15話 フォートレス号の設置とルッカ侯爵
アレシアさんとドロテアさんが話し合いを終えて戻って来たので、港に迎えに行く。少し離れた場所に居るのは朝の騎士様か、どうしたのかな?
アレシアさんとドロテアさんを迎え入れると、騎士様が近づいて来た。
「私もご同行させて頂けないでしょうか?」
えっ? 嫌だよ、今でさえ演技で窮屈なのにわざわざ監視を乗せなきゃいけないんだよ。アレシアさんを見ると、不愉快な顔をしてる。
僕は首を横に振り、ルト号を港から離した。
「申し訳ありません魔導士様。同行は出来ないと断ったのですが、まだ諦めていなかったようです」
「あー、そうだったんですか。特にしつこかったわけでもないので構いませんよ」
「ありがとうございます」
「それで交渉の方はどうでしたか?」
「はい、120白金貨と物資のリストと代金を受け取って来ました。物資を買うのは隣国のテッサロニキ王国の港町オーフスで、ゴッフレード商会にこの手紙と代金を渡せば全部手配をしてくれるそうです。
後はオーフスの領主様に挨拶する為の人員の乗船も求められましたが断りました。手紙だけでも先に届けるように頼まれましたので、その手紙は私達が届けます」
「分かりました。船の方は今日の夜に少し離れた場所でフォートレス号を召喚して、偽装してから乗って来ます。オーフスへはどの位掛かりますか?」
「はい、お願いします。オーフスは魔導船で4日だそうです。ルッカに来る途中で近くを通ったはずなんですが、どれかまでは分かりません」
「あー、そうですね。ルッカを目的に全部素通りして来ましたから。分かりました、行けば分かると思うので、取り合えず行ってみましょう」
「はい。よろしくお願いします」
「任せてください。そういえばアレシアさん、ドロテアさん、夜はルッカに戻るんですか?」
「いえ、明日の朝、ルッカに戻ろうと思っています」
「そうですか。じゃあ夕食にしましょう」
「「「「はい」」」」
夕食を食べながら、城での出来事をアレシアさんとドロテアさんに聞き、今後の事を話し合う。ルッカだけを何とかすれば終わる話じゃないのが面倒だな。早く演技の無い気楽な生活に戻りたい。
シャワーを浴びて軽く仮眠をとる。
「ご主人様、ご主人様、時間です」
「ん? ああ、そうだった。ありがとう」
「いえ」
夜中でもネスとシアとの日課をしっかりと熟し、サロンに行く。
「アレシアさん、ドロテアさん、寝たままで良かったんですよ」
「ルッカの為に頑張ってくださるんですもの、お見送り位させてください」
「はは、ありがとうございます。じゃあ行ってきますね」
「「いってらっしゃい」」
ガレット号を召喚して、外海に向かって走る。
「ここまでくれば大丈夫だよね。フォートレス号を召喚するね」
「「はい」」
フォートレス号を召喚して魔法陣に飛び乗る。あーそう言えば貸す時にはタラップと乗車口を下ろしておかないと入れないな。忘れないようにしないと。
船内に入り、船の偽装を始める。まずは操船室とこの世界に無い物がある場所、僕達とジラソーレが使っている部屋を封鎖する。
「あー窓はどうしようか、電灯も消したし、木材にしたら真っ暗になるけど……」
「生活魔法があるとはいえ、ある程度の窓は必要ですね。3分の2程の窓を木材に変えて窓を減らしておけば少しは驚きも薄れるかと思います」
「じゃあ、そうしようか」
あーでもないこーでもないと言い合いながら偽装を進める。結構時間が掛かったが、ネスが言うには、何とか一般的な船になったそうだ。大きさ以外は……
自動操縦でルッカに向かい。自分の部屋だけ封鎖を解除してネスとシアとリムと楽しく過ごす。
「リム、ごめんね。お外に出れなくて退屈でしょ」
『りむ、たのしい』
「そう? 何が楽しいの?」
『んー、みんないっしょ、たのしい』
「そっかー、みんなと一緒に居ると楽しいんだね」
『うん』
「楽しいのは嬉しいね」
『うれしい』
良かった。外から見えるからデッキにも出してなかったんだけど、ストレスは溜まってないみたいだ。でも買い物に行ったら外で沢山一緒に遊ぼう。
フォートレス号の停泊場所に到着して自室を再度封鎖、タラップと乗車口を下ろしたままガレット号を召喚しルト号に戻る。
「お帰りなさい。お疲れ様でした」
