24話 閑話 イルマの心配事
出会った頃のワタルさんは、島に行ける小舟の魔導船を持ち、その身が危険に晒されているのに、どこかのんびりしている普通の青年だった。
何度か島への依頼を繰り返すうちに、生活環境が整い、テント筏が出来て、お風呂筏が出来た。美味しい食事が食べられるようになり、お風呂筏でワタルさんがチョットHで女性に弱い事が分かった。
ちょっとHで、何故かスライムが大好きな、変わった青年……
他のメンバーもワタルさんを気に入り、島の依頼は出来るだけ彼に頼むようになった。暫くすると、ドロテアとマリーナが、彼と一緒にスライムを可愛がり始めたのには驚いた。
島でホーリースライムを発見した時、ドロテアとマリーナがワタルさんへのお土産にと主張した。真面目なドロテアや寡黙なマリーナが、探索中で僅かな重量でもメンバー以外の為に使おうという発言に、驚きを通り越して、不安になった。
今なら単なるスライムへの愛情だと理解が出来る。でも当時はワタルさんが、洗脳でもしたのかと本気で疑った。まあ、どう観察しても悪辣な事が出来るタイプではなく、誤解は解けた。
暫くして、胸に視線を感じて、少しからかうと、慌てて目を逸らす。そんな青年が胡椒貿易に挑戦すると言い出した。
心配したが、決意は固いようで、気が付いた時には胡椒貿易に出発していた。他のメンバーも心配していたが、アレシアが聞いた所、船に秘密があり、自信があると言っていたそうだ。
暫くするとひょっこり南の大陸のお土産を持って訪ねて来た。美しく腕の立つ2人の奴隷を連れていて驚いたが、奴隷の2人も楽しそうで良い関係を築いているように見える。
危険な航海を乗り切り、美人奴隷を2人も従えている。普通なら増長してもおかしくないのだが、相変わらず呑気で女性に弱いまま、カーラに料理をご馳走する約束をしていた。
次の日、料理を作りに来た彼は、私達と、宿屋の跡継ぎとのトラブルに巻き込まれた。申し訳なく思ったが、アレシア達の天然ぶりを知って、私に同情の視線を向けて来たので、アレシア達の認識を正すお手伝いをして貰う事にした。
なんとなく、イルマさんが常識人だったなんてっと言う、驚きの視線に腹が立って巻き込んだわけではない。
私達のパーティーは幼馴染で集まって組んだので、男性がおらず。ガラの悪い冒険者達からのチョッカイを撃退し続けてきたせいか、男性に興味を持つ事も無く、私以外は自分達の容姿に対する認識も薄い。
自分で言うのもなんだが、相当高レベルの美貌をもったパーティーだと思う。でも他のメンバーは度重なる男性冒険者のチョッカイに嫌気がさし、男性とは表面上の関係しか築かないので、美貌にも無頓着だ。
ワタルさんとの関係は、彼の人畜無害な雰囲気が作り出した、一種の奇跡のようなものだと思う。少しは異性に対しての自覚が生まれるかと期待したが……彼の戦いが苦手、料理が得意、少しHだが男らしい雰囲気が皆無の為、ほぼ女友達と接するのと変わらない関係が出来上がってしまった。頭が痛い。
ワタルさんが、宿屋の跡継ぎの事を男の独占欲が原因だと説明してくれたおかげで、メンバーにも少しは自覚が生まれたのは助かった。
宿屋の問題を片付けた後で作ってくれた、ミックスフライはとても美味しかった。食事の面ではクラレッタとカーラが完全に骨抜きにされている。
次の予定を聞いてみると、また胡椒貿易に行くそうだ。危険な航海を何度も繰り返す……慎重で臆病な人物に見える彼が、また危険な航海に繰り出すと言う……人物を見誤ったか、船の秘密がそれ程信頼出来るのか……単純な人間に見えるのに、中々奥が深い。
あっさり胡椒貿易から帰って来て、相変わらずのんびりした雰囲気のまま、お土産を持って訪ねて来た。アクセサリーを沢山買って来たから好きなのを選んでっと、男としてどうなのかと思うような事を言っていた。
今後の予定を聞くとパレルモに行くとの事で、クラレッタが食い付いた。まあ、昔から大聖堂を見てみたいと言っていたからしょうがない。私達も行こうとしたが陸路も海路も途中で面倒な国にあたり、二の足を踏んでいた。
船の秘密があるので、考えさせてくれと言われたが、次の日にはOKが出た。船旅の準備をして、買い物に行き、船に案内される。
内装を見て、今までに感じた事の無い雰囲気に驚く。そして彼が話してくれた秘密に目眩を覚える。あっさりとユニークスキルを持っている事を話す彼は大丈夫なのだろうか?
何となく、深く考えずに問題になったら逃げればいいと思っている彼の考えが透けて見える。食料を大量に保存できる能力など、国にバレたら絶対に囲われる能力だと分かっているのだろうか。不安でしょうがない。
魔物に襲われた時に胡椒貿易成功の秘密を知る。反則だと思う。ユニークスキルの理不尽な性能が怖い。逃走ゲームが終わり、疲れるまで遊ばれたうえに、あっさり討伐された魔物に同情した……
ルト号でも驚いたが、ハイダウェイ号も有り得ないレベルの船だ。隠しておけるはずの船をあっさりばらす彼が心配になる。
おそらくだけど、お風呂に楽しそうに入っていたので、何となく理由は分かった。一緒に入る時はとても楽しそうだ。
まあ、素晴らしいお風呂で、私達もとても楽しませてもらっている。私達が先に入っている場合は気を使って後から入ってくる事は無い。少しHなんだけど、紳士的だと思う。(ただ、気が弱いだけかもしれないけど……)
パレルモに到着してからも、陸路では小屋船、食糧庫で助けてもらい、胡椒を売る事で莫大な利益を得る所を見た。
強風が吹く洞窟では私達が進む事の出来ない場所を彼のスキルで乗り切った。彼のスキルは限定場面で強い物ではなく、使い方次第では様々な場面で活躍する珍しいスキルだ。
龍の鱗を手に入れたが、名声を得るより、目立つ事を怖がり、出来るだけ自分が表に出る事を拒んだ。
私は、気の弱い普通の青年である彼に、使い方次第では国とも戦える強力なユニークスキルが宿っている事に、恐怖を覚える。
彼は善人で、好感の持てる青年だが、のほほんとしていて、女性に弱い……もし帝国や人間至上主義の国に彼が利用される事になったら、獣人の未来に確実に影を落とすだろう。
きれいな女性にほいほいと付いて行って、意味も解らずに利用される……彼の場合多大に有り得るところが更に怖い。
最近思うのは、私達は、彼を離してはいけないという事だ。幸い彼は私達に好意的だが、私以外の他のメンバーは仲の良い友人ぐらいにしか認識していない。
メンバー内で話し合うべきだろうか? それともただの考え過ぎなのだろうか……
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




