2 異世界転移
取りあえず転移後の話しです。
お察しの通り女神がいましたね。
そして説明回なので空気の主人公。
それと同時に出てきたイケメンな山賊男。
しかし次回か次々回か・・・。ちゃんと主人公の活躍回、あります。
そして女神もちゃんとデレますので期待してお待ちください。
なお、本文は後々弄る可能性があるのでご了承ください。
光が視界を遮り、身体が何者かに引っ張られるような感覚。
これは召喚魔法特有の感覚であった。
本来そんな事を知るはずもないのだが、これまでの経験で覚えのあったアウルは素直にその感覚に身を任せる。
その顔に浮かんでいたのは笑み。
それはこれから起こる事への不安や恐怖など微塵も感じさせない、言うなれば遊びに連れてってもらえる瞬間を楽しみに待つ子供のような表情だ。
彼は楽しみでならなかった。
生まれてこのかた、こんなに大規模な召喚魔法は見たことがない。
自分もやってやれないことはないだろうがそもそもしてみようと思った事もなかった。
そんな「未知」の何かに自分が巻き込まれているのだ。
今の生活に、あの世界に飽きを感じていたアウルにとってこの事は自分の飢えを癒してくれるものに他ならなかった。
「っと!」
急に視界が開けたと思えば引っ張られるような感覚がなくなり地面へと足がつく。
そうして降り立ったのはどうやら広間のような場所らしかった。
同時に複数の気配を感じ辺りを見渡してみれば自分と同じように用心深く辺りを見渡している男女の姿が・・・中にはリザードマンのように二本足で立っているにも関わらずその肌は鱗に覆われ顔はトカゲのような造形をしている者もいた。
おおよそ、視界に映っているだけで十人ちょっと。
だが気配で言えばその二、三倍はあるので恐らくまだこの場所への召喚が済んでいないのだろう。
そこで、またアウルの顔がニヤける。
何せ、ここにいる気配のその殆どかなりの実力者であることがすぐに分かったからだ。
これだけの強者達を集めて、さぁ今から皆で草むしりをましょう!なんてことはないだろう。
きっと何かが始まる。
そんな予感がアウルにはあったのだ。
まぁ傍から見たら一人でニヤついているちょっと怪しい人物かもしれないが。
「ねぇ、ちょっと」
だがそんなアウルに話しかけるものがいた。
それは深くフードを被り素顔の見えない者だったが身長がおよそ百五十少しだったことや、その声から女性であることが窺える。
この者もただ者ではない気配を纏っていて、それなりの実力者なのだろうことが分かった。
ともかく話しかけられたからには返さなければならない。
そう思ったアウルは辺りを見渡すのを辞め、フードを被った少女へと向き直った。
「ん、俺に何か用か?」
「えぇ、ちょっとあなたと話がしたくて」
そうしてフードを脱いだ少女。
そこから出てきたのは銀髪の美しい少女だった。
透き通るような白い肌と煌めく銀髪がよく合っている。
そして何より纏っている雰囲気が神秘的であった。
数百年生きているアウルでもこのレベルの美少女はちょっと見たことないくらいには可愛かったのだ。
中から飛び出してきたのが思いのほか可愛い少女だった事に少し驚きの表情を浮かべたアウルだったがすぐに無表情へと戻る。
「話ねぇ。もしかしてこの状況についてか?もしそうなら俺にもサッパリだ。俺に聞いたところで何も分からないぞ」
「嘘。あなた自分が大規模魔法によって召喚されたことに気付いてるんでしょう?」
「って言う事はそういうお前も自分が召喚されたことに気付いてるんだな」
「・・・・」
アウルに的確な返しをされあちゃーみたいな顔をする少女。
しかし、仕切り直すように一度顔を横に振ると今のやり取りがなかったかのように振る舞う。
「あなた、やろうと思えばこの召喚をキャンセルできたんじゃない?なんでわざわざ来たのよ」
それは何故か少し咎めるような口調だった。
「どうしてそう思う?まるで俺の事を知っているような口調だけど」
普通であればお前には関係ないだろうと切り捨てるアウルだったが、この少女について少しばかり思い当たる節があるのか真面目に答える。
そんなアウルに対して何故か胸を張った少女。
そして怒ったような表情から目を瞑り如何にも「私は偉いのです」という態度を取る。
「あなたの事は知っているわアウル・インフィールド。何せ私は―――――」
『皆の者!!よくぞこの世界へと来てくれた!!』
しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。
いつの間にかこの広間に入っていた偉そうなおっさんが魔法で拡散しているのかはたまた元から通る声なのか響き渡るような声でそう告げたのだ。
自分の話を邪魔された少女はむっとした顔をしたがアウルの視線がおっさんに向いたため自分も渋々おっさんの方を見る。
その際ちょっと涙目で「なんでこんな時に邪魔が入るのよぉ…」と呟いていたのは内緒だ。
そしてアウルや少女だけではなく、広間に集まっていた者達、それこそいつの間にか召喚されていた者達をを含んだおよそ三十名程度が視線を向ける。
そんな召喚者達の視線を向けられた本人であるおっさんは「うむ」と頷くと口を開いた。
「ここにいる者は皆それなりに気付いているとは思うが、ここは其方らがいた世界とはまた異なる世界―――スフィアという名の世界である!そしてお主達をこの世界へと呼んだのは我だ」
