1話 フェリー案内と展望浴場
「……どこから乗り込めばいいのかよく分からないので、とりあえずルト号で、フェリーの周りを一周してみましょうか」
「……締まらないわね」
「あはははは、すみません」
まったくだな、乗り込みましょうとか言って、乗り込み口が分からない……アレシアさんの呆れた視線にゾクゾクするな……
フェリーの周りを、走ると改めてフェリーの大きさに驚く。全長192メートル、全幅27メートル。購入画面で知ってはいたが、実物は想像以上に大きく感じる。
まるで鉄の要塞だな……決めたフェリーの名前はフォートレス号にしよう。
「決めました。この船の名前はフォートレス号にします」
「いきなりね。それで、ワタルさんどんな意味があるの?」
「要塞って意味です。入り方も分からないですし、ピッタリだと思いませんか? アレシアさん」
「……ピッタリだけど。まずはその要塞の侵入方法を見つけましょうね」
「……はい」
乗り込み口を探して先に進む。あっ、右側にあるあのへこんだ所になんか橋みたいなのがあるな。倒したら乗り込めそうだし、あそこから車が乗りこむんだろう。外から試すのは怖いし、後で試そう。
外観は後で木製に船偽装するか。大きさで目立ちまくりだろうけど、金属より木材の方がまだましだろう。
……うん、フォートレスって名前ピッタリだよね。どうやったら乗り込めるのか分からないよ。しょうがないので送還して、もう一度召喚する時に魔法陣の上に乗ろう。
「皆さん、再召喚しますので、魔法陣が出たらその上に乗ってください」
「魔法陣の上に乗るの?」
「ええ、船召喚の魔法陣の上には乗れるんです。心配しないでください」
「分かったわ」
好きな場所に乗れるんだったよね、取り合えず案内所前に全員が揃うように念じよう。
「では、送還してからの……召喚……みなさん飛び乗ってください」
全員が魔法陣の上に飛び乗ると、光に包まれる。気が付くと目の前には案内所があり、その隣には売店がある。
「ふぉーー、カップ麺がある、ジュースがある、スナック菓子に、アイス、白○恋人、インスタント味噌汁、歯ブラシ、Tシャツ、ふぉーーーーー」
「ご主人様、ご主人様、興奮するのは分かるんだけど、みんな困っているわよ」
「えっ? あっ、ごめんイネス。二度と手に入らないかもと諦めていた物が、目の前にあるので興奮しちゃったよ」
「ええ、しょうがないとは思うのだけど、ジラソーレの方達もいるんだから、落ち着いて案内してね。時間は沢山あるんだから、ゆっくり楽しみましょう」
「分かった。皆さんすみませんでした。これから船内をご案内しますね」
「気にしないで、よく分からないけど、懐かしい物に会えたんでしょう? ワタルさんのペースで案内してくれればいいわ」
「アレシアさん、ありがとうございます」
落ち着こう、目の前に欲しかった物が現れてから、一気に訳の分からない興奮にのまれてしまった……イネスが言った通り、全てを楽しむ時間は十分にある。今はゆっくり案内しよう。
「では、此処は売店です。船内ですので小さいですが、此処の物はお金を出せば買えます。実演してみますね」
売店のジュース売り場から、黒い炭酸ジュースを取りだし、レジに置く……レジに2銅貨と表示されたので、2銅貨を……何処に置くんだ?
ああ、此処かレジ横のコイントレースタンドに、コイン投入口があった。2銅貨を入れてみる……レジが会計済みになった……どんな仕組みか分からないが、正直不気味だ。
無人レジの映像を見た事はある。あちらは何となく理解出来るが、これは全く理解が出来ない。
「これで、支払いが完了しました。皆さんも気になる物があったら買ってみてください。分からない物も僕に聞いてもらえれば説明しますね」
僕の言葉に女性陣が売店の中を物色し始める。みんな興味津々で色々な物を持ってきて僕に質問する。
殆どの物が見ても分からないらしい、それはそうだよね、異世界の物なんだから。飲み物の説明をして、お菓子や、Tシャツ、歯ブラシ等、説明をしていく。
いくつか買って食べさせてみた。白〇恋人は大人気で、カップ麺に至っては衝撃で固まってしまった。味も受け入れられたようで、一安心だ。
僕も皆と分け合って食べたカップ麺で、泣きそうになってしまった。醤油味にシーフード味、カレー味、うどんの出汁の味。最高でした。
ちなみに、イルマさんに、ど〇兵衛キツネうどんの、お揚げを食べて貰ったが……美味しいわっと妖艶に微笑まれただけだった……どっちなんだろう?