「アレシアさん、ドロテアさん、ただいま戻りました。あの位置にフォートレス号を止めましたが、買い物に行く前なら移動させますので、言っておいてください」
「はい、買い物はいつ頃行かれますか?」
「んー、帝国から軍船が来ても面倒ですから、早めに出発したほうが良さそうですね」
「では、出発時間が決まったら教えてください。みんなを集めますので」
「ん? ジラソーレの皆さんは此処で待っていてください。買い物位なら僕達でも十分ですよ」
「いえ、魔導士様として行かれるのなら、帝国も魔導士としての姿を確認しているはずです。何があるのか分かりません。ご一緒します」
あーそうか。魔導士姿の僕って、帝国の敵なんだよね……帰りたい。
「分かりました。ですが、全員で行くのは駄目ですね。侯爵様との繋ぎも必要ですし、何かあった時アレシアさん達の家族も守らないといけないですよね。出発は明日の昼過ぎにしますから、それまでに組み分けをしておいてください」
「はい」
「あっ、チケットは無記名のフォートレス号専用のを取り合えず500枚ほど発行しておきます。足りなかったら追加で発行します。と伝えてください」
「分かりました」
えーっと、無記名、部屋指定無し、フォートレス号専用、期限は……取り敢えず無期限だな。返還してもらった時にチケットは消そう。忘れないようにしないとな。枚数は500枚、これで良し。チケット発行。
光と共に500枚のチケットが現れる。結構な量だな。
「アレシアさんこれがチケットです。侯爵様に使い方を説明して渡しておいてください」
「はい」
「後は、緊急事態の為のフォートレス号とガレット号の乗船許可チケット、30枚です。緊急事態の時は家族を連れて、避難してください」
「はい、ありがとうございます」
やる事は大体終わったので、もう一度休む事にする。おやすみなさい。
~ジュスタン・ド・ルッカ視点~
帝国が攻めて来る情報を手に入れた。今まで通り小競り合いの延長だと思っていたが、帝国はいつも以上の兵を集めているようだ。
しかし長年、帝国の侵攻を阻み続けたルゥグホン砦を抜く事は難しいはず。なぜ今、兵士を大量動員したのか不安もあるが、応援の貴族も到着し国軍も集まっている。大丈夫だろう。
だが普段と違う帝国の行動に違和感を覚える事も事実だ。海上の警戒を厳重にするように指示をだしておくか。
ルゥグホン砦が落ちた。信じられない報せと同時にルッカに向かって来る帝国の軍船を発見。直ちに迎撃態勢を取り、同時に近隣の貴族に援軍要請を送る。
ルッカの街を戦時体制に移行。商船や漁船をルッカから脱出させる。軍船を集め湾内に入れないように陣を敷く。
「デュムン、帝国海軍は撃退出来るか?」
「かなり不利な状況です。帝国軍は大型魔導船1艘、中型魔導船2艘、小型の魔導船12艘、他、軍船多数です。ルッカ独力での撃退は不可能で、時間を稼ぐ事すら難しい状況です」
「ふむ……王国はルゥグホン砦を抜かれ大混乱だ。王国海軍からの援軍は直ぐに来ると思うか?」
「いえ、そもそも、帝国とルッカの間に王国海軍の本拠地があります。帝国軍がルッカに来れたという事は、王国海軍でも何かが起こっていると考えるべきでしょう」
「……そうか、海戦での勝ち目はないのだな」
「はい。戦力差が大きすぎます」
「なぜ、帝国海軍は攻めて来ないのだ? 戦力差は向こうも把握しているのだろう?」
「おそらくですが、ルッカの戦時体制への移行が思った以上に早かったからだと思われます。いくら魔導船が多くともそれだけでは、体制を整えたルッカの城壁は抜けません。奇襲し港に混乱が起これば危なかったかもしれませんが」
「ふむ、海上の警戒を強化していた事が、最悪の状況を防いだか……しかしこのままではどうしようもないな。……港側の城壁の上に兵士を集め、船は撤退させて兵士と魔導船の回収は可能か?」
「船を撤退させるのですか? 兵士の回収は港まで戻って来られれば可能です。しかし魔導船の回収は、何より撤退行動を取ると、帝国海軍が一気に攻めて来る可能性があります」
「そうか、勝てない海戦で貴重な兵力と、魔導船を失うのは痛いな。何とかならんか」
「……夜中に兵士を別の船に移し、半数の船を空船にします。空船を前に出し、ロープでつなぎ合わせ、油を撒き、いつでも燃やせるように準備します。
後は一斉に撤退して、帝国海軍が動き出したら小舟の魔導船で火を点けて回れば、兵士を回収する時間は稼げると思いますが、魔導船を回収出来るかは分かりません」
