなぁ。せやないと、あんさん逃げよるやろ?逃がさんでぇ。この場からはなぁ……ワシのテリトリーからは一歩もださんでぇ」


ラークM「この威圧感プレッシャー。さすが、この町のボス……温かかった空気が一気に凍り付いた」


クルーラ「あぁ、あと、ワシの質問にはきっちり答えてもらうで?言動には気をつけなはれや」


ラークM「くそ……本当に動けない!」


クルーラ「さて、ラークはん。あんさんはグランハルト帝国の歴史をどのように理解しとる?」


ラーク「グランハルト帝国の……歴史……ですか?」


クルーラ「せや。第一次グランハルト帝国戦争。これがなぜ起こったんか。どのように騎士団から聞いとる?」


ラーク「えぇと……帝国の歴史書を、読ませていただいたときに書いてあったのは、『農業、工業、商業、芸能の四つの街が力を合わせ、グランハルト帝国に攻め込んだために起きた、防衛戦争のこと』と記載されていた気が……」


クルーラ「なんやて!?……はぁ……そこからして違うんかいな……」


ラーク「違うって?どういう……」


クルーラ「本当の歴史がすべて違うんや……今から話す話聞いて、ショック受けなや……ラークはん……」


ラーク「はぁ……」


クルーラ「この戦争な……先に起こしたのはグランハルト帝国なんや」


ラーク「なんですって!?」


クルーラ「このことは、他国から来よったこの国に住んどる商人も……もちろん、グランハルト帝国から来た商人も、みな知っとる事実やねん。」


ラーク「うそ……でしょ?」


クルーラ「おそらくあんたのおっさん、お母っ(か)さんも知らん事実やと思うわ。すべての歴史を知っとる騎士団の団員は、そういないはずやで。特に若いもんはその事実を知らずに、騎士団の教育で嘘ばかり教えられとるさかい、まともな歴史を知らんやつが多いんちゃうか?」


ラーク「そんな……うそだ!俺が教えられた歴史が嘘なはずがない!」


クルーラ「まぁ、そう思うんは自由やけどなぁ、それを受け入れんことには、パンドラボックスにはたどり着けんでぇ~」


ラーク「……さっきから気になっていたのですが」


クルーラ「なんや?スリーサイズ以外ならなんでも答えるで?」


ラーク「え……あ……いや、スリーサイズに興味はないんですが……パンドラボックスと五大国ごたいこくの歴史が関係あるってどういうことなのですか?」


クルーラ「あぁ。そんなことかいな」


ラーク「いや、そんなことって」


クルーラ「あんな?パンドラボックスっていうんは『この世のタブー』からできとんねや」


ラーク「この世のタブー?」


クルーラ「せや、五大国ごたいこくのタブーそれらを封印するために、神様かみさんはパンドラボックスを作ったんや」


ラーク「さっきから言っているタブーって、何ですか?」


クルーラ「それは……ま、直わかるやろ」


ラーク「直わかるって……でも、話を聞いている限りだと、クルーラさんの言っているそれだって、隠蔽いんぺい工作と変わらないじゃないですか」


クルーラ「……せやな……確かにそうや。なら、これを言ったら信用してくれるか?」


ラーク「え?」


クルーラ「あんさんに、伝えたいこと……まぁ、これは万国共通の歴史やから知っとるやろうなぁ」


ラーク「……?」


クルーラ「(咳払い)『五大国ごたいこくはそれぞれ神様かみさんが統一しておりました。その神様かみさんが統一した国は繁栄へと向かいました』……どや。このフレーズに聞き覚えあるやろ?」


ラーク「その歴史は知ってます」


クルーラ「その歴史には続きがあるんや」


ラーク「続き?」


クルーラ「せや。そんで、ここから先がこの歴史のタブーなんや。」


ラーク「え!?」


クルーラ「……『神様かみさんが整えた国も次第にほころびが見え始めました。表立っては繁栄していた国々でしたが、裏ではドレイをもちいた商売や、風俗業、暗殺稼業が盛んにおこなわれるようになりました。』」


ラーク「!?」


クルーラ「『それぞれの国で行われたこの裏の稼業かぎょうは繁栄の力となりました。この荒れ狂った世界を治めるために、一柱いっちゅうの女神が立ち上がりました。名をミカエル。』」


