2話 状況整理
扉が開いた音がしたと言っても、厳密に言えば扉が1枚開いたというわけではなく、4枚開いたのだ。
その4枚の扉からは12人の年齢の違う男女が現れた。…もし、イミさんの言うように、扉1枚につき4人いたとして、単純計算であれば、4×4で16人のはず。なのに12人しか来ていないと言うことは、少なくとも、既に私たちの扉も含めて6人死亡しているはずだ。
「…あれなんちゃ…?」
イミさんがそう言った。その目線の先には15台置いてあった丸テーブルにさらに3台の丸テーブルが追加されたのだ。…合計18台、ここにいる人数も18人。まるで生還した人数に合わせるかのようにテーブルが追加された。それも迫り上がる床によって。元々は15人しか生きることが出来ないと思われていたのに、想定外で急遽テーブルが追加されたと考えられる。
入ってきた12人は丸テーブルに散らばった。
「初めましてかな。ボクはカナトと言います。よろしく」
丁寧そうな口調で目つきの悪い男が一礼した。前髪はバックに移されているが、少し大きく右側に髪の毛が残されている。青と赤のボーダーのジャージを着ていて、茶色いカーゴパンツを履いている。白のスニーカーには水色のインクが付いている。
「どーも、わしはナツメと申します、よろしゅうどーぞ」
麦わら帽子を被った身長の低い女の子がぺこりとお辞儀をした。濃い灰色のニットを着ていて、青いエプロンをしていて、紺色のジーンズを履いている。靴は下駄を履いている。後れ毛が首と頭の付け根あたりまであり、前髪はきちんと整えられ、ぱっつんになっている。小豆色の髪の毛で、ポニーテールを揺らしてニコニコしている。
「私の名前は、そう、漆黒の堕天使よ!おーっほっほっほっほっほ!私を崇めなさい!」
「だっちゃん大丈夫か?頭打っとらんか?」
ナツメさんが漆黒の堕天使と名乗った少女に心配の声を漏らした。
「え、あ、その、だ、大丈夫よ。ちょっとおふざけをし過ぎたわね。私の名前はエリスよ。よろしくお願いしますわ」
「よかったー」
ナツメさんが喜び、エリスさんが動揺している。少しよく分からない光景だ。エリスさんは金髪のツインテールで所謂ゴスロリファッションだろう、そういう類の服を着ている。白いフリフリのついた黒いドレスに身を包んでいる。だがそれに対して靴は学校指定の上履きのような感じだ。
「え、えっと…ボクはナナセっていう。しぞーか出身だでなんか変かも知れにゃーけど、よろしくです…」
もじもじしながら青年がそう言った。赤色のワッチキャップを被っていて、藍墨茶色のトレーナーを着ている。白色のスウェットパンツを履いていて、靴は紺色のスリッポンを履いている。前髪は瞼にかかりそうになっていて、襟足は綺麗に剃られている。少し高身長でイミさんの次に高いかも知れない。
ここに収集された人の中には方言がある人が多いのかな。まぁ、なんとかなるか。
「わっきゃテルっていうよ、よろすくね」
津軽弁かな、首を揺らしながら女の子がそう言った。赤や緑のチェック柄のマフラーを首に巻いていて、深緑色のモッズコートを着ている。紺色のカプリパンツを履いていて、靴は赤いデッキシューズを履いている。髪の毛は灰色で前髪はぼさぼさ、うなじの少し下の位置で髪を結んでいる。
「オレはシラキ、変な状況だけどよろしく〜」
黒縁メガネをかけた男がニヤニヤしながらそう言った。黄土色の髪の毛で左目が隠れている。髪の毛が後ろの方に流れていて、もみあげが髪の毛で隠れている。黒いウィンドブレーカーを着ていて、紺色のサルエルパンツを履いている。靴は白いスニーカーを履いていて、眠そうに半目になっている。
「アタシはキョウコ、何が何だかわかんねーけど、よろしくな!」
強気そうな女がそう言った。真っ赤で腰くらいまである髪の毛、くるっとカールした前髪。黒いライダースジャケットを着ていて、赤い縦線が入ったレザーパンツを履いている。靴は赤いハイヒールを履いている。口調や風貌とは違い、凛々しい猫目だ。