「このまま海戦をしても勝ち目が無いのなら、兵士だけでも回収する。デュムン、軍議を開き、今の作戦を更に検討し実行せよ」
「はっ」
状況は悪いな、援軍が集まれば心強いが、集まれるのは周辺の貴族が精々だろう。
深夜、撤退作戦は実行された。出来る限りの準備を整えたが、帝国海軍の動きは鈍く、無事に兵士と魔導船の回収は済んだ。
帝国海軍の動きの鈍さが気になる。帝国の目的が分からない。王都も気になるが、帝国海軍がいるだけで動きようがない。
帝国海軍とにらみ合いが続くなか、数日が経ち僅かな援軍が増えただけで変わりがない。変化が訪れたのはさらに数日が経ってからだった。
偵察に出ていた部隊が、向かってくる帝国軍を発見した。大軍で向かってきた帝国軍に野戦を挑む事が出来ず、籠城を選択する。
こちらが籠る事しか出来ない中、帝国軍は陣地を築き完全にルッカを取り囲んでしまう。小競り合い位しか起こらず、完全に兵糧攻めを考えているのだろう。
ただただ耐えて、状況が良くなる事を待つ。帝国軍が余裕をもって兵糧攻めを選択している事を考えると、望みが持てない。
不安を押し殺して眠りにつく……「侯爵様、侯爵様」
「ん? 何があった。帝国軍が攻めて来たのか」
「いえ、何者かが帝国海軍と戦っています。見張りの兵士からの報告によりますと。帝国海軍の大型魔導船1艘、中型魔導船2艘、小型魔導船数艘を沈め、現在も次々と帝国海軍の軍船を沈めているそうです」
「本当か! 直ぐに向かうぞ」
「いけません。何が起こるか分かりませんので、次の報告をこの場でお待ちください」
「……分かった」
あの大型魔導船を沈めたのか……ただただ耐え続ける毎日に変化が起きた。この先にも希望が持てる変化であれば良いのだが。
次々と入って来る撃破報告に気分が上向く。最後の報告は、帝国海軍のほぼ壊滅と数艘の降伏船の確保という叫びだしたくなるような吉報だった。
門番に言付けられた情報によると、この都市が故郷の冒険者パーティー、ジラソーレがルッカの危機を知り、魔導士に協力を仰ぎ駆けつけたそうだ。感動でどうにかなってしまいそうだが、貴族たるもの感情を表に出してはならない。このような教えが今は酷く邪魔に感じる。
早朝に再びルッカを訪ねて来るそうだが、魔導士は身元を明かすつもりが無いらしい。構わぬから迎え入れよと命じたが、反対されてしまった。
戦争中に身元を明かさぬ魔導士を軽々しく迎え入れる訳にはいかない。確かにそうだが大手柄をあげた者を迎え入れぬのも問題だ。監視を付けて、先にジラソーレから話を聞く事で纏まった。
朝までまだ時間がある。少し睡眠を取ろうと思ったが眠れない。だが今までの鬱々とした不眠ではなく、興奮で眠れない事に喜びを感じる。
何とか少し睡眠を取り、状況が変わったので軍議を開く。途中、今回の功労者であるジラソーレが入って来る。魔導士は監視を嫌い、船で待つそうだ。
魔導士の機嫌を損ねる事を恐れたが、問題は無いそうだ。質問を重ね、ある程度の事は分かったが、魔導士については、たいした事は分からなかった。どうやら徹底的に身元を隠したいらしい。
ジラソーレが退出しても軍議は続く。まずは、解放された港から船を出し、ブレシア王国の状況を調べる事にする。
軍議が終わり、執務室で書類と格闘していると、ジラソーレが再び訪ねて来た。執務室に通して話を聞く。食料は問題無く仕入れてくれるそうだ。
問題は、120白金貨で湾の出入り口に巨大な船を設置するとの事だ。自分では判断がつかずデュムンを呼び出す。
内容を話すと、120白金貨の所で驚きをあらわにする。素直に感情を表に出すデュムンを少し羨ましく思う。
このまま籠っていても助けを期待できない以上、魔導士に賭ける事にした。ジラソーレも魔導士の事を信頼しているように見える。わざわざ故郷の危機に命を賭けて騙しに来る事も無いだろう。あれだけの力があれば正攻法で幾らでも稼げるはずだ。
白金貨を渡した翌日、湾の出入り口に巨大な船が停泊しているとの報告が来た。信じられずに見に行ってみると遠目でも大きさの違いが分かる巨大な船が停泊していた。
どうしようもない現実に光が射した瞬間だった。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