ラーク「ミカエル!?」


クルーラ「せや。お前さんの知ってる嬢ちゃんのおっさんや。……っと、そろそろ晩飯作らなあかんな」


ラーク「ちょっと、話の途中じゃ……」


クルーラ「あほか。もう飯の時間や。それに、話よりもあんさんらの体のほうがワシらは大事なんや」


ラーク「え?」


クルーラ「ワシら商人あきんどにとって、あんさんらはお客さんや。お客さんは神様かみさん同然やから、それなりのもてなしをせにゃならん。」


ラーク「だけど……」


クルーラ「だまれ」


ラーク「!?」


ラークM「なんだ!?この体の痺れは……まったく……動けない……それに、クルーラさんの様子が……」


クルーラ「おめぇ……ワシに逆らうっちゅうんか?あ?」


ラーク「え?クルーラさん……?」


ラークM「手に持ってるのは……棍棒こんぼう!?ま……まさか!?」


クルーラ「ワシに逆らうんっちゅうかつっとんじゃクソボケがぁ!!(棍棒を一振り)」



SE:木箱にぶつかる音



ラーク「うがぁ!!」


クルーラ「いちびりやがってクソガキが……ワシャぁのぉ……ワシのうとることに反抗されんのが大嫌いなんじゃ!ワシのうことに逆らいよるクソガキを見るとのぉ……ワシャぁよう……ひねりつぶしたくなんのや!!(蹴り飛ばす)」



SE:壁に打ち付けられる音



ラーク「グハァ!…………これが……行商人の能力か…………(血を吐く)」


クルーラ「あんさんは神様かみさんやけぇのぉ……ボロボロにしたくないんじゃぁ」


ラークM「くそ……なんて破壊力だ」


クルーラ「どないすんねん。ワシに逆らわんと帰るっちゅうんなら命は助けたるわい。さぁ、どないするんじゃ?まだ、ワシに逆らうんか?あ?」


ラーク「……」


クルーラ「どうなんじゃい!!」


ラーク「……おとなしく……帰ります」


クルーラ「……ならええんや。さ、帰って飯食うで……の前にや」


ラーク「……どうかしましたか……?」


クルーラ「2つ言うとくわ。1つは職業クラス、行商人についてや。こん能力はな、ワシとの話し合いで交渉が決裂したときに、ワシの個人スキルを300%引き上げる能力やねん」


ラーク「300%!?」


クルーラ「今発動したんはあんさんの帰らずに話が聞きたい意思に対して交渉決裂と判断したからや」


ラーク「交渉決裂?」


クルーラ「せや。よう覚えとき。それと、もう1つ……覚悟はできたんか?」


ラーク「え?」


クルーラ「この国の……五大国ごたいこくの全てを知る覚悟が」


ラーク「……はい」


クルーラ「よっしゃ!なら今日はご馳走にしたるで!!」


ラーク「はい!」


クルーラM「まったく……世話がやけるで……さて、あとの二人はどうやろな?覚悟……決められるんかいな」



―間―



ミカエルM「この世のすべての禁句タブー……それを受け入れる覚悟……」


ミカエル「はぁ……」


ジョージ「あら、かわいい女の子が溜息だなんて、感心しないわね」


ミカエル「ジョージ……」


ジョージ「隣……空いてる?」


ミカエル「見ればわかると思うんだけど……」


ジョージ「わからないわよ。だってあなた……ベンチの真ん中に座っているじゃないの」


ミカエル「……本当だわ……」


ジョージ「……って、気づいていなかったのね……ま、座るわね」


ミカエル「どうぞ……」



―間ー



ジョージ「それで?」


ミカエル「はい?」


ジョージ「どうして、あなたはため息をついていたのかしら?」


ミカエル「……………」


ジョージ「クルーラが言っていたことが気になるの?」


ミカエル「えぇ……」


ジョージ「……実はね、私も五大国ごたいこくの本当の歴史については知らないの」


ミカエル「え?そうなのですか?」


ジョージ「そうよ。」


ミカエル「それじゃぁ、どうして、ジョージは割り切れるんですか?」


ジョージ「う~ん、割り切れるとかそういうのではなくて……」


ミカエル「?」


ジョージ「知ったところで私たちにはどうにもできないもの」


ミカエル「……というのは?」


ジョージ「あなたは女神さまだけど、私たちは普通の人間なの。だから、どうしようもない。私たち、人間の力では変えられないものが歴史なのよ」


ミカエル「私だって……歴史を変えたくありません。ただ……女神でありながらパンドラボックスのことや、禁句タブーのことを知らないのが情けないのです……そのことを知っていたら……」


