4話 フェリーでの5日間と沢山の魔物
ワクワクしながら映画館に向かう。
「リム、面白い物が見れるよ、楽しみだね」
『おもしろい?』
「そうだよ、映画って言うんだ。見てみたら分かるよ」
『たのしみ』
「えーっと、どうやって観るのかな?」
映画の再生方法を、考えると、目の前にメニュー画面が出て来た。何でも有りだな……気を取り直して、映画のリストをみる。
おー、アニメ、邦画、洋画、結構な種類がある。テンションが上がるなー、豪華客船ならもっと沢山あるのか? ワクワクする。
有名なのは殆どあるな。あっ、ブルースブ〇ザーズがある、これ好きだったんだよなー。かなり古い映画なのに、嬉しい。
でも、リムもいるから、ブルースブ〇ザーズは今度にして、アニメにしよう。定番のジ〇リかな? ト〇ロにしよう。再生っと。
「リム、始まるよ。観える?」
『みえる』
あっ日本語だ、そう言えば言語が違うな。リムに分かるのか?
「リム、聞こえて来る言葉の意味は分かる?」
『りむわかる』
「分かるんだ、よかった」
言葉は分かるようになってるのか? 今度、イネスとフェリシアに聞いてみよう。
動く画像を観て暫くは不思議そうな意思を送って来たが、途中から理解が出来たのか、楽しそうな意思が送られてくる。
有名なシーンはリムをも興奮させる力があるのか。傘を持って木の芽を出して、大樹にするシーンでは、頭の上で動く感触がする。
リムも一緒に伸びあがってる。可愛い。ネ〇バスに興奮して、泣いている少女のシーンではオロオロする意思が飛んでくる。夢中になってるね。
「面白かったね、リムはどうだった?」
『すき、もっと』
「もっと見たいの? でももう寝る時間だよ。また今度一緒に見ようね」
『うん』
うーん、ト〇ロ、久しぶりに観たけど、いいな。リムも気に入ったみたいだし、今度は何を見よう。
部屋に戻る前に自販機コーナーに様子を見に行く。うん、完全にできあがってるな……カーラさんとクラレッタさんは居ない。
「イネス、フェリシア、そろそろ戻るよ。アレシアさん達も、もう寝ましょうね」
「んー? ワタルさんだー、お酒美味しいね。ワタルさんもお酒好き?」
うん、話が通じないな。
「うふふふふふ、アレシアは間違ってるわ。ワタルさんが好きなのは、ここよ」
イルマさんが近づいて来たと思ったら、頭を抱え込まれて乱れた胸元に抱きしめられた……こ、この感触は、イルマさんの生〇チ。
「うふふふふふ、ワタルさんは大好きよね、うふふふふふ」
パフパフ……パフパフだよね……
全神経を顔に集中する……「あっ、ドロテア、私も食べたいわ」……行っちゃった。残念。これってお酒の力? ラッキースケベって言うのか? でもありがとうございます。
「では、お先に失礼しますね。おやすみなさい」
「「「「おやすみなさい」」」」
説得を諦めて、イネス、フェリシアを連れて部屋に戻る。また飲み会を開こう。そう誓って部屋に戻って眠りにつく。
朝か……ん? 日課のキスが無いな……
両隣を見ると、イネス、フェリシアがまだ寝ている。珍しいな、いつも僕が起きる前に身支度を済ませているのに。
ああ、ガッツリお酒の匂いがする。暫く寝かせておくか。身支度を整え……さて、どこで朝食を食べようかな?
