小人
コンビニから出ると、うずくまる小人がいた。
「何をしているの?」
僕は尋ねる。
「待って居れば、出会えると思っているの」
僕には何の事だか分からない。
「誰かを待って居るって事?」
「違うよ」
小人の言葉がよく理解できていないのか、僕は多少、判断に困る。いや、できない。
「でも、何かを待って居るのでしょう?」
「だから、違うよ」
小人は僕の顔を見上げていった。
「待って居る訳じゃない。出会えると思っているの」
小人の目はブルーで、中心部の黒目は緑色だった。人間の目とは異なる色をしている。ふと、彼らの目から見たら世界はどのように見えるのであろうか、と思う。
「誰と出会えると思っているのかな?」
コンビニの出入りは激しく、僕達はその度に隅の方へ追いやられる。
「小人では無いの」
小さなとんがり帽子から溢れた髪の毛に気づき、小人が彼女だと知る。
「じゃあ人間なの?」
「人間でも無いわ」
頭を揺するたび、帽子の先端が揺れ、とがった耳に下がるピアスが僕の目をチクリと刺すような光を放った。細めた目が再び見上げた彼女の目と合わさった時、瞳の中の緑色に吸い寄せられる自分を感じた。
「正直、私にも分からないの」
緑の世界が僕の頭の中に広がる。
「であったと思った瞬間、皆、消えてしまうんですもの」
緑色の空間に佇み、彼女の言葉を聞いていた。
「出会った小人も、小鬼も、人間も、動物も、みんな目の前から消えてしまうの」
がさり、とコンビニの袋が足元に落ちた。完全には失っていない思考が僕の中にはある。それが周囲の状況を把握していた。コンビニ前なのに、行き交う人々が沢山いる筈なのに、誰からの反応も無い。誰も僕の異変に気が付いていないのだろうか。
これでは本当に彼女の緑色の世界に引き込まれてしまったのと同じである。この世界で僕は世界で一人になったのだ。なってしまったのだ。
「今、独りだと思ったでしょ」
聞こえるのは彼女の声だけだ。彼女だけが僕を認識しているように思えた。
「でも、誰もが一人で無い、孤独では無いって言うじゃない」
声は続く。
「だから、私はその人と必ず出会う筈」
緑の空間に漂う自分が見える。空間は緑、ブルーと弾けるような、うねるような変化を繰り返す。
― これからどうなるのだろう。
僅かに残った思考で考える。現実の世界には僕の体が有るだろう。コン
ビニの入口脇のはずれで縮こまっている。行き交う人々の視線でさらに縮こまる。
― そうだ。
僕は小人の顔を思い出す。ブルーの目を、緑色をした黒目をはっきりと思い出す。
同じで無い事は罪であろうか。同じ瞳、同じ目の色、耳の形、体長や体重、嗜好品や食べ物。違うだけ、自分と異なるだけで威圧的な視線、刺される様な眼光を発する生き物たち。
― 出会う筈だ。
僕もそう思う事にした。体は縮み、小人になっていく僕の体。彼女からははいつの間にか解放された。
聞こえていた言葉もしなくなった。残ったのは彼女の黒目の色、緑の世界だった。
― 出会う筈。
僕はもう一度、思った。消えないモノとの出会いは必ずある。