第4話:転生社畜は共有する
「……というわけで、これからできるだけ早く全員を集めたい。……全員は無理だとしても、最低でも十人は欲しい」
「手分けして探すってこと?」
「そうしたいのはやまやまなんだが、どこからどう狙われてるのかさっぱりだからな。固まって移動するしかない」
今日は全ての授業が休講になっていて、どこにどの生徒がいるのかさっぱりだ。十人を集めるとしても骨が折れる。普通なら手分けして探すところだが、危険がある以上は目を離せない。
「じゃあまずは寮にいる人を当たってみるとか?」
「そうだな、今すぐ集められるとすればそれくらいか……」
はっきり言って、効率が悪すぎる。その中でも寮を先に周るというのはある程度の人数を集めることには有効か……。
「よしじゃあ今すぐ行くぞ」
三人を連れて、学院寮の方へと移動を始める。寮の前に着いたとき、校内放送が流れた。ビデオカメラのような機能を持つ魔道具があるように、スピーカー代わりになる魔道具も存在する。
聞こえてきたのは、レジーナ先生の声。
《連絡します。一年S組の生徒は、至急教室に集まってください。繰り返します……一年S組の生徒は、至急教室に集まってください》
「……やられた」
そうか、こんな簡単なことで全員を集められたのか……。
校内放送は寮の各部屋を含め、学院全域に声が届く。最初からこうすれば良かったんだ……。
「レジーナ先生どうしたのかしら。こっちとしては都合が良いけど……」
エリスが不思議そうに呟いた。
「多分、学院長が知らせてくれたんだろうな。定時連絡か何かの都合でたまたますぐに話す機会があったんだろうな」
何はともあれ、これで人数集めに関してはクリアできそうだ。今頃何事かと慌てて生徒たちが教室に向かっているはずだ。
「よし、じゃあ俺たちもさっさと教室行くぞ。ここからだとちょっと遠いから、急ぎめでな」
◇
急ぎ目で走っていくこと数分で教室に着いた。
近くにいた生徒が五人ほど既に教室の中にいて、そわそわしている。
レジーナ先生は教卓に肘を置いて、のほほんとしている。
「助かりました。まさかこんなにすぐ集められるなんて……本当に大きいです」
「どういたしまして。私にできることはこれくらいだし、役に立てたのなら良かったわ。それで……この学院の全域に結界を張るって……?」
「学院長から説明を受けてたと思いますが、そういうことです。具体的には、クラス全員分の魔力を使って、魔力干渉の設置型魔法を仕掛けるんです」
「一人でそんな大規模な魔法を構築するなんて、信じられないわ……」
「やり方自体はイメージが固まってます。……これを成功させないと、誰がどこで被害に遭うかわからない」
無理でも何でもやるしかない。俺だって、これほどの大魔法を使ったことは一度もない。絶対の自信があるかというとそんなことない。
でも、俺のほかにやれる生徒はいないのだ。
レジーナ先生が招集してから十分ほどで全員が集まった。俺は不安気な生徒たちに、どうして集めたのか、これからどうしてほしいのかということを伝えた。
「魔力を渡す……? そんなことができるのか!?」
「ユーヤ君ならなんでもできそうだと思ってたけど、さすがにそれは……」
「っていうか、うちの生徒が狙われてるって本当!?」
教室の中は大混乱になった。そりゃそうだ。俺たちは事の始まりから今まで、少しずつ情報収集をしていたが、何も知らない生徒たちは今初めて聞いたのだ。
何かの冗談だと思われても仕方がない。
「えっとだな――」
俺がどう説明しようかと頭を捻っていると、レジーナ先生が助け船を出してくれた。
「ユーヤ君が言った話は全て本当よ。ちなみに、これは学院長直々の命令でもあるわ。みんなが不安なのはわかる。……だけど、放っておけばさらに被害者が出るかもしれない。もしかしたら、この中の誰かが死んでしまうかもしれないの。……だから、みんなには協力してほしいの」
いつもとは違う、しっとりとした雰囲気のレジーナ先生。これで非常事態だということを全員が理解した。
「お、俺は協力するぞ……! やり方を教えてくれ」
「私だって!」
「この前のテロをどうにかしてくれたユーヤ君なら……」
話は驚くほどスムーズに進行した。入学から一か月で、レジーナ先生はいつのまにか信頼を得ていた。今の俺に足りないものだ。
「みんな、協力ありがとう。それで、具体的なやり方なんだけど……」
魔力の移動は、本来かなり高度なものだ。リーナ、エリス、ティアナの三人でもまだできない。だが、俺には秘策があった。
「円になって、全員が手を繋いでくれ。それで魔力を共有できる」
魔力の移動は難しい。だから、移動するのではなく共有するという方向で、間接的に供給してもらうことにした。
「手を繋ぐだけ……?」
「魔力の共有?」
「と、とりあえず手を繋げばいいわけね!」
俺以外の全員がチンプンカンプンと言う感じだ。
「じゃあ、右手をリーナ、左手をエリスが握ってくれ、いくぞ」