お揚げはキツネミミ美女に効果的なのか知りたかったが、判断がつかない。気に入って貰えればカミーユさんにもあげてポイントアップだったんだけどな。
カップ麺は全員が冒険にも持って行きたいと、大量買いをしようとしたので、案内があるから後でと、我慢してもらった。皆にアイスを買ってあげて配る。
僕が作っていたミルクアイスしか知らない女性陣は、キャイキャイと味の感想を言い合いながら、美味しそうに食べている。
リムとふうちゃんも色んな食べ物に大興奮だ。『おいしい』『すき』が何度も聞けて満足です。
「まだまだ紹介したい物は沢山あるんですが、次に行きましょう」
「あっ、ワタルさんこれだけは買わせて」
「あっ、私も」
次々と有名チョコレート菓子を手に取り、支払いを済ませる。もうすでに慣れてるな……それにしても異世界でも大人気とは、チョコレート……凄いな。キノコとタケノコの戦争が起こらないといいんだけど……
『ほしい』
リムも頭の上に、上手にチョコレートの箱を乗せて運んできた、リムはタケノコ派か。
「リム、ここにある物は、お金を払わないと持ちだしたら駄目だからね。欲しい物があったらこれからも僕に言ってね」
『うん』
「では、次に行きますよ」
手に入れたお菓子を手にキャイキャイと騒ぐ女性陣を引き連れ次に向かう。
「ここは、エコノミールームです」
「うわー広い部屋ね。雑魚寝なの?」
「ええ、あのマットレスと毛布と枕のある場所が1人分のスペースですね」
「うわ、このマットレスって言うの? 柔らかいわ。雑魚寝部屋にこんなのが付いてるなんて、凄いわ」
マットレスか。これを小屋船に設置すると良さそうだけど……フォートレス号を送還したらマットレスは消えるのかな? うーん船の備品だからオールみたいに消えそうだな。商品はお金を払ってるんだから消えないよね?
「次はこっちです。スタンダードルームですね。2人部屋と4人部屋があります」
「広くはないんだけど、ベッドも柔らかくて素敵ね」
「ええ、色んなタイプの部屋があるので興味があるなら覘いてみてください。それで、ここが共同トイレですね、あっちが男性用、こっちが女性用です。皆さんが泊まる部屋にはトイレが付いてますので、使わないかもしれませんね」
「私達が泊まるお部屋にはトイレが付いているのね」
「ええ、今まで見た部屋よりランクが高いので、お風呂と、トイレが付いていますよ。沢山の部屋があるので1人1部屋使えますよ」
「すごいのね、どんな部屋なのかしら?」
「楽しみね」
「一番いい部屋は譲りませんからね。オーナー特権です」
「んーまあそうよね。でも部屋の中はみせてね」
「はい」
「ねえ、ワタルさん、なんで階段が動いているの?」
「あれはエスカレーターですね。何度も移動すると足の弱い人は大変ですから、あれに乗ると動かないで運んでもらえるんですよ」
「そうなの、楽になるのならいいわね」
「では、次はこっちです。これはエレベーターと言います。行きたい階層のボタンを押せば、その階に運んでくれます。まあ面倒なら階段でもいいですね」
「勝手に運んでくれるのね、凄いけど、足の弱い人がそんなに多いの?」
「んーどうでしょう? まあ、年を取ると歩くのも大変な人も居るでしょうから、その為ですかね」
「ああ、そうね」
実際、日本ではどんな理由だったんだろう? 足が弱い人の為もあるだろうけど、単純に階段が面倒だからな気がするな。
「じゃあ乗ってみましょうか。でも全員だと人数制限に引っ掛かりますね。別れて一回だけ乗ってみましょう。取り合えず一番下の駐車場に行ってみます。4人に分かれてください」
興味津々で楽しそうに分かれる所が、何となく冒険者なんだなって思う。変な所で実感したな。
2回に分けて駐車場に運ぶ。薄暗く暗い空間に出て、自分が移動していないのに景色が変わった事に、かなり驚いている。
「ワタルさん、エレベーターは分かったんだけど、此処は何なの? 広くて薄暗いだけみたいだけど」
「ええ、ここは、まあ馬車を止めておく場所なんですかね? もう1つ上の階も駐車場なんですが、そこに大きな扉があって、馬車で出入りが出来るんですよ」
「こんなに広いのに、上にもう一つあるのね、まあ大きな船だから、満員になるとこの位必要なのかしら?」
「アレシアさんの言う通りですね。まあ他に人を乗せるつもりも無いので、雨の日とかデッキに出られない時に、此処で運動したらいいかもしれませんね」
「たしかに広さは十分ね、広すぎる位だわ」
「では、次に移動しましょうか」
駐車場はあんまり見る物もないよね。
「ここは初めに来た場所の1つ上の階ですね。僕達が泊まる部屋はこの階にあります。まずは20部屋あるデラックスルームですね。洋室は使い慣れているでしょうが、こっちの和室は靴を脱がないといけないので気を付けてください」
「この部屋を、私達が自由に使っていいの?」