ジョージ「『私はこの世界を守れたのに』?」


ミカエル「!?」


ジョージ「ミカエルちゃん。それは違うの。世の中には確かに無駄なことはたくさんあるわ。時間を無駄に使ってしまった愚か者もたくさんいるし、お金の無駄遣いもたくさんある。だけどね?もし、それらがなかったとしたら、私たちは本当に楽しい生活が送れたかしら?」


ミカエル「そ……それは……」


ジョージ「端から見たらつらいことでも、そのつらいことを乗り越えてこそ、人間は前に進めるの。私だって、たまには後ろを振り返りたいのよ?」


ミカエル「そういう……ものなのですか?」


ジョージ「えぇ。ラークもそう。確かにまだまだ甘いところもあるわ。おこちゃまだもの。だけどね。かれの後ろにはクラッチやティアがついているの。あの子が頑張れるのは後ろを振り返ったら、クラッチやティアがいるからなのよ」


ミカエル「ッ!」


ジョージ「ラークもつらい修行を乗り越えてきたの。そして、今もあの子にとっては試練の最中……でも、あの子、楽しそうでしょう?」


ミカエル「……はい」


ジョージ「歴史はね?変えられないから面白いの。簡単に変えられたらつまらないじゃない?」


ミカエル「……(微笑む)」


ジョージ「あら、いい笑顔じゃない?」


ミカエル「え?」


ジョージ「あなた、今笑ったのよ?気が付かなかったの?」


ミカエル「そう……なのですか?」


ジョージ「えぇ……ラークに見せられないのが惜しいくらいだわ」


ミカエル「そう……これがうれしいということなのですね」


ジョージ「あら、知らなかったの?変わった女神様ね」


ミカエル「……心の底からこみあげてきたのは初めてです」


ジョージ「あらぁ、ひょっとして、初めていただいちゃったかしら?」


ミカエル「……そうですね」


ジョージ「……帰りましょう。みんな待っているわ」


ミカエル「はい」


ミカエルM「こんなにも、心の底から清々しい思いをしたのは、初めてです。ラークのためにも……この思いは忘れません」


ジョージM「さて、あとの二人はどうかしらね。楽しみだわ」



―間―



アンジェ「はぁ~……」


アンジェM「確かに、今までこの国の歴史を勉強しとったんはウチの生活のため……せやけど……」


アンジェ「ほかの国のこと知るんは……怖いなぁ……」


ミッシェル「アーンジェ」


アンジェ「ひゃぅん!!な……なんや!?」


ミッシェル「ハハ!かわえぇのぉ!さすがアンジェ!」


アンジェ「ミッシェルー!何してくれとんのや!」


ミッシェル「ん?いや、アンジェも一人前いっちょまえに悩むんやなぁとおもってな?」


アンジェ「そりゃぁ、悩むわぁ……今まで、他の国のことは外のことって思っとたんや。けど、外で見とる場合やなくなったんやで?これが落ちついてられると思うか?」


ミッシェル「(小声)そんなの……僕だって……」


アンジェ「(気にも留めず話してください)それがいま、目の前へと迫ってきてるんや!せやから……ん?」


ミッシェル「(「せやから」ぐらいから小声で)アンジェのこと思うと……僕はどうしていいかわからなくなる……」


アンジェ「ミッシェル?」


ミッシェル「(小声で)僕は……アンジェのこと……」


アンジェ「ミッシェル!」


ミッシェル「!?どうしたん?アンジェ?」


アンジェ「どうしたん?やないやろ!こっちのセリフやで!!なにを、ブツクサ言うとんねん!」


ミッシェル「ハハ……気にせんでえぇよ」


アンジェ「気にするわ!あんた、自分のことなんやと思ってんねん!!」


ミッシェル「…………」


アンジェ「いつもすぐ、自分のこと下に見よるけど、あんたは……自分が思うとるより、ウチの支えになっとるんよ?」


ミッシェル「!?」


アンジェ「ウチが何かしでかしたとき、一番最初に頭下げてくれるんは、おっちゃんやない。あんたやん。それがうれしいんやで?せやから……せやから……んなこというなや!」