そんな宣言に当の本人たちは沈黙で答える。
それは無言の続きを促す合図であった。
「この世界へと召喚したのは他でもない、其方らに頼みがあるからだ。そう、各々の世界で強者として名が知れ渡っているだろうお主達に、な」
そこで一旦区切るおっさん。
そしてこちらを見ていた三十数名を見渡した。
そう、今ここに集った者達は元いた世界で「強者」として君臨していた者達であった。
本来普通の人間であれば急に異世界へと召喚されこんなことを告げられれば混乱するのは必然だろう。
しかしここにいるのは実力者ばかり。
こういったことに経験があるのか・・・それともどんな事であれそれすらもどうとでもなると思っているのか・・・それは分からないが誰一人として取り乱すことはなかった。
そんな彼らを見て再び満足そうに頷いたおっさんは話を続ける。
「我はこの王国の国王であるガリウスと申す。一先ず、勝手に召喚したことを詫びよう。すまない。そして同時に頼む!この世界を救ってくれ!!」
と、頭を下げたおっさん。もとい国王ガリウス。
それに対し周りにいた護衛だろうか、武装をしていた衛兵達はどよめく。
何せ一国王が頭を下げるというのは本来であれば一大事だ。
彼らが動揺するのも無理はない。
だがそんな彼らを気にした様子もなく顔を上げた国王は説明を続けた。
「勝手に呼び出しておいて勝手だが、この召喚の儀にはおよそ五十年の時と膨大な魔術師を犠牲にした上で行われたものだ。我らが敵を打ち滅ぼすまでは其方らの世界へと再び送り返すことはできん。再三誠勝手な話だが了承してほしい。だが、其方らは元の世界でより強さを、そして目標を欲していた者達であろう?で、あるならば是非ともその強き力を我らのために振るってはくれまいか」
「ちょっといいかおっさんよぉ」
一通り話したところで今まで黙っていた召喚者の一人からついに声がかかる。
仮にも国王を「おっさん」呼ばわりしたことに衛兵は「無礼者!」と騒ぎ立てるがそれを片手を上げる事で収めた国王は質問をしてきた者へと視線を合わせた。
「部下の者が失礼した。それで何か質問があるのだろう?」
「そうだな。俺があんたを敬わなきゃいけない義理もねぇ。なんせあんたは別に俺の主君ってわけじゃねぇからなぁ。それを分かった上で部下を止めたことは評価するぜおっさん。んで、話だがよぉ、質問、どころの話しじゃねぇだろ?」
如何にも「俺、実は山賊っていう職業についてるんすわ!」と言われても全く違和感のないような荒々しい風貌をした男はそう告げる。
「いきなり召喚されて、挙句にこの世界を救ってくれだぁ?んな話あるかよ。それに、こんなガキや女まで呼んどいてよ」
そう言ってアウルやその隣にいた少女の事を見る男。
その他にも少女といえるような歳の者をサッと見た男は腕を組んで難しい顔をする。
「あんたの話しが確かならこいつ等も確かにつえぇんだろうさ。けどな、俺ぁ昔から女子供に戦わせるなぁ嫌いでな。しかも今回は世界を救えだろ?そんなことに巻き込んでんじゃねぇよ。あ?」
言い終わると同時に凄まじい威圧感を放つ男。
それと同時にあまりの威圧感にへたり込む衛兵達。
そしてえ、「ヤダ・・・何コイツ。見た目に反してメチャメチャえぇやつやんか」と思う召喚者達。
そんな対照的な反応に苦笑いした国王は男の放つ威圧感にも何処を吹く風で平然とした顔で答えた。
「うむ。其方らの言い分も尤もだ。だからこれから言おうと思っていた。何も我らが敵と戦う事を強制するわけではないという事をな」
「あん?そりゃ一体どういうこった?」
「言った通りだ。どうしても我らに協力したくないという者は無理にせず、この世界で好きに生きて構わぬ。罪を犯すのだけは勘弁してもらいたいがの。結論から言えば協力しても構わないという者達だけ、力を貸してほしいのだ」
その言葉に意外そうな顔をする男。
しかし次の瞬間にはニッと笑みを浮かべた。
「へぇ、いいじゃねぇか。無理強いしないところがよ。いいぜ、少なくとも俺は協力してやる。どうせ元の世界でもやるこたぁなかったからな。ここにいるやつの殆どが俺みたいなやつだと思うが・・・。で、結局のところ俺らの敵ってのは何なんだ?話しはそれからだぜおっさん」
先程まではなっていた威圧を綺麗さっぱり消しそう尋ねる男。
それに合わせるように周りの召喚者達も頷いていた。
男の言ったようにここに集まった者達は力がある分、日々の生活に飽きを感じ新鮮さを求めていた者達だったのだ。
「ある一定以上の力を持った者で、自分のいる世界に未練のない者。」
実はこれが召喚する際の術式に定めたルールだったのでそういった者が集まったのは決して偶然というわけではなかったのだが。
故にこのような事態は誰しもが望むのところだったのだった。
もちろん、中には例外はいるだろうが。
しかし、望む望まないに関わらず敵の存在を知らなきゃ首を振ることも出来ない。
やはり実力者だけあってかそういった判断が出来ない程愚かな者はここにはいないようだった。
そんな彼らの意を受け重々しく頷いた国王が口にしたのは―――
「うむ。其方らに戦ってもらいたいのは・・・」
―――この世界の女神だ―――
という、信じられないような言葉だった。
読んでくださった方々に感謝を
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