CASE.31 稽古とは
更新が遅くなる分、字数を少しずつ多めにしていこうかなと考えています。
……何か意見とか愚痴とか文句とか、あったら言ってくれていいのよ?((震え声))
「ではまず、この竹刀で素振りを一時間始めて下さい」
「……え? って重たっ!?」
朝九時。言われた通り教会の裏庭にやって来た俺は、そこで修道服のセラスさんから突然竹刀を受け取っていた。
ただ、その竹刀が見た目の数倍以上重たく感じられていた。
「……何か問題でもありますか?」
「あ、いえそういう訳では……」
「では始めて下さい」
「は、はい」
竹刀を使った素振りの仕方は、神様と勉強した時に実践込みで勉強していた。その時の経験を頼りに、俺は素直に彼女の指示に従い素振りを始める。
「ふっ……ふっ……」
「…………」
「ふっ……ふっ……」
「…………」
……視線が痛い。まさか、このまま無言で監視された状態の中素振りを一時間も続けなければならないのだろうか。
だけど、異様に重い竹刀を振り始めてから少しして、セラスさんはその固く閉ざされていた口を開いた。
「ふっ……ふっ……」
「……まるでダメですね。素振りを中止して下さい」
「……えっ?」
理解が、追いつかなかった。
だけど、その事もあってか腕は自然に垂れ下がっていた。
「……どうして止めたんですか?」
「貴方、誰かから剣の振り方を習ったんですか?」
質問に質問で返されムッとなったが、何とか怒りを鎮めた俺は「親代わりの人から教わった」と答える。
「……そうですか。であればその方は恐れたのでしょうね」
「恐れた……?」
「この際ですからハッキリと言わせて貰います。
その剣の振り方では、貴方はまず強くなれませんよ」
「なっ……」
そう告げるセラスさんの目は、いつにも増して真剣で、それでいて何か別の所を見ている様な気がした。
神様に教わった素振りの方法は、剣道を基にしている。それを忠実に再現したつもりだし、何よりこの世界に来る前日まで毎日欠かさず行ってきた。つまり、今までの行い全てを否定されたのだ。
唐突なダメ出しに開いた口が塞がらなかった俺は、続いて放たれた言葉に更に驚かされてしまう。
「貴方は、敵を斬る時には何も考えずに剣を振るうのですか?」
「えっ……? い、いえそんな事は……」
「では、この素振りはただの稽古だから、そんな理由で何も考えずに振るったのですか?」
「……」
俺の表情を読み取ったのか、セラスさんは溜息を吐くと諭すように話し始めた。
「剣を振るう時は、何時如何なる時でも覚悟を持ちなさい。その一振りの重みを知りなさい。たとえ相手が何者であろうとも、自分の剣が相手を斬った事に変わりはない。その事実をしっかりと受け止める覚悟を持って、剣を振るいなさい」
「……は、はい」
「……まぁ、何の脈絡も無くこんな事を言われても、と思われるかもしれませんが。それでも、力を持つ貴方はこの事と向き合わなければなりませんので」
「……何となくは分かります」
セラスさんの言わんとしている事をそれとなく汲み取った俺はペコリと一礼すると、再び竹刀を構え、そして一呼吸おいて目を閉じる。
剣を振るう覚悟を。自分の剣が誰かを傷つける覚悟を。まずイメージするのは、一振りでゴブリンを屠る事。
「ふっ……ふっ……」
「…………」
次はマンイーターだ。あの怪物を一振りで倒す。それぐらいの事が出来ないと先には進めないと思うからだ。
「ふっ……ふっ……」
「…………」
頬から、顎から汗が落ちる感触、蓄積した疲労から徐々に上がりづらくなる腕、竹刀の重みに耐えようと力む足。
これが何でも無いただの鍛錬なら、今すぐにでも投げ出していただろう。でも、それをさせない”何か”を俺は、俺の身体は、薄々と感じ取っていたのかも知れない。
プルプル動く鋼色のスライムや、ひとりでに動く巨像、名も知らぬドラゴン……神様と学んだ知識の中から思いつく限りの敵を、俺は頭の中で全て一刀両断していった。
「ふっ……ふっ……」
「……そこまでです」
「っ……はぁ、はぁっ……」
終わりを告げたセラスさんの声が聞こえるとほぼ同時に、俺はその場に倒れ込むように座っていた。竹刀は自然と手の中から零れ落ち、今では地面と同化している。
ジンジンと痛みの広がる手のひらを広げて見つめていると、その上にふわりと柔らかな感触が舞い降りてくる。
「そのままでは風邪を引きますから、タオルで汗を拭いて下さい」
「あ、有難うございます……」
「……今ので大体一時間弱ぐらいです。どうです、キツイですか?」