ミッシェル「……ごめん……アンジェ……泣かないで」


アンジェ「え……!?あ……あほか!!泣いとらんわ!」


ミッシェル「ハハハ。……ただね、アンジェ……」


アンジェ「ん?」


ミッシェル「…………僕……もう、アートリオンの人々に……アンジェに会えないかもしれへん」


アンジェ「……は?」


ミッシェル「この世界の理……それを知ったら、アンジェは僕のこと避け始める。それが怖いんや……」


アンジェ「な……なんで!?ミッシェルはミッシェルやろ!?」


ミッシェル「僕は僕でありたい……ただ、そうなり得ない存在が僕なんよ。だけど……僕がミッシェルとして、このアートリオンにれたのは、クルーラさんのお陰やねん」


アンジェ「ミッシェル……?」


ミッシェル「クルーラさんは、僕のことを知っていながら、街の人には、自分の息子のように扱ってくれよった。それにほら、僕、よく発作起こすやろ?」


アンジェ「うん、せやね。」


ミッシェル「あれ、体が弱いわけちゃうねん」


アンジェ「え?」


ミッシェル「あれは定期的にでる発作やねん。たぶん、僕の職業クラスにたいして神様かみさんが与えてくれた副産物プレゼントなんよ。僕が普通の生活を人間と送れるための」


アンジェ「え?どういうこと!?」


ミッシェル「僕の職業クラスは???(アンノウン)。謎に秘められた力やねん。せやけど、その力に隠された意味を、この街で……アンジェと生活してて知ることができた。ただ、この能力を使ってしまうと、みんなは僕を避け始める。そして、この能力の本流……それは……(何か囁く)」


アンジェ「!?それって……」


ミッシェル「あ、そろそろ戻らないとクルーラさんに怒られる。じゃぁね、アンジェ!また食堂で!!」


アンジェ「あ!ちょっとまちぃな!!……行ってもうた」


アンジェM「ミッシェルの最後の言葉……ようわからんけど、それを知るためにも、明日図書館にいって知らなあかん。……ミッシェルを守るために」



―間―



クルーラM「うちに帰ってきたラークはんたちを見ると、その姿はまさに、覚悟を決めたもんの顔やった。その顔を見たワシとジョージ、ミッシェルはそっと胸をなでおろした。その夜は宴会やった。夜遅くまでどんちゃんしよった子ども連中は大広間で眠りに入った。」


クルーラ「ハハハ!そんなに楽しかったんかいな?ほら、みてみぃ!ええ寝顔と寝息やで?」


ジョージ「あらん、私なんか飲み足りないのに」


クルーラ「おぉ、そうか!ジョージ!付き合うで。久々のうまい酒やけぇの」


ジョージ「いいわよ。ほら、ウィスキーよ」


クルーラ「お?気が利くやんけ。いつからお前さんはそこまで気が利くようになったんや?」


ジョージ「もとからよ!失礼ね。」


クルーラ「せやったか?ま、えぇわ」


ジョージ「……それよりもあんた。あの子……どうするつもり?」


クルーラ「……ミッシェルか?」


ジョージ「そうよ。あの子、人間じゃないでしょ?」


クルーラ「さぁのぉ。ただ、一つだけ言うとくとな……あいつの……ミッシェルの存在自体が、このアートリオンの禁句タブーなんや」


ジョージ「!?どういうこと!?」


クルーラ「アホかお前は。そこまで聞いたら図書館行く意味あらへんやろが」


ジョージ「……そうね。早まったわ。ごめんなさい」


クルーラ「謝らんでもえぇ。……お前さんに教えとこか……今から話すんわ、ミッシェル本人とアンジェは知らんことやが……このこと……ミッシェルがこの国の禁句タブーっちゅうんわ、こいつら以外の全員知っとる」


ジョージ「!?……変わったことするのね」


クルーラ「せや。てか、ワシの職業クラス忘れたんか?職業クラス行商人は、相手がワシに歯向かったらそこで終わりや。ワシがこの禁句タブーに対して肯定したらそれがこの街の答えになるんや。」


