1話 デスゲーム
目が覚めたのは真っ白い部屋だった。家具や飾り気はなく、ただ目の眩むような真っ白な正方形の部屋だ。
そんな部屋で私の隣に横たわっていたこの人は誰なんだ…?
見た感じ、15歳くらいだろう。マッシュショートで赤毛だ。目の下にはクマが出来ていて、着ている青色のパーカーの袖が親指の末節骨あたりまであり、紺色のハーフパンツを履いている。
「う、ぅぅ」
唸り声をあげ、クマの出来ている少年がたじろぎながら上半身を起こした。
「ここは…?」
目を擦りながら、少年は辺りをキョロキョロと見ている。
「あんた、誰?」
やがて私を見つけると、疑念を向けてきた。
「私は優、君は?」
私がそう言うと、少年は眉間にシワを寄せて口調を強めて喋ってきた。
「なに、子供扱いしてんの?言っとくけど、ボク成人してるからね」
一通り私に対して不満をぶつけると、まぁいいやと続けた。
「まぁいいや、ボクはアカツキ、ヨロシク」
「この部屋、なんなんだろーね」
「さぁ…それに、私たちがここに来た原因がわからないし、私たちって初対面だよね?」
「うん、ボクらは初対面だろーね、君とは会ったことないと思う」
口角を少し上げて簡単に言ってきた。アカツキさんと会ったことがないとしたら、私たちは何故こんな部屋に2人きりでいるんだろう。というか、ここ最近の記憶が曖昧だ。
「ねぇ、あそこにドアあるんじゃない?見にくいけどドアノブがあるよ」
私が指した方向には確かにドアノブがあった。スタスタとドアノブのある方に近づいて、ドアノブを回すと、簡単にドアが開いた。
「…開いたね」
軽く相槌を打ち、ドアを完全に開くと、どこからかアナウンスのような機械の無機質な音声が聞こえてきた。
『ただ今より、第1のサブゲームを開始致します。このゲームを拒否した場合、生存する可能性は無、0です。このゲームは第1のメインゲームが行われる会場に繋がる出口を探し出してもらうゲームです。ゲームに負けた場合、死亡します』
死亡、間違えた道に行った場合、自身がそれを体験するのだと考えた時、一瞬身がすくんだ。それはアカツキも同じのようで、アカツキも顔色が変わった。
『さて、このゲームですが』
『出口に繋がる道を推理して貰う、というゲームです。決して、アンフェアということはありません。今からその推理材料をプレゼント致します。頑張ってください』
機械の音声が終わると、正方形の部屋の真ん中に黒いテーブルが現れた。
「んー…どうする?」
アカツキさんがそう言って話を振ってきた。
「どうしよう、でも、正規の道に行くしか道はないよね…それに、さっきアナウンスの音声が言ったことが本当なら、私たち…」
「死んじゃう、そう言いたいの?」
私は否定せず、首を縦に動かした。
「ま、とりあえず謎ってやつを解いてやろうじゃん、そしたらボクら死なずに済むんだからさ」
「そうだね、よし、頑張ろう!」
私たちは黒いテーブルに向かい歩き出した。
「えーと、今あるのは五十音順表、何かの切れ端…それだけだね」
まぁこれは簡単だろう…この切れ端と五十音順表を合わせたら、3文字が浮かんでくる。「み」と「き」それと濁点だ。合わせると「みき゛」もしもこれで右でないのならばアンフェアすぎる。右以外に考えようがないんだから。
「右ですね」
「だろうね」
そんな単調な会話を挟み、右へと進んだ。
コツ、コツと靴音が反響していく。
すると、少し歩いたところに[メインゲーム第1会場]と書かれた場所が見えてきた。
私はほっと胸を撫で下ろした。それはアカツキさんも同じようで、はぁと安堵のため息を漏らした。
