14話 地底湖とウインドスライム
朝か、毎朝の日課を楽しんで、身支度を整え朝食を取って、さっそく洞窟に突入だ……なんで巨大ムカデが襲ってくる洞窟に、ワクワクした顔で入りたがるのかは疑問だけど。
昨日と同じ布陣で洞窟を進む。風に逆らって進むので、地味に体力を消耗するし、ジャイアントバットが風に乗って攻撃してくる。
ジラソーレのメンバーが瞬殺しているので、問題は無いんだけど、勢いが増している分ビビらされる事が増えた。レベルが上がってもヘタレは治らないらしい。
風に逆らい続け、水で塞がっている通路を船召喚で越えて進む。
「ふう、ここで休憩してお昼にしましょうか」
少し広い場所に出たので、通路を小屋船で塞ぎ、お昼にする。
鞄の中に居たリムも出て来て、わざわざ風が当たる場所に行って、強風に煽られて転がっている。とっても楽しいらしい。
「ワタルさんが居てくれると本当に助かるわ。洞窟内で温かいご飯も食べられるし、安全に休憩できるのも凄い事なのよ」
「僕自身も船召喚に助けられてます。攻撃力は無いですが、良い能力ですよね」
「ふふ、羨ましい能力ね。でもSランクの人達にも、ユニークスキルを持ってる人はいるんだけど。殆どが戦闘に特化しているのよね。防御主体で此処まで生活に応用できるなんて、ユニークスキルの中でも珍しいわね」
「そうなんですか? でもアレシアさん、ユニークスキルってみんな隠してると思ってたんですが、公表している人もいるんですか?」
「そうね、使いこなせていない人は、何に利用されるか分からないから隠しているわ。使い方が分かっていると、ユニークスキルは強力だから目立って、隠していてもバレちゃうのよね」
「ああ、なるほど。確かに戦闘関連のユニークスキルは目立ちそうですね」
「ええ、だから、強力だけど応用が利かないユニークスキルの人は、国に囲われたりしているわ。Sランクの人達は能力を使いこなしていて、国の勧誘も拒否出来る実力者ね」
「へー、そんな人達もいるんですね」
「ふふ、ワタルさんのユニークスキルも準備をすれば、国とも対抗出来そうよ。頑張ってね」
「あはははは、能力的に大丈夫になっても、心が持ちませんよ。国から目を付けられたら、船の中に引き籠って出てこないですね」
「船の中は居心地もいいから、本当に出て来なくなりそうね」
「まあ、色んな所に行くのも楽しいので、バレない様に気を付けます」
「それがいいわね。さて、そろそろ出発しましょうか?」
休憩を終えて、強風に逆らいながら洞窟を進む。緩やかに下っているようで、進むほどに水が溜まっている場所が増えて来る。
何度も魔物に襲われ、何度も休憩を挟み延々と歩くが終わりが見えない。
「ふう、予想以上に広い洞窟ね、もう夜になってるわ」
「そうね、アレシア、引き返すか進むか決めないといけないわ」
「ドロテアは進むか戻るかどっち?」
「私は、未到達の洞窟の奥だから、調べたいけど……今回はワタルさんも一緒に来て貰ってるんだから、引き返した方が良いかもしれないわ」
「でもワタルさんが居ないと洞窟の奥には進めないのよね……ワタルさんの意見を聞きましょうか。ワタルさんは進むか、引き返すかどっちが良いと思う?」
個人的にはさっさと洞窟から逃げ出したいが……空気を読むなら、進みましょうと答えるべきなんだろうな。女性陣は、進みたいけど、ワタルさん辛そうだしどうしよう。って雰囲気だしね。
「そうですね、ここまで来たんですし、食料も時間も余裕がありますから。もう少し探索を進めてもいいのではないですか?」
僕は弱いな……嫌な事を嫌って言えない。その場の空気に逆らえないんだよね。
「そうね、では野営しやすい場所を探して、しっかり休んで探索を続けましょうか」
「「「「「「「はい」」」」」」」
暫く進み、少し広い場所に出たので、野営の準備をする。夕食を済ませて見張りの順番を決めて眠りにつく。
……朝か、洞窟の中なので朝の日課を軽めに済まして、小屋船から出る。今日も暗い洞窟を先に進むのか……せめて空気を悪くしないように空元気で頑張ろう。
「では、出発しますよ」
暗い洞窟を進む、休憩を挟み、もう暗い洞窟に耐えられなくなって来た頃、道の先に光が見えた。
「アレシア、先の方に光が見える。先行して偵察してくるから待機していて」
「分かったわ、マリーナも慎重にね」
「ええ」
暗い洞窟の先に微かに光が見える。これで何とか結果が出たらいいな。そしたら気持ちよく洞窟を脱出できる。
「ドキドキするわね、何があるのかしら?」
「ふふ、そうね、まだ誰も来たことの無い場所ですもの、珍しい物があるかもしれないわ」
ドロテアさん……スライムを探しに来たはずなんだけど覚えているのかな?
