CASE.14 不幸は転じて
(……うぉぉっ!? 何だこれっ!?)
目を閉じ、意識を周囲に集中させた俺の頭の中に直接送り込まれてきたのは、壁や床や天井などの全ての障害物が透過された、バーチャル空間の様な映像だった。
足元の床さえも透過され、一階さえも突き抜けて見えるそれの所為で重力感を失いそうになるが、あくまでも脳内での出来事だと割り切ってしまえば、案外すぐ慣れる事が出来た。
(すげぇ……ここからミミちゃんが働いてるのが見えたり、さっきのエルフの子が一階まで降りたのも見える……)
自分の居る場所から一階までは大体7メートル程で、100メートル先まで同じ様に見通せるような状況では寧ろミミちゃん達が近くに感じてしまう。
この視点と言うのも自由に移動できるらしく、一階に近付いたり、何ならこの宿屋の向かいにある一軒家の方まで視点を持っていく事も可能だった。
(おおっ、あそこに武器屋があるのか……あっちは防具屋……別々なのか。
アレは雑貨屋で……あぁ、あれ花屋のマークだったのか)
空間に様々な人や物が浮いている。そんな奇妙な光景の中、この能力を上手く使いこなす為に100メートル圏内にある物を色々と見て回ってみる。
一見簡単そうに聞こえるが、この視点を動かすというのが思いの外集中力が必要で、ちょっとした事で集中力が削がれでもすると全く別の所に視点が映ってしまう。それに、全ての障壁が取り除かれる為、見たくないモノまで見えてしまうのだ。
(う、うわぁ……あそこの夫婦、昼間っからよろしくやってるよ……ってあっちも!?
……あれ? あの子の手……変な紋様が刻まれてるような……まさか)
──────”奴隷”。
妙に心をザワつかせる紋様を見ていると、何故かその言葉が俺の脳裏をよぎっていた。
(……いや、こればっかりは憶測で考えない方が良いだろ。
まだそう確定した訳じゃないし……というか、他人のプライベート丸裸にするのは流石に申し訳ないな……)
そう、この脳力を使ってしまうと周囲100メートルであれば何でも認識してしまう。
その事に申し訳なさを感じた俺は意識を外の様子から外し、目を開けた。
「っはぁ~~~~、結構疲れるな、これ」
疲労感と共に大きくため息を吐いた俺は、この脳力の使用の難しさを頭の片隅にメモしておくことにした。ついでに、見てしまったモノは仕方ないと自分への言い訳も添えておいた。
「うし、気分転換に武器を選びにでも行こうかな」
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「うぃ兄ちゃんいらっしゃい!!
見た所冒険者なんだろ? 今日はどんな武器を見に来たんだ?」
網膜色素変性症(改)で見つけた武器屋を訪れた俺は、店長らしい恰幅の良い男性に圧倒されていた。
「え、えっと……初心者用の武器とかってありますか?」
正直、ゴブリン程度の敵であれば体術で倒した方が早い。だけど武器を持たない訳にもいかないので、ここにはカモフラージュ用の初心者向け武器を買いに来ていた。
実際、年齢的にも初心者冒険者として有り得るので、ここはすんなり買い終えて防具を買いに行こう、そう考えていたのだが──────
「初心者用、ねぇ……」
何故か、店長が俺を怪しんでいた。
「な、何ですか……?」
「いや、兄ちゃんさ、そんな初心者用武器を扱うレベルの人間じゃないだろ?」
「えっ? ……えっ?」
「誤魔化したって無駄だぞ?
俺の長年の経験が言ってるんだ、”兄ちゃんは初心者じゃねぇ”ってな」
「は、はぁ……」
何かしらの特性・能力かスキルかで見られているのかと内心焦っていたが、どうやら杞憂に終わったらしい。
しかし、目の前の店長に見抜かれているのは事実である。それでも、正体を明かす訳にはいかないので、ここは意地でも白を切るしかない。
「いえ、俺なんて本当に今日なりたての冒険者なんで。何ならギルドに確認して貰っても良いですよ?」
「本当か……?」
「…………」
「……まっ、ならしゃーないな。
客の詮索は店としてもタブーだ、もうこれ以上何も言わねぇから安心しろ」
どうやら黙秘を貫き通そうとする俺の気持ちに根負けしてくれたらしく、店長が大きなため息をついていた。話の分かる人で良かった。
「じゃあ話を戻すけど、初心者用の武器で良いんだな?」
「はい、何がありますか?」
「そうだな……兄ちゃん、恐らく前衛なんだろ?」
「あ、はいそうですね」
「なら普通に鉄の剣とかどうだ?
ちゃんと毎日整備してやれば、よっぽど固い敵に斬りかからない限りは長持ちする代物だ」
そう言って店長は展示されている武器の中から、ゲームなどでよくある鉄の剣を引っ張り出して来た。
確かにお馴染み感はかなりあるものの、やはり実物を前にすると迫力を感じるし、これを自分が振り回しているイメージが付かない。神様と剣術の練習をしていた時は、紙を丸めて棒状にしたものを使っていたから、余計にそう感じてしまう。
「おぉ……」
「ん、こりゃまた意外だな。剣を見るのは初めてか?」
「え、えぇ……これとは無縁な世界で暮らしてましたから」
嘘はついていない、でも真実かと言われれば少し微妙な所である。というかさっきから俺、ずっと見透かされてない?
「……ふむ、まぁ、そう言う事ならその武器がおススメだな。
他にも長剣とか細剣とかあるけど、兄ちゃんならそういう系の方が良いだろ?」
「そうですね」
「盾は……要らなさそうだな。おし、なら会計にすっか!!
そいつは値打ち物だからな、鞘込み一つで銅貨一枚だな」
これだけ丈夫そうな見た目で銅貨一枚なら、確かに値打ち物だろう。
俺は荷物の中から銅貨一枚を取り出して店長に支払い、その剣を鞘と一緒に受け取ると、店長が何かに気付いたらしく俺の服装を見て口を開いた。
「兄ちゃん。剣を下げる為のベルト持ってないみたいだな?」
「えっ?」
「……あー、分かんねぇのか。取り敢えずここから二軒隣にある防具屋で話でも聞いて来い」
「あ、分かりました。それならこの後行こうと思っていたので」
「そっか、なら丁度良かったな。絶対聞き忘れるんじゃねぇぞ?
──────っと、そうだったこれも言わないとな」
店長の有難い忠告を最後に店を出ようとすると、最後の最後に店長がニカッと笑ってきた。
「俺の名前はゼド・ヴァースだ。ここの武器屋の店主で武器の販売をしてる。あと素材を持って来てくれればオーダーメイドも受け付けてるから、もし良い素材が手に入ったら俺の所に来な。最っ高の武器を用意してやるよっ!!」
特殊能力、あれ色々ヤバい様な……?( ̄▽ ̄;)笑
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