13話 理性と欲望の葛藤と洞窟内探検
「うふふ、今日の夕食はとっても美味しかったわ。ワタルさんが関わってるのよね?」
「ええ、作るのに手間が掛かるので、本職の方にお願いしました。楽しんで頂けましたか?」
「ええ、とっても楽しめたわ」
おうふ、イルマさんの妖艶さが2割増しだ。本当に気に入ってくれたんだな。
『りむもすき』
「美味しかった」
「美味しかったです。後でレシピを教えてくださいね」
皆、満足だったみたいだ。他のお客さんも気になって従業員さんに質問してたし、これでチーズとミルクが少しは広まるかも。
「ワタルさんデザート食べたい」
「分かりました、今日はどっちにしますか?」
「んー今日はプリンにする」
デザートを皆に配り、明日の予定を相談する。
「ワタルさん、予定は全部終わったのよね? 洞窟には付いて来てくれる?」
「ええ、大丈夫ですよ。でも、あしたの朝、商業ギルドで白金貨を下ろす約束がありますね」
「じゃあ、明日のワタルさんの約束が済んだら、そのまま馬車を借りて出発しましょうか? 皆もそれでいい?」
「「「「「はい」」」」」
すんなり行くことが決定した……フェリシアの読み通りだったな。こうなったら少しでも楽しい旅にしよう。
明日は早朝、お金を下ろしたら馬車で洞窟まで出発だそうだ。女将さんに訳を言って返金してもらう。戻ってきたらまたこの宿に泊まって、美味しい料理をジーノさんに教える事を約束させられた。
毎朝の日課を楽しみ、身支度を整え食堂に行く。ジラソーレは完全装備で朝食を食べていた。気合が入っているな。挨拶を交わし朝食を食べる。
商業ギルドで30白金貨を下ろして、馬車を借りて出発する。門を出てから少し走り目立たない所で、馬車内にゴムボートを召喚して縛り付ける。これで少しはマシになるな。
馬車の中では、ドロテアさんとマリーナさんがリムと話している。やっと単語が分かるぐらいだそうだが、嬉しいらしい。
契約を結ぶか、テイムレベルが上がれば、もっとハッキリ聞こえるようになると言うと、嬉しそうにリムを抱きしめる。
「属性スライムってAランクの皆さんでも、リム以外は見つけた事が無いんですよね? 上手く見つかるといいんですが」
「それが、私達も判断がつかないの。私とマリーナがスライムに興味を持つまで、スライムの事を殆ど意識していなかったから、会っていたとしても気が付いてないと思うわ。スライム自体が魔物なのに、好戦的な訳でもないから戦う事も無かったのよね」
「そうなんですか、なら意外と簡単に見つかるかもしれませんね」
「ふふ、そうだったら嬉しいわね」
馬車の旅は順調に進み何回かの休憩を挟み夜になった。食事を食べ、見張りを決めて休もうとしていたら、イネスがお風呂に入りたいと言い出した。
「お風呂って、ここは外で魔物や盗賊が出るかもしれないし、止めておいた方が良いよ」
「でも乗船拒否で誰も入って来れないんだし、危険は無いんでしょ?」
「それはそうなんだけど……どうなんでしょうか? アレシアさん」
「そうね、私もお風呂には入りたいんだけど……ワタルさん、さすがに恥ずかしいから小屋船の中で待っていてもらえる?」
「えっ? 入るんですか?」
「ええ、まあ、私達が順番に護衛もするし、結界もあって安全なんだし、良いんじゃないかしら」
「はあ、分かりました」
みんなお風呂に入りたかったのか、素早い連携でお風呂が沸かされる。イネスの炎魔法で、一瞬で石が真っ赤に燃える。水を溜めたお風呂に石を投入。簡単にお風呂が沸いた。今までの僕の苦労は何だったんだろう? 納得がいかないな。
その後は小屋船の中で乗船許可を出すだけだ。板一枚の向こう側に楽園があるのに。ドニーノさんの所の仕事は確かなのか。小屋船には隙間すら無い。こんな時ばかりは、隙間の一つぐらい作っておけよっと文句を言いたくなる。
しかも、板一枚しか障害が無いから、声はよく聞こえる。聞こえて来る声に想像力が刺激され妄想が止まらない。
「ふーきもちいいわ」「うふふ、クラレッタのは素敵ね」「イルマの肌って綺麗よね」「ドロテア、背中を洗ってくれる?」「カーラ、寝たら駄目よ」「リムちゃん、お風呂、気持ちいいね」「あん、どこさわってるの」……どこをさわってるんだろう? 知りたくてしょうがない。
声が聞こえて来る度に、僕の理性が削られていく。頭の中では桃色な光景が止まらない……この位の板ならレベルアップした僕なら突き破れる気がする。いっちゃう、いっちゃうか?