この先に何があるのか想像しながら話し合っていると、マリーナさんが戻って来た。
「おかえり、マリーナ、怪我はない?」
「ええ、大丈夫よ。この先には大きな地底湖があったわ。地底湖の向こう側に穴が空いていて、そこから強風と、日の光が入って来ているみたいね」
「魔物はいた?」
「偵察した範囲では、今までに出て来た魔物以外はいないと思うけど、地底湖の中までは分からない」
「そう、ありがとう、マリーナ」
「とりあえず、すぐに分かる危険は無いみたいだから、慎重に進みましょう」
周囲の警戒を更に増しながら慎重に地底湖まで進む。
「この深さならルト号が召喚できますね。ハイダウェイ号は微妙ですね。ルト号を召喚しますか?」
「ええ、そうね。何があるか分からないし。お願いします」
ルト号を召喚して全員で乗り込む。
「ふう、これで落ち着けるわ。どうする? あの光の下まで直ぐに行く?」
「あそこに興味は有るけど、何が有るのか分からないわ。先にシャワーを浴びておきたいわね」
「そうね、私もイルマの意見に賛成よ。先にシャワーを浴びましょう」
えー、あんなに興味津々だったのにここでシャワーなの? 帰りたがってた僕でも、あの光の下が気になるのに……女心って分かんないな。
皆のホカホカ姿を心に刻み付けて、自分もシャワーを浴びる。冷たい果汁を飲んで、少しだけまったりしてから、光が入っている場所に向かう。
「地底湖には大きな魔物はいないみたいね……あの小さいのは魚かしら?」
「ええ、川が流れ込んだ湖なら魔物も居そうだけど……流れ込みも無いわね」
「ええ、水も綺麗だけど飲めるのかしら?」
対岸に着いたので船を降りる。慎重に光の下に向かうと、そこは植物が咲き乱れた美しい光景が広がっていた。
「綺麗ね……」
「ええ」
広大な空間、暗い地底湖の側で、巨大な穴から降り注ぐ光を浴びて、咲き乱れる植物達。全員がこの光景に見とれている。
「ん? あそこで何か光りましたよ」
「えっ? どこかしら?」
光った場所に慎重に近づくと、地面に緑色の物体が埋まっていた。掘り返して見ると……なんだこれ? 2メートル近くある巨大な鱗が出て来た。
「こ、これは龍よ、この魔力は龍の鱗に間違いないわ」
「へーこれが竜の鱗ですか、大きいですね」
「違うわ、竜じゃなくて龍なのよ。鱗に残っている魔力に神聖な力が混じっているの」
いつも妖艶に微笑んでいるイルマさんなのに、今は興奮でいつもの妖艶な雰囲気が吹き飛んでいる。どういう事だろう? 周りを見渡すと女性陣が驚きの表情で固まっている。なにか乗り遅れたみたいだ。
落ち着いたイルマさんに説明してもらったところ。この世界には竜と龍がいて、竜でも討伐された記録は少なく、非常に高い価値を持っているそうだ。
そして龍は、竜とはまったくの別物で、光龍、闇龍、地龍、炎龍、風龍、水龍、それぞれの属性ごとに1つの個体しか確認されていない、知性を持った龍で、神の使いとして崇められているそうだ。まだ他にも確認はされていないが雷龍や氷龍等が居ると言われている。
なんか龍、竜で混乱してきたが、事が大きくなって来た気がする。このまま何も無かった事にして帰りたい。
「あれ? 不味くないですか? ここに居たら、そんなに凄い龍と鉢合わせになるんじゃ?」
「ワタルさん、大丈夫よ、もう、何年もこの地に戻ってないと思うわ。地面にも痕跡は残っていないし、何百年、何千年の間、戻ってきてないかもしれないわね」
「そんなに昔の鱗なのに魔力が分かるんですか……凄いですね。……それでこれからどうしますか?」
「そうね、龍の素材が手に入る機会なんてありえない幸運、逃すわけにはいかないわ。地底湖全体を徹底的に捜索するわよ」
「「「「「「「はい」」」」」」」
完全にスライムの事忘れているな……全員が散らばって周囲を探索し始めた。僕も探すか。暫く植物の間をかき分けながら探索すると、何かが視界の隅でポヨンとふるえた。
ん? スライムだね……しかも薄緑色に光ってる……リムみたいに魔法が使えるスライムっぽいな。周りを見渡すと……誰もいない。
