CASE.30 聖、女……?
めちゃくちゃ投稿間隔開いちゃってごめんなさい(^^;
リアルが忙しいんです、充実はしていませんっ……でも、空き時間を見つけて更新したいと思います(^^;
セラスさんに連れられて裏庭に向かっている途中、俺は少しの不安を感じていた。
明らか戦闘とは無関係な役職であるシスターで、かつ魔法メインで戦うエルフのセラスさんが、はたして俺にどんな稽古をつけてくれるのだろうか、という事である。
「ここが裏庭です」
案内された裏庭は思いの外広く、周囲を人の頭幾つ分か高い壁で囲われていた。ここならば確かに模擬戦が出来る。
立ち止まったセラスさんはこちらに振り向くと、何処からか取り出した木刀の一つを投げ渡して来た。
「では、早速始めましょう。
ルールは簡単です、私をここから一歩でも動かせたら貴方の勝ち、貴方の望む稽古をしましょう。逆に一歩も動かせないまま……そうね」
何を思い付いたのか、セラスさんはまた何もない所から、今度は砂時計を取り出して地面に置いていた。
「この砂時計の砂が全て落ちるまでに私を動かせなかったら、貴方の負け。私の指示に従って稽古をして貰います」
「……それは」
そう、セラスさんが提示したのは完全に俺を下に見た勝負条件だった。”舐めプ”と言うヤツなのだろう、それにしてもこちらの事を下に見過ぎている気がする……少しイラっとするな。
「私は準備出来ているので、いつでも掛かって来て下さい?」
「っ……!!」
彼女の薄ら笑いのような笑みを見た俺は、気が付けば木刀を構え走り出していた。
基本的な剣術、というよりは剣の振り方は神様に教わっているが、それ以外の知識の無い俺はただ上から、横から、斜めから、何の芸も無い攻撃を繰り出す。
「ふっ!! はっ!!」
「…………」
腕を振るえば振るう程、裏庭には木刀を打ち付け合う乾いた音が響く。それも一度や二度ではなく、耳に入る刺激が増える度に俺の心臓は早く脈打っていた。
──────当たらない。いや、当てるつもりは無くても、防ぎ切れずに後退するぐらいの勢いで斬りかかっているのに、完璧に防がれて動く気配もしない。
「ふっ……!? くっ!!」
「…………」
まるで巨岩相手に木刀を打ち付けている、そんな気分だった。おかしい、正直な所一瞬で片が付くと思っていたのに。
手汗にまみれた手で木刀を握り締め直すと、汗一つ流していないセラスさんが口を開いた。
「……もうお終いですか? 早くしないと、砂が落ち切りますよ?」
「っ……言われなくてもっ!!」
そこからは、ただただ同じ時間が繰り返された。
正面から斬るだけでなく、死角となる背後に回り込んではあらゆる角度から斬りかかり、更には足元を狙ったり頭を狙ったりもした。しかし、まるで手応え無く押し返され、弾き返されてしまっていた。
一撃、たった一撃でもいいから決まってくれ、そんな俺の思いを嘲笑うかのように淡々と受け止められることに、俺はいつしか自分の攻撃すら把握できない程に追いやられていた。
そして、何の成果も出せずに時がやって来た。
「……お終いですね」
「っ……そ、そんな……」
余りにも非情な現実が疲労を加速させ、俺は崩れる様にその場に座り込んだ。そこに砂時計を回収したセラスさんが近付いて来る。
「砂が落ち終わるまでの十分間、結局一度も動かす事は出来ませんでしたね」
「…………」
言葉が、出なかった。当然だ、俺に有利な勝負条件が出されたにもかかわらず、完膚無きままに叩きのめされたのだから。俺とセラスさんの間には、それだけの絶望的な差があると言う事だ。
「……理解はしているようですね。良いでしょう、それでしたらこの模擬戦も十分に価値があります」
「……貴女は、一体……?」
「ふふっ、それはその内分かりますよ。
……さて、では私の勝ちという事ですので、貴方の稽古の方針は私の方で決めさせて貰います。