突き破れば楽園が見える……でも…………どうする……
「ご主人様、お待たせ致しました」
「……では送還しますね。あとは小屋船召喚」
「ご主人様、目が虚ろよ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。今後、野外でのお風呂は禁止。僕の理性が持たないよ」
「えっと、ご主人様、お風呂に入れないのは辛いわ、偶に入るのも駄目かしら」
「駄目です」
「イネス、ご主人様の目が危険です。引きなさい」
そんなに危険な目をしているのかな? 僕はただ、目の前の板を破壊すれば、楽園に辿り着けると囁く心の中の悪魔と戦っていただけなんだけど。まあいい全員に乗船許可を出して小屋船に戻る。
「イネス、私達はわがままが過ぎるのかもしれません。ご主人様を残してお風呂に入る奴隷とかどうなのでしょう? ご主人様に甘え過ぎてるのかもしれません」
「フェリシアは考え過ぎよ。ご主人様は理性を保つのに全てを使い果たしただけ。朝には元のご主人様に戻っているわ」
「そうでしょうか?」
「ええ、でも、ちょっと不安だから、今から頑張りましょう。小屋船に入るわよ」
「はい」
小屋船に入って来たイネスとフェリシア、周りにジラソーレも居るのに、凄く積極的だった。
朝か……「んちゅゅゅ、おはようございますご主人様」
「ちゅゅゅ、おはようございますご主人様」
「ん? おはよう、イネス、フェリシア」
何だか今日のキスはいつもより長かったな? うん、なんかいい事ありそうだね。
「いつものご主人様ですね。イネスの言った通りでした」
「うふふ、そうね。でもちょっと怖かったから、わがままを言い過ぎないようにしましょう」
「賛成です」
朝食を済ませて馬車で出発する。
「ドロテアさん、目的地には今日中に着くんですか?」
「ええ、昼過ぎに村に到着して。その村から徒歩で森に入って3時間位で洞窟だそうです」
「村から徒歩3時間ですか、意外と近いんですね」
「ええ、森の近くの小さな村だそうです」
「ではその村を拠点にするんですか?」
「いえ、馬車だけ預けて洞窟の近くで野営します。洞窟自体も、全部探索するのに時間は掛からないそうなので、2日探して見つからなかったら戻ります」
「小さいんですか? 風が強いと聞いていたので大きな洞窟のイメージでした」
「ええ、全体は分かっていないのですが、狭く入り組んだ洞窟で所々水が通路を塞いでいて、狭い範囲しか探索出来ないそうです」
「それって、船召喚で先に進めたりします?」
「……どうなんでしょう? 道が水没していたら船でも通れませんが……上に空間が空いていれば、探索範囲が広がるかもしれませんね。休憩の時に相談してみます」
そう言いながらも、ドロテアさん、マリーナさんも静かに興奮しているように見える。
これが創造神様の言ってたジラソーレが困る事なのかな? ……違うか、光の神様が、パレルモだろうと南方都市だろうと変わらないって言ってたもんな。洞窟の事なら南方都市に戻っていれば関わらないよね。
休憩の時にドロテアさんが船召喚で、今まで探索出来なかった場所が、探索出来る可能性を告げると、みんなのテンションが急上昇した。みんな冒険者なんだね、未知の場所の探索と聞いただけで、ワクワクしている。
ここまで期待されると、期待外れの時の落差が怖いな……黙ってた方が良かったか?
