4話 憂鬱
投稿が遅れてしまってすみません!
上半身を起こした女の子は白髪で腰の辺りまで髪があり、灰色のチュニックを着ていて、青いジーンズを履いている。靴は多分玄関に置いてある赤いドライビングシューズだろう。
頭を抑えてフラフラと立ち上がった。
「だ…大丈夫ですか?」
女の子は妙におどおどとしていて躊躇いながら首を縦に動かした。
「あの…貴方の方こそ、大丈夫ですか…?」
ナナセさんを見てゆっくりと落ち着いたトーンでそう言った。
「えっ、あ…大丈夫です、なんかすみません…」
ナナセさんは恥ずかしそうに頬を赤らめて後頭部をさすりながらぺこりとお辞儀をした。同時に、右手を地につけて立ち上がった。
「みんな!ちょっと来てくれ」
メインゲーム会場の方からサキトさんの声が聞こえてきた。
「なにかあったんやろうか?」
出口の方を見ながらイミさんがそう言うと、カロンさんはスタスタと出口の方へ歩いていった。
「わしらもいこうけ、なんか見つけたんかもしれんし」
「そうですね、でも…」
私がアキホさんと思われる人物の方をちらりと見ると、アキホさんは微笑みながらこう言った。
「大丈夫ですよ、皆さんの声、聞こえてましたから…私はアキホです。どうぞよろしくお願いします」
アキホさんは礼儀正しくペコリとお辞儀をして、カロンさんが言った『アキホ』と書かれた部屋の方へと向かった。
私たちは会場の方へと向かい、サキトさんやカロンさんと合流した。
「何かあったんですか?」
私がそう言うと、私たちから見て左斜めの方向にある扉を指差していたサキトさんが、私たちの方に向き直った。
「あぁ、あんた達か。勝手な行動なんだが、オレ、みんながどんなゲームをしたのか気になったから扉を調べて見たんだ。そしたら、テーブルとか椅子とかが並んだ食堂みたいな部屋に繋がってたんだ。その奥にはキッチンみたいな部屋があったぜ」
「へぇ、なるほど、てことはそこでご飯食べたり、作ったりするわけやな」
「あぁ、多分そういうことだと思う」
サキトさんと少し会話を挟むと、イミさんはスタスタと食堂のある扉の方へと歩いて行った。
「わしも扉ん探索しよごたるね」
ナツメさんがそう言うと、サキトさんが返答した。
「ok!もしかしたら、扉の内容が全部が変わってるかもしれないしな」
「そうやなぁ!」
2人はそう言って他の扉の方へと向かって行った。
「…あの、ボクらも何かすか…?た、例えば…その…食堂をちょっと覗く…とか…」
ナナセさんがもじもじとしながらそう言った。
「あぁ、いいですね、情報を集めておくのは大切ですし」
「…同感だな」
カロンさんがそう言うと、ナナセさんはほっとしたように溜息を吐いた。
ナナセさんの表情を見た限り、意見して反応が返って来ない場合を心配していたのだろうか。それとも、カロンさんに何か反論されるのが怖かったのだろうか。カロンさんは謎が多い人だからなぁ…。もしかしたら、この場の雰囲気を和ませようとしたのだろうか。
カロンさんが食堂の方へ歩いていくのを、私とナナセさんが追いかけた。
「お、ユウちゃんたちちゃ、どんげしたん?」
イミさんが私たちを見て、少し首を傾げた。
「みんなで食堂を覗いてみようってことになったんです…探索っていうか…」
ナナセさんがそう言うと、イミさんはなるほどと腕を組んだ。
「なるほど、わしがざっと見た感じ、奥に調理室があるだけんごたるったちゃ」
剽軽な口調でイミさんがそう言った。
「そ、そうでしたか…」
残念がっているナナセさんを励ますように明るいトーンでイミさんが話し始めた。
「そ、そんげ残念がることねえちゃ!まだ、調理室ん方は調べちょらんかぃ、そこ調べよう?」
イミさんがそう言うと、ナナセさんは不器用に笑った。
「は、はい…」
「ユウちゃん達も調理室ん方行く?」
「あ、はい!」