……取り合えず、自販機コーナーに行ってみるか。
リムを頭の上に乗せ、自販機コーナーに着くと、カーラさんとクラレッタさんが座っていた。
「カーラさん、クラレッタさん、ふうちゃん。おはようございます」
「「おはようございます」」
『……おはよ……』
「他の皆さんは?」
「ふふ、遅くまで飲んでいたので、まだ寝ています。二日酔いでしょうね」
「結構飲んじゃったんですね」
「ええ、私とカーラが先に部屋に戻った時も、夜遅かったんですが。その後も飲み続けたみたいです」
「僕が様子を見に行った時も相当酔ってましたけど、そこからまだ飲んだんでしょうね。それなら先に朝食にしましょうか。どこで食べますか?」
「ワタルさん、朝のバイキングが食べたい」
「僕は良いですけど、クラレッタさんは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「では、レストランが開くまで少し時間がありますね。ちょっと待ってましょうか」
「「はい」」
缶コーヒーを飲みながら、雑談する。カーラさん、クラレッタさん相手だと、基本的に食べ物の話になるな。あれが美味しかった、あれはどうやって作るんでしょう? とか……やっぱり2人は、色気より食い気なんだな。レストランが開いたので、食券を買い、中に入る。
うーん、最初は和食系で、おかわりで洋食系だな。まずは、ご飯に、味噌汁、焼き魚に大根おろし、ほうれん草の御浸しに、冷奴、納豆だな。これぞ旅館の朝食って感じかな? 美味しそうだ。リムにも同じ物を取り、席に着く。
カーラさんとクラレッタさんは洋食系で攻めるみたいだ。
「では、いただきます」
「「いただきます」」
まずは、大根おろしに醤油をかけて、焼き魚と一緒に一口……ご飯を口に入れ、よく噛み味噌汁をすする。うーん、幸せだな。次は納豆だな。
「あの、ワタルさん、その豆、糸引いてますよね? 大丈夫なんですか?」
納豆を掻き混ぜると、クラレッタさんが声を掛けて来た……そうだよね日本人でも苦手な人が結構いるのに、初見だと怖いよね。
「ええ、これは納豆と言って、うーん、チーズと同じように、食べ物を発酵させた物なんです。美味しいんですが、見た目や匂いで、苦手な人も大勢いますから、御二人も無理に食べる事はありませんよ」
「そうなんですか、うーん、でも、興味は有るんですよね……」
「私も」
「そうですか? ならこれを少し食べてみてください」
「うーん、匂いには慣れませんが、豆の味と醤油の味、ツンとくる辛味……これなら食べられます」
「私、結構好き」
「2人とも大丈夫なんですね。納豆にはご飯が合いますから、良かったら試してみてください」
「「はい」」
ちなみに、リムとふうちゃんも平気だった。
次は、洋食系だな。パンにソーセージにベーコン、スクランブルエッグにコーンスープ。朝から食べるには量が多いけど、バイキングだと頑張っちゃうんだよね。しかし2連続バイキングは日本でも体験した事が無い気がするな。
カーラさんとクラレッタさんはさっそく納豆に挑戦している。2人ともチャレンジャーだよね。
洋食系を食べ終えて、次は、お粥にキンピラゴボウ、漬物でしめる。ふー満腹だな。リムも僕と同じ量を食べたんだけど……クラレッタさんからお裾分けを貰って喜んでいる……僕より大食いだよね。
僕とクラレッタさんは食べ終わったが、カーラさん、リム、ふうちゃんはまだまだいけるらしい。結局、時間が来るまで食べ続けた。凄いな。
レストランを出て、カーラさんとクラレッタさんは、他のメンバーの様子を見に行くそうなので、僕もイネスとフェリシアの様子を見に部屋に戻る。
部屋に入ると、2人は起きてはいたが、頭に手を当てて頭痛を堪えている。うん、完全に二日酔いだね。
「イネス、フェリシア、起きたんだね」
「ごめんなさい、ご主人様、寝過ごしちゃったわ」
「申し訳ありません、ご主人様、寝過ごしてしまいました」
声に元気が無いな……かなり酷いみたいだ。
「まあ偶にの事なんだから、構わないけど、気を付けてね」
「「はい、申し訳ありませんでした」」
「お酒を飲むなとは言わないけど、無茶な飲み方は駄目だよ。水だからこれを飲んで、今日は休みにするから、寝ていていいよ」
「「はい、ありがとうございます。ご主人様」」
2人をベッドに戻して、リムと一緒にフォートレス号を散歩する。漫画の事を思い出して、自販機コーナーに向かう。漫画を読みながら、炭酸飲料を飲んでフライドポテトをつまもう。
「あっ、カーラさん、他の方達の様子はどうでしたか?」
「頭が痛いって言ってた、みんな寝てるからここに来たの」
「イネスとフェリシアも二日酔いでしたよ。飲み過ぎは駄目ですね」
「うん」
でもカーラさん、朝食バイキングを食べたのに、なんでカップ麺2個と、焼きおにぎりの空の容器があるんですか? 食べすぎも良くないんですよ?
