終わりも唐突だし始まりも唐突に訪れる
失望・・・望みを失うこと。あてがはずれてがっかりすること。
大学を卒業後、都内のIT企業に就職しお客様先に常駐して一人で残業。モニターに映し出された検索結果を見ながら篠田 昴(29歳独身)は大きくため息をつく
「俺どこで失敗したかなー・・・ってまぁ何処からなのかはっきりしてるんだけどね。てか何検索してんだ俺は」
学生時代は特に苦労はしなかった。それが悪かったのか地方から東京に出てきてからは碌なモノではなかった。起業という夢を持ち東京に足を踏み入れた。そこから彼の失望の連鎖が始まった。1年目人に騙され、2年目は借金に追われ、3年目に夢をあきらめ転職、4年目に就職した企業が倒産、5年目に癌になり、6年目に結婚しようとした彼女の浮気が発覚、そして今は仕事の納期に追われていた。
「本当碌なもんじゃないな。人生もプロジェクトも安定が一番だよ。今なら分かる。痛いほどに・・・」
時間は夜11時。プロジェクトルームにはただ一人。プロジェクトマネージャーとして資料作成に追われていた。
「終電前に帰るとしますかね」
PCの電源を落として席を立った時だった。
ガシャーン!!
外から巨大な鉄の塊が壁を突き破って突っ込んできた。
「は?」
一声挙げるのが精一杯の時間しかなかった。地上14階の部屋に突っ込んだジェット機によって、机、椅子、PC、サーバーとともに彼の身体は吹き飛ばされた。
(あーこれはあれか、夢か、仕事しながら寝ちまったのかな俺。にしてはやけに痛いんですけど。てか流石にこれはありえないと思うんですけど。本当終わるときって唐突だな。痛み以外の実感わかないんですけど・・・もし神様って奴がいるのなら恨むぞクソ野郎・・・まだ俺は全然幸せ掴んでねーんだよ。こっから人生挽回していかなきゃいけないんだよ。・・・・くそが俺の人生返しやがれ・・・)
そして彼のこの世界での人生はたくさんの残骸の中に埋もれてあっけなく幕を閉じた。神への恨みを心に刻みながら・・・・
(なんか・・・息が上手くできない・・・なんだ何も見えないぞ・・何が起こったんだ・・・)
そこは完全な闇だった。辺りを見渡しても光はなく、光がないから周りがどうなっているのかも分からない。
(どうなってんだ・・・俺は確か・・・そうだ!!飛行機!!あれに突っ込まれて生きてたのか!!なんだそれ。そんな事あるのか・・・・いや、ラッキーだけどさ。しかし身体のどこも痛くない・・・ん?)
そこで初めて自分の身体の違和感に気付いた。
(腕の感覚がない!?足も!?なのに痛みを感じない・・・もう訳が分からないな・・・妙な浮遊感があるし・・・本当何処なんだ・・・いやビルの中のはずなんだけどさ・・・)
こんな状況なのになぜか頭はすっきりとしていた。絶望的な状況なのにだ。自分でもなぜそんなに冷静なのか分からない。まるで他人事だ。そんな事を考えていると、身体が急に何かにすくい上げられる感覚に襲われた。
(この感覚嫌いなんだよなぁ・・・)
分かりやすく言うとジェットコースターに乗ったりした時に感じる一瞬身体が無重力にさらされたような感覚だ。幼少期に親と一緒に乗ったジェットコースターのベルトが壊れ、あわや投げ出されるかと思うような体験をしてから、昴はこの感覚が嫌いだった。しばらくそのまま上に上がっていくと強烈な光の塊が上から落ちてきた。というか自分から塊に突っ込んでいった。
(今度は眩しくて何も見えねぇ!!)
そして段々と光は収まっていき、彼の視界に最初に入ってきたのは・・・
「奥様おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」
しわくちゃの婆だった。
(え、誰だよ。てか何言ってんだ?外国語?英語じゃないっぽいな。聞いた事ない発音だし・・・そして顔が近い!!なにこれどんな状況?ちょっと離れてくんない?)
軽くパニックになりつつ声をだそうとしたとき
「おぎゃー!おぎゃー!」
「あらあら、本当元気がいいわね。そうよねーこんなお婆ちゃんよりお母さんがいいわよねー。」
(え、ちょっとまって、上手くしゃべれない・・・てかこれってまさか)
「ありがとう婆や。」
(いや間違いない・・これは・・・)
「はじめましてねゲイツ。あなたの母親のエマよ。これからよろしくね。」
(てんs・・・ってもしかしてこれが母親!?まさかさっきの婆じゃないよね!?めっちゃくちゃ美人なんですけど!!)
彼の心の声を聴いてる人がいたら思わず突っ込んだに違いない。
「そっちかよ!」と。