人は本当に驚いたら何もできない
あれからまた数週間がたち、空気は少し冷たくなってきたように思う。そんな日本でいうと秋に近い時期、ついにその事件は起きた。
「まぁ!!!ゲイツ凄いわ!!!今日はお祝いね!!」
そう、ついに俺は歩く事に成功したのだ。長かった・・・こんなに努力したのは生まれて初めてだ。まだ生まれて数ヶ月だけど。そして俺はその足でずっと行きたかった場所に向かった。それは本棚だ。俺は歩けるようになったら本を手に取ろうと心に決めていた。エマやオリバーの話す事が少しずつ理解できるようになり、どれだけ本を読んでもらいたかったか。世の中の子供が絵本を読んでもらうのが好きな理由が少し分かった気がする。
「あら、ゲイツ。本が気になるの?」
その通りですお母様。彼女は軽く俺を抱き上げるとそのまま本棚の前に連れて行った。
「やっぱり最初は童話とかがいいのかしら?でも家にはその手の本全然ないわね。今度買っておくわね。だから今日は・・・そうね。ゲイツが選んでちょうだい。」
彼女はそう言うと本を一つ一つ指でさしながら本のタイトルを読み上げていく
「これはお料理本、これは医学書、こっちが歴史で、これが魔法についてね。そういえばゲイツには魔法を見せた事がなかったわね。」
そういうと彼女は人差し指を立てて
「マジックコードアウト、ライト」
そう言うと突如彼女の指に直径10センチほどの光がともった。
「これが魔法よゲイツ。びっくりした?あれ?ゲイツ?どうしたの?もっと泣くとかそういう反応があるかと思ったのだけど」
俺は言葉を失っていた。いやまだ喋れないが、そうじゃない。驚きすぎて何もリアクションを起こせなかった。
(なんだ今のは?マジックなのか?・・・しかしそれにしても・・・)
「じゃあこれはどうだ・・・マジックコードアウト、ファイヤー!!」
エマはそう唱えると手のひらに拳ほどの炎を出現させた。あっつい!!
「だぁー!!」
「あぁ!!ごめんねゲイツ。熱かったよね。ごめんね?」
そう言うとエマの手にあった炎は消えてしまった。
(まてまてまて・・・これは本当に)
「さて本だけど、後は・・・あ、これなんていいんじゃないかしら。冒険者エルダーの漂流記。」
彼女はその本を手に持ちソファーへと俺を連れて行く。しかし俺にはもうその後の言葉は耳に入っていなかった。
(俺はてっきりここは地球の俺のしらない田舎街だと思ってた。でも、もしかしたら・・・とりあえず早く歴史なり地理なり知る必要があるな・・・)
その日から俺は自重する事を一切やめたのだった。