CASE.11 漸く冒険者になれました
ちょっと説明回、だけどもちょっぴり平和な1話……?
「もう、一体何があったら壁にヒビ入るんですかっ!!!!」
訓練場に正座する俺とラドーガさん相手に、目の前の女性職員は顔を真っ赤にするぐらいに怒っていた。
「ま、まぁつい盛り上がっちゃって……」
「盛り上がったら壁にヒビ入れていいと思ってるんですかギルドマスターのくせに!!」
「うっ……マジですいません……」
「いーや、今日と言う今日は絶対に許しませんッ!!
だいたい、最近のギルドマスターの体たらくと言ったら──────」
どういう状況なのか整理しよう。俺の一撃で大爆音と壁のヒビを起こした直後、上の階から赤髪ショート高身長のメチャクチャ美人な職員さんがやって来た。そしてあれよあれよと正座させられ、何故かギルドマスターばかりが説教されて、今に至る。
「──────とにかくっ!! 貴方はギルドマスターなんですから、もっとギルドマスターらしく慎みを持った行動をして下さいっ!!」
「お、おぅ……すんません」
「……後で反省文一枚書いて提出して下さい」
「んなっ!? この歳になって反省文って「何か?」……誠心誠意頑張ります」
あのラドーガさんがまるで子ども扱いされている事に、俺は度肝を抜かれた。実力もさながら、ギルドマスターというこの場所では最高の地位にいる彼をこうも手玉に取る彼女が、俺は気になって仕方なかった。
「えっと……」
「あぁ、見苦しい所をごめんなさいね?」
「い、いや……それより貴女は……?」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。
私はここの冒険者ギルドの職員でナータリー・ストレイっていうの。宜しくね、新人さん?」
「よ、宜しくお願いします……」
先程からは想像も出来ない程にこやかな笑みで自己紹介してくるナータリーさんに、歯切れの悪い返答をしてしまう。いや、これに関して言えば断じて俺は悪くない。絶対悪くない。
「と、まぁ自己紹介は置いておきましょう。
……ギルドマスター、これの修理は私の方でしておきますから、彼の審査結果と手続きをしてきなさい?」
「お、おう……いつもすまんな、ネル」
「っ……これに慣れる私の身にもなって下さいよ……」
渾名なのだろうか、ラドーガさんにネルと呼ばれたナータリーさんは、先程とは違った赤面を見せて壁の方に向かって行った。つまり、そう言う間柄なのだろう。
「さて、説教も終わった事だし上に戻るかっ」
「反省文、忘れないで下さいねギルドマスター?」
「……すいません」
──────────────────────────────
訓練場を離れ、一階のカウンターまで戻って来た俺とラドーガさんは、フィルナさんに話しかけた。
「おうフィルナ、審査終わったぞ」
「そうですか。因みに、先程の爆音は「忘れてくれ」……は、はぁ」
「そ、そんな事より手続きの方頼むって」
「わ、分かりました。
……では、先にこの書類に必要な情報を書き込んでいって下さい」
そう言ってフィルナさんは俺の前に一枚の書類と羽ペンを差し出した。だけど、彼女には悪いが俺には文字が書けなければそもそも読むことも出来ないので、書類に書かれている事が何一つとして理解出来なかった。
「……すいません、読めないし書けない時はどうすれば」
「あぁ、でしたら私が代筆させて貰いますので、簡単な質問に答えて下さい」
「す、すいません」
「ふふっ、こういう方は多いので別に気負わなくても良いですよ?
……さて、ではまず名前から──────」
どうやらこの世界の識字率はそう高く無いらしく、俺みたいに読み書きの出来ない人は意外といるらしい。
その事に救われた俺は、フィルナさんの質問に正直に答えていく。名前、年齢、出身……は、空欄にして貰い、最後に犯罪歴の有無の確認になった。
「では最後に犯罪歴の有無の確認ですが、これに手を翳してください」
カウンターの裏から取り出されたのは、水晶のような球体が下から支えられただけの簡単な装置だった。
フィルナさんの言った通りに手を翳すと、水晶が一瞬だけ白く光を放つ。
「……はい、犯罪歴は無いようですね。
では最後に、冒険者プレートの作成にかかります。このプレートに唾液を付着させて頂けますか?」
「唾液、ですか?」
「あぁ、そんな直接舐めて頂く必要はありません。指を舐めて頂いて、その指をこのプレートに押し付けて頂ければ十分ですので」
「あ、分かりました」
これもまたフィルナさんの指示通り、親指の腹を舐めてそれを差し出された灰色のプレートに押し付ける。すると突然青色の線がプレート上を駆け回り、俺の知らない文字記号が刻まれていく。
「……はい、これでイスミさんのプレートが出来上がりましたので、移動の際は常に携帯する様にして下さい。
もし万が一無くされた場合は即座に近くの冒険者ギルドまで立ち寄り、再発行して下さい。プレートを新たに作ると、以前のプレートは使えなくなるので、盗難防止の為にもなるべく早くお願いします。後、今回は無料で作らせて頂きますが再発行には手数料として銅貨五枚が必要になりますので、忘れない様お願いしますね」
「はい。ありがとうございます」
「……それで、ギルドマスター。彼はどのランクから始めればよろしいでしょうか?」
「そうだな……実力だけで言えばCから始めても問題ないだろうけど、問題は知識量だな。
これから色んな経験を積ませて知識を身に着けさせる事を考えれば、E辺りから始めればいいと思うぞ」
「分かりました。ではイスミさんはEランクからという事で登録させて貰いますね」
「……あの、ランクの事は大体想像つくんですけど、一応説明良いですか?」
「ええ。では──────」
話を聞いていると大体が俺の想像していた通りで、ざっくりまとめると以下の通り。
・ランクとは依頼をこなした数や実力以上の依頼の達成を評価し、その総合点をギルドが定めた基準で明分化したもの。
・最下位からF、E、D、C、B、A、Sの七段階に分けられ、更にSランクの中でも上位十名には二つ名が与えられ、それに見合った報酬や依頼が与えられる。
・ランクに応じて以来の種類が決められているが、受けられるのは自身のランクの依頼と一つ下のランクの討伐依頼、一つ上のランクの採取系依頼である。
「──────説明は以上ですけど、ここまでで質問はありますか?」
「いえ、今の所は」
「そうですか。もちろん例外もありますが、その時はその時に説明させて貰いますので、また分からない事がありましたら、私含めギルドの職員にお尋ね下さい」
「はい、ありがとうございます」
「流れるような説明……腕を上げたな、フィルナ」
「ギルドマスターはもっと仕事して下さい」
「お、おぅ……辛辣だな……」
割って入ったラドーガさんが撃沈しているのを横目に見ながら、俺はフィルナさんから最後の説明を受ける。
「えっと、最後にこの建物について説明させて貰いますと、一階がクエストカウンター及び集会所、二階が食堂、三階が個別談話室や会議室等の各種ルーム、四階がギルド関係者階となっています。地下一階、二階は訓練場となっていまして、これは朝の九時から日付が変わるまで開いていますので節度を持って自由にお使い下さい」
「なるほど……あっ、素材の買い取りってどこでしてるんですか?」
「あ、それでしたらここカウンターでも受け付けますし、数が多い場合でしたら右手奥にある素材買い取り口まで持って行って下さい」
「分かりました」
「質問は以上ですか?」
「あ、いえ最後に一つ頼みがあるんですけど……」
「はい?」
最後の最後でイスミが依頼したのは一体何なんでしょうね?
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