休憩が終わり、再び馬車で出発する。リムをモニュモニュしながら、ドロテアさんに聞いてみる。
「船召喚で探索範囲が増える事、言わない方が良かったですかね? みんな期待しているみたいでした。何も無かったらがっかりしませんか?」
「まあ、多少はがっかりするでしょうが、冒険者ならそんな経験何度もあります。ワタルさんが気にする事ありませんよ」
「そうですか、それならいいんですが」
「それに何か面白い物が見つかる可能性もありますよ」
「そうですね、見つかる事を信じて楽しむ事にします」
お昼を少し過ぎた頃、小さな村に到着した。ギルドカードを見せて中に入れて貰う。門番の人はAランク冒険者が来たことに驚いていた。
村長の家に行き、馬車を預かってもらい。ジラソーレのメンバーは洞窟についての情報収集をしている。僕はよく分からないのでのんびり村の中を散歩している。
「ワタルさん、出発しますよ」
「はい、直ぐに行きます」
ジラソーレのメンバーに挟まれるような隊列で進む。隣を歩いているアレシアさんに声を掛ける。
「アレシアさん、どんな魔物が出るんですか?」
「森の中は、スライム、ゴブリン、狼、オークが居るらしいわ。でもスライムとゴブリン以外は森の奥に居て殆ど出てこないそうよ。洞窟の中はスライム、ゴブリン、ジャイアントバット、ジャイアントセンチピードが出るそうよ」
ジャイアントバットは大きなコウモリだよね? ジャイアントセンチピードはなんだろう? 虫系じゃない事を祈ろう。創造神様お願いします。
「ありがとうございます。アレシアさん」
「ふふ、いいのよ。私達の方がお世話になってるんだから」
森を歩いていると何度もゴブリンに襲撃された……ジラソーレのメンバーに瞬殺されてたけど。一度新しい装備を試したかったので戦わせてもらうと、矢がゴブリンを突き抜けたよ……良い武器は必要だね、これならマーマンも倒せるはずだ。
一度弓を使えたので満足して、おとなしく歩く。暫くすると洞窟に辿り着いた。
「もう直ぐ日が暮れるわ。洞窟に入るのは明日からにして、今日は野営の準備をしましょう」
全員で野営の準備をして、夕食を食べて眠りにつく。
朝になりイネスとフェリシアと朝の日課を熟して小屋船から出る。ジラソーレのメンバーは準備万端で待機していた。とりあえず朝食を出して、身支度を整える。
「さあ、冒険よ、みんないくわよ」
「アレシア、落ち着きなさい。ワタルさん、森の中と同じ布陣で進みます。戦いは私達に任せてください、船召喚で渡れそうな場所は、積極的に渡りますので、お願いします」
「はい、ドロテアさん、分かりました」
リーダーのアレシアさんの暴走をサブリーダーのドロテアさんがフォローするのか、きちんと考えられてるんだな。
もうドロテアさんがリーダーで良い気がするんだけど、アレシアさんには、パーティーを引っ張っていく何かが有るんだろうな。見た事ないけど。
洞窟の中に入る。聞いていた通り狭い通路で、常に強い風が吹いている。出て来る魔物も弱く、ジラソーレのメンバーに瞬殺されていく。
ジャイアントバットは接近して来た瞬間に、マリーナさんに撃ち落とされる。ゴブリンは瞬殺され、スライムはじっくり観察して魔法が使えるかの確認をする。
「うひゃ、無理だ、これは無理だ。本気で帰りたい……諦めて帰りましょう」
「落ち着いてください、ワタルさん。突然どうしたんですか?」
「いえ、それが無理っぽいので帰りませんか?」
「それ? ああ、ジャイアントセンチピードですか、この位の魔物なら簡単に倒せますよ。安心してください」
「いえ、ああ、はい、分かりました」
ジャイアントセンチピード……巨大ムカデでした。本気で気持ち悪いです。倒せる倒せないとかじゃなくて気持ち悪いんです。創造神さまへの祈りは届かなかったな。
2メートル位の大きなムカデが沢山ある足を、ウニョウニョと動かしながら襲い掛かってきます。帰りたいです。でもそんな事は言えないんですよね。
平気でジャイアントセンチピードを倒して進んでいく女性陣の後を、精一杯悲鳴を押し殺して付いて行く。男尊女卑とかではないんだけど……普通役割が逆な気がする。
途中で何度か船召喚の出番は来たが、船で渡って先に進むと、完全に水没した通路に突き当たり、何度も引き返す。
何時間も暗い洞窟の中を、魔法の光を頼りに探索する。さすがにみんな疲れて来たので、今日は諦めて外に戻る事になった。
なんとか外に戻って来ると、空は夕日で赤く染まっていた。日の出辺りから洞窟に入ったから半日は洞窟内を探索していたんだな。
取り合えず、野営の準備をして、夕食を取る。かなり大変だったし収穫も無いのでどっと疲れが出たが、女性陣は皆元気で明日の計画を立てている。
まだ冒険者の経験がある人達は分かるんだけど、フェリシアは冒険とかした事ないはずなのに、なんであんなに元気なんだろう?
今日はしらみつぶしに洞窟内を探索していたが、先に進めなくて何度も引き返したので、明日は常に風に逆らって進むそうだ。
風に逆らって進めば、水没した場所で引き返す事も無さそうだし、良い考えかも。今日は疲れたから、早く寝たい。明日も何事も無く過ごせますように、お休みなさい。
資金 手持ち 7金貨 53銀貨 76銅貨 ギルド口座 33白金貨 70金貨 貯金船 103白金貨 胡椒船 485艘
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今回の話は書いていて、大袈裟でくどいように感じました。感想を頂けると大変に助かります。