「ええ、大丈夫です。部屋を選ぶのは後にして、案内の続きをしますね。ここがこの船に1つしか無い、スイートルームです。僕達の部屋ですね」
「へー、ちょっと良い部屋ね」
「ええ、なかなか良くて楽しみです」
「ふふ、羨ましいわね」
「駄目ですよ、譲りませんからね。アレシアさん」
「ふふ、分かってるわ。次に行きましょう」
「はい、次の……ここはゲームコーナーですね。遊び方は後ほど説明します」
「ワタルさん、これは何ですか? かわいいです」
「えっ? ああ、ユー○ォーキャッチャーと言います。中に入っているのはぬいぐるみですね」
「ぬいぐるみ? 欲しいです。ワタルさん、どうしたらいいんですか?」
「落ち着いてください、クラレッタさん。見ていてくださいね。まずは1銅貨を入れます。そしてこのボタンを押すと、このクレーンが動きます。次にこのボタンで縦方向にクレーンを動かします。後は欲しいぬいぐるみを、クレーンがキャッチできるかですね。あっ、駄目でした」
くっ、ここで取れてれば、クラレッタさんにプレゼント出来たのに……ちくしょう。
「ああ、残念です、でも分かりました。私が取ります」
「案内が終わってからにしましょう。あとで何度でも出来ますから」
「そうですね、分かりました」
「ねえ、ワタルさん。途中に幾つも、売店で買った飲み物が入った箱が有るんだけど、あれは何なの?」
「ああ、あれは自販機といいます。次の階に自販機が集まった場所があるので、そこで教えますね」
「分かったわ」
シアタールームは映画を見せる時に説明しよう。異世界人って完全にバレるから、今後しだいだな。
「ここは、カジュアルルームです。カーテンを閉めればプライベートが守られる、4人部屋ですね。たぶん使わないと思います」
「そうね、デラックスルームの方が居心地が良さそうよね」
「まあ、間違いないですね。そしてここが、フェリーを買った目的の一つ、展望浴場です」
「うわー、大きなお風呂ね、何人が入れるのかしら? 気持ち良さそう」
「驚くのは此処からですよ。この容器に入っている物は、リンスインシャンプーとボディーソープといいます。いままで使っていた、汚れの落ち辛い粉に比べると断然こちらの方が、髪も、肌も綺麗になります。ツルツルのピカピカですよ」
やばい、女性陣の目が変わった……
「ワタルさん……どうやって使うのかしら?」
「ええ、このリンスインシャンプーは、濡らした髪につけて洗ってシャワーで流せばいいだけです。ボディーソープは売店でタオルを買って、泡立ててから体をこすります」
「さっそく入りたいのだけど、いいかしら?」
「ちょっと待ってください、お風呂に入る準備をしてからにしましょう。用意するものと、説明しないといけない物がありますから」
ここは負けてはいけない、お風呂からあがったら浴衣に着替えて欲しい、浴衣の説明がまだなんだ。女性陣の湯上り浴衣姿はぜひ見たい。
「お風呂に必要な用意だけしますね。続きの案内はお風呂の後にしましょう」
猛烈なプレッシャーの中、タオルを用意して、浴衣の着方を説明する。なんとか理解してもらって、お風呂に送り出す。
あっ、イネスとフェリシアも行っちゃった。一緒に入りたかったのに……一人寂しく男湯に向かう。まあ、リンスインシャンプーとか説明した時目の色が変わってたからな。本気で怖かった。
「あーーー、大きなお風呂は気持ちがいいな」
独り言が虚しく浴場に響いたが気にしない。しかし、シャワーもお風呂も頻繁に入ってたんだけど、汚れが落ちきってなかったんだな。リンスインシャンプーとボディーソープで、普段より断然すっきりする。
のんびりお湯につかって景色を見る。良い天気だな、青い海を見ながら、広いお風呂に浸かる……ハイダウェイ号より広いし視点が高い、独り占めも贅沢で良いな。
ん? ……ハイダウェイ号が用無しになったりしないかな? お風呂もおっきいのがあるし、部屋も1人1部屋だし……ヤバい、一緒にお風呂に入れる機会がかなり少なくなった気がする。
……前にやったバーベキューとかイベントをハイダウェイ号でやって、機会を作らないとな。
お風呂を出ると、女性陣はまだ出て来てなかった。湯上りの浴衣姿を楽しみに女性陣を待つ。暫くして女性陣が出て来た……創造神様、ありがとうございます。
今まででも十分過ぎる程の美人だったが、この姿をみると、まだまだだったことに気が付く。肌は艶めき、髪はサラサラとなびいている。
リンスインシャンプーでこれなの? 潤い成分配合とかの高級品使ったらどうなるんだろう? 恐ろしいな。
そして何より素晴らしいのは、女性陣のお胸様だ。みんなの素晴らしいサイズのお胸様が、浴衣を持ち上げ、谷間を見せている……もう一度いいます、創造神様、本当にありがとうございます。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。