№7 迫り来る脅威
今回の話は、少し短めになっております。
うう…しんどい。
僕達は今、剣のある丘に続く通路とは別の…見学者通路を歩いていた。
この道…剣のある丘に続く通路と比べて、こっちの方が少し大回りで険しい。
只でさえ蒸し暑い中、動き歩いているから余計辛い。
汗がダラダラと止まらないし…まだ目的地にも到着していないのに、もうヘトヘトだ。
汗をかき過ぎて、服が湿って気持ち悪く感じる。
ああ、風呂入りたい…
そして、風呂上がりの一杯!
特に、銭湯に入った後のラムネが又格別!
あ〜…思い出したら、無性にラムネが飲みたくなって来た。
そう思い出しながらも、飲む事すら叶わない現実に思わず、溜息を吐いた。
そんな様子を見たヴァースが「おい…大丈夫か? 後もうちょいだから、頑張れ!」と声を掛けて来る。
僕は、額と喉元の汗を拭きながら、ヴァースの方を向いて頷いた。
それから数分後…僕達は要約、見学者用に設けられた、見晴らしの良い丘に到着した。
其処には、僕の胸ぐらいはある、高さの木製の柵が張り巡らせていた。
その柵の向こう側を見下ろすと、丁度肉眼越しでも、下の様子がはっきりと分かるぐらいの高さだ。
ヴァースは、僕の隣で見下ろしながら「おぉ、やってるやってる!」と、片手を翳して言った。
僕も下の様子を見てみようか。
「はい…では、次の方どうぞ!」
「おおぅ、やっと順番が回ってきたぜ! 俺様は、此処いらじゃ~名の知れた喧嘩屋よ! 腕っ節には、自信があるんだ。こんな剣なんざぁ…簡単に抜いてやるよ!」
そう言うと顔のゴツイ男は、地面に刺さっている、剣の柄を両手でしっかり握りしめ、力強く引いた。
しかし、剣は全く動く気配もしない。歯を鳴らしながら、力尽くに引っ張ってもピクリともしなかった。
男の額には、太い血管が浮かび上がる程、頭に血が上り、大量の汗を流し、歯軋りしていた。
男は思わず、柄から手を放し、両手を膝に付けて、息切れしていると「はい、其処まで!」と、声が聞こえて来た。
そう…先程も、運営を担っていたスタッフの人達だ。
見ている限り、どうやら時間制限が与えられているそう…
そして、その時間が過ぎると、強制的に後退させられる訳だ。
確かに…此処まで行列が作られているのに、先に来た者が何時までも居たら、言い争いの原因になり兼ねない。
そう考えている内に、列に並んでいた人達は、次…また次へと挑戦するも、誰一人として抜く事が出来ていない。
それにしても、矢張りと言うべきか…あの剣の外見、間違えなく僕が描いた絵。
つまり、現化挿絵者だ。
そして、僕が描いた絵の中で唯一、剣をモチーフにしたイラストが有る。
それが正に、目の前にある剣だ。
正直…自分描いた物が、実物として存在している。それを嬉しいさの反面、恥ずかしくも感じる。
何とも言えぬ、複雑な心境なのだ。
そう言えば、何か腑に落ちない点が…
それは、剣の色合いだ。
そもそも、あの剣のデザインは…先程の騎士団達が持っていた剣の大きさは、ほぼ変わりはしないが、見栄えは日本刀その物だった。
そして先程も言った、剣の色合いについてだが…
この剣には、ある花をイメージにして描いた。それは華やかでありながらも、品のある美しさを兼ね備えていた…
しかし…今の剣には華やかさ処か、全体が錆付いて見える。
何故そんな風に、なってしまったのかは、良く分からない。
コレは直接、調べる必要があるかも知れないなぁ…
僕が、何かに気付いたのを察したのか?
横に居たヴァースが「どうかしたか?」と言い寄る。
僕は直ぐ様、返事を返した。
「いや、少し気になった事が有って。あれって、最も近くで観れないかな?」
「えぇ?それってもしかして………お前も、アレを受けてみたいって事か?」
「まぁ、ある意味…そうなるかな?」
「確かに此処に来てから、彼此1時間近くは経っているだろうし。見てても、あんまり面白みも無いから、暇だしな~」
ヴァースが欠伸をしながら言った後、笑みを浮かべる。
「よし! それなら、早く並びに行った方が良いな。俺は槍使いだから、お前の付添だって言えば、一緒に並べれるしな。そうと決まれば善は急げだぜ! あっ、そうだ…どうせ長い時間待たされるんだ。何か…下の出店の物を買ってから並ぼうぜ! その方が良いだろ?」
「うん!そうだ…」
僕が最後の語尾を言い掛けた……………その時だった。
ギイィェェェェェェェェェェェェェェェェェェン!!!
何処からか、腹の底から響く様な音が鳴り響き、地面をも揺らす。
音?いや…そんなものじゃない。コレは鳴き声、それも途轍もなく大きな生き物の…
そんな化物が、この世に実在するのも、此処が異世界だと言う事を物語っている。
すると、後ろからガシャンっと言う音が鳴り響く。
僕は思わず振り向くと、兵士の1人が、双眼鏡の様な道具を落とし、その際レンズが割れた音だった。
その後、ヴァースが駆け寄り「おい!大丈夫か?」と声を掛けると、兵士は悲鳴を上げながら、尻餅をついた。
兵士は、そのまま頭を抱えて「そんな、あり得ない!何故…あんなのが?」と震えながら小声で呟く。
兵士の問いに、疑問を抱くヴァースだったが、再び謎の鳴き声…いや、咆哮が鳴り響く。
先程のより、更に大きく聞こえてくる。
僕は慌てて、柵越しに辺りを見渡した。
そして、其処で見た物は…遠くの岩肌が溶け出し、溶岩化している光景…それは正に、火山帯その物だった。
僕は余りの光景に、息を飲み込み、目を晒す事が出来なかった。
何故なら、溶け出す溶岩の中に、怪物は居たのだから。
とある諺に"2度ある事は3度ある"と言う言葉がある。
どうやら僕は、3度目のトラブルに巻き込まれてしまった様だ。