DQが最初だと思う
「盗賊キンダダを知っているか?」
老人に尋ねられた時、僕は肉を齧っている処だった。慌てて飲み込もうとしたが、それが裏目に出た。
「キンダダって、キンダダ団頭目かい?」
横ビールを飲んでいたユースケが代わりに答えてくれた。
「そうじゃ」
老人は断りも無く、僕達のテーブルに着く。ルシアはちょっと迷惑そうにそっぽを向く。
「キンダダを捕えてはくれぬか?」
老人はせっかちだ。物事には順序がある事くらい子供だってわかる。
「いいぜ。でも難題だね、高いぜ」
順序を無視する奴は老人、子供だけでは無かったようだ。我がパーティ切り込み隊長、武闘家トンタも手順を無視した。
「トンタ、勝手に決めちゃ駄目よ」
パルソナがトンタを戒める。
「へーいへい、悪うござんした」
トンタが反論しないのは保身の為だ。パルソナの攻撃魔法は『はぐれ大樽』でも回避不可能な素早さと破壊力がある。
「で、トウマスはどう思う?」
肉がなかなか飲み込めずに、ルシアに答えるのにも少し手間取った。
「まず、理由を聞こうよ」
そうね、当然だ、と頷くメンバーと、いいや、面倒だ。うっちやれ、と横を向くメンバーで二分される。
このパーティの不安な点だ。
「で、早く、お話し」
パルソナが毒針を老人の喉に当てる。パルソナは毒針の扱いも上手で急所を必ず、貫く。
「キンダダは悪い奴です」
パルソナの脅しが効きすぎの様だ。機転の利くユースケが和やかにしようと老人の分のビールを注文する。
「まあ、これでも飲んで。そう固くならずに」
ポンポンと老人の肩をたたくユースケはフレンドリーな戦士だ。
「ありがとうございます。ごくごく、ふー」
見事な飲みっぷりで、皆見とれてしまった。
「爺しゃん、飲めるねー。見直ちた。話なんか、後だ。飲もうぜ」
ルシアの呂律の回らない。
「いつの間に、酔ったんだ?」
トンタも気が付かないほどの早業注文で、ルシアは上機嫌だ。足をばたつかせると、足元に隠されていた酒瓶がゴロゴロと転がりだす。
「おーい。ビール、焼酎、ウイスキー、なんでも全部持ってきて!」
ルシアの叫びに店内がどよめく。
「やばいんじゃない?」
凸凹チームとはいえ、いくつかの修羅場をくぐった仲間だ。特に、僕とユースケとトンタはフロントの立場だ。その為か、思考回路が似ているのだろう。だから、この場合も同じことを考えていた。
「ここらが、潮時かな」
「そうだ」「まちがいない」
「じゃあ、止めなきゃ」
「そうだ」「まちがいない」
「で、誰が止めるの?僕?」
「そうだ」「間違いない?」
パーティの代表者なんて厄介事の対応要員でしかないと思う。死んだ仲間を蘇らせたり、毒の池で痛い思いをしながら鏡を探す、そんな事ばかりさせられる。
「ちょっと、ルシア。飲み過ぎなんじゃない…」
「ヤッカましー!!!」
近距離で飛んでくるトゲトゲの呪文を避けるのが精一杯だった。装備も解いていた事もあり、周囲を考える余裕が無かった。ふにゃらと朱に染まったルシアが倒れた後、見渡すと死屍遜存の現状だ。
「やばすぎでしょ」
今回は誰もが無条件で頷く。一糸乱れぬ意思疎通などは、このパーティではとても珍しい事だ。
「キンダダを…」
「喧しい!シャラップ!」
ユースケとトンタが爺さんを蹴とばす。
酒場での情報収集はトラブルが多いです。