№6 トラブル去って、又トラブル!
現在…僕達フリー・カラーズは、街の東門を通過した所だった。
この街ルーカスは、3つの門があり、それぞれ東・西・南に建てられている。ちなみに…僕らが街に入る際に通ったのが南門である。
そして目的地である”剣のある丘”は、東門を通った道の先に存在する。
暫く…その道を歩いて行くと、有る事に気が付く。
それは、同じ道を歩く者達の行動だった。
僕らと同じ方向へ向かう者…期待に胸を膨らませながら歩む者達。
しかし問題は、それとは異なる…擦れ違う者…街に引き返す者達だ。
その者達…全員が、目的を果たせずに街へと帰って行く。悔しがる者…落ち込む者…そして自身の思い通りにならず、イラ立ちを見せながら、吐き捨てて帰る者までいた。(此方に関しては、特に貴族等の裕福な格好をした人達が殆どだった)
中には、すれ違う際に、大怪我をして街へ運ばれて行く者も数人見掛けた。
運ばれる際、痛々しいそうな呻き声を上げていた。
それを見て…流石のヴァースも「うわぁ…えげつねぇな~」と同情していた程だった。
僕も思わず、両手で目元を直ぐに隠す程、傷跡が痛々しい物だった。
どうしたら、吹っ飛ばされるだけで、あそこまで傷が付くのか…考えただけで鳥肌が立つ。
うう…恐ろしや恐ろしや。
そんな事を考えながら歩き続けて、早数分後…漸く目的地である丘の麓が見えて来た。
◇◇◇
僕達は今、丘の麓に到着した所なんだが…
「何だコレは~!?」
其処で僕が目にしたのは、夥しい数の屋台が立ち並ぶ。
其れは、まるで…前の世界で在った、下町のお祭でよく観掛ける光景その物だった。
そして奥には、遠くからでも解るぐらいの行列が続いていた。
僕達一向は、その行列が在る所へ向かって歩き始める。
道中、屋台で売られていた食べ物を幾つか買い、食べ歩きながら進む。
「それにしても、やっぱり…近くに火山帯が在るせいか、少し蒸し暑く感じるなぁ」
ヴァースは、手元で持ち遊んでいた果実を、噛り付きながらそう言った。
実際に、此処から火山帯までの距離は、約数キロ程…離れた場所に位置する。
それでも此処まで熱気が伝わって来る。
そして火山帯には、炎系の魔物が住み着いており、話に依れば…其処の主足りうる存在が目撃されている。
それが”サラマンドラ”である。
サラマンドラは、外見が炎を纏うオオトカゲ。大型の魔物にして、C~Bランクの冒険者が束に掛かって、やっと倒せるかどうかのレベル。
一番の特徴は、身体の隅々まで覆われた鱗。
然も只の鱗では無い…超高熱を発する鱗は、凡そ一億℃にもなり、サラマンドラが歩いた後の地面は、赤く溶け出している。生半可な武器では、直ぐに溶かされてしまい使い物にならなくなる。
正に”マグマの申し子”と呼ばれるのに相応しい。
そんな話を続けている間に到着していた。
剣の在る頂上まで続く道に、物凄い数の人々が長蛇の列を作り、並び立っている。
最後尾には、帽子を被った男が看板を掲げ、立っていた。
他にも、同じ帽子を被った人達が数人、周囲を徘徊している。
恐らく、此処のスタッフ的な存在だろう。
此処まで人が、剣を求めて集まって来るんだ…問題の一つや二つ、起きても可笑しく無い。
そう考えていると、ヴァースが見学用の道を見付け出す。
僕達は、その道を向かって走り出した。
しかし、それがいけなかったのかも知れない。
何故なら、僕は又も同じ失敗を繰り返したのである。
そう…又人に打つかってしまったのだ。
自分で言うのも何だけど、全く学習しないなぁ…僕は。
そして僕は、打つかった際に尻餅を付いた。
アイタタ…と、僕は痛む尻を摩っていると、前から「…オイ!」と言う声が聞こえて来る。
僕は、ゆっくりと顔を見上げると、此方を睨み付ける影が5つ在った。
先程、ギルドに居た3人組とは全く違い。今度は、銀色の鎧を着た男達であった。
中でも一番ヤバかったのは、奥に居た男だ。
その男は、前に居る4人とは違う…白銀の鎧に白いマント。そして腰には、立派な剣を下げていた。
美しい金髪は、肩ぐらいまであり、透き通った白い肌に、翡翠色の瞳を持つ。その男は、まるで絵に描いた様な美青年だった。
しかし何故か…真ん中分けされた前髪から見えていたのは、眉間の皺と目元に濃い影が付くぐらいの鋭過ぎる程の目付きだった。
然も…そんな目で、物凄い勢いで睨み付けられている。
確かに打つかったのは、こっちに非が有るけども…何だ…この状況。
ギルドに居た3人組よりも怖過ぎる!
