CASE.EX そして最後に、彼女は”かく”
タイトル通り、これはちょっとした特殊回ですね。
ストーリーに影響するけど……的なものです。なので短めに。
街と王国が協力して行ったモンスター掃討戦は、想定より遥かに少ない犠牲で終結した。しかし、それでも犠牲者がゼロという訳では無い。
帰らぬ人となった冒険者の親族に対して、ギルドは向こう二十年は遊んで暮らせる程の大金を支払ったらしい。普段なら有り得ない事だけど、今回は異常事態だからだと思う。
それにあのラドーガさんの事だ、ちゃっかり王国から支払った分のお金をせびるだろうし。
そう言えば、この掃討戦って元々王国が張った結界がいとも簡単に破られたのが原因なのよね。それを考えればこの街が負ってしまった負債は全部王国が支払うべき。寧ろそれでも足りないかも。
……掃討戦は無事に終わったかもしれない。けど、アタシはそれで満足は出来なかった。
理由としては、アタシ達の前に突如として現れたエルダーリッチ。
有り得なかった。そもそも魔大陸にしか存在しない筈の、伝記とかでしか名前を聞かない様なモンスターが何故こんな所にいるのか、不思議でならなかった。
そのエルダーリッチはアタシ達をさんざん困惑させた挙句、どこかに行ってしまった。その時一緒に居たセラス様が「深追いは禁物です」と言ったせいで逃がしてしまったのだけど、今考えたら当然の反応よね。追ったとしてもアタシは役に立たないし、敵よりも負傷者を優先するべきだもの。
もう一つ、アタシが最もムカついた事がある。
イスミが別大陸に行ってしまった。だけどこうなる事は前から分かっていた。というのも、エルダーリッチに襲われたその日に、セラスさんから直接教えられた。
イスミは異世界人、それも無限の可能性を秘めた人間。権力者がその事を知れば我が物にしようと動くのが権力者の性。誰だって分かる。
だから、イスミがこの街を離れて別の大陸に行って身を顰める、というのも理解出来るし、それ自体に怒るつもりはない。
アタシが怒っているのは、それについて行けなかった私の立場に対して。
名の知れた貴族の生まれだから、不用意に外の大陸に向かうと王国が根掘り葉掘り聞いてくるかもしれない。そんな事をセラス様に言われた時は頭が真っ白になった。
頭では理解出来る。名前の通っているアタシが一緒について行ったら本末転倒だからね。
でも、だからってそう簡単に諦めがつかなかった。だってアタシが原因じゃなくて、アタシの”生まれ”が原因なんだもの。アタシがただの一般人なら……なんて、考えるだけ無駄だって分かってるけど何度も考えてしまったわ。
正直、ここまでイスミに依存しちゃうとは思ってもなかった。けど、仕方ないのよっ。イスミが甘い言葉ばっかり言って来るからっ!!
……ううん、それは建前。本音は──恥ずかしいから口にするのも紙に書くのもダメね。
っと、話が脱線したけど、そう。アタシはアタシに怒ってる、凄くムカついてる。けど、この怒りは大切にしようと思う。現に、ここ数日のアタシの原動力の一部はそれだもの。
原動力の殆どは、一年後にイスミが帰って来る事。それまで、アタシはアタシのするべき事をしなければ……
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コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。慌てて日記帳を机の引き出しに仕舞い鍵を掛けた頃には、既に見知った顔が部屋に入っていた。
「オルカお嬢様、そろそろお時間です」
「分かっているわ。ムルメは先に向かっていなさい」
「かしこまりました」
アタシが部屋を出るよう口にすると、素直に部屋を出て行った。普段は堅物なのに、こういった事は素直に聞くのよね……
ちょっと散らかってしまっている机の上を軽く整理して、筆記具だけを持って席を立つ。
「……一年。たった一年だけの我慢よ……っ」
我慢する事には慣れている。永遠に続きそうな孤独地獄を耐えて来たんだもの、我慢する期間が分かっている時点で随分と気が楽になる。
かと言って、どんな事でも耐え続けるのはしんどい事。だから、今度イスミに会ったら、その時は全力で愚痴ってやるんだから。そう心に決めたアタシは、無意識のうちに力強く一歩を踏み出していた。
────ちょうど一年後の約束の日。アタシとイスミが出会う事は無かった。
……この流れは一体どうなるのか!?
オルカお嬢様だと!? イスミとはどうなるんだ!?
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