3話 バイキングと久しぶりの一服
そろそろ夕食の時間だな、バイキング、楽しみだな。
「イネス、フェリシア、そろそろ行こうか」
「「はい」」
レストランの前に着くと、ジラソーレが全員揃っていた。特にカーラさんは待ちきれない様子で、チラチラとレストランの中を窺っている。アレシアさんは言った通りにお風呂に入っていたみたいだ。ホカホカだね。
「お待たせしてすみません。食券を買いましょうか」
券売機でそれぞれ食券を買い、レストランの中に入る。一応、結構食べるのでリムとふうちゃんの分の食券も買う事にした。
中に入ると沢山のテーブルがあり、その奥には沢山の料理が並べてあるのが見える。冷静に考えると、あの料理ってどうやって作られて、どうやって配膳されたんだろう……考えると怖くなるので、料理に意識を切り替える。
「みなさん、ここにお皿が沢山あります。皿を取って、あそこに並んでいる料理を選んで食べるだけです。最初は、いろんな料理を少しずつ取って、好きな物を探すと良いですよ。分からない事や、気になる事があったら、言ってください」
僕の言葉と同時に、皿を手に取り、料理を選びに散って行く。アレシアさんは迷わずエビフライを多めに確保している。ローストポークも人気だな。
「ワタルさん、このサラダは、横の液体をかけるんですか?」
「ええ、そうですよ。色々な味がありますから、ドロテアさんの好みを見つけてくださいね」
「ふふ、サラダにかけるソースにもいろんな種類があるんですね」
「あっ、みなさん、ここら辺はデザートですから、食べるのは最後の方がいいですよ」
デザートって聞いて逆に興味を引いたみたいだ、取りはしないけど後で食べる為に、デザートの確認をしている。甘い物は強いな。基本的な食べ方を教えて、僕も自分の食事に取り掛かる。
まずは白米、味噌汁にお漬物、刺身、エビフライ、つくねの照り焼き、ローストポーク……贅沢だな。リムにも同じ物を用意し、久しぶりの白米にワクワクしながら席に着く。
お漬物を齧り、白米を食べる。よく噛み締めた後に味噌汁を啜る……あーーー、カップ麺も好きだけど、こう、まっとうな日本食も心に沁みるな。刺身に醤油と山葵をつけてパクリ……うーん、たまらんな。
「うふふ、ワタルさん、とっても嬉しそうね」
「ええ、イルマさん、久しぶりの故郷の味なので、嬉しくてたまらないですよ」
「そうなの。でもそれ生の魚よね? 大丈夫なの?」
「そうですね、違和感があると思いますが。故郷では鮮度と安全性に徹底的に拘り、安全に美味しく食べられるんですよ」
あれ? スキルの食事でも、刺身は大丈夫だよね? なんか色々不安だけど、もう食べちゃったからな、料理を楽しもう。
「うーん、気にはなるんだけど、怖いわね。その2本の棒で食べるのも、ワタルさんの故郷では普通なの?」
「ええ、お箸と言うんですが、慣れたら食べやすいんです」
「ワタルさんの故郷は不思議なのね」
「そうかもしれませんね」
うん、イルマさんに色々怪しまれてる気がするな。まあフェリーの施設を見たらそうなるよね。ジラソーレの皆さんには、色々バレてるんだから、今更だよね。聞かれたら答えよう。
珍しくイルマさんの色気にも惑わされず、食事を続ける。照り焼き旨っ。ローストポーク旨っ。次は何を食べようかなー
「今は何を言っても無駄みたいね。今度ゆっくり聞かせてね」
「はい」
「今からまた料理を選ぶよ、リムは何か気に入ったのがあった?」
『ぜんぶ、すき』
「全部好きだったんだ、良かったね。これから選ぶのはどうする?」
『わたるといっしょ』
次は……サラダを食べるか、ドレッシングは和風と迷うけど、シーザードレッシングにしよう。シーフードグラタンと、ふかふかのパンも食べたいな。
うーん、美味しいな、パンも柔らかい方が断然好きだ。気になった物を一通り食べ終え、周りの様子を見る。
うん、殆どのメンバーはパンを食べているな。やっぱりご飯は違和感があるんだろう。でもカーラさんはご飯に麻婆豆腐をかけて、麻婆丼にしてる。なんかやる事が日本人みたいだな。
クラレッタさんは少量をじっくり味わって、作り方を考えたりしているみたいだな。
「イネス、フェリシア、食事は口に合う?」
「とっても美味しいわ。特にこのお味噌汁? 慣れると美味しいわね」
