CASE.17 偽善と言う名のすれ違い
前回、中々派手な行動に出た主人公・イスミ。
今回でストーリーが大きく進みますよっ
宿屋を出た俺と四人組が向かったのは、冒険者ギルドの訓練場だった。
これは俺も知らなかった話なのだが、一階の受付カウンターで申し込みをすれば訓練場を貸出しできるらしい。その際主だった使用用途を伝えなければならない為──────
「──────両者、準備は良いですか?」
と、知らない内に職員がレフェリー、審判を引き受ける事になっていた。
そこまでは別に問題は無い、何なら公平な立場の職員が見ている以上、相手も目に見える反則行為はしてこれなくなった筈。問題なのはその職員の周囲である。
「全く面白そうな事してるじゃねぇか、なぁイスミ?」
「……何でギルドマスターまで見に来てるんですか」
食堂で騒ぎを見ていた冒険者達や、ミミちゃん、オルカちゃんが見に来るのは分かる。
だが、その中に紛れて、いや紛れずに堂々と先頭で観戦しようとしているギルドマスターだけは、本当に謎である。
「っても、これじゃあ勝負にならないんじゃねーの?」
「まぁ、向こうは俺に勝つ気満々みたいですけどね……」
苦笑する俺の視線の先では、例の四人組のそれぞれが準備運動をしている。その四人全員の顔には、まるで爽やかではない笑みが零れていた。
ここまで彼ら彼女らがやる気を出したのにも理由があって、その理由というのも単純なものだった。
(……現金な奴らだなぁ)
ただの勝負なら絶対に食いつく訳が無い、そう思った俺は対価として、
"俺が勝てばオルカちゃんを解放する、そちらが勝てば金貨二枚を迷惑料として払う"
という事を添えておいた。
するとまぁ面白いように食いついて来たのだ。ここまで人が金に釣られやすいとは思っていなかったので、しっかりと脳内メモに書き記しておいた。
「ま、戦うのはいいが無茶苦茶にはするなよ?」
「いやいや、ラドーガさん相手じゃないんですから、そんな事にはならないですよ……」
「ははっ、それもそうだな。
まぁでも、楽しみに見させてもらうよ」
そう言ってラドーガさんは軽く俺の背中を叩いて、前に押し出した。
そのまま中央の審判職員の所まで歩いていくと、合わせて向こうも近づいてきた。
「両者、準備は良さそうですね。
……では先にルールの確認です」
俺と四人組の顔を交互に見てから、審判は簡潔に以下のルールを口にしていった。
・勝負は魔法、武器を使用した対人戦とする。
・命に関わる攻撃の類の全てを禁止する。前衛は木刀の、後衛は魔法のみの使用となる。
・降伏、及び相手が気絶した時点で勝敗が決したものとする。
説明を聞き終えた俺は準備されていた木刀を手に取り、それを構える。
相手の方は男性二人が木刀を、女性二人が木の杖を手にしていた。
「では準備が整ったようですので、”崩剣”はパーティーから一人選出して下さい」
どうやら”崩剣”というのは相手のパーティー名らしく、審判の呼びかけに応じてリーダーの好青年が前に出て来た。
一対一で順に戦っていく事になるらしい……だが、そんな悠長な事はしたくなかった。
「……そちらさえよければ、別に全員同時でも構いませんよ?」
「「「「なっ……!?」」」」
俺のこの発言に、殆ど全員が驚いていた。驚いていないのはラドーガさんぐらいだろう。
余り目立ってはいけない、そう思っていたがよくよく考えれば現時点で俺より強い人がいる以上、ある程度まで実力を発揮しても怪しまれないという事。ならばいっその事、四人には踏み台になって貰おう。
「……はっ、僕らも随分と舐められたものだね。
でもいいだろう、君がその気だというのであればこちらは四人で掛からせて貰うよ?
────後悔しても遅いからなっ!!」
「っ!!」
「あっ、まだ開始の合図は……」
俺の物言い、態度に相当腹が立っていたのだろう。審判の合図を待たずして飛びかかって来た好青年を咄嗟に躱すと、俺は自身のチート能力を少し解放する事にした。
(……聞こえる。後ろから一人、走って接近してきている足音が……!!)