取り合えず果物を持ってそっと近づく。逃げないので果物をあげてみる。問題無さそうなので、そっと撫でてみる。リムも鞄から出て来て、薄緑色のスライムと体をぶつけ合っている。
「リム、その子は怖がってない?」
『だいじょうぶ、げんき』
「そっかー、良かった」
薄緑色のスライムに撫でながら話しかける。
「ねえ、きみと契約がしたい、お姉さんがいるんだけど、一緒に来ない?」
暫くぷるぷるしながら、リムともなにか話しているように見える薄緑色のスライムを見守る。
『……いく……』
「ありがとう、夜に紹介するから、それまでこの鞄の中で待っていてくれる?」
『……うん……』
そう言って薄緑色のスライムは鞄の中に入っていった。
「リム、ありがとうね、何か話してくれたんでしょ?」
『たのしい、おいしい』
「そっかー、楽しくて美味しい物が食べられるって言ったのかな? じゃあ沢山ご馳走しないとね。もちろんリムにも沢山ご馳走するね」
『わたる、すき』
そう言って鞄の中に入って行った。鞄の中でプニプニと体をぶつけ合って遊んでいる。可愛い。とりあえず探索を継続する。日が沈むまで探して船に戻って来た。
「凄いわね、こんなに見つかるなんて、まだ全部探索しきった訳でもないのに。明日も張り切って探索しましょう。いいわよね? ワタルさん」
「はい、勿論いいですよ、アレシアさん。それで気になったのですがクラレッタさん、沢山植物を採取しているみたいですが良い物なんですか?」
「ええ、そうなんです。貴重な薬草やその薬草の亜種のような物まで、この場所は素晴らしいです」
「そうなんですか。僕も珍しそうな植物を見つけたらお知らせしますね」
「はい、お願いします」
「あとマリーナさん、この子が風属性のスライムだと思うのですが、どうでしょうか?」
鞄の中からそっと抱き上げ、マリーナさんに渡す。ゆっくりとマリーナさんも薄緑色のスライムを抱きしめて、会話をしている。
「私はマリーナよ、よろしくね」
「そう、よくわからないの?」
「くだもの? 好きなのかしら?」
「私と一緒に来てくれる?」
優しい顔で話すマリーナさん、美人だね。果物って、僕があげた果物の事だろうな。一緒に来てくれる? の言葉と同時に魔法陣が薄緑色のスライムの前に浮かび上がる。
全員で固唾を呑んで見守っていると、プルプルしていたスライムが魔法陣を受け入れた。リムの時もこんなだったな、あの時は嬉しかった。それと、マリーナさんの素晴らしい微笑み、レアな光景ですね。
「おめでとう、マリーナ」
「おめでとうございます、マリーナさん」
みんながマリーナさんに祝福の言葉を掛ける。
「みんな、ありがとう。この子はウインドスライム、風属性のスライムよ。名前は……ふうちゃん。風属性だから、ふうちゃんにするわ。よろしくね、ふうちゃん」
うん、思った以上に単純でかわいらしい名前だな、なんとなく予想外だ。
「ありがとう、ワタルさん。ふうちゃんを見つけて来てくれて」
「いえいえ、リムを連れて来てくれた恩を少しでも返せたのなら嬉しいです。リム共々よろしくお願いしますね」
「はい」
話がひと段落したので、夕食にする。リムとふうちゃんが並んでご飯を食べてる姿は、とても可愛い。
ご飯を食べ終わったリムが、女性陣の所に、お裾分けを貰いに出発すると、ふうちゃんもリムの後ろにくっついて行く。みんなニコニコしながら、リムとふうちゃんに食事を分けてあげている。
可愛いけど、今度から食事の量をもう少し増やして出そう。その後は皆でデザートを食べてジェンガやリバーシを楽しんだ。
「ワタルさん、ふうちゃんが美味しい物沢山で嬉しいって、ありがとう」
「いえいえ、リムもお友達が出来て嬉しいそうです。ありがとうございます」
ドロテアさんとマリーナさんがリムとふうちゃんと楽しそうに遊んでいる。でもドロテアさんも自分のスライムが早く欲しいと駄々をこねていた。珍しい光景だな、かわいいんだけど。
色々あったので早く寝る事にした。明日も朝から探索だ。おやすみなさい。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。