ジョージ「つまり?」


クルーラ「あいつを……ミッシェルを殺すな。そう命令したんや。あいつを人間として生活させる。差別なんて失くしてしまえばえぇ。例え、どんな存在でもな……」


ジョージ「クルーラ……」


クルーラ「そんなしんみりすなや。ワシの人生にあいつの人生足しただけの話や。後悔なんぞしとらん」


ジョージ「ならいいわよ。さて、アートリオン一番のお酒はあるのかしら?」


クルーラ「お!そんなら、えぇ酒があるで!飲もうやないか!」



―間―



ラーク「ふぁぁぁぁ……よく寝た……」


ミカエル「おはようございます。」


ラーク「あ、ミカエル。おはよう」


アンジェ「おっそいでぇ!ラーク!」


ラーク「ごめんね、アンジェ」


ミッシェル「みんな、朝食ができとるでー」


ラーク「げ!?もうそんな時間!?」


アンジェ「ラークが一番いっちゃん遅かったんやで!」


ミカエル「ぐっすり寝てましたね」


ラーク「だ……だってよ……てか、あの男の子……ミッシェルだっけ?なんであんなに元気なんだ?」


ミカエル「知らない」


アンジェ「商人の朝は早いんや!当たり前やろ!朝の市場の店、1店舗の店長やさけな」


ミカエル「あら、そんなにすごいお方だったのですね」


ミッシェル「アンジェ、その話はいいから……皆さんも、早く席についてください」


ラーク「わかった!」



―間―



ラーク「ふぅー食ったぁ……ごちそうさまでした!」


クルーラ「お粗末さんな!」


ミカエル「お粥というのですか?薄味で、その中にもいろいろな風味が合わさっていて、おいしかったです。体も温まりましたし」


クルーラ「そうやろ?『カンポウ』と言われる……まぁ、薬みたいな食材いれとるからの。出汁はアワビっちゅうもんからとっとるさけぇ、味は美味うまいはずや!」


ジョージ「う~ん、お酒を飲んだ後だから、最高にしみるわねぇ!」


クルーラ「さて……図書館に行くんやろ?」


ラーク「……はい!」


ミカエル「勿論です」


アンジェ「何ゆっとんねん!当たり前やろ!」


ジョージ「全員覚悟は……できたようね!」


ラーク「……俺たちは、目の前にあることばかりにとらわれていた。本当の歴史を見て、禁句タブーが何かを調べたい!」


クルーラ「なら、予備知識を教えたろ。んなもん、一から学んだら日が暮れるさけの」


ミカエル「予備知識?」


クルーラ「せや。まず、禁句タブーとは何かや」


ジョージ「私たちの言葉では『言ってはいけない言葉』っていう意味で使われているわね」


クルーラ「ほう、こりゃぁ驚いた。一部しか教えられとらんのやなぁ」


ジョージ「一部?どういうこと?」


クルーラ「禁句タブーっちゅうんは、『やったらあかん言動』という意味でワシらは使つこうとる。ただこの言葉、ややこしいんは、裏の意味があんねん」


ラーク「裏の意味?」


クルーラ「せや。裏の意味……神様かみさんはその裏の意味を恐れて禁句タブーを封じたんや。その裏の意味は……『世界を壊すような言動』や」


クルーラ以外全員「!?」


クルーラ「例えば……せやなぁ……おい、アンジェ」


アンジェ「なんや?おとっちゃ……」


クルーラ「(遮るように)ばぁか」


アンジェ「はぁ!?なんでやねん!!」


クルーラ「それや!」


ラーク「え?」


ジョージ「どういうこと?」


クルーラ「あんな?腹立つこと言われたら怒るやろ?そこなんや。そこが禁句タブーの怖いところやねん。ワシらが生まれる遥か昔にな、それがもとで戦乱が絶えなかった時代があったんや。ある帝国と、ある帝国、仮に帝国A、帝国Bとしようや。帝国Aは不作続きで、飢饉ききんちいっとてのぉ、その帝国が帝国Bの神様かみさんに悪口を言ったんや。『帝国Bの人間が神様かみさんを必要ないと言っとる。はよ、天界に帰れクソ野郎!』ってな。ラークはんに聞こう。自分がもし、帝国Bの神様かみさんとして、そないなこと言われたらどないする?」


ラーク「俺なら……イライラしたり怒っちゃったりしちゃうかもしれないけど、まず事実を確かめます!その事実を基に、しっかりと話をして……」


クルーラ「せや。まず、神様かみさんも確かめた。帝国Bの首長にその話をし、国民に確認させた。するとどうや。帝国Aの人間が神様かみさん悪口言っとったという言質げんちを得たんや。」


ミカエル「その話、聞いたことがあります。それに怒った帝国Bの神様かみさまは、帝国Aに怒りの鉄槌を落とした。その鉄槌がきっかけで、帝国Aと帝国Bが戦争になった。」


クルーラ「せや。一人の人間の心ない言葉が神様かみさんたちを怒らせた。挙句あげくの果てには、帝国Aと帝国Bの力の強い神様かみさん同士で戦いが始まったんや。その戦いが第1だいいちじ業魔ごうま戦争せんそう……」


ミカエル「……(唾をのむ)」


クルーラ「そうやで?嬢ちゃん。あんさんのおっかさんがうなった戦いや。その戦いを防ぐ元として、作られたのがパンドラボックスや。」


ラーク「でも、それっておかしくないですか?」


クルーラ「ん?なにがや?」


ラーク「それなら、なぜ業魔戦争ごうませんそうに第一次とついているのです?パンドラボックスができたのなら、それで戦争が止まるはずでは?」


ミカエル「……第二次業魔戦争はパンドラボックスを作っているときに起きたのよ」


ジョージ「え?」


ミカエル「……」


クルーラ「せや。パンドラボックスの制作過程に目を付けた別の国の業魔ごうまが襲ってきたんや。そこで起きたのが第二次業魔戦争。その戦いを最後に業魔戦争は終わった。第一次業魔戦争が終息までに10年かかったのに対して、第二次業魔戦争は1ひとつきで終わったんや。」