そうですね、稽古は明日から毎朝9時にここで行いましょう、3時間程行えば十分です。内容はその都度伝えます」
「は、はい」
要するにやる事は未定、という事らしい。いや、そんな事よりも俺としてはセラスさんの正体について聞きたいのだけど。
「それ以外の時間は好きに使って下さい。ただ、稽古に差し障る事は控える様に。
……伝えるのはそれぐらいでしょうか」
「分かりました、明日からですね」
「はい。ではまた明日この場所で」
そう言ってセラスさんは教会の方へと歩いていった。その背中は、俺の目にはただただ高い壁の様に映ってしまっていた。
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「……ってな訳で、明日からそのセラスさんって人に────ってどうかした?」
その日の晩、事前に打ち合わせていた通り宿屋の食堂でオルカちゃんと合流した俺は、早速昼間の話を彼女にした。だけど、セラスさんの名前を出した途端に彼女の顔は興味から驚愕へと変わった。
「い、イスミその話本当なの?」
「え? そうだけど、どうかした?」
「……ちょっと耳を貸しなさい」
「?」
向かい側から手招きするオルカちゃんを不思議に思いつつも、言われた通りに耳を近づけるとオルカちゃんは俺にだけ聞こえる声で話し始めた。
「いい? セラス様は”爆殺聖女”っていう通り名で知られているの。ラドーガさんと同じ元Sランク冒険者で、聖職者なのに攻撃魔法の方が才能があるっていう反則級の強さを持っている人なの。ここら辺じゃ知らない人はいないわ。
因みに通り名の由来は……言わなくても分かるでしょ?」
「得意魔法が爆発系なのか……本当に聖女なのか?」
「そっちの由来はね、依頼で稼いだお金を全て孤児院や教会に回している事や、人助けの依頼を優先して受けている所からよ」
「……凄い人だって事は良く分かった」
オルカちゃんの話を一通り聞き終え身体を元に戻した俺は、心の中でセラスさんの評価を書き換える。模擬戦をしている時ぐらいから薄々気付いてはいたけど、まさかここまで著名人だったとは思いもしなかった。
「っと、話が逸れたけど、俺からの話は以上かな」
「じゃあ、次はアタシの番ね」
足元のリュックからオルカちゃんが取り出したのは、一枚の大きな羊皮紙だった。その上には暗赤色や暗緑色といった暗色で地図が描かれている。
「これがここ周辺の地図よ。一人一つずつ持ってても良いけど、折角だしアタシが管理する事にしたわ。それでいいわよね?」
「ああ。その方が助かる」
「そう、じゃあお言葉に甘えて。それでさっきまで周辺のモンスターの情報を調べていた所、大きく分けて三つの地域に分布してそうなの」
地図の中央辺りにある文字記号の書かれた部分を指差して、オルカちゃんは話を続ける。
「ここがアタシたちの居る街で、北の方に向かって行くとゴブリンだらけの草原地帯、それを抜けた先にゴブリンの上位種のゴブリンプリーストやゴブリンジェネラル達が出現する森があるの。その先は海岸に繋がっているみたいだから行く意味は大して無いわね」
「なるほど、北側はゴブリン地帯って訳か」
「別の種族のモンスターも少しはいるけど、そう思ってくれるといいわ。
そして、西の村がある方は昼がニードラ、夜になると加えてブレイズフライが出現するわ。もう少し先に行って川を渡ると、ニードラの代わりに今度はライノボア、そしてエアイガが居るわ。それ以上行くとペストナ国に近付くわ」
「国が……そのエアイガっていうモンスターはどんな奴なんだ?」
「鳥系モンスターね。アタシと同じぐらいの大きさを持っていて、鋭い嘴や爪で攻撃してくる、割と好戦的な奴よ」
恐らく鷹や鷲に近いモンスターなのだろう。ライノボアは既に討伐しに行ったし、北側でも偶に出てくる。
「西はそれぐらいを知っていればいいと思うわ。
