寄り道したら、初武器ゲット
初めて読んでいただく方も、いつも読んでくれている方も、こんにちわ。作者です。
なんと!日間ランキングの3位のところに、このAWOが入っていました!
びっくりしすぎて足の小指を椅子にぶつけて悶絶した次第です。。。
あと3,4話ほど、主人公の旅行準備パートが続きます。戦闘を早く見たい方、申し訳ありませんが、もう少々お待ちくださいませ。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
一夜明けて、現在6:30。いつもの起床時間なのを確認して、ルーティンを開始する。フェイスパックをしながら家事をして、朝食の準備をし、食べ終わってすぐ朝刊が読めるよう机にセット。
ここまでして時計に表示されている曜日に、今日が休日だったのを思い出した。
圧倒的な敗北感に、思わず天井を仰いで、一気に色々なやる気が失せてしまった。
私は休日の朝は朝ごはんを、カフェのブレックファストメニューみたくして、気分を盛り上げたい派なのだ。それなのに、用意した朝ごはんは納豆ご飯に味噌汁だけで、よりテンションが下がってしまう。
グダグダと朝食を食べきり、朝ヨガをしたり家事を終わらせたら、ゲームの取説を読み込んだ。
戦闘よりも旅行をメインに考えていたので、戦闘系のスキルを取っていないが、アメトリンの『汎用性の高い職』についての話を思い出した。金がかかる職業になるほど吟遊詩人は汎用性が高いというなら、戦闘も実は強いんじゃないだろうか?
昔読んだライトノベルに、琵琶で殴りまくる少女がいたのを思い出す。…もしかして楽器で殴ったりして戦えるんじゃないだろうか。
戦い方を考えていたら、日頃の各種ストレス事項が頭の中に浮かんでくる。ランチから戻ったら積み上げられた仕事、インク切れのままにされた印刷機、理不尽な上司との格闘…この気持ちがゲームで発散できるとしたら…最高かよ?
ストレス発散もできて、旅行もできる、ファンタジーもある。だからきっとVRゲームははやるのね。なんて考えながら、ペットボトルを全身が埋もれる大きなビーズクッションの横に置き、VRギアをかぶって、ゲームへログインした。
――おはようございます。現在AM8:23です。本日はいかがいたしますか?
「Another World Online ログイン。」
一瞬、意識が遠くなるような感覚の後、すぐに意識が浮上する。目を開くと目の前には旅行雑誌で見たことがある、フランスのコルマールのような、カラフルな木造の家がたくさん見える広場だった。視界の端にポップアップが出てきて町の詳細が表示された。
【最初の町 イニジア】
あらゆる国と町につながる街道の中心地にできた町。
様々な国の文化が入り混じってできたことを表すために、建物の色をカラフルに塗装した。
家々に花を飾る風習があり、四季ごとに花祭りが開催される。
確かに見える家々には花がたくさん飾られていて、カラフルな家にさらなる彩りを与えていた。
今いる場所は円形の広場になっているようで、後ろには大きめの噴水が光を反射して輝いている。
植え込みのグリーンとアンティークな街灯、景観を邪魔しない程度に色々出ている屋台。待ちに待った海外旅行感に、思わず駆け出したい気持ちになったが、パンジーのことを思い出し、近くのベンチに腰掛ける。
アメトリンは呼びかければ出てくると言っていたな、と思い出しながらパンジーが眠っている宝石を探す。 ポケットの中には入っていなかったので、メニューを開いてみると格納庫と書かれている項目を発見した。
格納庫の文字をタップすると、何個か既に物が入っているようで、その中にパンジーの宝石と書かれている項目を発見した。 恐る恐る押してみると、空中に宝石が出てきたので慌ててキャッチする。
宝石に向かってパンジーと声をかけてみると、昨日パンジーが出てきた時のようなエフェクトが散った。
「おはようございます、マスター。」
「おはよう、パンジー。」
「今日は何をなさいますか?」
「特に決めてなかったんだけど、この街並みを見たら散策したくなっちゃった。」
「では、街中を細かく回りつつ、途中で冒険者ギルドと、吟遊詩人ギルドによるのはいかがでしょうか?」
「冒険者ギルドと吟遊詩人ギルドって?」
「ギルドでは登録者への仕事の斡旋や、必要な道具の販売などを行なっているんですよ。基本的に自分がついてるジョブに関するギルドには、必ず所属するよう義務付けられています。」
不利な条件で契約したり、理不尽に法外な賠償金などを振られないようにするためにも、ギルド所属は必須であるとパンジーから説明を受け、納得したところで散策に出ることにした。
