CASE.33 死の軍勢
前回言うの忘れてましたが、総合100pts突破しました!!
……え、言うの遅い? はっはっは。気にしたら負けだ^^;
衛兵が無惨な状態なのを確認した俺達はまず、周囲を注意深く見回した。だけど、これと言って変わった物は無い。ただ────状況の所為か、妙に肌寒く感じてしまう。
「嫌な感じね……イスミ、取り敢えず今はこの衛兵さんを担いで街に────」
「待って!!」
彼女も俺と同じ様に周囲から不気味な気配を感じ取ったのだろう、すぐにその場から離れようと俺に声を掛けていた。だけど、どうやら少し遅かったようだ。
『ほぉ……虫けら二匹が餌にかかったか』
「っ!?」「きゃぁっ!?」
地面をすり抜ける様にして現れた、異形の者。まるで自分が闇だと言わんばかりの漆黒のローブを纏い、紅緋や蒼碧の宝玉が煌めく指輪を幾つも嵌められた手で握られるのは、黄金の錫杖。そして、当の本人は──────
「────スケルトン?」
そう、見た目は墓場で沸くあの白骨骸骨モンスター・スケルトンなのだ。スケルトンが貴族の装いをした、ぱっと見そんな感じだった。
と、相手の観察をしていると、その異形の者はどうやら俺の言葉に引っかかりを憶えたらしく、あからさまに怒りの雰囲気を纏っていた。
『スケルトンだと? そんな矮小な奴と一緒にするでないわ!!
我はエルダーリッチ、アンデット系最上位のモンスターだっ!!』
「え、エルダーリッチッ!?」
「……オルカちゃん、知ってるの?」
「何で知らないのよっ!? って、知らなくて当然ね。
……話を聞いた程度だけど、エルダーリッチは魔大陸にしか生息しないSランクモンスターで、伝説級の魔法使いと同じぐらいの魔力を有している、らしいわ。ドラゴン系と同じかそれ以上の火力を持つって話もあるわ」
「規格外の化け物って訳かよ……」
『漸く我の偉大さに気が付いたか。しかしそれも手遅れというもの!!』
バッ、と振りかざされた錫杖はどんよりとした光を放ち始め、そしてそれは重力に従う様に地面に吸収されていく。
「な、何を────」
『我にとってお前達を倒すのは苦ではない。だが一瞬で倒してしまっても興が覚めるというもの。
故に、お前達の相手は我の配下の者にさせようと思ってな』
錫杖から光が漏れなくなると同時に、俺は周囲の地面に何かが潜んでいる気配を感じとった。
その気配の正体がエルダーリッチと同じ様に地面をすり抜けて出て来た時、俺は、俺達は自分が対峙した相手の強大さを嫌にでも知らされてしまった。
「────何だよこの数!?」「い、いやぁっ!?」
地面の下から姿を見せたのは、蜥蜴のような骨格をしているのと両手に持つ骨製の短剣が特徴的な、スケルトンに似たモンスター。
もしそのモンスターが一体や二体だけで出て来たら、俺もオルカちゃんも大して驚きを見せなかっただろう。だけど、俺達が悲鳴を上げてしまっていたのは、周囲一帯を埋め尽くす程にコイツが沸いて出て来たからだった。
『はっはっは。どうやら我の力は十全に発揮されている様だなっ。
これだけの数のスケルトンリザードが居れば、お前達程度を蹂躙するのは時間の問題』
「くっ……」「い、イスミ……」
下賤な笑いを見せるエルダーリッチ。確かに、この数を一度に相手にするのは厳しいし、何より敵一体一体の強さが不明な以上、下手な行動を取るわけにはいかない。
隣ではオルカちゃんが俺の裾を皺が出来るまで力一杯摘まんでいた。こんな威圧的な光景が唐突に目の前に広がれば、怖くなるのも仕方ない。
「……大丈夫、要は倒せばいいんだから」
「い、イスミ……?」
俺は裾にある彼女の手を優しく剥がすと、スケルトンリザードに埋もれている筈なのに存在感を放つエルダーリッチに向かって声を発した。
「おいエルダーリッチ!!
戦闘能力の無い女の子を数と力の暴力で甚振るのは楽しいかっ!!」
『……何が言いたい』
「ここにいるオルカちゃんは戦闘が出来ない。そんな奴を倒しても、お前の力を示す事にはならないだろ?
