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第1話:転生社畜は子供ドラゴンを隷属する

「ご主人様、そこに卵が見えますでしょうか」


 赤竜(チーロン)が訊ねてきた。

 ここからでも見えるくらい大きな白い卵が三つ並んでいる。どの卵も高さ一メートルくらいある大きなものだ。そのことを言っているのだとわかった。


「ああ、確かに見えるけど……それがどうかしたのか?」


「あの卵からは、私の子供が生まれてきます。……そろそろ孵化の時期かと」


 注意深く卵を見てみると、確かにいくつかヒビが入っていた。大きさを無視すれば鶏の卵とそれほど違いはないので、確かにもうすぐ孵化しそうな頃合いだ。


「私はご主人様にお仕えすると魂に刻みましたが、我が子をここに置いていくのは不憫でなりません」


 赤竜から、大粒の涙がこぼれた。……ドラゴンとはいえ、母性は人間と同じということか。確かに、生まれたばかりの子供を置き去りにしてしまうのが心苦しいというのは理解できる。


「それならずっとここにいればいいんじゃないか?」


「それはなりません」


 赤竜はきっぱりと答える。


「先ほど隷属契約が完了し、私の命が尽きるまで――あるいは、ご主人様が私を開放(リリース)してくださるまで、決してご主人様から離れることはできないのです」


「なら、解放すればいいんだろ?」


「そう簡単なことではありません。隷属契約を解消したその瞬間から、私はご主人様との記憶を全て失います。……そうなれば、ご主人様を襲い、殺してしまうのです」


「それは困るな……」


 赤竜には悪いが、開放するという選択肢は無くなった。あの時、俺は死の恐怖に震えた。……あんな思いはもう二度としたくないというのが本音だ。


「なにか良い方法はないのか?」


「あります。ご主人様が私の三人の子供にも隷属契約を結んでくだされば良いのです」


「お前はそれでいいのか? 生まれたばかりの子供を俺に預けるようなものじゃないのか?」


「構いません。ご主人様のような方に隷属するのなら、本望でございます」


 ……なぜに俺がそんなに信頼されているのかわからないが、減るものでもなさそうだし、断る理由がないか。


「わかった。それでお前が納得してくれるなら、それくらいはさせてもらうよ」


「ありがとうございます。……では、生まれてすぐに隷属契約をお願いします」


「了解だ」


 ◇


 巨大な親赤竜と卵を見守ること一時間。

 卵は徐々にヒビを増やし、一つ目の卵からは赤ちゃんドラゴンの足が伸びていた。

 自力で殻を破るまでは手を出せないらしく、ジッと見守る。


「なあ、赤竜」


「はい」


「チーロンって言いにくいからさ、名前をつけてもいいか?」


「な、名前ですか……!」


「嫌だったらいいんだ。……その、お前にも色々あるだろうしな」


「滅相もございません! ご主人様に名前をつけていただけるなんて感激でございます!」


「そ、そうなのか……?」


 名前を付けるとは言ったもの、なかなか良い案が浮かん来ない。そもそも俺のネーミングセンスって壊滅的なんだよな。下手に自分で考えるのはやめておこう。


「チーロ……お前の名前はチーロだ」


「チーロ……チーロ……チーロ……はい、しっかり覚えました! ありがとうございます」


「もう覚えたのか。チーロは頭がいいんだな」


「竜は頭が良いものです」


 チーロは誇らしげに答えた。


 それから程なくして、殻を破って小さな赤竜が出てきた。大きさ以外は大人の赤竜と同じなのだが、小さいというだけで可愛く見える。


「おめでとう、チーロ」


「ありがとうございます、ご主人様。……それでは、契約の方を」


「わかった」


 さっきチーロを契約した時の状況を思い出し、スキルを使うという『意思』を込めて叫ぶ。


「【強制隷属】!」


 ……これで良いのかな?

 チーロの時と違って、子供の赤竜は敵対の意思がなかった。だから、ちゃんと効いているのか不安になってしまう。


「これで良いのか?」


「はい、しっかり契約は完了しています」


「そうなのか」


 同じ流れで残り二つの卵から出てきた赤竜にもスキルを使い、隷属させた。

 三匹のドラゴンはそれぞれ特徴があった。


 一匹目は尻尾が青い。

 二匹目は尻尾が黄色い。

 三匹目は尻尾が赤い。


 それぞれの色で見分けることができそうだ。


「えーと……名前はそれぞれブルー、イエロー、レッドって感じかな」


 我ながら酷いネーミングセンスだ……。

 しかしチーロは大はしゃぎで喜んだ。


「ご主人様、ありがとうございます! ブルー、イエロー、レッドですね! しっかりと覚えました!」


「そういや、チーロはなんで俺をご主人様って呼ぶんだ?」


「それはだって、ご主人様ですから」


「俺の名前は瀬戸和也。カズヤって呼んでくれればいい。ちょっとご主人様呼びは気が引けてな」


「せめてカズヤ様と呼ばせていただきたく……」


「じゃあそれでいいよ。よろしく頼む」


「了解しました、カズヤ様」


 さすがは記憶力がいいチーロだ。もう俺の名前はしっかり覚えてくれたらしい。


「ちなみに、ここはどこなんだ?」


「ここは人里離れた場所……【赤竜の洞窟】でございます」


「近くには村はないのか?」


「この近くには……ありませんね。でも、私は空を飛べるのですぐにつきますよ!」


 チーロは鱗を纏った大きな羽をパタパタと揺らす。


「よし、じゃあ近くの村まで乗せて行ってくれ」


「ご命令とあらば、喜んで!」


 こうして、洞窟を出てすぐにチーロの背中に乗り、近くの村を目指すことになった。


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