パンジーと一緒に店を冷やかしながら進み、美味しそうなパン屋さんや綺麗な日用雑貨のお店、手紙屋さんなんてお店も発見しながら歩いていく。 するとパンジーから一軒の埋もれるようにして建つ、古ぼけた家に入るように指示を受けた。 ぱっと見は本当に見過ごしてしまいそうなほどに、薄汚れて灰色に見えるような小さな家だ。周りの建物よりも1階層分くらい低く、枯れかけたみすぼらしい花とアイビーが、空き家になってだいぶ経ったような家に感じた。疑問に思ってなんの建物かパンジーに聞いてみる。
「パンジー、あの建物はなんなの?」
「実は、あの家は楽器屋さんなんです。」
「楽器屋?!」
「そうです。あの楽器屋はかつて、宮廷楽師たちが持つ楽器を製作していた職人が、引退後に開いた趣味の店なんです。」
「あ、あ〜なるほど、気ままに開けたり休んだりする、けどハズレのない店的なやつか。」
「その通りです!あくまでも道楽ですし、人が沢山来られても困るからと、人よけの結界もされているんです。」
「…そんな場所に初心者の私が行っても大丈夫?」
「大丈夫ですよ。いけばすぐにわかります!」
「そう?まぁ、パンジーが言うなら大丈夫よね。行きましょう!」
パンジーを伴い、錆が浮いて今にも崩れそうな鉄柵を押すと、甲高い悲鳴をあげた。 敷地内に一歩踏み入れると、どこからともなくバニラのように甘く、百合のようにすっきりとした香りが漂ってきた。 驚きに周囲を確認しようとすると、古びた建物はなく、抜けるような青い壁が特徴の家があった。 窓辺には蜂蜜のような色をして輝く花が咲き誇り、香りの発生源はあの花からのようだった。家に近づくと、アンティークなドアが見え、パンジーに促されてドアをくぐると、上品な家具と実に様々な種類の楽器が置いてあった。 あまりにも高級感がある内装に、思わず直立不動なポーズをとると、奥から人影が現れた。
「いらっしゃい、実に久方ぶりの客だ。」
「はじめまして、ララバイと申します。こちらは守護妖精のパンジー、本日イニジアへ参りました。」
「はじめまして、随分礼儀正しい人だ。私はこの店の店主でアールクルドゥワという、呼びにくいだろうからアールと呼んでくれて構わないよ。」
「よろしくお願いします、アールさん。パンジーよりこちらが楽器屋だと聞いたのですが、こちらの商品は私でも購入可能でしょうか?装備特典カードなるものがあるのですが…。」
「ほぅ。どれ、そのカードを見せてくれんか?」
「わかりました。」
アールさんに特典のカードを見せるため、格納庫の画面を開きタップする。 手元に現れたカードをアールさんに差し出すと、受け取ろうと伸ばしたアールさんの腕に青い羽を見つけた。 目を見開き、パンジーを見るとニッコリされたので、どうやら同種族の営む店だと知っていたらしい。 吟遊詩人のジョブについて、色々教えてもらえるかもと、あとで聞くことを決める。カードを見て納得したような表情をしたアールさんが、話しかけてきた。
「確かに装備引き換え券でした。私の店でこれを見るとは思ってなかったよ。」
「恐縮です、そちらは利用できますか?」
「もちろん問題ないよ。あと、しゃべり方もそんなに固くなくていい、同族だろう?」
「ありがとうございます!あの、同じ種族の方に色々聞きたいと思っていたんです!」
「ふふっ。私でよければ喜んで答えよう。さ、まずはここに来た目的から果たそうか。」
華麗にウインクを決めたアールさんについて行くと、部屋の奥にある紺色の扉の中に入って行った。扉は見るからに重厚感と厚みがあり、まるで視聴覚室の扉のようだった。部屋の中に入り、扉が閉まるとすぐに灯りがつき、思わずわぁっと感嘆の声をあげた。色々な種類の楽器があるのはもちろん、その全てがキラキラとした輝きを放ち、一級品の楽器であることが一目見てわかるものだった。 そして、この部屋の楽器すべてに共通して言えるのは、楽器の一部に”青”が用いられているところだった。海の底のような濃い青から、空のように澄んだ青まで実に様々だ。思わず見惚れていると、こちらを見てにこやかに笑ったアールさんに声をかけられる。
「どうだい?ここの楽器たちは。」
「とっても綺麗です。どの楽器もとても魅力的に見えます。」
「ほぅ?どの楽器もか。」
「?何かおかしいですか?」
「いや、大体は適性のある楽器のみに魅力を感じるものだ。けれど今の所どの楽器ということがないのは、すべてに適性があるということだからな。良い才能を持っている。」
「!ありがとうございます!」