ラーク「それってもしかして……」


クルーラ「せや。パンドラボックスが完成したんや。その完成したパンドラボックスが世の中の禁句タブーを食べてしもうたんや」


ジョージ「あら、タブーまみれの戦争がそんなに一瞬で終息を迎えてしまったのね」


ミカエル「パンドラボックスの力がそれほど強大だったのでしょう?」


ジョージ「……そう」


クルーラ「さ。あとは調べてきぃな。また、おいしい飯作って待ってるさかい」


ミッシェル「良かったらこれ、お昼ごはんやから持ってって!」


ジョージ「あら、助かるわね。ありがと」


ラーク「それじゃ、行ってきます!」




―間―



ミッシェル「…………」


クルーラ「えぇんか?ミッシェル」


ミッシェル「何がです?」


クルーラ「お前さんの好きな女が、お前さんのこと嫌いになるかもしれんのやで?それに、その恋はもう成就せんかもしれんぞ」


ミッシェル「かめへんっすよ。あの人らの言うてることが本間なら、遅かれ早かれ、俺の正体がわかってしまうやん」


クルーラ「……せやな」


ミッシェル「やとしたら、俺が話す前に、知ってもらうほうがええんとちゃうかって」


クルーラ「まぁ、知れるかどうかは知らへんけどな」


ミッシェル「?なんでや?」


クルーラ「お前さんのことを載せた文献なんざ元から無いんや」


ミッシェル「え?」


クルーラ「こういうもんがおるっていうんはあるけど、お前さんがそれっていう表現はあらへんねん」


ミッシェル「そうなんや……」


クルーラ「せや……せやから、これ以降はお前さんの仕事やで?アンジェにきっちり説明したり」


ミッシェル「…………」



―間―



ラーク「ここがアートリオン中央図書館の禁書庫か……」


アンジェ「せや」


ミカエル「しかし、本当にクルーラさんの名前を出したら入れましたね」


ジョージ「さすがというところね……さ、着いたみたいよ」


ラークM「そこにあったのは、厚さ30㎝あろうかという本が5冊と、厚さ10㎝ぐらいの本が2冊置いてあるだけだった。」


ラーク「うわぁ、この本、分厚すぎないか?」


ジョージ「そうね……これを全部は骨が折れそう」


ミカエル「ちょっと待ってください」


アンジェ「どうしたんや?ミカエルちゃん」


ミカエル「のものよ。我にその中身を見せよ。リード・オブ・ワード」


アンジェ「うわぁ!文字が!」


ジョージ「なるほど……その本から必要な情報を抜き取ったのね。さすがは女神さまだわ」


アンジェ「ほぁぁ……それはすごいなぁ……でも、ウチには読めへんわ」


ジョージ「なら、私が読みましょうか?」


ラーク「お願い、ジョージ」


ジョージ「わかったわ。……グランハルト帝国とクレス帝国の争いがもとに起きた第一次業魔戦争。その戦争で戦った帝国の神様、グランハルト帝国はミカエル、クレス帝国はガベルであった。グランハルト帝国を取りまとめていたミカエルはその戦いのさなか、ガベルに討たれ命を落とした。……詳細がないようね。」


ミカエル「……詳細は今朝、クルーラさんが言っていた通りです。グランハルト帝国とクレス帝国は元々、手を結んでいて仲良くしていたらしいのです。それぞれが納めている国々の人たちも国の行き交いが多く、二つの国は繁栄していたそうです。」