南側は沼地や墓場があるから、スケルトンやスライム系のモンスターが多いわね」
「なるほど。それ以外は?」
「特にこれといったものは無いわね。あぁ、ずっと先に抜けていって、沼地を超えれば街が見えるとは思うけど」
「……結構色んな所で街あるんだな」
「この周辺はね。大陸のもっと辺境に行けば、それこそ村しか無くなるわ。
それで、最後だけど東側にはモンスターは殆ど出現しないの」
「出現しない? そりゃまたどうして」
「東側は王国との要路だから、王国がモンスターの出現を極力抑える結界を張っている、そう聞いたわ。それでも抑え切れなかったモンスターは定期的に巡回している衛兵に倒されているらしいの」
結界+巡回兵なら、確かにモンスターを見かける事なんて殆どないんだろう。物資を運ぶ商人や通行人からすれば、これ以上なく安心出来るのは間違いない話だ。
「と、まぁこの街周辺をざっくり説明するとこうなるわね。因みにゴブリンの上位種たちやエアイガ、スケルトンにスライムは皆Dランク以上でしか討伐依頼が出されていないわ。ゴブリンジェネラルに関してはCランク以上よ?」
「なるほど……でも、依頼関係なく個人で倒しに行ってもいい訳だろ?」
「その通りだけど、依頼で倒した方が金銭的にはお得じゃない?」
オルカちゃんの発言は、正論ではあるが採用し難いものだった。
「いや、依頼を受けるまでにかかる時間が問題なんだよ。EランクとFランクの俺達がDランク以上の依頼を受けようと思うと、昇級試験を受けないといけないだろ?」
冒険者がランクを上げるには月に一度の”昇級試験”というものを受けなければならない。試験の内容は昇給先のランクに合わせて色々変わるが、基本的には討伐・採取混合型の試験である。物や敵についての知識と行動力を判断材料にするらしい。
その昇級試験の今月の分がつい先日行われたばかりらしいので、早くても後9日は待たなければならないのである。
「長かったら一ヶ月も待たないといけないなんて、そんなの生殺しだろ?」
「むぅ……確かにそれもそうね。イスミのその力を持て余すのも勿体ない気がするし……」
「勿体無いって……」
「お二人さんっ、注文の料理ですよっ」
俺を商品か何かと同じ扱いをするオルカちゃんに呆れていると、両手にプレートを持ってミミちゃんが近付いてきた。小柄な身体からすれば十分に大きいだろうプレートを、二枚も同時に持って運んでくる辺り、流石ミミちゃん。仕事人である。
話はまだ完全に纏まってはいなかったけど、料理が来たため俺達はテーブルの上を綺麗に片付け、ミミちゃんに夕食を置いて貰う。
「はいっ、お兄さんもオルカちゃんも肉コースですよねっ?」
「「ありがと」」
「…………」
「? どうかした? ミミちゃん」
何時もなら料理を置いてすぐに立ち去るミミちゃんだけど、今日は違っていた。
じっ、と二人を見つめて、そして余りにも予想外の爆弾を投げて来たのだ。
「いえ、お二人さんが以前にも増して仲良くなってるな~って思っただけですよ?
なんか、熟年夫婦? ぐらいに息が合ってません?」
「「なっ」」
「ほらほら~、また同じタイミングで反応してますし~?」
「まぁ、仲が良いに越したことは無いんですけどねぇ〜」と言いながら、ミミちゃんはニヤニヤ顔のままテーブルから離れていった。
……気まずい。オルカちゃんなんか、顔を真っ赤にして俯き続けてるし。
「……と、取り敢えず先にご飯食べてしまおうか」
「っ、そ、そうねそうしましょう!!」
ぎこちない応答のあと、俺は何故か肉に噛り付きたくなってそうしていた。
いつも食べている美味しい料理なはずなのに、どうしてかその日だけ味が分からなかった。
爆殺聖女とかいうパワーワードですよ……
そして何よりオルカちゃんのデレ具合……最高ですな(浄化音)
面白いと思ったらブクマ、感想等待ってます(^-^)




