第2話:転生社畜はステータスアップに驚く
チーロの背中に乗ってすぐに、天高く飛び上がった。
俺がいた洞窟は深い森のなかにあったらしく、空から遠くを眺めても村らしきものは見えてこない。
「カズヤ様、乗り心地はいかがですか?」
「最高だよ。動きは安定してるし、景色も最高。文句の付け所が無い」
「お褒めに預かり光栄です!」
チーロは嬉しそうに答えると、ぐんぐん加速した。
村に着くまで、俺は視界右下にある不思議なアイコンを調べてみることにした。
指で操作することで色々なウィンドウが出てくるみたいだが、どういう仕組みなんだろう?
さっき開いたように、スキルウィンドウを立ち上げてみる。
スキル一覧が現れた。さっきよりも、スキルが増えている。
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スキル一覧
・強制隷属
・赤竜の叫び
・赤竜の炎
・赤竜の羽
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スキル名をタップすると、説明が出てきた。
【強制隷属】……神より与えられし隷属術。対象から恨まれていない限り、強制的にテイムすることができる。隷属可能数:4/100
隷属可能数が百?
つまり、この説明を読む限りだとテイムできる数には限界があるということか。
次に、他の三つも調べてみる。
【赤竜の叫び】……近くにいる赤竜あるいは低級竜を呼び寄せることができる。
【赤竜の炎】……炎属性のブレスを発動することができる。
【赤竜の羽】……背中に赤竜の羽が生え、自由に飛行することができる。
「……どれも面白そうなスキルだな」
この三つのスキルがあれば、安全に生きられそうだ。
ひとまずスキルウィンドウを閉じて、次にステータスウィンドウを確かめる。
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ステータス一覧
名前:瀬戸和也
レベル:1
ジョブ:テイマー
能力値:初期値+隷属補正値
・攻撃力:F+SSS
・防御力:F+SSS
・魔法攻撃力:F+SSS
・魔法防御力:F+SSS
・俊敏性:F+SSS
・体力:F+SSS
・魔力:F+SSS
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初期値がFで、隷属補正値がS?
どういうことなんだろう。
「なあ、チーロ」
「なんでしょう」
「隷属補正値って何のことかわかるか?」
「テイムされた対象は、能力の半分をテイマーに預ける仕組みになっているようです。……そうすることで、主従関係は強固なものになるのです」
「なるほど」
能力の半分を奪ってしまえば、それは初期値に加算されて、テイマーは魔物より絶対に強くなる。こうすることで、主人を裏切れないようにしているのか。
よく考えられているな。
しかし赤竜のステータスがSSSに対してFはないだろ……。素の俺がどんだけ弱いかということを嫌でも思い知らされる。
「カズヤ様、もう少しで人間の村に到着します」
「村に着く前に、一旦地上に降りてくれないか?」
「かしこまりました」
チーロは俺の指示通りに地上に着陸した。村からは一キロくらい離れた森の中だ。
「村まで飛んでもよかったのですが」
「常識で考えてドラゴンが村の中に入ってきたら不味いだろう。……とは言っても、その見た目じゃどちらにせよ村には入れない気がするが……」
「小さくなりましょうか?」
「……そんなことできるのか?」
「長く生きていると色々なことができるようになるのです」
俺を軽々と乗せられるくらい大きかったチーロの身体は、みるみるうちに縮んでいった。
最終的に子猫くらいの大きさになった。
三匹の子竜……ブルー、イエロー、レッドも、チーロと同じ大きさになった。
「このくらいの大きさならトカゲで通じるかと」
「こんな大きさのトカゲがいるのか?」
「いるでしょう、多分」
「まあ、それならいいや」
俺が村に向かって歩き始めると、四匹の小さくなったドラゴンもついてきた。
もう少しで村に着こうかという時、俺の目の前に魔物が現れた。
黒色の狼のような見た目をしていて、頭には大きな鋭いツノが生えている。
「チーロ、あれはなんだ?」
「ブラックウルフですね。普通のウルフよりは強いですけど、雑魚です」
「普通のウルフよりも一応強いんだろ?」
「どんぐりの背の高さを比べても仕方がありません」
「そういう感じなのか」
比べるまでもなく、どちらも弱いということだ。
それなら、俺でも一人でやれたりするんだろうか。
ブラックウルフが勢いをつけて走ってきた。その足元からは砂埃が舞っていて、かなりのスピードが出ていることが確認できる。
だが――遅くね?
まるで止まっているかのように見える。
ほんの少しずつ近づいて来ているが、こんなノロい攻撃が当たるはずもない。俺はさっと避けて、魔物の横っ腹を殴打する。
「キュイイイィィィンッ!」
ブラックウルフは喘ぎ声を上げ、ぐったりと動かなくなった。
「ね? 弱いでしょ?」
「本当に弱いな。子供が戦ってもどうにかなりそうだ」
メニューを色々と見ていた中に、アイテムストレージというものがあった。
俺はブラックウルフをアイテムストレージに収納し、手ぶらで村に歩いた。
「おい、止まれ! 旅人か? 冒険者か?」
村の門の前に立っていた門番のおっさんに声を掛けられた。
「どちらかというと旅人だな」
「そうか、じゃあ通行料を払ってもらおう。銀貨五枚だ」
「悪いが、金は持ってないんだ」
「こ、このガキ舐めてんのか! 金がねえなら村には絶対に入れないからな!」
「話を最後まで聞いてくれ。金になりそうなものならある」
「なんだ、見せてみろ」
俺はアイテムストレージから、さっき倒したブラックウルフの死骸を取り出した。
門番おっさんはそれを見て、全身が震えていた。
「これは……最近問題になってたブラックウルフじゃねえか! Aランクモンスターだぞ!? こ、こいつをお前が殺ったのか!?」
「Aランク? それは凄いことなのか?」
「凄いなんてもんじゃねえ、この村の上位の冒険者連中でも手を焼いてたくらいだ……こいつを売って通行料にするってことでいいんだな?」
「ああ、それで構わない」
そうか、Aランクは凄いことなのか。あまりにも弱すぎて銀貨五枚になるかちょっと不安だったんだけどな。
「こんな高額なもん、すぐには買い取れねえ。預かり証を渡しておくから、二~三時間後にギルドの買取窓口から金を受け取ってくれ」
「わかった」
俺は門番のおっさんから預かり証を受け取り、村の中に入った。
まさかあんな雑魚でお釣りがもらえるとは思わなかった。