ラーク「?クルーラさんの話と違う気がする……」


ジョージ「それはそうよ。最初から飢饉ききんの国なんてあるわけないでしょ?」


ラーク「それもそうか……でも、ミカエルのお母さんとガベルは仲良かったでしょ?なんでいがみ合ったの?」


ミカエル「クルーラさんの話を聞いていなかったの?グランハルト帝国が飢饉ききんに陥ったことは知っている?」


ラーク「うん、グランハルト大飢饉ききん。グランハルト暦450年におこった食糧危機だよね。その食糧危機があったから、両国は仲が悪くなって……」


ジョージ「まって。そのあたりもこの文献に書いている内容は違うみたいよ」


ラーク「え?」


ジョージ「この文献にはね、『そもそもグランハルト大飢饉だいききんなんてものはなかった』ってかいてあるわ」


ラーク「なんだって!?」


ミカエル「そもそも、その『グランハルト大飢饉だいききん』こそグランハルト帝国が作った禁句タブーなのよ。」


ラーク「どういうこと?」


ミカエル「グランハルト大飢饉だいききんは、グランハルト帝国が自分の国民が行った出来事を隠ぺいするために作った嘘だったのよ」


ラーク「え!?それじゃぁ、自分の国の考えを正当化するためについた嘘ってこと?」


ジョージ「近からず遠からずということかしら?ま、間違えてないからいいんじゃない?それよりも、気になる文章があったのよ」


ラーク「気になる文章?」


アンジェ「なんやなんや?」


ジョージ「これは、アンジェに関することかしら」


アンジェ「うち!?」


ジョージ「アートリオンの国に伝わる話よ」


アンジェ「ん?どれどれ?……読まれへん……難しいわぁ……」


ジョージ「ふふ……まだ子どもだものね。『アートリオンに昔から伝わる伝承として、アートリーバーンという伝説の生き物がいるといわれている。この生き物は人間に化けることもでき、実際の人間と同じように話したりする。』」