メインゲーム会場の扉を開けた。メインゲーム会場はとても広く、真ん中にある柱のような筒がそのまま上に伸びている。その近くには15台の丸テーブルが置いてあった。そして、その近くにユウ、アカツキ以外に4人の人影が見えてくる。その人影たちは何かを話しているようだ。人影たちはユウたちに気がつくと、身構えてこう言った。
「だ、誰だ!」
身構えている金髪のソフトモヒカンの男が震えた声でそう言ってきた。赤色で星柄のネクタイを締めたワイシャツを着ている。黒色のスラックスと茶色の革靴を履いている。顔に髭は一切なく、キリッとした目でこちらを睨んでくる。
「落ち着いて、きっと我々と同じような境遇なのでしょう」
冷静なトーンの男がそう言った。緑色の髪の毛で前髪を左に流していて前髪は眉毛の少し下の辺りまで伸びている。髪の毛の天辺にはアホ毛があり、少しチャラそうに見える。首元が隠れるようにグレーのハイネックフードのパーカーを着ていて、龍が描かれたジーパンを履いている。靴は履いていなくて、裸足だ。死んだ魚のような目で頰を抓りながらこちらを見ている。
喋らず私たちを見つめている女、紫色のショートヘアで後れ毛が顎の辺りまである、前髪は無造作に切られていて、メンズカットのように見える。薄い灰色のダウンコートを着ていて、そのコートのポケットに手を突っ込んでいて、桃色のチューリップスカートを履いている。そんな姿に似合わず白色のスニーカーを履いている。私たちのことを丸い猫目で見ながら首を傾げている。
そして、1番奇妙なのがおそらく190cmはあるであろう高身長の男、その高身長に似合わず、ひょろりとした猫背でひ弱そうな体格、それに奇妙な天狗の面とフードを被っている。深緑色の斜め線の入った青色のパーカーを着ていて、紺色の縦線が縫い目に沿って入っているスウェットパンツを履いていて、家の軒先にあるようなサンダルを履いている。右手には薬指と中指、中指と人差し指の間にサイコロを持っている。右手中指には銀色のリングがはめてある。
「その通り、ボクらも変なゲームってやつに巻き込まれたのさ」
私は便乗するように首を縦に動かした。
「なぁなぁ、君らんとこには2人しかおらんかったんかい?」
天狗の男がそう言うと、私は違和感を感じた。
「え…貴方たちは…?」
「…わいらんとこは4人やったよ、もしかして…君らが第1サブゲームをしたところは元々4人で、2人が脱落した…やら?考えとねえけど。いい風に考ゆるとじゃったら元々2人てそん2人が生還したって事やけどさ」
私たちは少なくとも大さじ一杯の恐怖を感じた。もしも…もしも天狗の男が言うように2人が脱落して死亡したのだとしたら…。
誰かの唾を飲む音が聞こえた。私も言いようのない恐怖からか、変な汗が全身から噴き出してくる。
「なんてね!冗談ちゃ冗談、ささ、他にもいっぱい扉はあるとじゃかぃ気長にまとうちゃ」
「……そう…ですね」
暗い雰囲気の中、天狗の男はなんとか必死に明るく振る舞った。
「そ、そうじゃ!いいこと思いついたよ、みんなでさ、自己紹介しようちゃ?名前知らんままだと気持ち悪いやろ?」
天狗の男がそう言うと、猫目の女が提案に乗った。
「ああ、それいいわね。情報交換しておくのは大切だしね」
「そうちゃな、やっぱ情報交換は大切ちゃ!わいん名前はイミっちゅうっちゃが、よろしゅうな!君らは?」
「あ、あぁ、オレは…サキト、よろしく」
金髪の男がそう言うと、他のみんなも便乗するように名前を言っていった。
「ボクはトモヤです、よろしく」
ハイネックフードの男がそう言った。
「私はアマネよ、よろしく」
猫目の女がそう言った。
「アカツキだよ、よろしく」
「ユウです!よ、よろしくお願いします…」
「あは、みんな改めてよろしゅうな!」
イミさんがそう言った途端、扉が開いた音がした。