間違った知識 ~AED編~
同期の子と帰りが同じになり一緒に帰る事になりお互いの愚痴や悩みや泣き言などを話しながらホームで電車を待っていたときに起こった出来事。
その前に皆様、AEDって知ってますか?
自動体外式除細動器。簡単に言うと一般市民が使える除細動器のこと。除細動はよくドラマで心停止した患者にドンってやってるあれのこと。正確には止まってる心臓には除細動は起動しませんけどね。
今では駅や市町村役場なんかの人の集まる場所には大抵設置されています。
駅員さんなど人の行き来が多い場所で働く方たちは、このAEDを使用するための訓練をちゃんと受けてるそうです。一般市民が救命できるなんて素敵な世の中ですね。
ホームで電車待ちをしていた私達に、緊迫したような声が聞こえてきた。
「誰かあれもってこい。胸に貼るあれ!!」
一人の男性が友人とみられる人に声をかけていました。私だけでなくその場にいた誰もが様子を見守っている感じでした。
しばらくしてAEDを抱えて走ってきました。まさかの緊急事態。同期の子(ICU病棟ナース)が、手伝いに行こうとよつ葉の腕をつかみ前へ出ました。その時、
「私達にお任せください」
と取り仕切っていた男性が叫んだ。そして私達を含め周りで心配そうに見守っている人達に声をかけました。
「私達はAEDの訓練を受けています。大丈夫です」
この方達はきっと必死なのだろう。この男性の行動が私達を不安に陥れた。
倒れているのは70代くらいのおじいさん。そしてそのおじいさんが
「すいません。ちょっとくらくらして」
と男性に声をかけた。
それにもかかわらず、おそらくさきほどAEDを持ってこいと叫んだであろう男性が「しゃべらないで!!」と言いながらAEDの電極パッドをおじいさんのシャツをたくしあげて装着している。
えっ? 意識あるじゃん! 何故AED?
AEDというのは心室細動を起した人間に使うもの。しかし心室細動というのは心電図をつけなければわからない。心室細動というのは脈を触れないので心室細動を起こしているのか、もう心臓が止まっているのかはわからないのです。なので脈が触れなければとりあえず心臓を正常に動かすためか、心室細動を起こさせるために心臓マッサージを行う。そして依然脈が触れなければAEDが到着しだいAEDをつけAEDが心室細動を起こしているか解析してくれる。AEDが「除細動は必要ありません」といった場合はたいてい心臓が停止しているので再度心臓マッサージをして心室細動をおこさせAEDで再び解析するのです。
心室細動を起している場合は「ボタンを押してショックを与えてください」と教えてくれます。そして除細動ボタンを押し除細動をかけうまくいけば細動を起していた心臓が正常に動き出すのです。
人が倒れたらとりあえず意識の確認が先決、意識がなければ呼吸の確認、脈の確認を行いそれらがなければ心臓マッサージを行う。
意識がある時点で心臓マッサージは必要ない。ましてやAEDなんて必要なし。もしだんだん意識を消失してきたらそれまた別の話。今は持ってきてもいいが装着は必要ない。
それでも周囲の人々はこの光景に関心の目を向けている。誰も間違っていると声をあげない。
同期の子がよつ葉の腕を掴み一歩前へと進み出す。周囲の人たちは驚いたように私達に視線を向けた。そして男性の声
「お姉さんたち近づかないでください。もし除細動が発動したら危険です」
同期の子がその男性を無視しておじいさんに近づくとつけられていた電極パッドを剥がした。
男性達も周囲の野次馬も私達の行動を一斉に凝視する。
「ちょっとお姉さん!」
電極を貼った男性が怒鳴った。そりゃ、そうだろう自分が良かれと思ってした行為を何も言わずに剥がされたのだから。同期の子がすかさず言葉を続けました。
「使い方も知らないでAEDを操作しないで下さい」
周りは静まり返り男性はお互いの顔を見合わせている。同期の子の言葉が続く
「AEDっていうのは意識のある人間に貼ってもなんの意味もない。AEDの意味を理解してればそれくらいわかるはず。AED持って来るまえに意識、呼吸、脈の確認。AEDっていうのは心臓マッサージと人工呼吸の併用で使うんです」
周りがざわつき始めた。AEDと叫んだ男性に友人と思われる人が視線を送った。明らかにとまどっている。
事の成り行きを見守っていた人達の中から色々な声が聞こえてくる。
それはともかくこのおじいさんはどうしてこの状態になったのかを突き止める事が先決。
よつ葉達は、おじいさんの身体に触れてみた。熱い。でも汗もなく皮膚が乾燥している。
「たぶん熱中症だと思います。とりあえず救急車来るまでクーラーのよく効いたとこ連れていって、腋とか足の付け根を冷やして待機。意識もあるし軽い症状で済むと思いますよ」
「あの・・・あなた方は?」
男性が口を開いた。
「看護師です」
AEDを持ってこいと叫んだ男性だと思われる人が、私達に文句をいい始めた。
「なんで倒れたときにかけつけてくれなかったんですか?あなたたち看護師なんでしょ!」
同期の子が間髪入れず言い返した。
「お任せくださいって言ってましたよね。ちゃんと知識さえあれば誰でも出来るくらいの状況だったし。熱中症くらい普通素人でも気づきます」
この騒動に駅員さんが、気付き私達の元に駆けつけてきてくださり
「どうされました?」
「熱中症と思われます。救急車の手配をお願いします」
同期の子が駅員さんに指示を出し、男性が行っていたことを含め今までの経緯を全て話しました。事の重大さに気づいたのか野次馬の視線に耐えられなくなったのか
「すいません。ありがとうございました」
明らかに言いたくなさそうな謝罪とお礼でした。でも、おじいさんの熱中症が軽くすみそうなので安心しました。
「お姉さん達、ありがとう」
「水分補給はちゃんとしないといけませんよ」
「気を付けるよ」
おじいさんと少しの会話を交わしていると駅員さんが救急隊員と共に駆けつけてくださいました。今までの経緯を全て伝え引き継ぎをしました。
「適切な処置をありがとうございます」
「よろしくお願いします」
おじいさんは病院へ搬送されていきました。
これからの季節、多くなりそうですよね。皆様も熱中症お気をつけ下さいね。