「私はノエル、よろしく〜」
軽く鼻歌を口ずさんでいる女の子がそう言った。海松色のポンチョを羽織っていて、その下には暖かそうな宍色のフリースを着ていて、東雲色のガウチョパンツを履いている。靴は白い水玉模様の紺色の長靴を履いている。何故か天井の方を見てニコニコしている。
「……カロンだ」
イミさんに続き、ペストマスクをした不気味な男がそう言った。スキッパカラーの襟の高い黒いコートを着ている。その下には深緑色のローブを着ているのか、そのコートの背中側からフードが出ている。黒いチノパンツを履いていて、靴は黒いスニーカーを履いている。ペストマスクを被っている後ろ側は襟足が上に行くごとに1mmほど増えるように剃られていて、もみあげも少しだけ残されているが、他は剃られている。前髪は右の生え際の髪が眉毛あたりまで垂れているが他はサイドに移されている。
「ヒロト」
一番手短に、そして簡単に男がそう言った。金春色の髪の毛で少し長いナチュラルウルフで、紺色のダウンベストを白いワイシャツの上に着ている。黒いサルエルパンツを履いていて、靴は赤の斜め線が入った紺色のスニーカーを履いている。紺色の背景に白い鷹や青い背景に黄色い狼、紺色の背景に白い熊や白い背景に青い龍が描かれた4つの缶バッチのついた黒い帽子を被っている。
「わしはカンっていう者じゃ、よろしゅうな」
顎髭を蓄えたガタイのいい男がそう言った。髪色は呉須色で、髪型はベリーショートのツーブロック、黒い拳銃が描かれた赤いパーカーを着ている。黒いバイクパンツを履いていて、靴はサンダルを履いている。イミさんより少し高いくらいの身長だ。
「私はナホって言います!よろしくです!」
向日葵の花飾りをした女の子がそう言った。髪色は向日葵が似合う金色で、胸椎の中間あたりまで髪の毛があり、後れ毛で耳元が隠れている。前髪は眉毛辺りまであって左流しだ。水色の水玉模様のワンピースを着ていて、その上に暖かそうな肌色のカーディガンを羽織っている。何故か水玉模様の傘を持っていて、紺色の雨靴を履いている。
「ボクはアカツキ、よろしく」
「私はユウです、よろしくお願いします…」
「わいはイミ!よろしゅうな」
「ボクはトモヤです、よろしく」
「オレはサキト!よろしくな」
「私で最後かな、私はアマネ、よろしくね」
全員が名前を言ったところで、カナトさんがさて、と話し始めた。
「さて、まず状況整理をしませんか?我々が全員同じ状況なのか、それを確認するために」
カナトさんがその案を出した時、賛成の声が上がった。
「ボク、それ賛成です…状況確認は大切ですし、なにより、皆さんの中にこの変なゲームってやつの運営側がいるかもしれませんで…」
「わしも賛成、理由はナナセしゃんとは少し違うばってん、こけ来た理由がみんな同じなら共通しとることがなにかあるかもしれんけんね」
他の全員がカナトの提案に賛成し、少しの間を置いた後にイミが話し始めた。
「じゃあ、わいから話してぇな!わいはこき来る理由っちゅうんかわからんけんど、家でゆっくりしちょったら変なやつが突然現れてそんまま意識が飛んだんや、みんなは?」
イミが話を振ってすぐにはい!と挙手してナツメが口を開いた。
「んーとね、わしもイミしゃんと同じ感じなんやばってん、近道ん路地裏ば通っとったら目ん前に人が止まってさ、それで目が霞んで眠うなったとばってん、そん止まった人に掴みかかったんばい!ばってんやっぱり力が出らんけんそんまま寝てしもうた」
ナツメさんが照れ臭そうにそう言うと、カナトさんがそれに反応した。
「掴みかかったって事は、相手の服に触れたんですか?」
なんでそんなことを聞くんだろうかと、少し疑問に思ったが、すぐにその疑問は解消された。
「そうばい、ばってん何もとれんかったばい」
きょとんとしながらナツメさんがそう言った。
「ということは、相手の服の繊維がナツメさんについてるかもしれませんね」
カナトさんがそう言った刹那、あの部屋でも聞いたアナウンスのような音声が聞こえてきた。