どうしよう…ここ等一体は暑い筈なのに、冷や汗が止まらない。
直ぐに謝りたいのに、全身が萎縮して上手く言葉が出ない。
「オイ貴様!我らに打つかって来るとは、不届き物め…!」
「今直ぐにでも、切り刻んでくれる!」
「!!」
僕が口元を震わせている間に、前に居た4人が手元を剣に添えて構えた。
その時、助け舟が来たかの様に、ヴァースが横から割り込んで来た。
「なっ…何者だ!」
「俺は只の冒険者に過ぎない。それより…うちの連れが面倒掛けて済まない。此処は俺の顔に免じて、この場を治めて貰えないだろうか」
鎧を着た男の問いに、ヴァースが答えながらも提案をすると、前に立って居た鎧を着た4人の男達が、ヴァースを睨み付けた。
「何だ?その物言いは…リバル様に対し無礼であるぞ!」
「このお方を誰と心得る。公爵家の三男にして次期騎士団長。リバル・バージェスト様であらせられるぞ!」
鎧を着た男達は、後ろに居た美青年の前を開け、手を差し出しながら説明する。
どうやら…この集団は、何処かの所の騎士団らしい。
然も公爵と言えば、貴族の中でもかなり高い地位を持つ。
そして見た目からして、僕とそんなに変わらないのに、次期騎士団長とか…正にエリートって感じがする。
すると、その後美青年…次期騎士団長様が部下達に「よせ…」と声を掛ける。
「しかし、リバル様!」
「…まだ気付かぬか?」
彼の言葉に部下達は、ヴァースの待っている槍を見ると、一瞬にして顔色を変えた。
そして彼は、そのままヴァースの方を向き、問い掛ける。
「その槍…貴殿が、あの"赤槍のヴァース"だな?」
「ああ、そうだ」
2人会話に部下達は、慌てた表情で騒めき始める。
どうやらヴァースの名は、騎士達の間でも有名らしい。
すると次期騎士団長様は、眉間に皺を寄せ、一つ溜息をした後、言葉を返して来た。
「成る程…確かに貴殿と敵対するのは、不利益だな。それに此方も、虫の居所が悪く…不手際があったのも事実。よって、貴殿の顔に免じて、この場を引こう」
そう言うと、部下達に撤退を言い渡していた。
そして僕達に軽く一礼すると、直ぐに立ち去ってしまった。
去り際に、次期騎士団長様が「こんな暑苦しい所、居るに耐えん。お前達…さっさとこの場から立ち去るぞ!」と、部下達に告げていたのは、僕達の耳からは届いてはいなかった。
その後…彼らが遠ざかって行くと、ヴァースは片手に持っていた槍を両手に持ち替え、そして翳したまま背伸びをし始めた。
「いや~しかし驚いたなぁ。まさか、騎士団まで訪れていたとは…」
「うん…特に、あの次期騎士団長様って言う人。物凄い目付きで、こっちに向いて睨んで来るから正直怖かったよ」
「ああ、そうだな~。出て来た方向から推測すると…多分、お目当ての剣が手に入らず、機嫌を損ねていたんだろうよ」
「へぇー…」
「まぁ、それにしても…さっきと言いギルドと言い、お前も難儀だよな~」
「あはは…(棒読み)」
そう言いながら、ヴァースは翳していた槍を戻し、笑みを浮かべながら、僕の肩の上に腕を乗せる。
こうして僕は、又も起きてしまったトラブルを、何とか乗り越えたのであった。
本当、勘弁してほしい…




