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CASE.2 そして時は過ぎ、彼は自分を知る







 俺と神様が勉強を始めてから、本当に長い時間が経った。


 日常的に使う言葉から少し専門的な言葉を知る所から始め、漢字やカタカナを同時に習った。それによって、神様の言った「べんきょう」が勉強だとも知る事が出来た。

 それが終わると時間の考え方や元々俺が居た世界で見えるモノ、聞こえるモノ、食べるという事、運動や芸術も習った。


 習った事から分かったのは、俺がもう十八歳になったという事。そして、元の世界、地球で十分に生活出来るだけの知識・常識は身についたという事だった。




「……凄い、ここまで完璧に覚えているなんて」


「神様のお陰です。あれ程まで無知だった俺に、呆れる事無く一生懸命に教えてくれたのですから」


「……本当に、本当によく頑張ったわ……うぅ……」


「ははっ、泣かないで下さいよ。折角の美人が台無しですよ?」


「うぅ……そんな子に育てた覚えは無いのに……」




 俺の勉強が終わりに近づく頃には、神様とは冗談を言い合う位の関係になっていた。


 神様は、いつだって真剣そのものだった。間違えると叱り、間違えなかったらよく褒めてくれた。勉強に必要になりそうな物は全部用意してくれたし、眠たそうなのを我慢してまで教えてくれていた時もあるぐらいだった。




「……神様、俺は沢山学びました。だから最後に、俺に勉強を教えた理由を教えて下さい」




 俺は、椅子から立ち上がって神様に頭を下げる。すると、少し遠くから神様が近付いてくる気配がして、そして俺の前に立ち止まったように思うと、下げた頭を抱き締めて来た。




「……君は、沢山の事を知った。同時に、感情というものも沢山知った。

だから、今から話す事を聞いても悲しまないで欲しいし、絶望しないで欲しい」


「……神様」




 俺の頭を抱き締める腕を震わせながら、神様は話し始めてくれた。




「あの世界で生まれた君は、不幸な事に六つの病を患ってしまったの。

一つ目が進行性骨化性線維異形成症、いわゆるFOPと呼ばれる難病の一つで、これに罹ると全身の筋肉がどんどん骨に変わってしまうの。

二つ目がパーキンソン病、これも難病の一つで、罹ると運動に障害が起きて動けなくなってしまう。

三つ目が突発性難聴、原因不明の病気で突然音が聞こえなくなってしまったりするの。

四つ目が魚鱗癬、皮膚がどんどん固くなって、剥がれ落ちてしまう難病。

五つ目が網膜色素変性症で、長い歳月をかけて視界をどんどん奪っていく病気なんだけど、何故か君だけ進行が早かった。

そして最後の六つ目が下垂体前葉機能低下症で、色々な症状があるんだけど、君の場合は記憶力の低下が顕著に表れていた。

……こんなにも大量の難病を一度に身体に宿してしまった君は、身体がもたず十二才で命を落としてしまった」


「…………」


「……君の両親がね、この病気の元となる病気を患っていた。そんな二人の間に生まれた君は、二人からそれぞれ難病を遺伝してしまった。こうなってはもう仕方なかった、だから────」


「……神様」


「っ……な、何?」




 俺は神様の手を解いて頭を持ち上げ、俯く神様を抱き締めた。




「神様がそんな顔する必要は無いんですよ?

……今の話であの時の事に納得できましたし、寧ろ感謝しているぐらいです」


「感謝?」


「だって、あの不幸があったからこうして神様に出会えたんですから」


「っ……君は本当に、本当に~~~~~~っ!!」




 どうやら俺の話に感極まったらしく、神様の方からも俺を強く抱き締めて来た。小さい体なのに意外と力が強くて、俺のお腹にめり込む位に顔を埋めていた。


 俺としても、こうして神様とハグし合えるのは嬉しい事なので暫くこうしていると、神様はゆっくりと離れていき、そして予想だにしなかった事を告げてくる。




「……それで、未だ話は終わりじゃないの。

君には、一人の女の子を救ってほしいの」






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