アールさんに楽器を見て回るように言われ、ゆっくり一つ一つ見ていく。青いバラが刻まれたチェロや、青く染まったトランペット、イルカのモチーフがついたアコーディオン。 色々な楽器があって目移りするし、実際に手に取れば体をどう動かせば良いかもわかる。とりあえず、ログイン前に少し考えていた、楽器を鈍器扱いするスタイルを確定させるには、木製の物は選択肢から外すことにした。大きいものも取り回しに困るので、小型から中型の間で探していると、白銀色に輝く琵琶を発見した。
ボディーは白銀色をしていたが、見たこともない金属でできているようでとても軽かった。 装飾は金で描かれた蔦に、青く輝く宝石を露に見立てた装飾。楽器の下には『朝露の琵琶』と書かれていた。 しばらくじっと見ているとアールさんがそばにやって来た。
「その琵琶に、何か惹かれるものがあったか?」
「えぇ、他の楽器もすべて良いものだけど、この琵琶だけは何かが違うわ。目が離せなくなる…。」
「なら、決まりだ。今日からその琵琶は君のものだ。」
「え?!いいの?他の楽器より明らかにグレードが違いそうだけど…。」
「そうだね、確かにグレードは違うけど、そこまで特別な素材で作ったわけじゃないんだ。」
「そうなの?!」
「それに、目が離せなくなるってことは、琵琶自体も君を主人に選んだってことさ。」
琵琶に選ばれたと知って、とっても幸せな気分になった。
アールさんから、簡単な琵琶のお手入れ方法を聞き、弦の張り方や万が一の修繕方法などを教わる。
この琵琶の欠点は、修繕などのメンテナンスができる種族が、空を飛ぶ種族かドワーフしかいないということ。
移動した先にメンテナンスができる職人がいるかわからないので、ある程度奏者が修繕などできるようになる必要性があったのだ。
そんなデメリットも、気にならないほど惹かれているため、せっせと弦張りを実際にしながら、アールさんの話を聞く。
「その琵琶には『浮遊石』と呼ばれる鉱石と、鉄などを使った合金できできているんだ。空を飛ぶ種族の人間が扱いやすいように出来ているんだよ。」
「そうなのね。」
「青いのも宝石ではなくて、鉱石なのさ。『奏空石』という浮力を持っている鉱石でね、掘り出すと宙に浮き続けるんだ。それに何かに当たると綺麗で、澄んだ音を響かせるんだよ。」
「奏空石ね、とっても綺麗だわ…宝石みたい!」
「光の反射率を極限まで上げると、宝石のように輝くんだ。一見透明に見えるけど、あくまでも鉱石だからね。宝石のように透明感はないんだよ。」
空を飛ぶ種族に扱いやすい鉱石を利用している分、他の種族には難しいらしく、種族限定武器といわれるものに当てはまるそうだ。
『浮遊石』は軽いが丈夫で壊れにくく、常時風と重力の魔力を纏っているので、それに準ずる魔法に補正が入るらしい。また、『奏空石』は音を反響させる性質があり、常時風と水の魔力を纏っている。
奏空石は出土する場所が、空にある天空島か、標高の高い山の山頂付近でしか手に入らないらしいが、鳥人族のオオルリ種以外にもカナリア種など、歌が上手い種族には必須の鉱石らしい。
実際に弦張りを体験し、調律も行った。満足げに笑ったアールさんから渡されたのは、琵琶用の撥だった。
ただ変わっているのは、流線状の部分が刃物のようになっているところだ。
「我々、鳥人族の中でも歌に特化した鳥人族は、楽器を使わない攻撃はとことん向かないんだ。パーティを組んでて、自分のところに来る敵を、仲間たちがカバーしてくれるならいいだろう。しかし、そうじゃない時もある、よって楽器に物理効果を入れることにしたんだ。その琵琶の本体でも殴ったりすることができるが、一番はこの撥を刃物の武器として持つのがいいんだ。」
琵琶を弾くようの撥ももらい、またそれから少し話して、無事に商品を手に入れることができた。だいぶ時間も経っていたので、アールさんにお暇することを伝え、いつでもおいでという言葉に手を振り返した。
アールさんの楽器屋さんを出て、次へ行こうとすると、パンジーにストップを出される。
「マスター、次はここの路地を三回出入りしてください。けど絶対に隣の通りに出る直前で、必ずUターンしてください。」
「??わかったわ。」
コツコツ足音の反響を聞きながら、路地を3回出入りすると、ピンク色の外壁のお家が現れた。
自分史上最高に驚いたのは、アールさんのお家だと思っていたが、このお家もびっくり対象に入った。むしろ超えているかもしれない。
「パンジーここは何?」
「ここはペン専門店です!」
「ペン専門店?」
「正確にはペンと紙の店ですね。ここでは特殊な紙とインク、ペンをおいているんです。作詞作曲するなら、ここのお店のインクとペン、譜面紙を使用した方が絶対にいいですよ。」
「ふむ…じゃあ、この中に入ってみましょうか。」
「はい!マスター。」
誤字脱字報告、ありがとうございます!
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