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CASE.38 モンスター掃討戦<3>

定期的に読んで下さっている読者の皆様!!

残す所あと一話、それにて一章完結となります!!

今話と次話をお楽しみに\(°Д° )/






 オーガ達との混戦の最中、俺はまさしく”異常”と呼べる光景に目を奪われていた。




「……マジ、かよ」




 たった一度のブレスで大地を灰に変えるようなヘルフレイムドラゴンを、ラドーガさんは圧倒(・・)していたのだ。


 灼熱の炎を躱し、正面から尻尾が薙ぎ払われるタイミングで体内に滑り込み、持ち前の剣で右から左へ、左から右へとその巨躯を切り裂いていく。傷が増える度、敵は耳を劈くような悲鳴を上げていた。

 だけど、何より凄いのは、金属よりも硬いとされる龍の鱗をいとも容易く切り裂いている事。それを可能にしている、ラドーガさんの手に吸い付いている朱色の剣だろう。




(……まさか、対龍用武器?)




 そう考えた途端、今までのラドーガさんの言動が全て腑に落ちた。対龍用武器という名前からしても、他の種類のモンスターに使っても威力を発揮しないのだろう。


 次第にスポーンするモンスターの数も減り、地面にオーガの核らしき物が散乱し始めた頃。大きな土煙と共に、大地が激しく振動した。




「うぉっ……!?」




 音のした方へ振り返ると、そこには全身切り刻まれ地に伏す黒龍の姿と、その首元に剣をかけるラドーガさんがいた。




「ラドーガさん、やったんですね」


「ん? おぉイスミか。見ての通りだよ」


「……その剣は、対龍用武器なんですね」


「まぁそれに近いな。この剣は赤龍・イフリートの素材を使っててな、龍相手にはダメージが倍加するんだけど、他のモンスターにはまるで効きやしない、ちょっと特殊な武器なんだわ」


「へぇ……」




 そんな武器があるのかと、少し興味をそそる話を聞いた所で、ヘッヅさん達も集まって来た。




「ラドーガ、スポーンがかなり減ってる。出現するモンスターも通常に戻りつつあるぞ」


「そうか。じゃあ後は王国に任せる手はずだったな」


「よし、なら戻った冒険者達を呼んで──────」「ヘッヅラドーガ危ないっ!!!!」




 リーンさんが叫ぶ。何事だと思っていると、ラドーガさんとヘッヅさんが宙を舞っていた(・・・・・・・)




「……え?」




 余りに一瞬の出来事だったため俺は全く動けず、ただ目の前の風景が急激な変化を迎えた事に唖然とするしかなかった。


 ラドーガさんとヘッヅさんが吹き飛ばされた。二人が立っていた場所と入れ替わるようにして、先程まで倒れていたヘルフレイムドラゴンの腕が突き出ていた事から、何が起きたのかは想像がついた。




「ラドーガさん!! ヘッヅさん!!」


「イスミさんは目の前の敵を!! 二人共無事です!!」




 飛ばされた二人の所に駆け寄ろうとすると、先に二人に駆け寄っていたセラスさんに制止させられる。

 あれだけ強烈な攻撃を受けておいて、二人共無事なのが物凄く変に感じたけど、今はセラスさんの言う通り目の前の敵を相手にしなければならない。




「……あれだけ斬られて動けるとか、筋肉ダルマかよ」


「グォォォォオォォォォッ!!!!」




 二人共無事とはいえ、衝撃が脳に届いたのか気絶してしまっている。その為少しでも二人から注意を逸らそうとヘルフレイムドラゴンを軽く挑発したんだけど……メチャクチャ怒ってる。言葉が通じた?


 言葉が通じたかどうかは別として、こちらに完全に殺意を向けているヘルフレイムドラゴンと戦うべく構えると、どこからともなく現れた赤や青の光球が俺を包み始めた。




「────(たけ)るは炎。鎮まるは氷。二重魔法(デュアルマジック)『バーンアップ・アイスレジスト』」


「……リーンさん?」


「攻防を強化しておいたわ。支援は私がしてあげるから、とっとと首を落としてやりなさい」




 不敵な笑みを浮かべたリーンさんは、続けて何かしらの詠唱を始めていた。

 今まで一度も後方からの魔法支援を受けた事が無いので、今は少し変な感覚である。悪い感覚では無いのは確か。


 続けてリーンさんの詠唱による効果を受けようとしていると、敵がこちらの動きを理解したらしく、速攻を仕掛けて来た。




「ガァァァッ!!!!」

「ふっ!!」




 自分の身体より太い腕が振り下ろされるのをしっかりと回避し、相手の懐に入り込む。ヘルフレイムドラゴンは体や翼に受けた傷の所為で思うように動けない為、接近されると対処に時間が掛かってしまう。条件としては、圧倒的なまでにこちらが有利だ。



