CASE.13 可憐さは時に無口なり
ほいっ、もう一話投稿しようっ!!
書き溜め……? し、知るかっ!!
ミミちゃんに教えられた通り、三階にやって来たはいいものの、俺は大事な事を忘れていた。
「……五号室が分からない……」
そう、数字すら読めない俺には、五号室の場所がまるで見当も付けられなかったのだ。というか、ミミちゃんの癒しオーラに包まれていたせいで字が読めない事を完全に忘れていた。
「これ、戻って聞きに行った方が良いよなぁ……でも、ちょっと遠いし迷惑かな……?」
三階までの道のり、階段の段数が多かったので、自分の失態のせいでわざわざミミちゃんに来て貰うのが少し後ろめたく感じてしまう。
しかし彼女に頼る以外に方法は無かったので、仕方なく来た道を戻っていると、階段に差し掛かった辺りで上の階から人が降りてくるのが見えた。
「……あっ、もしかしてここの従業員さんですか?」
四階から降りて来たのは、金髪ロングで顔立ちの整った、まるで洋人形の様な少女。この子もまた普通の少女ではなく、特徴的な長い耳から、所謂”エルフ”と呼ばれる種族なのだろう。それにしても、噂に違わず本当に美形である。
「…………」
「いやー、本当に良かったです。ここからまた一階に戻るって事を考えると少し気が引けて……」
「…………」
「……えっと、聞いてますか?」
俺に会ってから、少女は何故か無言を貫き通していた。ミミちゃんと同じエプロン姿なのでこの宿の従業者なのは確実だと思うのだが、こちらを見つめるだけで全く反応してくれない。
と、僅かながら彼女の口が動いた。
「…………何?」
「あ、えっと……五号室ってどこなのかな〜って、アハハ……」
「…………」
「……えっと、聞いてます?」
「…………」
……ダメだ、全然反応してくれない。
それこそ本当にただの人形の様に、表情筋をピクリとも動かさずこちらを見つめてくるので、最早恐怖すら感じられる。
噛み合わない会話に苦笑していると、エルフ少女はやはり無言で、だけど突然歩き始めた。
「……えっ、えっ?」
「…………」
これは、ついて来いと言うことなのだろうか。
こちらを一度も見る事無く、淡々と三階の廊下を歩いていく少女の後について行くと、右の扉を三つ過ぎた四つ目の扉の前で立ち止まった。
「…………ここ」
「あっ、ありがとうございます……?」
「…………」
極端に短い言葉で場所を教えてくれた事に、ぎこちなくも感謝を伝えると、少女は軽く頭を下げてすぐに階段の方へと向かっていった。
(む、無口な従業員だな……)
明らかに接客業に向かない性格なのに、よくこの宿屋で働いているものだ。まぁ、美人だから看板娘として雇っているのだろう……ミミちゃんで足りてる気がするが。
「ま、とにかく分かったんだし、入るか」
余り詮索する事ではないと割り切って、俺は持っていた鍵をドアノブの所に差し込み、右に軽く捻る。
カチャ、という音に安心感をもらいつつ、扉を引き開いて中に入り、念の為に鍵を閉めて靴を──────
「────あぁ、こういうタイプなのか」
こちらの世界はどうやら洋式らしく、靴を脱ぐ習慣がないらしい。
現に靴置きは無く、スリッパがある様子も無い。部屋の中に続く通路に、外と隔てる段差なんてものもない。
中まで進み、部屋をぐるりと見回して確認した所、感覚としては一人暮らしの部屋が近いようで、隅に寄せられたベッドや簡易クローゼット、丸テーブルに椅子など、必要最低限の物だけが置かれていた。
「……おっ、鏡があるんだ」
ベッドとは反対側の壁の、クローゼットの傍らに立てられた等身を映す用の鏡を見つけ、俺はそれの前に立った。こちらの世界に来て、自分の外見を見ておくいい機会である。
「……」
鏡に映る自分の姿は、神様と勉強していた時に見た自分の姿と全く同じだった。
黒く少し長めの髪に黒い瞳、身長はこちらの世界ではどうか分からないけど、日本で言う標準的な高さ。痩せ細ってもなく太っても無い、特徴の無い体型で、別段足が短いこともない。
この見た目がこちらの世界ではどんな評価を受けるかは想像出来ないけど、今まで出会った人の反応を見るからに大して目立つ格好でもないのだろう。有難い話である。
「ま、そこまでビビる事もないか。
ヤバくなれば全力で逃げればいい訳だし……」
なるようになる、と半ば投げやりな気持ちで鏡の前から離れた俺は、荷物をベッドに放り投げ自分もダイブする。
「……あ゛ぁ゛〜」
この数時間が濃密過ぎたからか、ふんわりとした感覚に包まれると、どうにも気の抜けた声が我慢出来ずに漏れてしまっていた。
このまま眠ってしまいたい、そういう思いに駆られてしまうがそんな訳にもいかない。泣く泣くベッドから体を起こした俺は、まず荷物の中から図鑑を取り出した。
「はぁ……っと、気を入れ直さないとな。
あの時ゴブリンを倒してるから、神様の話通りならここに何か情報が書き込まれているはずなんだけど……」
そう言って図鑑の最初のページを開くと、目次に当たる場所に
・ゴブリン……2ページ
という一文が書かれていた。
目次が表記されている事にありがたみを感じながらそのページを開くと、真ん中の辺りに『ゴブリン』の文字が見えた。
──────────────────
・ゴブリン,
主だった生息地は無く、街や森林地帯、砂漠地帯や湿地帯などありとあらゆる場所で見られる。醜い小鬼のような姿をし、基本的には集団で行動をする。
単体では最弱のモンスターとして扱われるが、大規模な集団だと小国程度なら滅んでしまう程の戦闘力を有するので注意が必要である。また、本能的に火に弱い。
<ドロップアイテム>
・ゴブリンの核
・???
・ゴブリンの剣
・???
──────────────────
「……ゲーム的なノリで記入されていくんだな」
ずっしりと重たい図鑑を膝に置き、初めて記載されていた『ゴブリン』の項目を眺めていた俺は、ドロップアイテムの項目に目が向いた。
あの倒したゴブリンの所に落ちていた石の欠片が核と呼ばれるアイテムだったのだろう、そして奴らが使っていた小剣の名前も載っていた。ただ、まだ『???』になっている所が二ヵ所あった。
「……まだ、他にドロップするのか」
神様からのお願いがある以上、この二つの項目を開けない訳にはいかない。まぁ、やるべき事が見えているので有難い話ではある。
「……あ、そう言えば」
図鑑を片付け、優先事項の一つである武器の購入の為に外に出ようとしたが、それよりも、この誰にも見られていない場所だからこそ出来る事を先にやってしまおう、そう思った俺はベッドに腰掛け、そしてゆっくりと目を閉じた。
図鑑とかいう、ゲーム上よく見る系のアイテムって異世界にあると面白くありません?
あと、無口な子とか結構好きなんですよ、私。同士集まれぇっ!!
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