初クエストに障害はつきもの?
いつもAWOを読んでいただきありがとうございます!
初クエスト回です。
クエストを受注した私は、パンジーとともにルートマップを作成していた。このゲームにはマップ機能というものがあり、行ったことのある場所は、自動で登録される。他にも大まかな地図であれば街の案内板などを見れば、更新されるそうだ。最初の街に限り、ほぼ詳細なマップが全員に配られているらしく、隠し要素など探し出せば、どんどん地図に追加できるらしい。また、今やっているルートマップを作成したり、マッピングしたりということも可能でジージルマップ先生と似たような機能を持っていた。
まだ街の道をきちんと把握もしていないし、ゲーム内時間ですでにお昼を過ぎているので、効率よく回らないとクリアできないのでマップの確認は必須だ。
ちなみに現在のタスクはこんな感じである。
(1)郵便物を受け取りに配達所へ
(2)配達の道すがら屋根の補修
(3)補修が終わり次第他の配達を片付ける
(4)皿洗いへ
大枠のルートが出来上がったので、郵便物を受け取りに猛スピードで走り抜ける。AGIが高い私は荷物がない状態であればだいぶ早く走れるらしい。街の中を走っている人は他にもいるが、だいたい追い越せているからだ。現実の私…?聞いてくれるな。
白い壁に赤い屋根、郵便マークの看板を大きく掲げた建物にたどり着き、手に入れたばかりの冒険者ギルドカードを見せながら入る。
「こんにちわ、冒険者ギルドからクエストを受けてきましたララバイと言います。」
「おぉ!きてくれてありがとう!こいつを頼みたいんだ!」
中にいたのはヤギの獣人であるヤンハさんという人だった。ちなみにこの情報はパンジーからで、郵便局員は普通郵便はヤギ獣人の管轄、速達は鳥獣人の管轄らしい。…童謡のイメージで郵便事故が起こりそうな気がするのは私だけなんだろうか?
渡された郵便物は普通の手紙の他にも、大小の小包付きで少々持つのが大変そうだった。ヤンハさんは郵便バッグというものを取り出して説明を始めた。
「郵便物はこの郵便バッグに入れて持っていくんだ。どんなものもこのバッグの中に50個は入る。今回は正規の郵便局員じゃないから10件分の郵便物を入れておくよ。ただ荷物がたくさん入るってだけで、重さは変わらないからね。見た目通りだと思って持つと腰を痛めるから気をつけて。最短のルートマップは作っておいたからこの通りに行ってくれたら大丈夫だよ。あとは郵便バッグのポケットに受け取りサインをもらうための用紙が入っているから、必ずもらってきてね。」
ポーンという音とともに、マップが更新されましたとポップアップが出た。
マップを開くと自分がマッピングしたものとは別に、マッピングされた箇所が光っている。自分でマッピングした場所は青で、クエスト関連は赤らしい。
いざ荷物を持とうとすると持ち上がらない。全くピクリともせず、どういうことかと焦っていると、パンジーが何かに気づいたらしく声をあげた。
「マスター!もしかしたら荷物が重すぎるのかもしれません。」
「重すぎる?重すぎると持ち上がらないの?」
「まず、鳥獣人はAGIが高くSTRとVITが低い傾向があります。その中でオオルリはSTRが上がりにくく、隠しステータスとして金属は一部の金属をのぞいて通常の重さの1.25倍くらいの重さに感じるようになっているんです。」
「なにそれ?!聞いてないんだけど?!」
「隠しステータスですからね。基本的にLv1でSTR10のステータスだったら重さは総重量10まで持てます。けれどオオルリの場合は小数点切り捨てで総重量7までしか持てません。」
「うそでしょおおおお!」
「オオルリが吟遊詩人をすれば、かなり楽して強くなれちゃうので、いろいろな部分で隠しマイナス要素が盛り込まれてるんです。私がこのお話ができるようになったのも、クエストに支障が出たからですね。ついでにいえば楽器も普通の楽器屋で売っている楽器だと、持つことすらできないものが多いので、最初からあの店に誘導することができました。」
「パンジーがいなかったらガチで詰んでる状況じゃないの!」
「創意工夫でなんとかなると運営が言っていました!」
「メタい発言、聞きたくなかった!!」
簡単なクエストかと思ったらとんでもない落とし穴が待っていた。心の中はかなりの大荒れである。もともとSTRとVITが低い種族だとは知っていたけど、まさかの隠しマイナス要素があるとは思っていなかった…!運営底意地が悪い!!この感じだと第3の街まで使えるっていう防具が与えられているのも何か罠があるような気がしてきた…とりあえず今はクエストクリアのことを考えないとまずい。