お味噌汁が受け入れられたのは何だか嬉しい。
「ご主人様、私も美味しいと思いますよ。私は塩焼きそばが好きですね」
「そう、気に入った物があってよかった。沢山食べてね」
「「はい」」
「ワタルさん、お酒を楽しみたいのだけど、どうしたらいいのかしら?」
「ん? ちょっと待ってくださいね……」
どうしたらいいんだ? スタッフはいないし……。普通ならスタッフがいるカウンターを覘いてみる。おっ、お酒が置いてある、料金の投入口もある、ここで買えるな。
保冷庫にビール、冷酒、ワイン、がある。ビールも瓶になってる。細かい所で違いがあるんだな。
「アレシアさん、ここで買えるみたいです。お金を払ってここから取り出すみたいですね。ビール、ワイン、冷酒があります」
「ワタルさん、ありがとう。ドロテア、イルマ、マリーナ、どうする?」
「うふふ、色んな料理があるんですもの、全部買って、それぞれの料理で試しましょう」
「イルマに賛成ですね」
「私も」
「じゃあ、そうしましょうか。おつまみも沢山あるし、沢山飲みましょう」
直ぐに席に戻り、アレシアさん達はタコザンギでビールを飲みだした……この世界の人はタコはありなんだろうか? たこ焼きも食べていたし、大丈夫か。
うーん、僕の中では、バイキングでお酒は無いんだけどな、余裕があると違うか。
どっちかって言うと、料理とテーブルを行き来しているカーラさんに親近感を覚える。クラレッタさんは、研究者の目だな、何かが違う。
料理を選んでいると、ふうちゃんが近づいて来た。
「どうしたの? ふうちゃんも一緒に食べる?」
『……たべる……』
マリーナさんが腰を落ち着けて飲み始めたから、こっちでご飯を食べる事にしたようだ。なかなか的確な判断だな。
「そっか、リムと同じ物でいいかな? 何か欲しい物はある?」
『……いっしょ……』
リムと同じ物を取り、ふうちゃんの前に並べる。テーブルの上で、リムとふうちゃんが、一生懸命にご飯を食べている……可愛いな。
何度かおかわりをして、残り時間が20分になったので声を掛ける。
「みなさん、もう直ぐ時間です。食べておきたい物や、デザートを食べるのなら取りに行ってくださいね」
声を掛けて、自分もデザートを取りに行く。イネス、フェリシア、リム、ふうちゃんにも、アイス、ワッフル、カットケーキは大好評だ。隣の席のカーラさんも、目を輝かせてデザートを食べている。
定番のワッフルのアイスクリームのせを教えると、更に大喜びだ。
「ワタルさん、このケーキって作り方は分かりますか? とっても美味しいですから教えて頂けたら嬉しいんですが」
「ケーキですか……本格的なのは分からないです。家庭用も、材料が手に入らないのと、分量が分からないですね。お菓子は分量が適当だと失敗するんですよね」
「そうなんですか……残念です」
うわー凄く悲しそう……なんとかならないかな? あっ、雑誌とかにレシピ乗ってないかな? それと豪華客船には図書室と本屋もあったような……
「クラレッタさん、直ぐには無理ですけど、いずれ何とかなるかもしれませんよ?」
「本当ですか?」
「ええ、絶対とは言えないのが情けないですが、僕が高い船も欲しいって言っていたの、覚えてますか?」
「ええ、この船でも十分高いのにって思いましたから」
まったくもってその通りだと思います。500白金貨って500億ですよ。実際この世界で豪邸とか建ててメイドさんも沢山雇えそうなんだけどな。
いいかもなー、豪邸で美人で巨乳なメイドさんに優しく傅かれる生活……でも創造神様達は豪華客船を期待しているみたいだし。そうだ、豪華客船でメイドさんを雇えばいいのか。
「ワタルさん、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。あはははは。まあ、その高い船に、本屋とか図書室があるんですよ。そこに料理本があれば載ってるかもしれません」
「本当ですか? 私にも見せて貰えますか?」
「ええ、でも買うのに時間が掛かりますし、確実に料理本があるとは言えませんが……」
まあ、長い航海だし、料理が趣味の人は大勢いるんだから、あるとは思うんだけどね。料理本が無くても女性誌に料理コーナーとかもありそうだしね。探せる量が増えたら、1つぐらいはケーキのレシピもあるだろう。