 腹を斬る。腕を斬る。一振りの重みを分け与える様に、敵が愚直に、無防備になるのを引き出す為に。



 そうして、ヘルフレイムドラゴンは自分の腹下でちょこまかと斬り付けてくる俺をウザったらしくなり、長い首を捻り口をこちらに向けて来た。

────絶好のチャンスだった。




「っ────”フロースラッシュ”!!」


「ガァァァ────」




────たとえどんな相手でも、攻撃をする際は一定方向に力の流れが発生する。それが素手であれ、武器であれ、魔法であれ。そしてその力に逆らうには、より大きな力が必要になる。

 それは即ち、力に逆らわなければ必要以上の力を使わずに攻撃が可能だという事。俺がセラスさんから教わった技の一つが、それだった。



 ”フロースラッシュ”は、敵の攻撃の流れを見、それと同じ方向に袈裟斬りを繰り出す技である。

セラスさん曰く

「相手の動きに合わせる剣術は、相手の動揺を誘うのが大きなメリットの一つです。これを完全にマスター出来た時、貴方は相手の動きを読み解いた上で動揺を誘うという、優位に事を運ばせる術を得るでしょう」

との事。



 流石に数日でそこまでには至らなかったけど、相手の行動に合わせて斬る術は何とか形になった。その結果が、俺の足元に転がる、口を開いたままの(ヘルフレイムドラゴン)の頭部だった。


 頭が切り離された胴体が俺を押し潰さんと倒れてくる。しかし、それより早く光の粒子に分解され、地面に吸い込まれていった。




「────あら、案外あっさりと倒しちゃったのね」




 いつの間にか詠唱を止めていたリーンさんが、俺の方に声を掛けてくる。というか最初の魔法補助以外で魔法を使って無かったような。どれだけ長い詠唱をしていたんだ?


 いや、そんな事よりも。


 俺は剣を鞘に納めると、リーンさんと一緒に治療に専念していたセラスさんの元へと駆け寄る。

 周囲のドロップアイテムが増えている事から、二人の相手をしながら近付いてきたモンスターを狩っていたのだろう。相変わらず桁違いな強さだ。




「セラスさん」


「お疲れ様です、イスミさん、リーン。

……二人ならもうすぐ目を覚ますと思います」




 要点だけ告げると、セラスさんは地面に横たわる二人から手を離す。


 それから少し経って、ラドーガさんとヘッヅさんが目を覚ました。




「……うっ」


「……はっ、掃討戦は──痛たっ!?」


「急に激しく動くからです。それに、こちら側の掃討戦は恐らく終わりでしょう」




 セラスさんから吹き飛ばされた後の話を聞かされた二人は、終始驚いた様な目で俺を見ていた。




「そっか、イスミお前が倒したのか」


「殆どラドーガさんの手柄ですけどね。死にかけを倒しただけですし」


「何言ってんだ。そんじょそこらの冒険者じゃ死にかけすら倒せねーよ。

……で、その剣は役に立ったか?」




 そう言ってラドーガさんは俺の腰に差してある剣を指差す。

 黒紫の鈍い煌き方をするこの剣はラドーガさんからの贈り物で、本当はセラスさんの稽古が終わった時に褒美として渡される予定だったらしい。

 剣の名前は”レラ”と言うらしく、切れ味はそこそこだが、特殊な金属を使用している為に最高レベルの強度を有しているらしい。何でも武器を壊しやすい俺に、との事だけど余計な心配だ。雑な扱いは控えるつもりだ。




「はい、凄く使いやすかったです。

……でも、こんなに良い物を本当にタダで貰って良いんですか?」


「まぁ、迷宮の下層で簡単に手に入るからな。それに今日から一年も会えなくなるんだ、餞別だと思ってくれ」


「あ、ありがとうございます」


「……そろそろ王国側の方も片が付きそうですね。

イスミさん、後はラドーガ達に任せて私達は移動を」




 初めて俺と会った時と同じ様に、紫色の目で王国の方を見つめてそう呟くセラスさんは、ラドーガさん達に幾つかの小瓶を手渡し、俺の手を引いて街の方へと向かって歩きだそうとした。




「イスミ!! 向こうでも頑張れよ!!」

「ボウズ、今度会ったら手合わせしようぜ!!」

「何言ってんのよ、先に私の被験体に────あっ、無理はするんじゃないわよ!!」


「ラドーガさん、それに二人まで……」




 短い期間だったけど、この人達と出会えて本当に良かった。その事を噛み締めて、俺はセラスさんに引っ張られる方へと歩き出すのだった。





手負いとはいえ、ヘルフレイムドラゴンを討伐したイスミ。

相変わらずセラスさんは強いっ!!



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