「ここで、対応ができなかったらやばいわ。クエスト…つまりは仕事!仕事はできないではなくどうやるのか!社会人になってもう何年も経つのよ!対応力を見せなきゃクレーム処理なんてできないわ!」
「マスターの背後に炎が見えます!」
「クエストのバッグの重さをまず調べなくちゃよね…ヤンハさんこれの総重量を教えていただけないかしら?」
「これかい?これは9あるよ。」
「9?私のSTRは15だから11のはず………基本は総重量10…総重量?……あ!ポーチと琵琶!」
パンジーから持ち物の重量の調べ方を教わり、メニューから装備の確認画面を開いた、そこには琵琶が4、ポーチが3と書いてあった。装備を外せばなんとかなる重さであることがわかり、装備を外してインベントリに入れる。そうすると先ほどはうんともすんとも言わなかったバッグが持てるようになった。
「これなら持てるわ!ヤンハさん早速行ってくるわね。」
「頼んだよ!」
郵便を持って飛び出し、マップを視界の邪魔にならない場所に表示させながら走ると、さっきと速さが違うことに気がついた。懸命に走ってはいるのだが、他の走っている人に追い越されたりするのだ。これにもマイナス要素があるのかと思い、パンジーに聞いてみる。
「パンジーもしかして、重量にもマイナス要素はあるの?」
「全種族共通であります。リアルでも重たいものを持っていたら早く走れないのと同じで、重さにつき5%のマイナスがつきます。」
「つまり、今の私はAGIに約マイナス10のハンデがついてる状態なのね。」
「そういうことになります。」
「底意地が悪い!」
「屋根修理の場所には少々遠くなるかとは思いますが、先に重たいものをはけさせてしまいましょう。マップに優先チェックを入れておきます。」
マッピングされた場所に緑の光が重なっている場所ができた。確かに若干大回りになるが、軽くなれば早さも上がるはずだろうと一番近いマーカーに向かって走り出した。
最初の家はピンク色の壁に焦げ茶色の屋根が可愛い洋裁店だった。ハサミの大きな看板がついていてわかりやすい。赤と濃いピンクの花が飾られた扉を開けて中に入る。
「こんにちは。お届けものです。」
「あら、ありがとうございます。」
出てきたのは人はスウェーデンの民族衣装のような服を着た人でタレ目に泣きぼくろが色っぽい女性だった。ブルネットの髪にグラマラスな体が男性に好まれそうな印象だ。
「お届け物の確認とサインをこちらにください。」
「はい、確かに。ありがとう、助かったわ。」
「いえいえ、またご利用ください。」
「ご苦労様。」
お店を出て次の場所へ向かう。先ほどよりもスピードが出るようになり、次に重たい荷物のところへ走るその間に3件分の手紙を届け、たどり着いた場所は錬金屋と呼ばれるところだった。
錬金屋とは錬金術で作られるものを置いている店で、分野を問わず様々なものが買える店だった。
ラベンダー色の壁に深緑の屋根、大釜とフラスコがモチーフになった看板がついていて、白い花が飾られている。
「こんにちは。お届けものです。」
「おや、ありがとう。確認させてもらうよ。」
今度の人は浅黒い肌を持った男性で、分厚いローブに包まれた体は体型をわかりにくくしていた。ぱっと見では種族がわからず、聞いてみたい気もするが、クエスト中なので自重する。
「確かに頼んでいたものだ、ありがとう。」
「では、こちらにサインをお願いします。」
「はい…どうぞ。」
「ありがとうございます!またご利用ください。」
残りの荷物は全て手紙だったので、走るスピードは格段に上がった。屋根の補修先へ向かう間に2件の郵便を渡し、たどり着いた家はクリーム色の壁に焦げ茶色の屋根の素朴な家だった。赤い花がアクセントにされていて、可愛らしい雰囲気だ。屋根にかかるようにして梯子が出ており、近くに木材や工具があることから、修理の材料は用意されているようだった。
「すみませーん!冒険者ギルドから屋根の補修を受けてきましたー!」
「あいあい、ちょっと待ってね〜」
ガチャっと音を立てて開いたドアのところにいたのは可愛らしいおばあちゃんだった。ミッチェルさんというおばあちゃんは、ちょっと日に焼けた肌に、髪の毛を頭の上でお団子にしていて、腰がちょっと曲がっていた。このおばあちゃんにあの報酬準備はできない気がするが、とりあえずお入りと言われて慌ててついていく。
家の中には部屋の奥にあるベッドに、クマを連想させる体格の大きな人が臥せっていた。彼はベックルさんと言い、ミッチェルさんの息子さんらしい。きちんとした修理はすぐにこないので、簡単な屋根補修をしようと屋根に上がろうとした瞬間、魔女の一撃になったそうだ。魔女の一撃…つまりぎっくり腰である。
そこで急遽クエストを出したというわけらしい。
「では、屋根の修理しちゃいますね。ベックルさんは養生してくださいね。」
