Happy Birthday
完治はしていないですが、ものを考えられる程度には回復しました。
体調に関して暖かいコメントありがとうございます!
ゆっくり更新して行きます!
あれから何時間経ったのかわからない、正直分単位だったのかもしれない。とにかく店に残っていた人たちとジェシーさんが、無事出産を終わるのを待っていた。
このゲームは最近開発されたという体感時間加速システムというのを使っているらしく、現実1時間でゲーム内では5時間進むというシステムだ。更に言えばゲーム内の1日は10時間で、現実2時間で1日が終わるようになっている。働く人にも優しい設計…らしい。
加速されているのにも関わらず、すごく長い時間を感じるというのは、それだけこの場が緊張感にあふれているということなのだろう。
パンジーも気になるのか、ジェシーさんたちがいる部屋の近くまで行っては戻ってを繰り返している。
そして、30分くらいして待望の泣き声が聞こえて来た。産婆のおばあさんがやって来て、ずっと待ち構えてた私たちに、呆れたような顔をしながら女の子だと教えてくれた。
歓声に沸く店内で、産婆のおばあさんに声をかけられた。
「あんた、鳥獣人だね?種族はオオルリかい?」
「そうですよ。よくわかりましたね?」
「オオルリの種族が持つ《癒しの声》は有名だからね。医療従事者の中にオオルリを入れるだけで、回復が段違いなのさ。」
ただ話しているだけでも効果があるため、産婆のおばあさんからジェシーさんに着いているように指示を受けて、大きな一仕事を終えてゆっくりした空気の流れる部屋にお邪魔した。
ボロッボロに泣きまくっているスティングさんと、そんなスティングさんを呆れた目で見ていたジェシーさんは、私に気がつくとにっこり笑って言った。
「ララバイちゃんが産婆のおばあちゃんを連れてきてくれたんだってね。ありがとう。」
「いいえ、当然のことをしたまでですよ、ジェシーさん。赤ちゃんの出産お疲れ様でした、おめでとうございます。」
「ありがとう!」
「名前は決めてるんですか?」
「ステイシーっていうのよ。」
「ステイシーちゃんか、いい名前ですね。」
「ふふふ!尻尾もすらっとまっすぐで長いから、将来引く手数多よきっと。」
「そうなんですか?」
「猫獣人にとってすらっと長い尻尾は、美人三大要素の一つなのよ!」
「へぇ~初めて知りました。」
「うちの娘は誰にもやらーん!!」
「ふにゃあああああああああああん!」
「あんた!いきなり叫んでんじゃないわよ!ステイシーよしよし、もう大丈夫よ~!」
「スティング!一仕事終えたばかりの女のそばで何騒いでんだい!外に出てな!!」
赤ちゃんが年頃になった頃のことでも考えたのか、いきなり大声でスティングさんが叫んでしまったので、びっくりした赤ちゃんが泣き始めてしまった。ジェシーさんから叱咤され、産婆のおばあさんからは叩き出され、最後はシュンとした姿で強制的に出て行かされていた。
ステイシーちゃんはなかなか泣き止まず、ジェシーさんも焦り始めた頃、産婆のおばあさんに歌えと無茶振りをされた。
「私まだ吟遊詩人ギルドにも行ってなくて、何も知らないんですけど!」
「子守唄くらい、あんたの世界にあるだろう。それでいいから歌いな!」
「えぇ~…」
「マスター歌いましょう、これからの予行練習ですよ!」
「それを言われるとな…子守唄なんて歌ったことないんだけど。」
産婆のおばあさんとパンジーに促されて、結果的に歌うことにしたものの、私自身子守唄なんて歌ったことがなかったので、何を歌うか考える。ちなみに私のレパートリーは民謡とか洋楽とかがメインで、高校がカトリックの高校だったので、賛美歌がいくつか歌えるくらいだ。
ひとしきり自分の知っている曲名を思い出しているると、一つだけ子守唄を知っていたことを思い出す。
高校に通っていた頃、カトリックだったからかは分からないが、地域ボランティアとして保育園や、幼稚園に行く機会があり、そこで覚えた曲だった。
懐かしい気分になりつつ、その曲を告げて深呼吸する。
パンジーから《癒しの声》を意識しつつ歌った方が、効果が高いと言われて意識する。
「今から歌うのは『モーツァルトの子守唄』という歌よ。」
〜〜♪
生まれたばかりのステイシーちゃんが、健やかに過ごせるよう願って歌を歌う。
かつてシスターが言っていた、心を込めて歌えば、思いは届くという言葉を思い出した。
〜〜〜♪
パンジーに言われた通り、《癒しの声》を意識したからかは分からないが、ステイシーちゃんは1番の中頃から徐々に泣き止み始め、2番に入った頃にはあくびをし始めていた。2番の間には寝てしまっていたけれど、せっかくなので3番まで歌っていたらジェシーさんも眠ってしまった。
産婆のおばあさんはうたた寝程度にうつらうつらとしていたけれど、歌が終わってすぐに目が覚めていたみたいだった。
《癒しの声》を少しでも意識して歌えば、疲れが溜まっている人であれば、ころっと寝付かせることができるとパンジーから教えてもらった。しかし、戦闘中はさほど効果がないんだとか。
産婆のおばあちゃんに退出を促されて、連れ立って店に戻ると、全員眠ってしまっていた。
どうやら私の声が聞こえていたらしく、徹夜していた人間に効果覿面だったようだ。
産婆のおばあちゃんは私を見据えて、力の使い方を覚えるように諭した。
「あんたは自分の声について、しっかりと学んだ方が良い。」
「確かに私は無知です、誰かに色々と教わった方が良いと薄々感じてはいました。」
「あんたはアールクルドゥワを知っているね?」
「はい、知っています。私の武器を見繕ってくれた方です。」
「じゃあ話は早い。弟子入りでもなんでもして力の使い方を学んできな。《癒しの声》をきちんと使えれば、癒しに関する術の効果も上がる。」
今日は疲れたと言って帰っていった産婆のおばあちゃんを見送り、今一度ジェシーさんのところへ戻って、赤ちゃんとジェシーさんに布団をかけ直して店を出た。
借りていた台車を返しに行かなくてはいけないがかなり重たいため、申し訳ないがコメットさんを起こして、二人掛かりで引いていき返却した。
いつの間にか朝日が昇り、朝焼けの澄んだ空気が漂っていたので伸びついでに深呼吸する。
「赤ちゃん可愛かったわね、パンジー。」
「そうですね、ふっくらしてました。」
「獣人の赤ちゃんなんて初めて見たよ。」
「そうでしょうね。」
「…生きてるのねぇ。最近のAIってすごいのね。」
「自己学習型のAIですからね、きっとあの気の良い人たちに大切にされて、瞬く間に大きくなりますよ。」
「はぁ~ヤダヤダ!おばさん化が進みそう!旦那いらないから子供が欲しいわ!」
「それは初めて聞きました。」
「私生活が充実してる女が一度はかかる病気のような思考よ。」
パンジーととりとめもないことを話しながら、人の少ない街をぶらぶらと歩く。このゲームの中に存在するNPCと呼ばれる存在を、生きている存在だと思ったら、もともと素敵だなと思っていた街並みがさらに素敵なものに見えた。
長くなりすぎるので、一回きりました。
近日中に続きアップします。