アンジェ「あ、それならウチも聞いたことある。たしか、時々山のほうから下りてきて、人を襲ったりするんやろ?」


ミカエル「あ、そう伝わってるんですね」


アンジェ「え?ちゃうん?」


ミカエル「えぇ。どうやら、それも禁句タブーとされているようですね」


アンジェ「なんやて!?」


ミカエル「実は……」



SE:爆発音



ラーク「なに!?」


ジョージ「外からね」


ミカエル「いきましょう」


アンジェ「ちょ!?まったってぇな!」


アンジェM「なんなん……ウチの知らないことが多すぎるやん……本間になんなん……これ……この世の中の禁句タブーって……」



―間―



ギルベルト「アーハッハッハッハ!!商業の街アートリオンを襲撃しろと言われてきたが、なんだ?このゴミのような国は!」


ミッシェル「やめぇな!!街に危害を加えんな!!」


ギルベルト「うるせぇな……おめぇらがこの街のおさをださねぇからこうなるんだろうが!あぁ?」


ミッシェル「せやから、今外出中でおれへんって言っとるやん!」


ギルベルト「おめぇらが、かくまってるのはわかってんだよ!早く出しやがれ!」


ミッシェル「絶対に……絶対に出すもんか!!」


ギルベルト「……そうか、なら……もう一回……お、あの家を燃やせば出てくるか?」


ミッシェル「そこは……アンジェとの……やめろ!!」


ギルベルト「ほう、お前の大事な家か?ならなおさらやめるわけにはいかねぇなぁ!!!」


ミッシェル「ちょ……やめ……」


ギルベルト「我が怒り!業火に焼かれよ!フレイムバースト!!」


ミッシェル「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


クルーラ「失せや!!クルセイド!」


ミッシェル「!?クルーラさん!!」


クルーラ「なんや?なんで、こんなに街が燃えとんねん」


ギルベルト「おめぇがこの街の長か?」


クルーラ「ん?あぁ、そうやで?なんや、お客様きゃくさんか?」


ギルベルト「まぁ、客っちゃぁ、客だわな」


クルーラ「……その口ぶり……ぇ客じゃなさそうやなぁ……」


ギルベルト「お!おっさん理解が早くて助かるね~!」


クルーラ「なにしにきたんや?あんさん、ガベルの手先やろ?」


ギルベルト「これも話が早くて助かる。」


クルーラ「縛れ……威圧プレッシャー


ギルベルト「!?」


ギルベルトM「へぇ~、これがプレッシャーね」


クルーラ「さてと、ここからはワシのターンや」


ギルベルト「ワシのターンって……俺の体の動き止める必要なくね?」


クルーラ「これ以上燃やされるんは堪忍なんや。この街はワシらにとって大事なもんやさけの」


ミッシェル「クルーラさん……」


クルーラ「さて、単刀直入に聞こうかいの……目的はなんや?」


ギルベルト「俺は、この街を治めるように、業魔神ごうましんガベル様に仰せつかったわけだ」


ミッシェル「ふざけるな!この街をどうするつもりなんだ!」


ギルベルト「さっきもいったじゃねぇか!この街を統治するために」


ミッシェル「そうやない!真の目的はなんや!」


ギルベルト「さすが、察しがいいなぁ……アートリーバーン……」


ミッシェル「な……!?」


クルーラ「…………」


ギルベルト「なんでそれを知ってるんだという顔だな。我々は神だ!知らぬわけがないだろうが!厄災の前触れ、アートリーバーン!」


クルーラ「黙れ」


ギルベルト「ぐ……」


クルーラ「ひざまずけ、クズが……」


ギルベルト「ぐぁ!!」


ギルベルトM「だから、なんなんだよ……この能力は……」


クルーラ「すまんのう……ウチのわけぇもんが」


ギルベルトM「それにこいつ……空気が……」


クルーラ「交渉決裂や……なぁ、あんさん……話がまとまれへんかったら……仕置きせんといかんやろ?……ハァァァァァァァァ!痛ぇじゃすまへんでゴルァ!怒りの鉄槌、正義の名の基にのものの脳天をぶち抜けぇ!怒髪天鉄槌ヒューリオスハンマー!!」


ギルベルト「ふげぁぁ!?」



―間―



ラーク「クルーラさ……!?」


ジョージ「……何があったの?」


クルーラ「見てのとおりや」


ジョージ「……説明してくれる?」


クルーラ「……こいつが、ワシらの国の禁句タブーに触れた結果や」


ミカエル「禁句タブー?」


クルーラ「あんさんら、図書館で『アートリーバーン』の項目は見ぃひんかったか?」


アンジェ「見たわ。けど、それがなんなんか読もうとしたときに、爆発音が聞こえたんや。」


クルーラ「さよか……けど、その話の前にせなあかんことがあんなぁ」


ラーク「え?」


クルーラ「のぅ、あんさん、いつまで狸寝入りしとんねん。はよぉおきぃな」


ギルベルト「………ハハハ、ハーッハッハッハッハ!!お前、強いなぁ……」


クルーラ「当たり前や。伊達にここのおさやっとらんで」


ギルベルト「なるほどな……さて、それなら、ちぃっと本気出すか」


ラーク「誰だ!あいつ!」


ジョージ「少し、まずそうね……ラーク、ミカエル、加勢するわよ」


ラーク「(ミカエルとなるべく同時に)おう!」


ミカエル「(ラークとなるべく同時に)はい!」


アンジェ「……え?ウチは?」


ジョージ「あなたが、この国の禁句タブーを知りたいなら加勢しなさい」


アンジェ「ちょいまちぃな!何言って……」


ジョージ「これは遊びじゃないの!!生半可な気持ちで加勢しないで……」


アンジェ「……!?」


ジョージ「……ま、あとからでもいいわ。クルーラ、いいわね」


クルーラ「かめへんで……ミッシェル!」


ミッシェル「はい」


クルーラ「アンジェを頼む」


ミッシェル「わかりました」


ギルベルト「さぁて……どいつから殺してやろうか……キヒヒヒ」


アンジェ「なんや?あいつ様子がおかしいで?」


クルーラ「……チッ。ジョージ」


ジョージ「わかってるわ。ラーク、ミカエル、私たちの動きについてきなさいよ?」


ギルベルト「我が血潮、いにしえの溶岩流のように熱くたぎり、我が体を熱く燃やせ!!悪魔的爆炎デビルズ・ブースト!!」


クルーラ「我が心の目よ見開かれん、第1心開放。我が心の聴覚開かれん、第2心開放。我が心の感覚研ぎ澄まされん、第3心開放……開眼かいげんせよ!感覚開放センセ・リリース!」


ジョージ「狙撃手スナイパーとしての才覚研ぎ澄まされん。完全開放フル・バースト!」


ミカエル「魔術の本流、私の心よりも深く深く沈みたまえ。ネイチャー・オブ・ワールド!」


ラーク「俺だってやれるんだ!ハァァァァァァ!第一陣開放ファースト・ブースト・パージ!!」


ジョージ「へぇ、ラーク……そんなの使えるのね」


ラーク「唯一、できる開放系がこれなんだ!」


ジョージ「そうなのね……まぁ、上出来よ」


ラーク「ありがとう。だけど、それよりも……」


ギルベルト「キヘヘヘ……キャーハッハッハッハッハ!」


クルーラ「せや……あいつを抹殺することが先や」


ギルベルト「抹殺ぅ?やれるものならやってみやがれぇ!テメェら人間に、神との力の違いを見せてやるよぉぉ!!」


ラークM「アートリオンの禁句タブー、アートリーバーンを守るため、俺らは戦う。この戦いが初めての神との戦いになり、初めて禁句タブーと向き合う戦いになったのは言うまでもない。」


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