「すまんな、嬢ちゃん。よろしく頼むわ…。」
「怪我だけはしないようにね。」
「はい!」
まずは工具を持って屋根に登り、雨漏りしている箇所を探す。現実だったら屋根の上なんて怖くて登れないが、ゲームだと思えば割と登れるものだった。パンジーから落下ダメージなるものは鳥人族は軽減されるという話を聞いたけれど、それは屋根にいる時ではなく、下にいる時に言って欲しかった。屋根の上を歩いていると、明らかに板が腐っているであろう場所を発見し、付近に工具を置いて腐敗の範囲を確認する。腐敗箇所を工具の中に入っていたノコギリで切ろうとして、異様な重たさに目をみはる。すかさずパンジーから新しいデメリットを伝えられる。
「アールさんが少し言っていましたが、空を飛ぶ種族に向いている鉱石があるということは、向かない鉱石もあるんです。」
「ま、まさか…。」
「御察しの通り、一番馴染み深い鉄製の武器はオオルリ種族には向かない鉱物です。」
「ガッデム!」
「ただノコギリは武器ではなく工具なので、マイナス値は少なめです。」
「気休めにもならない…!」
「しかし!こんな時の私です!1日5回までですがクエストや戦闘などでお手伝いが可能です!今からSTRに補正がかかる魔法を使用しますので、これでうまくいくはずです。」
「!さすがパンジー!頼りになるわ!」
「ありがとうございます!効果は15分ほどなので、急ぎましょう。」
「わかったわ。」
「では、『大地と火の理よ!エンチャントフィジカルブースト』!」
パンジーにSTRが上がる魔法をかけてもらい、ノコギリを持つと重みは感じるものの、持てないほどではなくなった。急いで腐っている箇所を切り落とし、腐敗箇所が広がらないようにした。次に用意されていた補修用の板を運び込み、腐敗した箇所よりも大きめにカットして打ち付ける。初めてやる作業だがだいぶスムーズにでき、工具を片して屋根から降りた。ドアをノックしてミッチェルさんとベックルさんに声をかける。
「屋根の補修終わりましたよ。」
「おぉ!助かった。」
「ありがとうねぇ。」
「屋根は一部の板が腐ってしまっていたので、腐敗が進まないように切り落としました。その上から大きめの板で穴を塞いでいるので、激しい雨などにさらされない限りは保つと思います。」
「ありがとうよ!ギルドタグを貸してくれ、完了サインを刻ませてもらう。」
「わかりました。梯子と工具はどうしますか?」
「工具は室内に、ハシゴはそのままで大丈夫だ。」
「では、工具を取りに行ってきますね。」
工具を取り、室内に戻るとベックルさんからギルドタグを返された。タグの受注中クエスト項目の、【屋根の補修を求む】の横に完了という文字が光っていた。
「これでしばらくは保つ、本当にありがとうな。また何かあったらお願いするよ。」
「雨漏りを気にしなくて良くなったのは本当に助かるよ。ありがとうねぇ。」
「いえ、また何かあったらよろしくお願いしますね。失礼します!」
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クエスト【屋根の補修を求む】をクリアしました。
経験値を獲得。
行動によりSTRが1アップしました。
行動によりDEXが1アップしました。
サブジョブスキル『木工』がレベルアップしました。
報酬は冒険者ギルドにてお受け取りください。
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ベックルさんとミッチェルさんに別れを告げて出るとアナウンスが入り、いくつかの項目がアップしていた。このゲームは行動によりステータスに変化が起こるらしく、始めたばかりの今は、特にレベルが上がりやすいのだとパンジーから教わった。また、木工などのスキルレベルは、スキルに関する行動をすると上がるらしく、屋根の補修は木の板を使用していたので、木工の範囲だったということだった。私は残り3件の郵便を届けるべく、走り出したのだった。
名前:ララバイ
種族:鳥人族 モデル オオルリ
LV:1
メインJOB:吟遊詩人 <バード>
サブJOB:生産者
【ステータス】
STR:16 up!
VIT:10
AGI:45
DEX:36 up!
INT:25
CHA:45
LUK:50
STp:0
【スキル】
メインジョブスキル
作詞 / 作曲 / 演奏 / 調律 / 歌唱 / 伝承
サブジョブスキル
木工 Lv.2 up!/ 細工 / 料理 / 伐採
通常スキル
白魔法 / 黒魔法 / 生活魔法 / 従魔術 / 裁縫 / 採取 / 売買 / 錬金術 / 精霊術 / 言語
SKp:0
【称号】
アメトリンが庇護する者
称号初取得者