好青年と対峙している俺は、視線を彼に固定したまま右に数歩ステップを入れる。すると、先程まで俺が居た場所をもう一人の男性が剣を振り抜いて過ぎ去っていった。
「なぁっ!? 今の躱せるのか!?」
(……聞こえる。何かを呟く二人の声……止んだっ!!)
振り返らずに剣を躱された事に驚嘆している男性には目もくれず、俺は聞こえて来た確かな情報を元に再び右へと回避行動を取る。
「────”ファイアランス”……えっ?」
「────”サンダーニードル”……嘘」
俺の居た場所は、今度は火の槍と雷の針群に襲われていた。
一歩でも回避行動が遅れていれば、今頃俺はこの猛攻を一身に受け追い込まれていただろう。だけど、絶対にそうならない自信があった。
その後も好青年と男性が交互に剣を振るい、隙を見て遠方から氷塊やら土塊やらが飛んでくるような状態が続いたが、それでも俺は無傷で躱し続けられた。
「ふっ!!」
「そいやっ!!」
「”アイスクラッシュ”!!」
「”アースボール”!!」
(聞こえる、聞こえる。左右から近づく足音、遠くで呟かれる魔法名っぽいもの、皆の息の上がり方……)
突発性難聴(改)。このチート能力が、数の不利という逆境をあっさりと跳ね返してしまっていた。
「クソッ!! どうしてこの人数で一撃も当たらないんだっ!?」
「はっ、はっ……中々、しぶとい様だね」
「ちょっと……あんた達が早く倒さないと、こっちの魔力が付きそうなんだけど……」
「……厳しい」
(……四人の心音が聞こえる。全員動揺しているんだな)
相手に意識を向ける事でありとあらゆる”音”を識別できるようになるチートスキルを使えば、死角からの攻撃でも、遠距離からの魔法攻撃でも、何でも予測・対処が可能になってしまう。
「そろそろ、こちらからも行かせて貰いますよ?」
「な、何をそんな──────ガハッ!?」
「ジェイル!? ──────グフッ!!」
「な、何が──────」
相手の実力の底は十分に測れただろう。もうこれ以上先頭を長引かせる必要は無い。
恐らくだがそもそもの話として、俺と四人の間では絶望的なまでにステータス差があったのだろう。でなければ相手の正面からの攻撃を、じっくり見極めてから躱す程の余裕なんて無かったはずである。
開口一番、手前だった好青年の意識を木刀で狩り、立て続け様にもう一人の男性も、そして二人が倒れ終わるまでの間に後衛二人の背後を取っていた。
「──────えっ……?」
「出来れば、降伏して貰いたいんだけど」
「……降、伏」
「あ、アタシもよ……」
カランカラン、と木の杖が地面に落ちる音が二度鳴り響いた後、少しの間静けさが訓練場を支配していた。
唐突な終了にポカンとしている審判に目を向けると、慌てて手を挙げて勝敗を告げてくれた。
「せ、戦闘不能と降伏により、勝者、イスミっ!!」
「う…………」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」」」」」
審判による結果が告げられた途端、ギャラリーが大歓声を上げ始めていた。呆気ない戦いだったが、それでも観衆には魅力的に見えたのだろうか。
「……そこの先輩方、約束は守って下さいね?」
「わ、分かったわ……」「……う、む」
言質は取れた。俺はオルカちゃんの方に歩いていき、そして堂々と、彼女に言ってあげる事が出来た。
「……これで、君はもうあの四人に振り回される事は──────」
そう言いかけた俺の頬を、乾いた破裂音と共に痛みが刺した。
「…………え?」
「……いつ、いつこんな事して欲しいって頼んだのよ……」
「そ、それは」
「誰だか知らないけど、最っ低!!!!」
棘を含んだ言葉を吐き捨てて、オルカちゃんは訓練場を走り去ってしまった。
どうして、という疑問のしこりが、再び訪れた暗い静寂の中に置き去りにされるのだった。
……まぁ、これが普通の反応ですよね。人と関わる事が無かった主人公だから仕方が無いんだけどね(^-^;
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