私がそう言うと、カロンさんは食堂を出て行った。
「どうしたんでしょう…」
私がそう言うと、イミさんが、んーと唸り声を上げた。
「んー…不思議な人やかぃ、自分に合うた行動をとっちょるんやろうかぁ」
腕を組んで、首を傾げながらそう言った。
少しピリついた雰囲気を察すると、私は口を開いた。
「ま、まぁ調理室の方探索しませんか?私たちがこうなった原因が何か掴めるかもしれませんし…」
私が少しおどおどとしてそう言うと、ナナセさんが同調するようにコクリと頷いた。
「それもそうやなぁ、じゃあ、行こうけ」
イミさんがそう言って、調理室の方へ向かうのを私とナナセさんがトコトコと追いかけた。
ガチャリ、ドアノブに手をかけて、イミさんが調理室の扉を開けると、中から洗剤の香りが漂ってきた。調理室は思っていたより広く、ガスコンロは5口あり、2台ある流し台には、両方とも2口の蛇口が付いている。蛇口をひねると、最初は生暖かった水が徐々に冷たくなっていった。おそらく、給湯器のスイッチが消されたのだろう。…つまり、誰かがこの流し台で何かをしたということだ。流し台には水が付いていない。拭き取った可能性もある。
「あの…すみません」
ナナセさんがそう言って、私の意識が現実に引き戻された。
「ど、どうしました?」
反射的にそう言い、ナナセさんの方を見ると、ナナセさんは流し台の横にある包丁の飾られている棚を指差していた。
「こ、この包丁が少し濡れてるんですが、何か知りませんか…?」
ナナセさんの所まで行って、ナナセさんが指差している包丁を見た。
確かに包丁は濡れていた。この包丁だけ他の包丁と向きが違うし、包丁の周りが濡れている。
そう言えば、サキトさんはみんながどんなゲームをしたのか気になったから、食堂のあるこの扉を調べたって言ってたけど、もしかしたらこの扉を担当した人が包丁を洗ったのかな…。
「憶測でしかないんですけど…さっき流し台を調べていたら、最初は暖かった水がどんどん冷たくなっていったんですよね…だから、その包丁が濡れているのが、流し台で洗ったからなのかなって、それで、この扉を担当した人が包丁を洗ったのかなって思うんです」
私がそう言うと、ナナセさんはなるほどと頷いたが、イミさんが口を開いた。
「いや、ここを担当したんはわいやかぃ、そりゃねえちゃ。ちなみに、わいがゲームをした時は真っ白で四角い部屋やったよ、今なんでこんげ部屋になりよるんかが不思議やけどなぁ」
イミさんが顎に手を置きながら首を傾げた。
「なら、運営側の人が包丁を洗った…?」
もし運営側の人が包丁を洗ったとして、何になるんだろう…指紋がついたから水で拭いたりしたのかな…。
「まぁそうなるかな、可能性は低いけんど、サキトさんが一番最初に見つけたかぃ、サキトさんが包丁を洗うた可能性はあるね、まぁやっぱし運営ん人が何かしらん理由で包丁を洗うた可能性ん方が高えけどなぁ」
「やっぱりそうですよね…」
私がそう言うと、構内アナウンスのような音が響いた。
ピンポンパンポーン
「ご機嫌はいかがでしょうか、0日目のアナウンスをお伝え致します。これから、皆さまに割り振られた能力をお伝えしますので、第1メインゲーム会場にお集まりください。メインゲーム会場にて、このゲームの趣旨もご説明させていただきます。繰り返します。これから、皆さまに割り振られた能力をお伝えしますので、第1メインゲーム会場にお集まりください。メインゲーム会場にて、このゲームの趣旨もご説明させていただきます、第1メインゲーム会場にお越しになられなかった人は、GMの権限の元に、刑罰を執行致します」
ピンポンパンポーン
アナウンスの声が聞こえなくなると、私たちは喋ることはなかったが、自然と同じ歩幅でメインゲーム会場の方へと向かった。沈鬱で暗鬱で重苦しい、この時間が饒舌に語る真実の正体が会場で明かされると信じて。