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「無いかもしれないんですから、その時は怒らないでくださいね?」
「ふふ、もちろん怒ったりしませんよ。悲しくて泣いてしまうかもしれませんが……」
「見つかるように祈っておきます。あっ、そろそろ時間ですね。みなさん出る準備をしてください」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「ワタルさん、この後、自販機コーナでお酒を飲んでもいい?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとう、ワタルさん。みんな、ワタルさんがこの後自販機コーナーで、飲んでも良いって」
「良いですね、あそこもお酒とおつまみが充実してます」
「私、酎ハイが好き」
アレシアさん、ドロテアさん、マリーナさん、イルマさんは、まだまだ飲むようだ……うーん、偶にしかお酒を飲んでなかったけど……これからは大丈夫だろうか……
なんか自販機コーナーでお酒を飲むのって、おじさんのイメージがあるんだけど。こんな美人達が日本の自販機コーナーでお酒を飲んでたら、人だかりが出来るな。
自販機コーナー最高の売り上げを叩き出しそうだ。
レストランを出てから直ぐの、自販機コーナーのテーブルに座り、楽しそうに飲み始める。今度はカーラさんとクラレッタさんも飲むらしい。
「イネスとフェリシアも飲む?」
「「いいんですか?」」
「いいよ、でも飲み過ぎないようにね?」
「「はい」」
ふう、今夜はイチャイチャしたかったんだけど。あんなに飲みたそうな顔をされたら、可哀想になってしまった。僕も少しだけ飲んでから、船の中を散歩しよう。
ビールと枝豆を買って、テーブルにまざる。
「ワタルさん、これ、美味しい」
「焼きおにぎりですか、僕も好きです。カーラさんはレストランと自販機の食事は、口に合いましたか?」
「うん、とっても美味しかった。ありがとう、ワタルさん」
「喜んでもらえて、僕も嬉しいです」
ただ、あれだけバイキングを食べた後に、焼きおにぎりを食べるんですね……
「ワタルさん、この船は凄いわね、お部屋も素敵だし、お風呂も、食事も、お酒も最高ね」
「あはははは、でも、アレシアさん。あまり飲み過ぎないようにしてくださいね」
「分かってるわ、大丈夫、大丈夫よ」
そう言いながらワンカップをグイっとあおる……これは、駄目だな。明日は二日酔いの人が沢山出そうだ。
お酒が入って、はしゃぐので、女性陣の浴衣が乱れ始める……二日酔いになってもいいから、もっと飲んでもらおう……眼福な光景を目に焼き付けながら、ゆっくりビールを飲む。
はだける胸元、見える谷間、天国かと思いました。
ビールを2本と酎ハイを1本飲み、軽く気持ち良くなったので、リムを頭に乗せて、フェリーを散歩する。女性陣はまだまだ飲みそうだ。
船内を目的も無くフラフラしていると、自販機が目に入った……コーヒーが飲みたかったのにすっかり忘れてた。缶コーヒーを買うと、今度はタバコの自販機が目に入った……
どうしようか? 元々ライトスモーカーで1日に2本3本吸うぐらいで、異世界に来てから完全に忘れてたんだけどな……缶コーヒーとタバコ……久しぶりが2つ重なったら美味しいだろうな。
あっさり欲望に負けてタバコを購入する。デッキに出て、生活魔法でタバコに火を点ける……なんかカッコいいよね? 久しぶりのタバコの煙が脳に染み渡る気がする……美味いな。缶コーヒーを飲みながら久しぶりの一服を楽しむ。
潮風を浴びながら、タバコを一服、なんか映画に出て来そうなシーンだな。暗い海と波の音が、ハードボイルドな雰囲気を演出している……気がする。頭の上にスライムが乗ってるんだけどね。
美味しかったけど、次に吸うのは当分先にしよう。ただでさえ匂いが嫌がられる事が多いのに、女性陣には獣人もいるし、匂いには気を付けないと。
あっ、今なら映画が観られるな、どんな映画が観れるんだろう? 楽しくなって来た。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。