……だから、彼女だけはこの場所から遠ざけてやって欲しい」
「イスミ!? ちょっとあんた何言って────」
『……ふむ、お前の言い分は良く分かった。
我も自分の力を試したいが故、力の無い虫けら一人消える事ぐらい些末な事だ』
そう告げると、俺達を取り囲んでいたスケルトンリザードがもぞもぞ動き出し、人が十分通れる道を開けていた。
『脆弱な小娘よ、その道を通りどこまでも逃げるが良い。文字通りどこまでも、な』
「っ……あ、アタシは……」
「オルカちゃん、行ってくれ」
「い、イスミ……?」
「……分かってるだろ? オルカちゃんは、ここに居ない方がいいって」
「っ……!! 絶対、絶対戻って来てやるんだからっ!!」
涙目になって訴えるオルカちゃんは、唇を噛み締めて走り去っていった。
これでいい。こうでもしないと、オルカちゃんはまた自分の事を責める事になる。
「……攻撃しないんだな」
律儀にもオルカちゃんの影が見えなくなるまで大人しく見守っていたエルダーリッチに皮肉を言うと、何がおかしいのかカラカラと笑い声をあげた。
『はっ、良く言う。どうせそんな事をしても徒労に終わるのは目に見えとるわ。その為に剣を抜いたのだろう?』
「……」
このエルダーリッチ、モンスターのくせに人の心を読んでくる。……いや、そんな事より。
『奴がいい撒き餌になるとも思えんが、一応そのつもりでもお前の戯れ言に乗ってやったのだがな。
さぁ、お前の願いは通してやった。構えよ。そして、我の軍勢に呑まれるが良い!!』
「っ!!」
エルダーリッチが高々とあげた声に合わせて、周囲のスケルトンリザードは俺目掛けて一斉に襲い掛かってきた。
──────まだ負ける訳にはいかない。
俺は、自分の為にたった一本の剣を握りしめ、終わりの見えない戦いに身を沈めていった。
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視界に城壁が見えた時、私は涙が止まらなかった。
あいつに戦線から外されたのが悔しいから?
あいつと一緒に戦えない自分が不甲斐ないから?
あいつに救われて安心したから?
……どれも違う。この気持ちは、「不安」だ。
「ううっ……グズッ……」
涙で前が見えないけれど、それでも城門の位置ぐらいは把握出来ている。いつもあいつと通っている場所だから。
「おっ、誰が走ってくるのかと思ったらオルカちゃんじゃないか────って、どうかしたのか?
それに、イスミはどうした?」
門の下までやって来た時、声を掛けてくれたのは門番のおっさんだった。
人がいる、その事にとめどなく安堵を覚える私だけど、でも今は足を止めている場合じゃなかった。
「……ごめん、今急いでるの」
「そ、そうか。なら今門を開けるな?
あ、今度でいいから────」
門が開いたと同時に、私の足は動き出していた。門番のおっさんが何か言っていたけど、申し訳ないけど聞く余裕は全くなかった。
門をくぐり抜け、普段と変わらない光景が素早くスクロールされていく。
「……急がなきゃ……!!」
目的地は、冒険者ギルド。助けを求めるって考えた時に、この場所以外思い付かなかった。
「はっ……はっ……」
街中を走り抜ける度に、人が変なものを見る目でアタシを見てくる。そりゃそうよね、アタシみたいな可愛い子が泣きじゃくった顔で走ってるんだもんね。
次の角を曲がればギルドまで一直線、そう思っていたら曲がり角から人影が。
がむしゃらに走っていた私の目の前に突然人が現れたら、どうなるかなんて子供でも分かる。
「きゃっ!?」
「えっ……大丈夫ですか?」
思いっきりぶつかって尻もちをついたアタシに、その人は手を伸ばしてくれる。優しい人だと思った。
その人の手を取って立ち上がり、お礼を言おうと顔を────
「────ウソ」
「? 私の顔に何か付いていますか?」
────運命だった。ギルドまでいかなくても良くなった。
この人に助けを求めよう。きっと、この人なら。
「あ、あの────」
待っててイスミ、アンタはアタシが助けるんだから!!
史上最大級の敵と対峙したイスミ。鋼鉄の剣だけで切り抜けられるのか……?
また、オルカちゃんがぶつかった相手とは……?
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