カーラさんがいるので、漫画を読むのを止めて雑談をする。
そんなのんびりした船旅をしながら5日の時間が過ぎた。
全員がフォートレス号での生活に慣れ、それぞれに、お気に入りの場所、好きな食べ物、楽しみが出来てきた。
売店の商品を色々試し、アイスはこれが一番。いいえ、アイスは自販機のチョコチップアイスが一番とか言い合って楽しそうだ。チョコレートではキノコとタケノコの戦争は起きずホッとした。
そして、この5日間で途轍もない変化が1つあった。彼女達が売店のTシャツを気に入って、寝間着や訓練の時に着用しだした事だ。
浴衣で動きが制限されるのを嫌い、偶にしか浴衣を着なくなったのは残念だが、ノーブラTシャツはそれを補って余りある破壊力があった。
お風呂や訓練の後に、彼女達はTシャツとズボンで生活している。正直言って、刺激的過ぎてどうにかなってしまいそうだ。
特にイルマさんは、僕の動揺を見抜き、偶に僕の目の前で胸を張る姿勢で背筋を伸ばしたり。腕を前で組んで持ち上げたりと、僕の視線を釘付けにしたうえで、からかってくる。あの時の感触が思い出されるので、効果は抜群だ。
今の所、対抗方法は目を瞑る位しか思いつかないが。その時になると、目を瞑るのも忘れて見入ってしまう。今の所、全敗だ。勝てる日は来るのか? 勝ったとしても、男としてそれはどうなんだ? と悩んでしまう。
アレシアさん、ドロテアさん、マリーナさん、イルマさんは初日の酷い二日酔いも堪えず、自販機コーナーで度々飲んでいるし。クラレッタさんはクレーンゲームのぬいぐるみの入れ替えチェックに余念がない。
あとは、散歩の途中でマッサージチェアを発見した。時間制のコイン式だけど、最高にまったりできる。
イネス、フェリシアとジラソーレのメンバーも初めは驚いていたが、マッサージチェアの気持ち良さに段々ととろかされていった。
これも凄くて、Tシャツ、ノーブラ、マッサージチェア……最高です。特に振動の時は目が離せませんでした。
まあ概ね問題の無い船旅だが、2つ相談したい事があり、今からその話し合いを自販機コーナーで始める。
「みなさん、御集り頂き、ありがとうございます」
「ふふ、なんか変よ、ワタルさん」
「そうですか? じゃあ、普通に始めますね、アレシアさん」
「ええ、それで、話し合いたい事って何かしら?」
「2つあってですね、1つは海の魔物の事なんですが」
「そういえば、フォートレス号に乗ってから、魔物と戦ってないわね」
「それで、現在、魔物が船の周りに集まってるんです」
「そうなの?」
「そうなんです。海面からだいぶ離れているので、海の魔物が集まっている事に気が付きませんでした。様子を見た時は、海の魔物同士で争ったりしてましたね」
「そんなに沢山いるの?」
「ええ、シーサーペント、グラトニーシャーク、クラーケン、マーマン……多分ですが、5日の間に少しずつ魔物が増えていったんだと思います。諦めたり争いに敗れた魔物もいるんでしょうが、ずっと付いて来た魔物もいるんだと思います」
ビックリしたよ、缶コーヒーを飲みながら久しぶりの一服と思ってデッキに出たら、海から争う音が聞こえるから見てみたら、シーサーペントがグラトニーシャークを食べてたからね。
「それって、このまま行ったら南方都市まで連れて行ってしまうって事かしら?」
「おそらくそうなると思います」
「ちょっと様子を見に行きましょう」
アレシアさんの言葉に従い、デッキに出て海を確認する。
「うわぁ、結構な数がいるわね。これだけの数を引き連れて行くのは不味いわ。ワタルさん、船を止めて貰える? 対策を考えましょう」
「はい」
自販機コーナーに戻り、飲み物を買って、再び話し合いを再開する。
「それで、ワタルさんはどう考えているのかしら?」
「はい、アレシアさんが言った通り、引き連れて行くのは不味いので、右舷の乗車口を下して、そこから撃退するか、そこからルト号を召喚して飛び移って、撃退のどちらかがいいと思っています」
「ルト号を召喚するのが良いと思うわ」
「「さんせい」」
「アレシアさん、マリーナさん、イネス、あの魔物の集団の中で、操船したら面白そうとか考えていませんよね?」
「……少しぐらいなら良いと思わない?」
「……思いません、そんな事してたら、夜になっても終わりませんよ?」
「「「少しだけだから」」」
「息がピッタリですね。ふう、皆さんどうしましょう?」
「うふふ、ルト号を召喚して、この子達に操船させてあげる?」
「あの数ですからね、激しい操船になると思います。攻撃を外したり、倒した魔物を回収せずに先に進む事になりそうですね」
「数が多すぎるから魔物の回収は難しそうね」
「あー確かにそうですね。乗車口からルト号を召喚して撃退しましょうか」
うーん、大丈夫かな? 乗船拒否があるから、負ける事は無いと思うんだけど。3人の暴走が心配なんだよね。
「「「やったー」」」
喜んじゃってるし……
「決まりね、ワタルさん、行きましょう」
「アレシア、落ち着いて。それにワタルさんは、2つ相談があるって言ってたわよ」
「ああ、そうね、ドロテア、そうだったわね。ごめんなさいね、ワタルさん、もう一つは何なのかしら?」
「ああ、いえ、もう一つは、後でで構いませんよ。時間が取れたらまた話し合いましょう」
こんなにみんなのテンションが上がってる中、食べすぎ問題を提議するのは正直怖いです。
「そう、じゃあ行きましょうか……ワタルさん、何処に行けば良いの?」
「前に案内した、駐車場ですね。そこの乗車口からルト号に飛び移ります」
「分かったわ。みんな行くわよ」
うーん、3人は張り切ってるし、他のメンバーも楽しそうだ……リムとふうちゃんだけが僕の気持ちを分かってくれそうだ。
『りむ、まほう』
気のせいだ。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。