「……正直、身体にはきますね」
汗が一向に止まらない顔を清潔な白タオルで拭きつつ、俺は素直にそう答えた。すると、セラスさんは少し顔を緩ませた。
「ふふっ、でしょう。重たい竹刀を明確な意思の下で一時間も振り続けるのは、身体に相当数の負荷を掛けますからね」
「やっぱりこれ、異常に重たいですよね……」
「それは中に鉄心を入れているからですよ。
……この稽古で、何か掴めそうですか?」
「そう、ですね……身体は理解しているみたいなんですけど、それに脳が追いついていない状態です」
「なるほど、やはり素質はあるようですね。初日にしては十分な成果ですよ」
「あ、有難うございます……」
セラスさんに手放しに褒められた俺は、苦笑いになってしまう。こういう人って、アメとムチの使い分け上手いよなぁ。
気が付けば荒れていた息遣いが整い始めていた俺に、隣で屈んでいたセラスさんは次の稽古の内容を口にし始めた。
「呼吸は整い始めていますね。ではそろそろ次の稽古に移っても宜しいですか?」
「あ、はいお願いします」
「次の稽古ですが、貴方には今から一時間程”眠って”貰います」
「……は?」
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意識が鈍い、瞼が重たい。その感覚だけで、寝起きなんだと気が付ける。
「……ん」
まだ余り意識が冴えないので、取り敢えず寝返りを打ってみる。すると優しく包むような感触が顔いっぱいに広がっていた。
その正体が気になって、中々言う事の聞かない瞼を持ち上げると、視界に広がったのは黒色だった。
「え……?」
「あ、起きられましたか」
「!?」
間の抜けた声を発した俺は、それに反応した女性の声が頭上から聞こえて来た事に驚き思わず飛び上がってしまった。その時に何か肉塊のような中途半端な硬さの物に顔をぶつけてしまったが、その正体は嫌にでもすぐに分かった。
「おはようございます、イスミさん。ご気分は如何ですか?」
「せ、セラスさん……?」
顔を上げた先にいたのは、修道服を身に纏ったエルフ、セラスさんだった。
丁度影になっている教会の裏に腰掛け凭れ掛かっている絶世の美女を見れば、誰だって一発で目が覚めるというもの。もちろん俺も例外では無い。
「え、えっと……?」
「……ああ、言葉が少な過ぎましたね。
簡単に状況を説明しますと、二つ目の稽古として一時間程”睡眠”を取って貰ってました。ただ、寝苦しそうでしたので途中から膝枕を。よく息子にしていたのでつい」
「え……膝、枕……?」
オーケー、状況を整理しようか。
二つ目の稽古は十分な”睡眠”らしく、恐らく俺は何かしらの魔法で眠らされたのだろう。そこまでは冴えていなくても理解出来る。
だけどセラスさんは何と言った? 俺に膝枕をした? ……HAHAHA、笑えない。
いや、よく考えてみよう。セラスさんは最後の方に”息子”という重要なワードを呟いていた。つまり、だ。彼女は既婚者、十分な程に大人の女性だ。そんな大人の女性からしたら俺なんてまだまだ垢抜けないただの青年、いや少年みたいなものだろう。すると大人の女性が少年に膝枕をしただけ、そう置き換える事が出来る。
「……セーフ、だ」
「え?」
「あ、いえこっちの話です。気にしないで下さい」
「? まぁいいですけど、それより身体の方は問題ないですか?」
「は、はい休んだおかげで少しは楽になりました」
話が逸れた事に安堵を憶えた俺は、自分の腕を回したりして、異常が無い事を確認する。そしてセラスさんに問題ない事を伝えたが、実際は問題だらけだった。
(……おかしい。あれだけ全身の筋肉に負荷を掛けたのに、どの箇所も筋肉痛がまるで起きていないなんて……)
そう、素振りの後は喋るのがやっとな程に全身疲弊しきっていたのに、それがまるで残っていないのだ。それこそ、数日掛けてゆっくりと療養した位の全快具合だった。
「そうですか、それは良かったです。
では時間も差し迫っている事ですし、残り一時間は私との模擬戦をしましょう」
「えっ、あ、はいっ」
いつの間にか立ち上がって二本の竹刀を手にしていたセラスさんは、急かす様に裏庭へと歩いていった。その背中はやはり綺麗で、どこか雄々しかった。
まだ、彼女の壁の頂点は見る事が出来なさそうだった。
セラスさんマジかっけー。。。
珍しく斜め上な思考回路のイスミもアリだな。
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