未来‐ユメ‐
「俺、プロの野球選手になるんだ!」
教室で進路の話が出るたびに、隣の席のソイツは屈託無く笑ってそう言う。
高3にもなって、こいつは馬鹿なのか?と、その言葉を聴くたびに思った。
「わかったよ」
だから、そんな風にいつも受け流していた。
もう18歳だ。そんな現実味の無いことを言ってるのはコイツぐらいのもので、皆、やれ進学やら、やれ就職やらで頭を抱えていた。もちろん俺もそう。学校に来ている求人票から、就職先を探すので躍起になっていた。そのせいか、プロ野球選手になると言うソイツの坊主頭をぶん殴りたくもなったものだ。
確かに、その馬鹿は野球が上手かった。うちの学校でも一二を争うほどだ。だが、甲子園に行くこともない弱小高校だ。その中で上手いと言っても高が知れている。
結局その馬鹿は、俺が就職試験を受ける頃まで同じ事を言っていた。
それだけじゃなく、元プロ野球選手がやっている実業団に登録し、バイトも始めた。
それを横目に、俺は就職試験に集中していた。いや、集中しようとしていた。そう言ったほうが正確だったかもしれない。
そんな風に言う理由は、胸の中に何かしこりがあったからだ。それは自分の中ではどうしようもなく、就職試験に集中するという形で忘れようとしていたのかもしれない。
だがその気持ちも、だんだんと試験が近くなるにつれて忘れてしまった。試験への緊張でいっぱいになっていたのだ。
そして、月日は流れて就職試験は終わった。
結果は不合格だった。
何がいけなかったのかは分からない。だが全力は尽くした。……そうは言っても、やはり悔しいのが事実だった。そして、これからどうしていいのかも分からなかった。
次の会社を受けるのか、専門学校へ進むのか、はたまた大学か……。
そんな時だった、「もう少し自分のやりたいことを考えろ」とある人にそう言われたのは。
その言葉を言われてハッとした。あの時の、試験を受ける前の胸の中のしこりを思い出した。
それと同時に、俺の隣の席で馬鹿な事を言っていた奴の顔を見直した。あいつの屈託ない笑顔の意味を考え直した。
そして何より自分を見直した。
本当に試験を受けた会社で仕事がしたかったのか。
本当に自分のしたい事はなんなのか。
「俺、プロの野球選手になるんだ!」
そう言っても、そんな夢みたいなわがままを言ってもいいのかもしれない。
--fin.